プロローグ
息抜きで描いた代物です。
溜まってきたので整理のため投下しました。
短めで完結の見込みもあるので安心して読んでください。多分十話くらいの見込みです。
大昔から魔物が住まうこの世界。人々が一歩守護された街の外に出ると身を守る術がなければあっと言う間に魔物の餌食になってしまう。
そんな危険な世界で現在最も重宝される仕事は冒険者と呼ばれる魔物とそれらが住まうダンジョンの攻略者だ。魔術や剣術、そのスタイルは様々だが、彼らの力は街を維持するには必要だった。特に商いを担う商人にはお金でどこもまでも護衛する冒険者は素晴らしい駒の様な物だったにだろう、しかし……
「だから無理だと言ったろう?」
「ヒィィッ」
襟首を掴まれた小太りの男は最近羽振りを利かせた商人で。その扱うものは手広く、日用品の小売から魔物の素材と様さな層から支持を受け多くの顧客を持っていた。
そんな男は今回、とある顧客から依頼されたドラゴンの卵を獲るために、念入りに準備をし護衛もランクの高い冒険者をやっとたのだが。
しかしどうしてこうなったのか……
商人の眼前には今にも悲鳴をあげる部下と、大金をかけて雇ったA級ランク冒険者パーティーが逃げ惑う姿。
「おい、どこえ行く!」
「うるさい、大きな声を出すな」
悲鳴をあげる商人の声に岩肌の様に灰色の鱗を持つドラゴンがその視線をこちらに向けた。
「ヒィ!」
「あーあ、竜は粘着質だから、獲られた物は取り返すまで追ってくるっと言ったのに」
「あんた!あんたが!幾ら払ってやったと!早くこの龍を殺せ!」
「別に良いが、岩竜は卵を集団で守るんだ。コイツを殺しても他の竜が卵の気配でどこまでも追ってくるぞ」
「ここここれは私のものだぁ!!!!」
「テンプレかよ」
青年はハァーとため息を吐いた。
商人の男が最高ランクのS級保持者である青年に依頼を持って来たのは何と今し方。
全速力で逃げ惑う彼は長旅で帰路の途中、手土産に龍の鱗でも取って帰ろうと岩竜の巢え向かってるいた青年と鉢合わせた。
出会い頭に金貨の入った皮袋を投げつけ後ろの竜を殺せと依頼してくる商人の男はヤシの実ほどの大きさの卵を抱えており、青年は瞬時に状態を把握せざる終えなかった。
その卵を帰せば命は助かるかもしれないと言えば、無理だ、嫌だの一点張り。
言い合いの間に迫り来る竜に怯えた元々護衛に着いていた冒険者は我先にと逃げ初めて冒頭の様な状態になっている。
無理な依頼は最初から受けないのが鉄則だ。その光景に青年も地面に落ちた皮袋を拾わず背を向けようとしのだが、油汗を浮かべた商人が青年の外套を手が白くなる程の力で掴み、唾を飛ばしながら怒声を放った。
「あんたはS級だろ!殺せ!殺せば良いんんだ!!!」
どうやら青年の顔を知っていた故に賭けに出た商人。
すぐそこに迫る岩竜にもう青年に縋る以外の選択肢は無い様で、依頼を受けたつもりの無い青年は再びため息を吐き出して、背中に背負う銃の引き金に手をかけた。
その銃は通常の弾を込めて扱うものでは無い。自身の魔力で弾を作り出すもので、並の冒険者では扱う事が難しく青年でもその銃を使っているのを見たのは自身の父親だけだった。
「はぁ〜せっかく予定より早く帰って来たのに、人気者は辛いね〜」
銃は片腕程の長さがあるが青年は軽々しく片手で持ち、迫り来る岩竜に狙いを定めた。
「なぁ助けてやるんだ、俺が指定した報酬をくれよ」
「はぁ!何だ!早く殺せ!」
「はいはい、じゃあ報酬の件は後で」
青年は引き金を引く、弾丸が放れた甲高い音と同時に岩竜の首を吹き飛ばし、胴は倒れ頭は地に落ちた。
「じゃあ、報酬もらうよ」
「何をする!!返せ!」
