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連投

その少年は幼いうちから銃の扱いを覚え父と二人で魔物や動物を狩る旅暮らしをしていた。

身内は父かしない。


母親は少年が生まれてまもないうちに、村の流行り病によって還らぬ人になった。

一向に収束しない病の波に父は母の死後すぐに幼い少年を連れ村を離れた。


それから十年、父と息子の二人で生きた。移住する選択は父には無かったのだろう。

常に口元を布で覆う姿は病から逃れ、十年経った今でも怯えている様だったがそんな姿を見せながらも父親として少年に生き抜く全てを教え込んだ。


銃の持ち方、魔者の急所、捌き方。


会話も少ない日々でも少年は父を慕いその背を追って成長していった。


しかしそんな日々は突然終わりを告げた。父が死んだのだ。


とある大型魔獣の討伐部隊、臨時で募集していたその仕事に父は参加していた。

少年は危険だとゆう事で、その日は宿で一人父の帰りを待っていたが帰ってきた討伐部隊に父の姿は無かった。


昨日出陣した時より随分と少なくなった部隊。その中に一人、少年に近づく男が無言で差し出したのは、父の使っていた銃。

父の遺体は魔者が作り出した業火によってその姿を保たなかった様だ。


唯一魔術によって守られていた銃は随分と黒く変色していたが形を保っていた。

歪んだ引き金、父が死の間際まで握っていたその場所を少年は握り返す事ができなかった。



やがて多くの命を奪ったその魔物の討伐祝いで街が華やぐ、長年恐怖によって押さえ込まれていた人々は顔に笑みをうかべ大業を成し遂げた者達をもてはやした。


魔物の死骸の後には大きな墓石が建てられ、その場所を中心に露店や花が広がった。


英雄と呼ばれた男達の名前が墓石に刻まれているが、その墓に父の名は無い。


人と関わる事を避けていた父はその日限りの部隊の者達に名前を名乗る事はしなかった。

そして少年も父の名前を口にはしなかった。


一人取り残された少年、一人置いて行かれた少年は人々の喜びの声から背を向けて誰にも気づかれず日陰に消えた。


路地裏に縮こまり、父の形見を抱き抱える姿は痛々しいが、目の前の喜びに目を焼かれた人々にはその姿は映らなかった。


たった一人の少女を除いて。


「うるさい」

もう何日そうしていたか、随分と痩せ細った体になった少年を見下ろし少女はそう言った。

逆光でその表情は見えないが、声色からして苛立っているのだろう。


「毎日毎日、人ん家の横でメソメソと」


嫌気がさす。そう言って少女は少年の腕を掴み引きずり上げた。

抵抗する気力のない少年はされるがまま、自分よりも背の低い少女に手をひかれる。

怪我をしているのか、わずかに足を引きずる様にして歩く少女。けれどもその足は少年よりも力強く地面を踏み固めていた。


当時の少年は自分がどこに連れて来られたかわからなかったが、その場所は扉を潜ると周囲の喧騒を遮るほど静かで、座らさせられた椅子わ柔らかく、目の前に出されたスープは暖かかった。


生きたいとは思わなかったが、まるで抱きしめられた様なその感覚に少年は涙を流しながら震える手でスープを飲み干した。


少女と少年以外いなかったその場所にやがて大人がやってくると、少女と少年は引き剥がされた。

いやそんな心情になっていたのは少年だけかもしれない。


実際は買い出しから帰ってきたその少女の父親が、見ず知らずの痩せ細った少年を気遣い少年を街の診療所に連れていったのだが、当時の少年にはそれが理解できていなかった。



大人に囲まれ、流されるがままベットに寝かされた。体感では随分と長い時間ベットに繋がっていた様に思う。解放された時に医師から聞いた話によれば、どうらや少女の父親少年の医療費を肩代わりしてくれたようで医師には例を言う様にとその親子の住所を教えてもらった。


向かうかどうか迷わなかったわけではない、しかし行く宛の無い少年にはその場所はに向かう以外の考えは浮かばなかった。いつに間にか丁寧に包まれた父の形見を胸に抱きしめて。今度は自分の足でその建物に訪れた。


喫茶バーバラ、そう書かれたいた。扉にはChromeの文字が書かれたプレートとが下げてあり。少年はドアの部に手をかけるのを躊躇してしまった。

悩んだ末に、以前と同じ路地裏に入り少年はお店が開くのを待つ。


「またいるの?」

不意に聞こえたその声は随分と頭上から聞こえた。

見上げれば喫茶店の二階の窓から少女が顔を出し。眉を寄せて少年を見下ろしていた。

「上がれば、下に父さんがいるからノックをしたら入れてくれるかもよ」


そう言うと少女は顔引っ込めてしまい。それ以上話かけてくる事は無かった。


風通しのために開かれた式窓、路地裏から少年を連れ出したあの日もきっと少女は二階から少年のすすり泣く声を聞いていたのだろう。


父の死後随分と時間が経過した様で、人々が暮らす街は当時より随分と静けさを取り戻していた。

その事にに気づいたのは少女の言う通り再び少年が喫茶店に迎え入れられた時。


「身内はいないのか?」

「……いない……です」


元より人と喋る機会が少ない少年、その辿々しい言葉を喫茶店の親子は急かす事なく聴いてくれた。

なんとか自身の身の上を話終えた頃に、少年はやっとお礼を言う事ができた。


「ありが…とう……ございます」

「いいんだ、辛かったな」

最中の大きな暖かい手が添えられた。その懐かしい感覚に、意図せず涙がこぼれてしまった。



これが少年がこの親子と出会った当時の話。


その後一時は孤児院に身を寄せていた少年もほんの一年で孤児院を飛び出し、父と同じ仕事を始めた。その頃は傭兵と呼ばれていたが、少年が青年になった頃には魔物や迷宮の攻略者として冒険者などと呼ばれる様になり、ほんの数年でその大多数も増えていった。


父から教わった狙撃の技術を活かし、最年少ながらも自身で生計を立てて行く青年を見守る者もいたが。

多くはそんな青年をからかいや嘲笑の的にした。


しかし失う物も無い青年に虫がぶつかってきた程度の言葉の衝撃は響くわけもなく、生きるためにひたすら狙撃の腕前を上げていった。


いつしか冒険者にランクがつけられるほど、名高い職業になった頃には。


青年は若くして最高位のランクを手に入れていた。



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