表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
82/86

80. 良いところ


「それにしても目標に金貨五枚あっさり払ってしまうとはね。恐れ入ったよ」


 おじさんは金貨を三枚仕舞うと二枚を返してきた。


「普通は値切るもんだ。ほら、これは返すよ。本来なら貰っておくが、目利きの礼だ」

「いいの?」

「構わないさ。それに良いものを聞いた。目標を身近に、か。商売のネタにさせてもらうよ」

「ネタ?タネ????」

「はっはっはっ。分からなくていい。それりも、そっちの坊っちゃんがその剣に相応しい年齢になったら、もう一度おいで。その身に合うように調整してあげるから」

「ホント?」

「ああ。嬢ちゃんのナイフも切れ味が悪くなったら研いであげるよ」

「じゃあこれは前払いで、足りる?」


 手の中の金貨二枚をカウンターに置いたけど、おじさんは首を振って受け取らなかった。


「いらないよ。アフターサービスってやつだ。武器は持ち主と共に成長するものだ。歯こぼれ、傷、歪み。どれも持ち主との思い出だ。研ぎ直し調整しても新品とは違う。大切にしてくれればその分武器にも個性が出るものだ。俺はね、その声を聴くのが好きなのさ。だからアフターサービスに金は取らないよ」

「ふうん。そっか。ありがとう」


 おじさんの言う値切るとかタネとかはよくわからなかったけど、たぶんおじさんは良い人で安くしてくれたってことだよね?サービスって、串焼きみたいにもう一本おまけとかパンを付けるとかだけじゃないんだね。安くするとか無料で刃を研いだり調整したりすることもあるんだ。うん。それならもうこのお金は仕舞っていいかな。


 手の中の金貨を鞄にしまった。


「ところで、店主。壁に飾ってある鞘は何かな?剣は無さそうたが」


 アルがカウンター横の壁を指差した。


 あ、それね。私も気になってた。なんか装飾具合が見たことあるような気がして。


「これか?それはな、どこぞの馬鹿冒険者が、金がないから鞘は要らんと値切ってきたんだ。だがその剣は魔剣でな。鞘が無いと危ないからな。きっと騒動になって取りに来るんじゃないかと思ってな。飾っているんだ」

「あー……なってたね、大騒動に」

「うん。ギルドが大変な事になったね」


 アルと遠い目をしてしまった。


「なんだ。やっぱり騒動起こしたのか。仕方ない。反省を込めて倍の値段で売ってやろう」

「ははは……」


 カーラお姉さん……服買ってお金無いって言ってたのに……大丈夫かな?


 おじさんに手を振って店から出た。そろそろお手伝いの時間。人は時間に沿って生活をするらしいから遅れては大変。


 でも…。


「よお、よお、ガキのくせに良いもんもってんじゃんか」

「いけねぇなぁ。子供だけでこんなところによぉ」

「へっへっへっ。それをこっちによこしな!」


 絡まれた!絡まれたんだよね?この状況はお話によく出てくるシチュエーションってやつだよね?


 三人の男はどれも髭面でニタニタ笑いながら一歩づつ近付いてくる。細かったり大きかったり太っていたりと体格は様々だけど、手には大ぶりのナイフを持っていて、刃をこっちに向けている。


 悪い、人、だよね?


 とっさにアルは左手に長剣を抱き、右手で私を背中に隠した。


「リリーは隠れてて」


 また守ってくれた!わぁ!嬉しいな!


 アルの背中がとても大きく見えた。まあ、実際に私よりも大きいけれど。


「おい、おい。よく見たらこいつ緑の目じゃないか」

「へっへっへっ。俺達はツイてるなぁ」

「さぁ、ガキども。おじさん達がイイところに連れて行ってやろう。大人しくしてりゃあ痛い目には会わねえぜ。へへへ」


 ん?


「良いところって何処?ダンジョン?」

「リリー、黙って!」


 アルに怒られたけど、これは確認しなきゃだよ?


「なんでダンジョン?バカか?このガキ」

「そんなところよりももっとイイところさ。へへへ」

「後ろのガキは可愛い面してやがる。こいつは高く売れるぜ」


 売る。売る?私を売る?これって………人拐い???


