79. 武器屋
お店は武器工房と隣接しているようで、入ると直ぐに奥から鉄を叩くような音が聞こえてきた。カウンターでは眼鏡を掛けた小太りのおじさんがナイフの手入れをしている。
「わあ……」
ぐるりと見渡して感嘆の声が漏れた。
武器、武器、武器だ!色んな武器がこんなにも沢山!
お店は様々な武器で溢れていた。大きな木の樽には沢山の剣が入れられ、[特価]と大きく書かれた木札が刺さっている。壁には高そうな剣や槍、誰が扱えるんだろうと疑問に思ってしまう程大きな戦斧が飾ってあった。
あ!弓もある!でも大きいね。私には持てないかな。まあ、私には自作品の弓があるもん。大賢者製だよ?伝説の武器だよね!なんて素敵♪ふふふふふ♪
「いらっしゃい。…おや?可愛らしいお客じゃないか。出で立ちから察すると冒険者かい?」
カウンターのおじさんが手入れしていたナイフから顔を上げてにこやかに話し掛けてきた。トコトコとアルを引っ張って近づく。
「こんにちは。そうだよ、冒険者。よくわかったね?」
「長年こんな仕事をやってるとね、自然と分かるものさ。今日は武器を買いに来たのかい?なら、これはどうかな?お嬢ちゃんにはぴったりのナイフだよ。切れ味抜群、採取に良し、討伐にも向いてる逸品だ!しかもこの品質で値段は大銀貨三枚とお買い得だよ」
おじさんは手入れをしていたナイフを掲げて勧めてきた。パチンと鞘に締まって差し出してくれる。受け取って柄を握るとしっくりと手に馴染む。まるで昔からこの手にあったように。私の為にあつらえたかのようにピッタリだった。すっと鞘から抜くと鋭い諸刃の刃が現れる。ん?これ地金にミスリル使ってる。魔法耐性もあるのか。良く切れそう。確かに。採取も討伐もこれ一つで十分だね。
確か短剣もLv.1だったよね。これ使えばレベル上がるかな?私の物を買うつもりはなかったけれど……。
鞄から大銀貨三枚出してカウンターに置く。
「これ買います。あと、長剣を何本か見せて」
「そうかい、そうかい。ありがとう。だけど長剣だって?嬢ちゃんはもちろん、そっちの坊っちゃんにもまだ早いぞ?」
おじさんは大銀貨を仕舞い、ふうむ、と私とアルをじろりと見た。
「わかってるよ。でも、いいから、見ーせーてー!」
「わかった、わかった。長剣だな。予算はあるのか?」
「値段はいいからお勧めを何本か見せて」
「ははは、小さいのにしっかりしてるなぁ」
おじさんはそう言いながら奥から見事な装飾のついた長剣と装飾の無いスッキリした長剣、見るからに歪んだ長剣の三本を持ってきた。
「これがおじさんのお勤め?」
「いや?お勧めはこの中の一本だ。これらは、高い部類から一本、無難な部類から一本、駄目な部類から一本持ってきた。好きなの選んでくれ」
んと、どういうこと?
首を傾げるとアルが苦笑しながら小声で教えてくれた。
「試されているんだよ、僕らは」
「試す?」
「身の丈に合わない武器を欲しがったからそれに見合う資質があるのか見定められているんだ」
「ふうん」
そっか。まあ、いいけど。
おじさんはじっと私たちを見ている。窓から差し込む日を受けて眼鏡がキラリと光った。おじさんから威圧を感じる。そこには武器を持つに相応しい正しい所有者のみに売るという誇りが滲み出ている様に思える。凄いね。武器屋って。このお店は良いお店なのかもしれないね。
でも、私には関係ないかな。
少し背伸びをして、カウンターに並べられた長剣を眺める。其々の柄を掴み――といっても、柄の方が大きいからただ触るだけになってるけれどね!――感触を確かめる。その次にアルの手を触って柄との相性を確認する。
ふむふむ、なるほど。
「リ、リリー?何をしてるのかな?」
「確認」
「何の確認かな?」
「確認は確認。ちょっとうるさい。静かにしてて」
「(ガーン!!)」
なんかアルからショックの気配がするけどそれどころではない。今は無視だ。
アルの手の形、筋肉の付き方、成長の方向性……。うん。わかった。
「おじさん、鞘から抜いて見せて」
「よし、わかった」
おじさんは三本の鞘を抜いて並べてくれた。一見するとどれも同じ様に見えるけれど、分かるものが見れば簡単にその違いが分かる。
