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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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86. 新しい魔法


「黒竜……?」


 シアは僅かに首を傾げながら呟いた。


「そうだ。知っているのか?!」


 またも店長さんはシアに詰め寄ろうと顔を近づけたけど、シアが口をクワッと開くと直ぐに鼻を押さえて身を引いた。シアは少し残念そうにフンとそっぽを向いてしまった。


「シアは黒竜を知ってるの?」

「……確かに先代様の眷属に黒竜はいました。が、会ったことはありません。そのような話を聞いたことがあるだけです」

「そっかぁ〜」


 黒竜かぁ。探せば今までもいたのかな?でも数千年に一体なら、あと数千年は現れないってことだよね。いや、それは確率の問題であって世界の仕組みじゃないから、意外といるのかもしれない。世界は広いからね!


「店長さんはどうして黒竜を探しているの?」

「……もう三百年近く行方不明だからさ」

「本当に大賢者の眷属なの?黒竜違いとか、ない?」

「いや、間違いないよ。俺の目の前で眷属になったんだから」

「目の前で……?そうなの?」


 眷属の儀式を見たなら確かだね。


「じゃあ喧嘩別れしたとかない?気まずくて会いに来ないとか?」

「あいつはそんな奴じゃない。気の良い優しい思いやりのある竜だ。だが眷属になってから一切連絡がない。何かあったのか……」


 そっか……。心配なんだね。


「そもそもどういった経緯で眷属になったの?先代はとても気まぐれだったらしいけど」


 あまり先代の事は話してくれないけど、時折スイが愚痴った時に言ってた気がする。気まぐれで、短気で、策略家で、変人で、そして………。だから。優しい竜が眷属になりたがるとは思えない。

 

「……経緯ね。そうだな……」


 ぐっと拳を握りしめて何かに耐えるように私を見て、ふっと力を緩めた。同じ大賢者なのにな……と呟くと端に置いていた飴の入ったガラスの箱を私の前に置いた。


「飴を食べるかい?あ、蛇には食わすなよ?」

「ありがとう」


 遠慮なく一粒取って口に入れる。


「……黒竜は膨大な魔力を持って生まれる。幼い頃は制御も難しくて、よく魔力暴走して周囲の物を爆発させていたよ。俺も何度もふっ飛ばされた。親から聞く人の街や食べ物に憧れて、早く制御しなきゃって瞑想しては爆発してたよ。……懐かしいな」


 ……爆発し過ぎでは?私も魔力暴走で周囲の森をふっ飛ばした事があるけど被害は甚大だったよ。家が無くなったと皆に泣かれて、元に戻すのが大変だった。膨大な魔力を持つ黒竜の魔力暴走でふっ飛ばされたんだよねー?店長さん。よく無事だったね。


「他の竜よりも数年遅れたけど、何とか制御出来るようになって。俺はとっくに制御出来るようになったけど、あいつに付き合って一緒に訓練してたんだ。初めて人の姿で港町に立った時は感動したよ。話に聴いた人の街が目の前に広がってて…」


 うん。わかるよ。感動するよね。私だって感動したもん。


「だけど制御しても黒竜の魔力は膨大でさ。初めて食べた料理に感動して制御が狂って、爆発してしまったんだ。その時居合わせて助けてくれたのが……大賢者だった」

「………助けた?」


 ……………先代が?


 思わずシアと見合ってしまった。


「そうさ。気まぐれだったのかは分からない。爆発する力を結界に納めて、人もあいつも無事だった。あいつは感謝し、尊敬して弟子入りを願った。だけど大賢者は弟子は取らないと最初は断ったんだ。だがあいつが黒竜だと知ると態度が変わった。眷属ならしてやってもいいと提案してきた。そうすれば魔力制御の仕方を教えてやってもいいと!」


 店長さんはまた拳を力いっぱい握り締めた。


「それが間違いだったんだ!……あいつはそのまま眷属となり、大賢者に付いて行ったきり音信不通になった……。街に行った子が戻らないと知って、あいつの両親がどれだけ嘆いたか!その後皆で手分けして世界中探したけれど……見つからなかった。……あいつとはあの時別れたきり、もうずっと会っていない。……生きているのか死んでいるのか。それさえも分からない。黒竜はその膨大な魔力と引き換えに短命だ。今、生きていたとしても、いつまで生きられるか分からない。解放されたのなら何故戻らない?!何処にいるんだ?!なぁ、何か知らないか?!」


 店長さんは必死に尋ねるけど私は何も知らない。ふるふると首を振ると、目に見えてがっくりと項垂れてしまった。


 私は古竜と地竜しか見たことがない。知識として知っているだけで、黒竜のことは誰からも聞いたことはなかった。会わせてあげたいけれど、大賢者としては世界に干渉出来ない。『端末』で検索すれば分かるけど、それを個人の願いを聞くためには使えない。今ここにいるのはリリー。ただの冒険者のリリーなんだから。


 そもそも黒竜ってどんなのかな?黒なんだから翼や鱗、体表は真っ黒だよね?目は何色かな?やっぱり黒?んー…………それなら全部黒でどこが顔だかわからない?夜はぶつかっちゃうね~。あはは。


 なんて想像していたら、シアと店長さんは何故か睨み合っていた。はてな?