「リリー。怖いだろうけど、僕が守るから。ここは大人しく彼らに付いて行こ……」

「蔦さん!捕まえて!」

「あ…」

「ん?」


 振り返ったアルが何かを言いかけて絶句した。首を傾げる私の鞄から蔦さん二号が勢いよく飛び出す。シュルシュルっと蔦を3本伸ばして男達の腕に巻き付いた。


「うわっ!」 

「なんだこれ!」

「や、やめろ!」

「「「ぎゃあああ!!!」」」

 

 男達は頭の上から足の先まで蔦でぐるぐる巻きにされてポイっと転がされた。よく見ると三体とも蔦で繋がっている。ぷちっと音がして三体を縛る蔦を切り離した蔦さんは葉をパンパンと叩くとくるりと振り返り、どお?と葉を傾げた。


「わあ!すごいね!蔦さん!ありがとう!」


 照れたようにくねくねと動いた蔦さん二号はシュルシュルと鞄に戻っていった。


 さすが蔦さん。後で水と光の珠をお礼に渡そう。


「それで何?アル」

「あ、いや。他に捕まっている人がいないか確かめたかったから、彼等に付いて行こうと思ったんだけど…」

「そうなの?んー、じゃあ解放する?」

「いや、いいよ。今からでは警戒されるだろうし」

「そう?」


 少し残念そうにアルは男達を見下ろした。


「%*@$&¥!」


 ぐるぐる巻きの三体はもがいているのか、びたんびだんと跳ねているけど、蔦に覆われて何を叫んでいるのか聞き取れない。


「騒がしいな。何かあったのか」


 武器屋のおじさんが店の扉から顔を覗かせた。


「あ、おじさん。人拐いだよ」

「何だって!?」


 おじさんは慌てて店から出て来た。辺りを見渡して、道に転がるぐるぐる巻きを見て、何だこれは?、と目を見開いた。


「これは……嬢ちゃん達がやったのかい?」


 えへん!そう!すごい蔦さん二号が捕まえたの!


「店主、すまないが自警団を呼んでくれないか」

「わかった。直ぐに呼ぼう。……ハンス!直ぐに自警団を呼びに行け!急ぎだ!」


 おじさんは店の中に声をかけると、バタバタと走り去る音が聞こえた。


「それで、嬢ちゃん達には怪我はないのかい?」

「うん。大丈夫」


 くるりと回ってにっこり笑うと、そうか、とおじさんは優しく微笑んだ。


「それにしても最近は町中にまで人拐いが出るとは。物騒になったものだな」


 憤然と腕組みをしたおじさんは、びだんびだんと跳ねるぐるぐる巻きを見下ろした。


「イイところに連れて行ってやるって言われたの。良いところってダンジョンかなぁ?」

「…違うと思うが……嬢ちゃんはダンジョンに行きたいのかい?」

「うん。行きたい。行ってダンジョンコアとお話したいの」

「そ、そうか。ダンジョンはCランクからだったか。子供にはまだ無理かもなあ。気長にランクを上げるしかない。まあ、夢や目標があるのは良いことだ。指針になるし、目的があればそう簡単には挫けない。だが、良いところって言われてダンジョンを思い浮かべるのはどうかと思うねか。女の子ならもっと他にあるんじゃないか?」

「他に?何処?」

「あー、いや、俺に聞かれてもなぁ」


 おじさんは困った様に頭を掻いた。


「アルも知らない?」


 アルにも聞いてみた。アルはオウジサマだもんね。きっと良いところを知ってるはず。


「良いところ、か。そうだね……訓練所、とかかな?強くなれるし、鍛錬の日々は裏切らないよ」


 訓練!あまり良い所には思えないけど。


 爽やかに微笑むアルをおじさんは残念そうに見て首を振った。


「そうじゃないだろ」


 んー?何かある?良いところ、イイトコロ?


 あ!


「食べ物屋さん!串焼き屋さんとか?」

「確かにそうだね。美味しいものは価値がある。それを提供する場所は良いところかもしれない」


 アルも賛同してくれた。でも聞いていたおじさんは脱力して深い溜め息を吐いた。


「はぁ……。あのな。女の子なら洋服屋とか宝石店とかもっとこう、あるだろ?!」


 はえ?


 アルと顔を見合わせて首を傾げてしまった。


 だって、服は自分で作れるし、世界で宝石と呼ばれる石は精霊の森に普通に落ちてるし。それのどこが良いのかわからない。絶対串焼き屋さんの方が良いよね?


「親方ー!自警団連れてきました!」


 アルよりも少し大きい男の子が数人の自警団を連れて走ってくるのが見えた。


 これで安心だね。


 あれ?


 何か……忘れてる気がするよ?んん………と、何だったかなぁ。


《大賢者様。そろそろお手伝いのお時間では?》


 あ!そうだった!忘れてたよ。


《ありがとう、シア》

《私の方が蔦よりも役に立ちますよ》

《ああ、うん。そう、だね?》

《大賢者様は、最近蔦を褒めすぎです》

《え、えーと?シア?》

《もっと私を頼って下さい》

《う、うん。わかった》


 あれぇ??シアは何で蔦さんに対抗してるのかなぁ?


 ん~~……わからない。


 はてな?





読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