青年はそう言うと商人の懐から卵を抜き取り、商人達が来た方向へ走り出した。
「言っただろ、竜は粘着質だって」
その足は早く、青年を追おうとした商人は既に豆粒サイズに見えるほど距離を離した。
向かう場所は岩竜の巣。
商人が襲われようとかまわないが、ここから一番近い街に向かう青年にとってここいら近辺の魔物が暴れる要因を黙って見過ごすわけにはいかなかった。
「ほら帰しに来てやったぞ」
息も切らさず、岩に囲まれた岩竜の巣に到着する。尖った岩がひしめき合うその場所にはところところ木の枝や動物の毛皮などが固まりになって集められておりその場所で岩竜の群れは他の卵を守るために男を警戒している。
「悪いな、仲間を殺して……こっちにも事情があるんでね」
「ぐぉーーーーー!!!」
叫ぶ竜達、人の言葉など理解できない魔物は青年の持つ卵を取り返すべく、数匹が青年に向かって突進して来た。
「だから、帰してやるって!」
振りかぶり投げた卵は天を舞う、青年の行動に驚いた竜達は落下する卵を視界に納めると体を反転させてぶつかり合いながらも一匹の竜が卵を口で受け止めた。
竜達が視線を青年に向けると、青年はすでに岩竜の巣から数メートル取る離れた付近にいた。
竜は粘着質だが、同時に冷徹でもある。共に子育てをする竜でも繁殖期が終われば仲間同士の食い合いを行うほど自分本位な生き物だ。
「まぁ、卵が無事なら、一匹殺した程度じゃ追っては来ないよな」
青年は灰色の鱗を太陽で透かして見ながら、街に向かう帰路を行く。根本が淡いグリーンの鱗、卵はこの鱗を返すついでだ。面倒ごとを押し付けた商人のその後には興味は無いため、わざわざ様子を見に行くことはしなかった。
「うーん、やっぱり青竜の方があの子の好みだったよな」
グリーンと灰色のグラデーションも綺麗だがイマイチ華やかさに欠ける。
「でもまぁあの子ならきっと喜んでくれるよね」
丁寧に鱗をしまうと、青年は街に向かった。
目的地までは通常なら半日ほどかかるが、青年の足なら二時間で辿りつく、木々の隙間を通り抜け、獣道を抜けながら青年は約二ヶ月ぶりにその場所に帰って来た。
喫茶バーバラ、Chromeという札がかけられたその扉を青年は躊躇なく開く。静かな店内にはコーヒーの香りが微かに漂い、カウンターに目を向けると、一人の娘がカラカラとアイスコーヒーの氷を回していた。
「ただいまー!俺のために作ってくれたの!」
「違う」
外套を脱ぎ捨て、その娘に抱きつかんばかりの勢いでっ突進した青年はしかし、冷たい一言で彼女に抱きつく一歩手前でフリーズした。
「もう!そんなこと言って、ねぇ寂しかった?お土産沢山あるからね」
「ありがとう、気持ちだけ受け取っとく」
「ジャーン!岩竜の鱗、後で一緒に加工店に行ってアクセサリーにしてもらおうね」
「何か飲む?」
「後これ、サイハテレモンの氷砂糖着け、前美味しいって言ってたよね、また買って来たからぁ〜た・べ・て」
「ミルク入れるか?」
「あとねー」
「何だ来ていたのか」
噛み合っていない会話に終止符を打ったのは喫茶店のマスターで買い出しに出ていたのか両手に紙袋一杯の荷物を抱えている。
「おかえり父さん」
「おかえりなさいお義父さん」
「近い、お義父さん言うな」
すかさずズイッと顔を近づけ、未来の父親に挨拶をした青年の圧にひき気味になりながらも慣れた様子で、会話をした。
「随分と長かったな」
「北の大地まで討伐に」
「それは大変だったな、怪我ないか?」
「お義父さん、俺を誰だと思っているんです」
苦笑いをしながらカウンターに荷物を置いたマスターは、はいはいと頷いた。
もちろん知っているのだ青年がまだ冒険者になる前から。