これだけは地金にミスリル合金使ってる。何だろう。ミスリルと……鋼?緻密に合成されたミスリル合金だ。他のは銀製と鉄製。輝きは銀製の方が上だけど実戦には向かない。飾り用の長剣だ。だから装飾過多なのかな?鉄製の長剣は重みがあるから打撃には向いてる。…ああ、だから少し歪んでいるのか。これは切るのではなく打撃用だ。うん、やっぱりミスリル合金の長剣。これがいい。柄の形も未来のアルとも相性がいいし、何よりもこれは良く切れる。
「おじさん、このスッキリした長剣を買います」
「何故それを選んだ?」
「この一見豪華な剣は刀身が銀製。良く見ると刃がない。切れない剣。装飾用だと思う。こっちの歪んだ剣は剣の形をしてるけど打撃用だよね。だから歪んでいるのではなくて打撃をしたときに剣に負担が掛からず効率的に力を伝える形になっているだけ。長剣はこの一本だけだよ」
おじさんは目を見開いて驚いたようだけど、次の瞬間、わはははは、と大口を開いて笑いだした。
「正解だ!大した真贋だな!子供ってのは見た目で騙される。装飾過多の剣の方が高そうだろ?あるいは見た目が面白い方が興味がわく。こんな変哲もない剣を撰ぶわけはないと思ったんだが…」
「とんでもない。この剣のどこが変哲でもないの?刀身にミスリル合金使ってる。しかもミスリルと鋼を最高の形で合金してる。強度も魔法耐性も申し分ない。これなら魔法も切れるんじゃないかな?」
おじさんは更に目を丸くしてじっと私を見つめた。
「大正解だ。小さいのに良くわかったな。……そうか。お嬢ちゃんはもしや、今話題のハイエルフか?」
「うん。ハーフハイエルフのリリー・ハイレーンだよ。百歳なの」
「百歳!?俺の倍以上も生きてるのか!わっはっはっ!それなら見破られても仕方ないな!」
何が楽しいのか、おじさんはお腹を抱えて笑いだした。ひとしきり笑うと、いや悪かったな、と謝ってきた。
「試すような真似をして。剣は武器だ。遊び道具じゃない。まして身の丈に合わない武器を売るわけにはいかなくてな。長剣以外を選んだら鼻で笑って追い出そうと思ったんだが……嬢ちゃんはちゃんと理由がありそうだな」
「おじさんは未来のアルに合いそうな長剣選んでくれたからこれに決めたんだよ。もし適当な剣だったら選んでないよ」
「そうかい。本来なら長剣てのは自分の身長に合わせて作るものだが、そうすると値段が高くなる。だから一般的な身長に合わせて作った汎用性の長剣があるんだ。これもその一つだな。値段は金貨五枚だ」
カウンターに金貨を五枚出して長剣を受け取った。ちょっと重い。鉄製よりはミスリルの方が軽いけど、これはミスリル合金だ。鋼が入っている分重くなる。
両手でよろよろと抱えて、はい、とアルに手渡す。
「リリー……」
アルは少し困った顔で、両手に乗せられた長剣を眺めた。
「これを貰うわけにはいかないよ」
「どうして?」
「僕は君に返さなければならないお金が沢山あるんだ。それなのに」
「これは贈り物だから気にしなくてもいいよ?」
「そんなわけには……」
「あのね、アル。以前かみ……じゃなくて、えと、錬金術のお師匠様?に言われたんだけどね。何かを目指して成長したいのであれば、目標となるものを身近に置いて、手に取り眺め、それを作ったり使ったりする姿を思い浮かべると、道に迷うことなく到達出来る、って教わったの。その頃錬金術の課題が出来なくて何百と失敗していたら、見本だよって渡してくれた。それからは失敗にも方向性が出て解決出来て、課題を達成出来たんだ。だからこれはアルが迷わず成長するための道しるべ。いつか片手で持てて振るえるようになるための目標なんだよ。これはお礼。いつも優しくしてくれるお礼。目標を教えてくれたお礼だよ?」
「リリー……。………うん。わかった」
アルの両手がしっかりと剣の柄を掴んだ。
重さに震える手で何とか剣を掲げる。
「頑張るよ、リリー。君の期待に応えてみせる」
確かに今はまだ長いし重いかもしれない。でも、その剣がちょうど良い長さになった頃、きっとアルは立派な騎士になっているはず。こんなにも努力家のアルがなれないわけはない。
………あれ?
王子って、騎士になれるのかな?
はてな?
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