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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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82. 雑貨屋のお手伝い


 なんとかアルを誤魔化して、雑貨屋に着いた。ハイエルフの秘密、って誤魔化したのに、あんなにキラキラ目で追及してくるなんて思わなかった。何処かでシアの深い溜め息が聴こえた気がしたよ。


 はぁぁぁぁ………。うん、よし。忘れよう!


 気を取り直してお手伝いするよ!


 雑貨屋には大きな荷馬車が止まっていた。太い腕のおじさん達が大きな木箱を店へと運んでいる。


 あれ?遅れちゃった?!


 アルと顔を見合わせて、慌ててお店の中に入った。


「遅くなってごめんなさい。ギルドの依頼のお手伝いに来ました!」


 商品棚に囲まれた小さなお店は沢山の人で一杯で、誰に声を掛けて良いか分からなかったから、大きな声で謝った。スイが、時間に遅れた時は先ずは誠心誠意謝罪ですよ、って言ってた。約束の時間に遅れると言うことは、待たせた分だけ相手の時間を無駄にすることになるから、やってはいけないこと、って。大丈夫。私はちゃんと謝罪が出来る大賢者。だってもう五歳(本当は三歳)だからね!最近は人とのおしゃべりも慣れて丁寧語?敬語?のようなものも言えるようになったもん。


 荷運びのおじさん達が一斉にこちらを見たけど直ぐに仕事に戻った。


 あれ?この人達……。うーん……交じってるよね?


 おじさん達は日焼けして肌は浅黒かった。筋肉はモリモリで、シャツが破けそう。髪の色は暗色系が多いけど中には日焼けした金髪の人もいて、様々な国の出身で構成されてるみたい。中にはこの大陸ではない顔立ちの人もいた。


「これはまた小さいのが来たなぁ」


 おじさん達を観察していたら、その人垣の奥からボサボサの茶髪をガリガリ掻きながらツリ目の若いお兄さんが近付いて来た。


 あれ?この人もだ。………ふうん。面白いなぁ。


「まあギルドの紹介なら大丈夫だと思うけど…」


 お兄さんはよっ、としゃがんで私に目線を合わせる。ツリ目なのに優しい温かな赤い瞳がにっこり笑った。


「やあ。初めまして。俺はリック・クラード。このクラード商会シエラ支店の店長だ」

「店長さん。私はリリー、こっちはアル。ギルドのお手伝いで来ました。遅れてごめんなさい」

「いやいや時間ピッタリだ。荷馬車が早く到着しただけさ。いつもは街道に盗賊が出るんだが、討伐されたらしくて順調だったらしい」

「じゃあ遅れてない?」

「その通り。だが遅れたことに謝罪するのは良いことだ。小さいのに偉いぞ」


 お兄さんは私の頭を軽くポンポンと撫でてくれた。良い人かも。


「さて、そっちの兄さんは大丈夫そうだが、リリーちゃんは文字は読めるかな?」

「読めるし書けるよ」

「よしよし。それなら数はどうだ?幾つまで数えられる?」

「幾つまで?」

「そう、十?百?千?万か?」

「そんなに沢山数えた事はないけど、どこまでも数えられるよ」

「それなら大丈夫だな。さすがはギルドの紹介だ」


 お兄さんは立ち上がると、こっちに来てくれ、と店の奥、おじさん達が荷運びしている場所へ案内してくれた。


 そこはかなり広い部屋で、壁際には天井まである大きな棚がぐるりと一周していて、木箱や商品が並んでいた。荷馬車から運ばれた木箱は部屋の中心に積み上げられていて、その数はざっと五十は越えていた。どの木箱にも紙が貼ってある。店長さんは一つの木箱にポンと手を置くと、にっこり微笑んだ。


「君の仕事はこれだよ」

「木箱?」

「そう、木箱だ。よっ」


 店長さんは木箱を一つ重そうに持ち上げて私の前に下ろした。


「この中には仕入れた商品が入っている。何が入っているのかはこの側面の紙に書いてある」


 木箱に貼られた紙を指さして説明してくれた。


「これはラベルというものだ。ラベルには入っている商品名と数量が書いてある。これだよ」


 うん。確かに。化粧水三十本、って書いてある。


「その下には商品を木箱に入れた者の名前と日付、その下には検品して釘を打った者の名前と日付が記入してある」

「検品?」

「おっと難しかったか?検品とはラベルと商品、個数が間違いなく合っている事を確認することだ」


 なるほど。この名前と日付は用意した人と確認した人の印なんだね。ん?その下に□の印がある。何かの……記号?


