小学1年生の記憶(全部ほんとうのこと)
近所のお寿司屋さんのお家のお誕生会に
姉と私、2人で行った。
姉はおいしそうにお寿司をほおばった。
向かいに座っていた浅黒い顔の男の子
瞬きもしないで私たちを見ている。
「お誕生日おめでとう!」と姉が言った
私はなぜ自分がそこにいるのか分からずいた
ただ、姉が嬉しそうにしているのが嬉しかった。
毎朝一緒に学校に行っているお友達が
浅黒い男の子に追いかけられたと言った。
「あの子病気で学校に行けないんだってよ、
追いかけられてこわかったー」
「えっ、病気なの?」
顔色が悪いのは病気のせいなんだ、と思った
次の年にお誕生会はなかった。
お寿司屋さんもなくなった。
二十歳になった頃、母と家の前で話していたら
目の前を小さい鎌を持った老婆が横切った
母が「こんにちは」とあいさつをした。
「そういえば、昔お姉ちゃんと二人であのお母さんの子のお誕生会に行ったね・・」
と母が言った。
「今のがあの子のお母さん?」
「いつも鎌をもって歩くんだよ・・護身用なんだって」
お誕生会で嬉しそうにお寿司を握ってくれた
あの、男の子のお母さん。
今横切った老婆と重なるものは一切なかった。
人はこんなにも変わるんだ
5さいの時に病院で聞いた赤ちゃんのお母さんの
あのうめくような・・声と
鎌を手にもって、まっすぐ前を向いて歩く男の子のお母さんの後姿は
重なって遠くに消えていった。