「何でもいいからあいつについて話してくれってお願いしているんだが?」

「それの何処がお願いしている態度なのです?」

「頭を下げてるだろ?」

「それの何処が頭を下げているのですか?」

「あまりにもヘビが小さいから、これ以上頭を下げられないだけだ。気にするな」

「人の形だけ真似るのではなく、謙虚という内面も真似たらどうです?」


 ポンポンと会話が勢いを増していく。知ってるよ。これって…うーんと……あ!そう。ノリとツッコミ!とかいうものだよね?確か親友の証だっけ???


 あれ?………二人は仲良しさんなのかな?


「お前さっき飴食べただろ。情報提供しろ」

「あれっぽっちで何を言いますか」

「高価な飴なんだぞ!」

「はっ。大賢者様への謝罪として受け取ったもの。情報の対価にはなり得ませんね」

「だったらお前が食べるな!」


 ……うん。先代の事は全く知らないからシアに任せよう!


「大体、よく確認もせずにいきなり結界に閉じ込めるなど短慮にも程がありますよっ」

「仕方ないだろ!代替わりしたなんて分かるわけがない。異常な存在値は大賢者しかいないのだから」

「先代様とお可愛らしい大賢者様を混同するなど言語道断です!」


 …………………………………………はぁふ。


 欠伸出ちゃった。………なんか、暇だな……。


 あ、そうだ。さっき思いついた魔法、作っちゃおう。


 『端末』を取り出して、 フリーページを開く。ここはメモに使ってもいいし、スケッチをしてもいい。新しい魔法陣や魔方陣を試してもいい。なんでも出来る自由な画面なの。


 んー…………と、どうしようかなぁ……。基本は鑑定の魔法陣を使ってみようか……?


 指でクルッと円を二重に描き、鑑定魔法の基本形を描く。範囲の部分を指定の固定にして。


 ………あとは………結果を刻印する……?………あ、紙か。紙を生成する補助術がいるね。紙って何で出来てたっけ?


 板?鉄?土?…………あっ!草だ。植物。んー……だとすると……緑の魔法も必要だね。じゃあ、ここの部分を変更して………。ん?あ!ここだとこっちの属性と相殺しちゃうからこの部分にはダメかぁ。じゃあ………ここなら大丈夫かな……?


 うーん………新しく魔法陣作るなら簡単だけど、改造して作るのは難しいねぇ………。


 元々の術式を分解し、追加したり変更したり移動したりを、魔法陣の上で構築していく。本来の手順であれば、新規の魔法は術式を構築してから魔法陣を描くのが正解だけど、元々完成している鑑定の魔法陣があるから手順をすっ飛ばした。だからかな?すごく難しい。逆に面倒な事になってる。


 うー……んと、ここがこうで……この部分は……いる?いらない?あれ?この補助魔法はどの部分の補助??


 だんだん混乱してきたよ。しかも……。


 不格好だ。何か偏った魔法陣になっちゃった。こっちはスカスカなのに、こっちはギチギチ。バランスが悪すぎて、これは発動しないね。魔法陣は均一でバランスが取れていないと魔力が行き渡らなくて失敗するもの。力技で出来なくはないけど、それじゃあ私しか使えないもんね。それはダメ。ふむ。……バランスよくするには……。


「トカゲ風情が大賢者様を語るとは…!不敬にも程があるぞ!」

「『可愛い幼子』の何処が語ってるんだよ!見たまんまだろっ」

「大賢者様がお可愛らしいのは言うまでも無い当然の事。それを……!」

「キレる意味がわかんねえよ!」


 ん?……んんん?………うふふふふふあはは。はぁ……あーあ、やっちゃったよ……これって魔方陣だよね……?魔法作ってるつもりが、錬金術しようとしてた!あはははは。ふぅ……危ない危ない。いつも錬金術の練習してたから思考が錬金術へと無意識に向かってた!不格好とかバランスとか考える前に根本的に違うでしょ。私が作りたいのは魔法よ。魔法。んと、………うん。やりたくはないけど、改造するのは止めて、イメージで作ろう……。


 今表示している画面は保存して新しい画面を開いた。何も無い真っ白なページ。そこに両手を翳して目を閉じる。明確なイメージを思い描く為に。


 作るのはラベルの魔法。どうしたいか結果を細かくイメージする。


 ラベル。中身を鑑定して結果を表示。内容は品名と個数とその効能。薬なら残りの使用回数表示。中身がなくなったら魔法は解除。表示の文字は見る者の使用言語。


 よし。イメージは固まった。目を開けてイメージを画面に描写する。


 …………魔法陣生成!


