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連投2
また来週
一台の豪奢な馬車が嘶く馬に引っ張られ今にも転倒するのではとゆう速さで逃げ惑う。
理由は明確、安眠でも妨げられたのか、その魔物は長い体をくねられながら大きな口を開けてその馬車ごと喰らおうとしている。
大蛇に追われる哀れな馬車を少し気だるそうな目で見た男は、背中に背負った銃の引き金に手をかけて、その銃を引き抜いた。
砂漠の砂の様に薄い茶色の外套と編笠姿はここいらでは珍しい出立で、片耳に揺れるイヤリングは、少数民族を思わせるデザインんだ。
無言で狙いを定め引き金を引いた男、イースは。その手に持つ銃口から放たれたとは思えない威力を見せ、魔物に開いた大穴を横目に銃を肩にかけてこう呟いた。
「飽きたな……結婚したい」
それが暴れる馬車から命からがら脱出した伯爵令嬢が聞いた、S級冒険者イース・アービットの第一声だった。
*
「はー疲れたー」
人気の少ない行き付けの喫茶店でコーヒーミルを回す娘、ミリヤにイースはカウンターに項垂れる様にして話しかけた。
「何飲む?」
「ミリヤちゃんの特性ドリンク♡」
シャツの上からでもわかるほど筋肉質なその腕でハートマークを手で作り片目でそれを除きこんだ男に呆れながらミリヤはそっぽをむいてカップを手に持つ。
少女が動くたびにキイキイと響く音はタイヤの回る音、ミリヤの乗る車椅子の音だ。
魔力結晶と呼ばれる病気で魔力の流れが長い間遮断されることによって結晶かし、手足の機能を低下してしまう物だった。
幼い頃にその病にかかったミリヤ。魔力結晶の医療費は高いうえ、また症例も稀な病気なので当時まだ小さな街だったイスターリアにはミリヤを術を持つ医者はいなかった。
かつて命を救われた恩を返すため青年も奔走しやっと、治療まで持ち込めるたときには、ミリヤの足は棒切れといいほど動かなくなってしまった。
それでも、両手を失わずに済んだことに、彼女と家族はイースに感謝した。
無事日常生活に戻った彼女は、喫茶店の手伝いをしながら以前と同じ生活を送っていた。
しかしそれは全てではなく、不自由な足のせいで外出することはめっきりと減ってしまった。
比較的治安の良い街でも、車椅子の少女の一人外出は危険もある上に周囲の視線は例えたまたま目で追っただけの視線でも、見られること自体がミリヤの外出したいと思う感情を失せさせた。
キイキイと鳴らしカウンターの中は彼女の仕事場だ、入れるコーヒーは多くのファンがついてはおり、特にお年寄りから好まれる味だった。
イースももちろん大好きで、そこからミルクと砂糖二杯を入れると心が満たさせる、世界に一つのイースのためだけのカフェラテが完成する。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜幸せ」
「そうか、よかったな」
冷淡な声だが昔からそうなのでイースは幼馴染故の親しさだと認識いていた。
「ミリヤちゃん、これね北の大地のみ生息しているフォアイトフォックスの毛皮、真っ白でしょう」
「綺麗だね」
「でしょうーすっごく暖かいから、ミリヤちゃんにあげる」
「今夏だけどね」
幼いうちから冒険者として生計を立ててきたイースは、若くして最高ランクのS級を与えられた実力者だ。
その中でも彼はその民族風の出立と。そして何より他のパーティーに属さず単独で魔物を狩るスタイルは同じS級の中でも群を抜いて強く、またその名は世界の至る所で耳にすることができる。
そんなイースは特定の住みかを持っていないが。旅のひと段落として、二ヶ月に一度は必ずこのイスターリアの街に訪れ幼い自分に手を差し伸べてくれたミリヤの一家が経営する喫茶店バーバラに顔出し、手見上げと共に旅の話をミリヤに聞かせた。
「これ、今試作しているサイハテレモンのパウンドケーキ、感想を聞かせて」
「うまそーミリヤちゃんの手作り?」
「いやお母さん作だけど」
二か月ぶりだろうとまるで毎日顔を合わせている様な気軽さの空気は、カランコロンと心なしかし上品な店の扉を開く音共に変わった。
その人物は市政の人とは思えない上品な衣服を見に纏い、ふわふわとしたレースの生地とそれを着こなす佇まいに店にいた全ての人の視線を集めた。
「いらっしゃいませ」
一瞬驚いたが、すぐに営業スマイルで客に挨拶したミリヤはおおかた裕福なお家のお嬢ちゃんだろうとだけ考え、自分の仕事に戻った。
「こんにちは」
優雅にそう言った年若い女性。その視線は軽く店内を見渡した後、カウンターに座イースにかけられた。
「はぁ、こんにちは」
目が合い挨拶されれてしまったイースは気の抜けながらも挨拶を返した。
「今朝ぶりでございますね、イース様。私ここイスターの領主をしている。マルカー伯爵の娘カレリアでございます」
恭しくも貴族の礼らしいものをした領主の娘だと言う女性は顔を上げ誰もが美しいと思っている笑顔を浮かべていた。
しかしその笑顔を肝心のイースは見ていなかった。
面倒ごとを察知した様で、女性そのものを見なかったことにした様だ。
間の前でイースの行動を目の当たりにしたミリヤは当然小声でその行動を叱る。
『何やってるんだ。返事返さないと』
『だって面倒くさそうだし。聞こえて無いふりした方が穏便に帰ってくださるかなって』
『穏便に済ませるたいなら話をしろ』
ミリヤに言われ渋々カフェの入り口に立っている領主の娘だと言う人物をみるが。どうやら時はすでに遅かった様で、領主の娘は微笑みを浮かべているが、その目は笑っておらずイースと目が合うや否や。
「無礼者」と言った。
そしてすぐに、連れて行きなさいと護衛と思わしき男に指示をすると、イースは連れて行かれてしまった。
抵抗をしなかったのは店の中だからだろう。そもそも抵抗すればもっと良く無い展開にりかねないため、ミリヤも何も言うことができなかった。
しかしイースの態度が悪かったにせよ貴族とはいえこんな簡単に人を拉致して良いのだろうか。
庶民には答えを出せぬ疑問を浮かべてミリヤは連れていかれるイースを見ていることしか出来なかった。
店の前に止めてあったのであろう馬車が離れていく音が響いて。ようやく静かな店内の扉が開いた。
現れたのは。バーバラの店主、ミリヤの父親で用事を済ませて帰ってくれば店の前に馬車が止まっておりその上、イースが連行されていく姿を見たのであろう。同様を隠せ無い表情でミリヤに問う。
「今、イースくん連れていかれたけど…これってギルドとかに連絡した方がいい?」
「わからないけど領主の娘って言う人が連れて言ったから多分ギルドは動いてくれないかも……」
思わぬ娘の発言に父親は固まってしまった。領主の娘など今までの人生であったことなどない上に、何故ルースが連れていかれているのか。
「イースくん何かやらかした?」
「…………うん」
ミリヤが悩みそう答えた瞬間父親は間抜けな声をだし。客席のソファーに座った。
親子はどうすればわからず。イースが無事自力で帰ってくることを祈った。