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世界の仕組み

「存在が消えてしまう。そんなことは分かり切った話でしょ? その上で言ってる」


 硬い意志の瞳が、舞奈から向けられた。葵が上唇を舐めると、乾き切ったザラつきを感じる。

 恋愛感情。他人に対して好意を抱くということ。それ自体には罪がない。だが、思いの丈を相手に伝えるという行為は、また別の話。


「消えるってことは、実質死ぬことと同じなんだよ?」


「説教は観念してよ。それに、まだ迷ってる段階だからさ」 


 窓際から覗く太陽に顔を動かした舞奈。どこか上の空な表情で、続けて呟いた。

 

「ほんと不思議よね。好きって伝えるだけでその本人の存在が消失するなんてさ」


「別に普通のことだよ。両親だって、私を産むためだけに結婚したようなものだし」


「でも、好きって感情ぐらいは持ったことあるんじゃない? 伝えなかっただけで。葵は抱いたことないの?」


「うん、特にないかな。だから、恋愛感情とかよく分からないんだ」


 唸りを鳴らす舞奈。アイディアを思い付いたかのように、顔を机から乗り出した。


「桐原辺りとならどう? 唯一の科学部の部員である葵ならさ、一年生の時から結構交流あるんじゃない? ほら、あの先生さ。担任持ってないし、授業中以外は科学室で部活動に勤しんでるんでしょ」


「まさか。桐原先生は優しいし面白い先生。それ以上はないよ」

 

 だよね、と舞奈が茶化すような口調で付け加えた。

 葵がメロンパンを齧る。凝縮された糖分の重みに、舌が唸る。同時に、ポロポロと小麦の粒が机に溢れた。


 

■□■□


 両手で段ボール箱を胸の前で持ち上げる。葵は、遅い足取りで人影一つ見当たらない廊下を辿っていた。

 五限目の後、桐原教論に仕事を頼まれてしまった。用も特になかったため、承諾して今に至る。

 窓から床に伸びるのは、すっかりとオレンジ色に靡いている太陽。放課後ともあってか、寂しげな校内の雰囲気が肌身を舐める。

『理科室』と立て札に書かれた扉。葵は、一度腰を下ろして段ボールを置く。ドアノブを横に開き、躊躇いなく室内に踏み入れた。ほろ苦い珈琲の香りが、ふわりと髪の毛に滴る。

 戸棚に整理された空のビーカーや人体模型の中を進む。すると、白衣を纏った背中を捉えた。黒板に向かい、手元を動かしている。

 赤色や白色のチョークで並べられた文字。複雑に行き交う矢印は、もはや交錯し過ぎて落書きのように思えてしまう。恋愛感情の発現、という文字が大きく上部で括り囲まれていた。


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