 ピカー!と光る線が円を描き新たな魔法陣を刻んでいく。何処か鑑定魔法のようで、でも全く違う新しい魔法陣だ。光りが収まり………。世界に新しい魔法が誕生した。


 ラベルの魔法。


 そう記載され画面から魔法陣が消えた。


 新しく魔法を作るのはとても簡単だ。イメージが確定して魔法陣が齟齬無く発動出来ると世界が判断すれば、その魔法は世界に登録される。その魔法陣を知る者は誰でも魔法を発動出来るようになる。たとえそれが世界を壊すほどの威力が有ったとしても。世界は選別しない。誤った魔法でも、魔法陣さえ出来れば登録されてしまう。だから、効果が変な魔法も沢山ある。


 祈りは願い。願いには明確なイメージがある。そして。魔法作成はイメージが大切だ。


 とても昔。星を繋げて図形を作るのが好きな幼子がいた。夢中で遊ぶその子に兄がちょっかいを出した。怒ったその子は「お兄ちゃんなんてハゲてしまえ!!」と明確にイメージした。そして世界は認め、ハゲる魔法(兄専用)が完成した。また地面に円を幾つも重ねて遊ぶ少年がいた。やがて少年はニヤリと笑って想像した。「これは落し穴。足がハマって泥だらけになるぞ」これも世界は認めた。出来た魔法は足がハマって泥だらけになる落し穴(片足用)だ。魔法は魔法陣を知らなければ発動しない。だからこれらの魔法は誰も知らない使われたことの無い魔法。そんな魔法は無数に存在する。


 世界に害は無いから歴代の大賢者は放おっているし、私も問題にはしないけど、イメージだけで魔法が作れてしまうのは、大きな問題なのかもしれない。


 お仕事……頑張らないとね。この優しい世界を守る為にも。そして、くだらない魔法がこれ以上増えないように!


 決意を新たに自分に誓う。……それはともかく、魔法は完成した。


 さてと試してみよう。


 鞄からジュースの瓶を出して魔法陣を展開する。


「ラベリング」


 ピカーっと光ってジュースにラベルが貼られた。


 【ぶどうジュース 残り三杯分】


 成功だ!余計な情報はないし簡潔。


 あとはこれを錬金記号にして……。『端末』に登録し、実行。……うん、よし。これでこの世界にラベルの魔法が錬金術でも使えるようになった。


「あっ!!おまっ……全部飲み込みやがったな!」

「ふふん、遅いお前が悪い」


 シアが器用にも尾で飴を掴み放り投げて口にポイっと入れてごっくんと飲み込んでいる。ガラスの箱の中は空っぽになっていた。


「吐き出せ!全部!」 

「ふん!」


 早速実験しよう。


 鞄から紙を取り出しポーションの魔方陣を描いていく。その際アルが言っていたように濃さを調整する術式を簡素化しておく。ラベルの錬金記号を追加して新しいポーションの魔方陣が完成した。


 鞄から薬草を取り出してポーションを生成する。


 ピカーっとしたあと、3本のポーションが出来ていた。勿論ラベル付きだ。


 【ポーション 残り回数 傷用10回 

             飲用 3回

        効能 小傷、小毒、小回復】


 ふむふむ、よしよし。それならここの濃さを半分に変えて。


 魔方陣の濃さを変えてから薬草を置いて生成する。


 今度はラベル付きポーションは二本出来た。


 【上級ポーション 残り回数 傷用10回

               飲用 3回

          効能 中傷、中毒、中回復】


 なるほど。んー………ちょっと効能が気になるけど、まぁ、分からなくもない?かな?


 最後は元のポーションだね。


 濃さの指定を無しにして生成する。1本出来た。


 【特級ポーション 残り回数 傷用10回

               飲用 3回

          効能 全傷、中毒、全回復】


 特級かぁ。この薬草だと毒は中程度までしか解毒出来ないみたいだね。


 後はラベルが機能しているかかな?


「店長さん。さっきシアに噛まれた鼻みせて」

「ん?何だ?さっきから何をしているんだ?」

「実験だよ」


 机から身を乗り出した店長さんの鼻にポーションをかける。赤くなっていた鼻がもとに戻った。


「お!ポーションか!ありがとな」


 治った鼻を擦りながら店長さんはにっこり笑った。


「……残り9回か。ちゃんと数は減るね」


 検証は大事。


「じゃあ、シア。今度は少し強めに噛んで?」

「はぁ?!なんで?!」


 及び腰になって店長さんは鼻を押さえる。


「実験だよ。何事も新しいことには検証が大事」


 鞄から蔦さんが飛び出し店長さんを拘束し、シアがガブリと牙を立てた。


「いってぇーー!!」


 実験と検証に協力者は必要だよね~。



読んでいただき、ありがとうございました。

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