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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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81. 便利機能

 自警団に説明し、ぐるぐる巻きを引き渡して、アルと雑貨屋に向かった。もう、お手伝いの時間まで僅かしかない。急がなきゃ。


「ん」


 トコトコ歩く私の横でアルがずり落ちていく長剣を抱え直した。


 はてな?


「どうして抱えてるの?マジックバッグに仕舞わないの?」

「僕のマジックバッグは容量が一杯でね。それに、今は手に持っていたいんだ。誰かに預けるのも惜しい気がしてね」


 少し照れたように微笑んだアルは、アルの背丈程もある長剣をもう一度抱え直した。うん。まぁ、わかっていたけれど、アルには長すぎるよね。それに重いし。装飾のない金属の鞘だから滑りやすい上に重みも加わって、しっかり持っていても手から滑り落ちやすい。しっかりと握るアルの手には擦り傷なのか切り傷なのか血が滲んでいた。


「あれ?アル。手、血が出てるよ」

「ん?あ、本当だ。さっきの騒ぎで長剣が鞘から少し外れたから、その時に切ったのかな。大丈夫」


 アルは立ち止まると長剣を片手で支えて、腰の鞄から緑の瓶を取り出した。


 あ!蔦さんの回復薬だ。


「これはリリーが作ったものだからかけるだけで効果あるよね?」

「うん」


 アルは長剣を腕に挟んで固定し瓶の蓋を取った。少量を手の傷にかける。すうっと傷が消えていく。アルはまた蓋をして鞄に仕舞った。


「飲めば容量が空くのに」


 マジックバッグは入れるものの大きさに制限はあるけど基本は個数だ。全体で何個まで、と個数を指定して空間を作るのが一般的。イメージとしては指定した個数分の部屋を作る感じかな。部屋に入れられるのは一つだけ。だから薬草十個は部屋を十部屋使うことになる。無限に入る私の空間収納とは根本的に造りが違うよね。まぁ、マジックバッグを作るのは容易いけど、部屋数を増やすのは空間を更に広げるから少し複雑なんだよね。だから売られているマジックバッグは部屋数が少ないのがほとんど。MAXで物が入っているなら薬が無くなればそこに長剣が入れられるんだけど。


「薬はこれしか持ってこなかったから、大事に使わないとね」


 蔦さんの回復薬は蔦さんが頑張っているから沢山あるよ?気にせずに飲んでいいのに。


 これからお手伝いするのに長剣は邪魔にならないかなぁ。お手伝いの内容は初めてだからどんな感じか分からないし。両手が必要だったら困らないかな?まあ、剣を購入したのは私なんだけど。……ふーむ?そっか。それなら私が解決しなきゃ、だね。責任は私にある。


「お手伝いの間、私の鞄に入れとく?」


 私の鞄は空間収納と繋がっているからいくらでも入るよ。大きさにも制限無いし。最もな解決策だよね。


 だけどアルは首を振って辞退した。


「いや、購入してもらっておきながら、持ってもらうわけにはいかないよ。でも、そうか。お手伝いの間は抱えているのは無理か」


 ダメかぁ。アルは真面目だねぇ。気にしなくてもいいのに。うーん。アルの鞄はいっぱい。私が持つのはダメ。薬は一つだから飲んで空けるのもダメ。ええ?!解決策ある?抱えてるのは邪魔になるし……。アルの鞄がいっぱいだしねぇ。……ん?あれ?


「そもそもどうしてマジックバッグがいっぱいなの?」


 いつもは余裕が有ったよね?討伐した魔物とか入れてたよ?


 アルは少し視線を彷徨わせながら、バツが悪そうにはにかんだ。


「今朝は早くに目が覚めてね。ほら、リリーのお陰でこの町まで一瞬だから、以前よりも沢山睡眠が取れるようになって、目覚めが良いんだ。それで、訓練がてら王都の周辺の森で魔獣退治をしてきた。その魔獣が入ってる。ギルドでまだ換金してないんだ」

「ふうん」


 討伐。してきたんだ。ふうん。……いいなぁ。


 つい、ジト目でアルを見上げてしまった。アルは困った様に謝ってきた。


「すまない。討伐禁止のリリーに言うことではなかったね」

「……それはいいけど。何を討伐したの?」

「ウェアウルフとジャイアントバットを五匹、かな」

「ふうん」


 数は多いね。ウルフって狼のことかな?どんなのだろう。魔獣って言ってたから食べられるのかな?


「美味しいの?」

「どうかな。魔獣に分類されているけど、僕は食べたことがないよ」

「そっか。でもアルが売れば出回るよね?」

「おそらくは。……食べたいのかい?」

「うん。食べてみたい」

「イメージ的には硬そうな肉だね」

「うう……硬いのはちょっと苦手」


 シアと食べたあの硬いお肉。噛めば噛むほど味が出て美味しいけど、顎が疲れた。きっと子供向けではないんだろうな。


「ふふ。リリーにも苦手な食べ物があるんだね」


 くすくす笑いながらアルはまた長剣を抱え直す。


「まだ子供だから噛み切れないだけ。嫌いじゃないよ。でも、それ、ちょっと不便だね」


 数歩歩くだけでずり落ちる剣。歩き辛いし、抱え続けるのも大変かなぁ?