「君の仕事はね。……開けてくれ」


 店長さんは近くのおじさんに木箱を指さした。おじさんは腰にぶら下がっていた少し長い鉄の棒を取り出した。先が平たく二股に分かれている。おじさんはその二股の部分を釘の近くの蓋と木箱の間に差し込み鉄の棒を動かした。するとメリメリと音を立てて蓋が持ち上がり僅かに釘が抜ける。それを四隅で繰り返し、バキッとおじさんは蓋を開けた。


 おお!凄い!


 思わずパチパチと手を叩くと、おじさんは柔らかく笑って照れたように釘付きの蓋を部屋の端に運んだ。そこにはまた別のおじさんがいて、受け取った蓋から何かの道具を使って釘を抜いていた。


「さて、君の仕事だけど、この中の本数を数えてラベルと合っていたらこの四角に○を書く。違っていたり割れていた場合は✕を書く。解ったかな?」


 この□は○✕を書く為のものなんだね。


「うん。解った」

「簡単だろう?出来るかな?」

「出来るよ。大丈夫」

「よしよし、それなら任せよう。さて、アル君だったかな?君の仕事は、木箱を運ぶことだよ。リリーちゃんが○と書いた木箱はあそこ。✕ならあの男の所に持っていってくれ。少し重いけど出来るか?」

「ああ。大丈夫だ」

「では、任せよう。終わった頃に顔を出すから頑張って」


 店長さんはお店へと戻っていった。


 さてと。お手伝い開始するよ!


 膝を床に付けて木箱を覗くと、小瓶がずらりと並んでいた。瓶と瓶の間には布が挟まっていて直接ぶつからないようになっている。


 えっと、1、2、3、4、5…………28、29、30っと。うん。よし!ちゃんと合ってる。だから、○だね。


 あ、あれ?あれ?ん………と。何で書けばいいのかな?


 きょろきょろ見渡してもペンは落ちてない。


 どうしようか…………。


 困って見上げたら先ほどのおじさんと目が合った。どうやら次の木箱の蓋を開けていてくれたらしい。


 そうだ!おじさん、ペン持ってないかなぁ?


「ペン持ってたら貸して?」

「これでいいか?」


 おじさんはズボンのポケットから小さな銀色のペンを出した。魔力ペンだ。


「うん。ありがとう」


 受け取って魔力を流して◯を書く。


 よし。一つ達成!簡単なお手伝いだね!よし、次!


 数えた木箱はアルが重そうに持ち上げて運んでいく。


 おじさんが蓋を開けて、私が数えて、アルが運ぶ。流れ作業のような手順で、次々と数えていった。大抵が◯だったけど、中には瓶が割れていたり、商品が破損していた物もあって、✕も少なくない。


 えーと、これは香水だね。んー……と、全部で六十本、だ………ね。よし、◯っと。


 木箱に◯を書いてアルに渡す。重い箱だけど、アルは額に汗かきながらしっかりとした足取りで運んで行く。


 おじさんが蓋を開けた木箱を私の前に置いた。ラベルを確認する。


 次は石鹸が三十個だね。…………それにしてもこのラベルって凄く便利。木箱を開けなくても中身が分かるなんて!ラベルを考えた人は凄いなぁ……!


 ………………ん?確認しなくても中身がわかる……?ふうむ?確認しなくても、かぁ………あ!!うんうん、これって使えるかも。ふふーん♪いいこと思いついちゃった!


 にまにましながら石鹸を数え、破損があったから✕を書いた。アルが破損を確認してから木箱を運び、書類を手に何かを書き込んでいるおじさんにそれを報告する。そして、私の前には新しい木箱が置かれる。そうして黙々と作業を続けて、木箱全部数え終わった。


「終わったー!」


 おじさんにペンを返して、木箱を運び終えたアルを待つ。


 これでお手伝い完了かな?


