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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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84. クラード商会

「んふっふ〜♪」 


 口の中に甘い果実の味が広がる。


 勘違いさせたお詫びに、と店長さんがとっておきの飴をくれた。南の大陸の赤い果実で作った飴なんだって。


 甘い~〜美味しい〜〜フニャニャニャニャ〜〜♪


 んふ〜〜幸せ〜〜〜〜♪


 シアの口にも入れてあげたら、ゴクリと丸呑みした。でも……大きな飴なのにお腹は膨れなかったよ。……はてな?飴は一体何処に消えたのかなぁ?


 テーブルにはガラスの入れ物にキラキラしたピンク色の大きな飴がある。ソファから身を乗り出して、もう一粒取って腕に巻きついてるシアの口に近づけた。


 ぱくり。ごっくん。


 やっぱり丸呑み!


 でも………丸呑みするシアも可愛い!!美味しいのか一瞬目を細めるのも、可愛い!!何故か消えるお腹の飴は謎だけど、ふふ、もう一粒あげちゃおう!


 テーブルに手を伸ばすと、スッと飴が避けられた。


「ヘビに食わすな、勿体ない。もっと味わって食べてくれ」


 執務机から移動してきた店長さんは、ドカリと対面に座った。


「少しは落ち着いたか?ほら。依頼書だ。確認してくれ」


 店長さんから依頼書を受け取る。そこには依頼終了の印とアルの追加報酬と私の耐熱実験報酬が書かれていた。


「耐熱実験報酬?」

「勘違いの詫びだ」

「飴、貰ったよ?」

「寛大な大賢者サマへの感謝だと思ってくれ。報酬はアル君の追加報酬と同額にしておいた。このお手伝いの報酬は折半なんだろう?これで追加報酬もお互い気兼ねなく折半出来るさ」

「そっか……そうだね。うん。ありがとう」

「ホント、リリーちゃんは素直で可愛い良い子だな。あの大賢者サマと同じ大賢者サマとは思えないぞ。あの男が特別酷いのかリリーちゃんが特別素直なのか……」

「先代は記録を残さなかったから分からないけど、歴代の大賢者は一応酷くないと思う………」


 ……おそらく?………きっと。…………………たぶん。


 受け継がれる大賢者の記録、記憶は全てが主観によるもの。自ら記すものではないけれど、大賢者が感じた事、行なった事、大賢者が見た世界の姿が『端末』に記録されていく。だから客観的に見た大賢者がどうかは分からない。ただ、世界の始まりを管理した1代目はともかく、2代目3代目の視点はいつも優しくて。世界をより良くしようと努力していたように思える。だからこそ、丸ごとごっそり記録を抜き取った先代が酷かったと言われてもピンとこない。1代目は荒れた世界を力と根性で導いたけど、酷い大賢者だとは思えない。初期の世界は破滅と再生を何度も繰り返していた。心折れずに立ち向かった1代目は凄いと思う。今の世界の姿は、3代目の終わりの頃の世界の姿と随分違う。記録がないから何があってこうなったかは分からない。でも。一度も再生を行わずに世界の姿を変えた先代は、やっぱり凄い大賢者だったのでは?と思う。それが正しいのか間違っていたのかは置いておいて。


「そうか、それならあの男が特殊だったんだな」

「……かなぁ……?」

「そもそも、リリーちゃんはなんで勘違いしたんだ?いや、俺の言葉が足りなかったのは認めるけど、歴代の大賢者サマはマトモだったんだろ?なんで横暴とか、嫌われてるって思ったんだ?」


 するりとシアが腕から移動して膝に乗ってきた。シャーと店長さんを威嚇してテーブルに移る。


 なんだよ、と店長さんは両腕を背中に隠した。………噛まれないようにかな?


 手を伸ばしてシアの頭をそっと撫でる。


 大丈夫だよ。私は大丈夫。


 振り返ったシアににっこり笑ってそう伝える。少し頭を下げたシアはその場にとぐろを巻いてじっと店長さんを見上げた。


 私は大丈夫。………そう。今ここには。シアが、いる。


「……以前仕事中にね、大賢者が憎い、殺してやる、って思念を受け取ったの……」

「うげっ……それは、また、強烈だな。仕事ってお手伝いのか?」

「ううん、大賢者の仕事。ヴィダの深淵に潜った時に感じた」

「ヴィダの深淵か……。この世の意識の集束の場?だったか?……それって本当にリリーちゃんに?君は誰かに憎まれるようには見えないけど」

「分からない。だけど、大賢者は私だし、大賢者を恨む声も確かだったよ」

「うーん……リリーちゃんは世界に降りるの何回目?百年しか生きてないならそう何度も来てないだろう?」

「今回が初めて。まだ一ヶ月も経ってない」

「それは大賢者サマに対する感情なんだよな?」

「……うん。大賢者に対する強い………憎しみ?な感じだった。強い殺意だった……」

「ああ………うん。やっぱりリリーちゃんじゃないよ、その思念の向かう先。そんなに短い期間にそこまで恨まれる程の大事件は起きてないよ、この町には。冒険者の町だけど案外平和な町だからな。何かの残留思念を感じたかで、やっぱりあの男に対してじゃないか?」

「先代?」

「そう!あの男なら有り得る!」


 店長さんは断言した。


 そうかなぁ?そうだったらいいなぁ。


「半信半疑ってとこだな。まあ、仕方ないか。だけど俺の情報網は広く、正確性は高い。どんな小さな事でも情報が集まる。商人だからな。信用してもいいぞ」


 店長さんは胸を叩いた。


 商人……!そうだ。店長さんは……商人だった。以前ご飯を一緒の時間に食べてた商人さんが言ってた。


『商人にとって情報は生命線てす。今何処で何が求められ、何が不足し、また何が余っているのか。誰よりも先に情報を得て、精査し、利益を出さねばならない。若い頃は私も色々失敗したものです。その御蔭で今は情報の信憑性を肌感覚で分かるようになりました。最も私の場合、舌感覚ですがね。はっはっはっ』


 商人にとって情報は何よりも大切な宝です、と朗らかに笑ってた。


 その商人が言うのだから信じてもいいのかも……。私は恨まれてないって……。だって、店長さんは商人だから。………ん?商、人?あれ?店長さんは、商人………?


「店長さんは、商人、なの………?」

「おう。商人だぞ」


 胸を張る店長さんを思わずジト目で見てしまった。


「人、じゃないでしょ」

「ま、そうだな。人、ではないよな」


 しれっと認める。まあ、お互いにその正体は会ったときから知ってるけれど。


「商人って、おかしくないかなぁ?」

「だけど、金で物品のやり取りするのは人だけだろう?商人で合ってると思うが……商竜じゃあ変だろう?だいたい竜は買い物しないしなぁ」


 そう。首を傾げる店長さんは竜だ。竜が人の姿に変身している。高度な知能と膨大な魔力を有する竜は他種族の姿を模すことがある。店長さんはどこからどう見ても人だけど内包するヴィダの数が竜のそれだ。


「火竜、かな?でも風も混じってるよね?」

「属性までわかるのか。流石だな。俺は火竜と風竜の子だ。属性で言えば火竜だが、風も使えるぞ」

「そうなんだ。荷運びしてたおじさん達も竜がいたね。人との混血もいたかな?」

「よく見てるな。そう、このクラード商会は竜族が作った商会なのさ」

「……………はい?」


 竜?の?商会?????


 ……ええ!!!!!!


 えっ?……あれ?今までそんなの知らなかったよ??


 あれれ〜???なんでかなぁ??…………はてな?










読んでいただき、ありがとうございました。

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