 時間も無いからトコトコ歩きながら解決策を考えてみる。


 うーん……マジックバッグに入れられれば解決なのになぁ。入れるのは嫌そうだし。そもそもマジックバッグの容量は一杯。空きはゼロ。むう。もう容量増やしちゃう?そうすればお手伝いの間だけでも手は空くよね?でも他人の作ったマジックバッグを弄るのは面倒だなぁ。空間の定義もわからないし、下手すると空間の歪みが出来て、収納した物が何処かに行っちゃうかもしれないし。危ないよねぇ。持ち主が歪みに落ちることもあるって聞くし。止めた方がいいかなぁ。空間の歪みは虚無に通じてるらしいから落ちたら助からない。うん。危ない。他人のマジックバッグを弄るのは止めよう!


 じゃあどうする?どうしたらいい?


 他人の作った空間は弄らない。預けるのはダメ。アルの手許に有って、邪魔にならないのは……………………あ!そうか!他人の作った物はダメでも私が作った物なら出来る。そうだ。そう。


「アル!転移の指輪持ってる?」

「うん。あるよ」


 アルは立ち止まって首から鎖を引っ張り出した。キラリと輝く指輪が出る。


「ちょっと借りて良い?あ、そのままでいいよ」


 外そうとするアルを制して、手を伸ばして指輪を両手で包んだ。


 創造スキルを総動員する。


 えっと……隙間は……………あ、ここがいいかな?


 刻まれた人には見えない刻印と刻印の間に空間を作る。あまり大きいと指輪に負担が掛かるから、部屋数は………三つくらいかな?その一つを長剣とリンクさせて………長剣をこの部屋に帰属させる、と………うん。出来た。呼び出しは呪文にしよう。んと………こんな感じかな?………よし、完成。後の部屋は……あ、蔦さんの回復薬の袋とリンクさせて常に取り出せる様にして………これなら無くなる心配はないから飲めよね?もう一つは自由枠にして………。よし、空間収納実行!


 スッとアルの剣は消えた。


「!な!?あれ!?」


 うん、無事収納完了。蔦さんの回復薬もちゃんとリンクされてるね。よし。


 指輪から手を離して、焦って辺りを見渡すアルから離れた。


「アル。大丈夫。まずは指輪を仕舞って」

「い、いや、しかし剣がっ!」

「私が仕舞ったの」

「仕舞ったって何処に……?」

「その指輪の中」

「ここに?!」

「そう。取り出し方を教えるから指輪を仕舞って」

「わ、わかった」


 アルは素早く指輪を服の中に戻した。


「指輪に限定的に空間収納をつけたの。長剣はその収納庫に帰属してるから、基本は指輪の中にある。呼び出しは呪文ね。《剣よ、我が手に》」

「どういうことか分からないけど復唱すればいいんだね?………《剣よ、我が手に》」


 半信半疑のアルが復唱するとアルの手の中に長剣が現れた。


「なっ!?」


 アルは咄嗟に柄を掴んだが、重みで剣先が地面に落ち、ガキーンと高い音が鳴る。まばらにいた通行人が視線を向けたけど、皆、微笑ましい笑顔で視線を戻した。


「…………消えた剣が、現れた………?」


 絶句するアル。すごい驚いてるね。でも消し方も教えなきゃね。


「長剣を離すと指輪に帰るよ。壁に立て掛けてみて」

「……」


 アルが側の壁に剣を立て掛けると長剣は消えた。


「消えた………」


 アルは壁と私を何度か見た。 自分の掌を見てブツブツ小声で言うと長剣が現れ、その場で剣を離すと消えた。二度三度と繰り返して、剣を消したアルははあ、と大きく息を吐いた。そして顔を上げて私に近付いた。


「……リリー」


 アルは興奮したように目をキラキラ輝かせて私の両手を握り締めた。


「……すごい、凄いよ!リリー!何てことだろう。言葉が見つからないよ。ありがとう!リリー。素敵な贈り物をまたも貰ってしまった。僕は君に何を返せるだろうか」


 アルがとても喜んでる。アルの笑顔は好き。心が温かくなる。アルが嬉しいと私も嬉しいな。


「私が勝手にしたことだから気にしなくてもいいよ。あと、空間収納は部屋がもう二つあって、一つには蔦さんの回復薬が大量に入ってる。《回復薬》で出せる。もう一つは何入れてもいいよ。入れたいものを手にして《収納》出したい時は《取り出し》で出せるよ」

「凄いな。これは僕の一生の宝物だよ」

「大袈裟な。これはただの便利な道具だよ」


 宝物はもっとこう、キラキラしてて、ツヤツヤしてて、そう、神竜の鱗みたいな物のことをいうんだから。魔道具は文字通り、道具であって宝物ではない。


 そう。私が思う宝物。キラキラした物を思い浮かべていたから。だから、アルの言葉に上手く反応出来なかった。


「でも君は指輪を掴んていただけだよね?どうやってこんなことを?」

「え?っと?それは………………………秘密?」


 アルから目を逸らした。


 創造スキルは秘密なのだ。





読んでいただき、ありがとうございました。

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