「お?終わったようだな」


 店長さんが戻ってきた。ぐるりと部屋を見渡して、✕の木箱へと向かう。木箱を確認していたおじさんと話をしてから、店長さんは、ご苦労さま、と私達に話しかけてきた。


「問題なく終わったようだな。」

「うん。全部数えたよ」

「そうか、そうか。順調で何よりだ。……だが、完品の箱の整理が遅れているな」


 店長さんは◯の木箱の方を見た。


 ◯の箱はおじさん達が棚に入れたり、中身を移したりしているけど、まだまだ沢山ある。


「そうだなぁ、アル君。追加のお手伝いを頼む。彼らを手伝ってくれ」

「……わかった」


 頷くアルが何だか大人に見えた。


 なんで?なんでアルだけ店長さんに頼られてるの?私も一緒にお手伝いしたよ?なのになんでアルだけ?そんなのずるい。お片付けくらい私だって出来るよ!


「私も!私もやる!」

「君では身長が足りないだろう?」

「むう」


 ………身長。ううう、それは、そうだけど、でも……。


 壁際の商品棚を見た。確かに棚は高くて私の身長では届きそうにない。唯一手の届く一番下の棚には木材や釘、木箱の蓋等が納められていて商品とは関係なさそう。お手伝いに参加しても邪魔になるだけに思える。でもそれを認めるのは何だか悔しくて。ぷくっと頬を膨らませた。ささやかな抗議だ。


 店長さんはじっと私を見つめた後、くすりと笑ってしゃがみ込み、私と目線を合わせた。


「なぁ、おチビさん。知ってるか?沖合の海にはぷっくり膨れる魚がいるんだぞ?今の君のようにパンパンに膨れるぞ」


 パンパンのお魚?!そんなお魚がいるの?食べられるのかな?食べられるよね?お魚だもんね。………美味しいのかな?


「そのお魚……美味しいの?」

「ああ、美味いぞ。ちゃんと下処理をすればな」

「下処理?」

「そうだ。その魚は猛毒だからな」


 えぇ…………猛毒………。


「それって、本当に美味しいの?」

「毒の処理をすれば問題ないからな。とても美味いが、まあ、素人に調理は無理だな。処理に失敗すると数秒で死ぬ猛毒だからな。さっきの顔はそっくりだったぞ」


 私は毒魚じゃないもん!


「むう」

「おっと、もっと膨れたな。ははは。つまりは適材適所だ。魚の調理には料理人だろ?背の高いアル君は木箱の整理。届かない君には君の仕事があるわけだ」

「私の仕事?」

「そう。君の仕事は依頼書に終了印を押してもらう事とアル君の追加報酬の記載の確認と、頑張ったご褒美に飴をもらう事だ。俺の書斎でね。どうだい?」

「それって仕事なの?」

「君がそう思えば」


 なんだろう。どこか釈然としない。でも追加のお手伝いは私には出来ないことは確かだ。


「………わかった」


 渋々認めると、店長さんはもう一度くすりと笑って立ち上がった。


「ではアル君よろしく。さてリリーちゃん。君はこっちだ」


 アルに頑張ってと手を振って部屋を出た。廊下をてくてく歩く。意外と奥行きのある店のようだ。でも外からは小さな雑貨店だった気がする。


 空間魔法で広げているみたいだね。さっきの部屋も広げた空間だった。……ああ、うん。至るところに刻印が見えるね。増築の刻印だっけ。まだ扱える人が残っているのかな?それとも…………。


 一歩前を歩く店長さんを見上げた。


「ん?なんだい?」


 視線に気付いた店長さんが振り返り見下ろしてくる。


「何でもない」

「そうか?さ、ここだ。入って」


 廊下の突き当たりの扉を開けてくれた。促されて中には入る。大きな書物机とその前にソファとテーブル。両壁には書棚。確かにここは書斎だ。


 カチャリ。


 扉が閉まり鍵が掛けられたよ!はにゃ?


 振り返ると扉を背に店長さんが魔法を発動する。


 キーン………!と音がして部屋全体に防音と防護、そして何重にも結界が張られた。


 ええ!?閉じ込められた?!部屋から出られないよ?


 店長さんはニヤリと不敵に笑った。


「さあ、もう逃げられない」


 どういうこと??はてな???




読んでいただき、ありがとうございました。

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