78. 町探索
昼食をゆっくり食べても、受注している午後のお手伝いまでは、まだ時間があった。午後のお手伝いは雑貨屋の品出しだ。旅商人が運んでくる品物の数を数え、お店の棚に補充するお手伝い。雑貨屋までの地図はメアリさんが書いてくれた。ギルドからは少し離れているから念のため、と言って。だから雑貨屋の方に進みながら少し町を探索している。アルは討伐ばかりで町の事をあまり知らないんだって。私は宿探しで彷徨った経験がある!だから私が案内するのは当然だよね?
地図を見ながらてくてく歩いていく。右手は地図を、左手はアルと繋いでいる。ちょっと歩きづらい。友達なら手を繋ぐのは当たり前ってアルは言うしここは我慢だ。歩き易さよりも友達優先!こんなことで友達失くしたくないもん。
「立派な建物だね」
見えてきた大きな建物にアルが感嘆の声を上げた。
以前訪れた高級ホテルだ。
ジェドさんが叩き出されていたホテルだよね……。
「あれは高級ホテルだよ。すっごい広いの」
「泊まったことがあるの?」
「ううん。見学しただけ」
近くで見上げても大きくて装飾の綺麗なホテルだね。でも……。
うわぁ………禍々しい瘴気が渦巻いてるよ……。あれ?ここ、前にも瘴気が凄かったような……?んと……とりあえず、また浄化しておこうかな……。
『浄化』
ふう。これで良し、っと。
これだけ瘴気が溜まるなんて、どれだけ悪い人が滞在してるんだろ?悪人御用達とか?なんか嫌だな、それ。私の拠点が今の宿屋で良かった!食事は美味しいし、ミナちゃんはお友達だし、何よりも蔦さんがお留守番してくれているもんね。ふふふ。
ホテルの扉が開いて支配人のセバスさんが出てきたよ。目が合って会釈してくれたから、大きく手を振ったら、セバスさんも小さく振り返してくれた!ふふ、楽しいなぁ。アルはセバスさんを一瞥しただけだったけど、セバスさんはにこやかに見送ってくれた。
さて、次はっと。えっと、こっちかな?
区画を曲がると景色は一転。ちょっと高級そうなお店が立ち並ぶ商店街になった。この通りの奥に目的のお手伝いのお店雑貨店がある。
お店の壁はガラスになっていて商品が飾ってあった。ショーウィンドウって言うんだって。アルが教えてくれた。これがショーウィンドウかぁ。実物見るのは初めて。お店に入らなくてもどんな物が売っているのか分かっていいね!これ!
洋服屋に靴屋、防具屋に武器屋。どのお店もショーウィンドウ見てるだけで面白い。洋服屋に飾ってあった服はミナちゃんが着ているものに似ていた。ここで買ったのかな?靴屋の赤い靴はヒールがとても細くて高い。こんな靴、何処で履くのかな?地面にめり込まないの?防具屋はピカピカの甲冑が飾ってあったし、武器屋は……ゴツゴツした鉄球のような物や槍、剣等が置いてあった。アルと批評しながら見て歩いた。特に欲しいものはないからお店の中には入らずに素通りしていたけど、何軒目かの武器屋の前でアルは足を止めた。ショーウィンドウの剣をじっと見てる。アルが使うにはちょっと長い大人用の剣だ。可もなく不可もない普通の剣だ。
「欲しいの?」
「いや。でもいつかこんな長剣を扱えるようになりたいんだ」
「?アルがまだ小さいからだよね?大きくなれば使えるんでしょ?」
「それはそうだけど。見て。これは長剣といって普通の剣よりも長いんだ。扱うには身長も必要だけど長い分振り回すには筋力が必要だし、重心やバランスを取りながらの剣技には相応の技量がいる。騎士の中でも扱えるものは少ないんだ」
「ふうん」
剣にも色々あるんだね。
「アルはこの長剣?ってのが目標なの?」
「目標というか、憧れかな。父上が長剣使いなんだ。騎士相手に稽古をしている姿が格好良くて。いつかああなりたいと思う」
僕はまだまだ足元にも及ばないんだ、と少し悔しそうに微笑むアル。
アルはまだ小さいだけだよね?うーん、何か問題があるのかな?
「何が足りないと思うの?」
アルは目をぱちくりさせて、苦笑しながら剣を見上げた。
「何もかも、だよ。身長も筋力も剣技も技量も。全てが足りない」
「うん。だけどそれって、悔しがること?」
「悔しいよ。目指す憧れは直ぐ側にあるのに届かないのだから」
「そっかぁ。でもさぁ、アルはまだ子供だよね?」
「そうだけど?」
「身長はこれから大きくなるよ。長剣持つくらい大きくなるかはアルの努力次第だけど。筋力も大きくなるなつれて強くなる。長剣振り回すくらいになるかは、アルの努力次第だけど。剣技や技量は、魔物討伐をしているんだからこれからどんどん伸びるよ。実戦に勝るものはないって前にライが言ってた。そこもアルの努力次第かな。ほら、何も悔しがることないじゃない。まだ結果は出てないよ」
アルはじっと自分の掌を見つめて少し握ったり開いたりを繰り返した。
「今はまだ、長剣は長いかもしれない。でも子供のアルは身長が伸びるまで猶予があるでしょ?残りの足りないものを得る時間はたっぷりとあるんだから悔しがるんじゃなくて、喜ばなきゃ。まだまだ努力する時間はあるんだって。悔しがるのは大人になって長剣を持てる身長になったとき、まだ足りてなかったら、だよ」
アルはじっと私を見つめた。
「まだその時ではない……?」
「そうだよ」
「そうか……そう思えば良かったのか……まだ、時間はあるのか……」
「だって、アルは子供だもん」
「そうか、そうだな。その通りだ。努力しよう。後悔しないためにも」
「そう、その調子。ちなみにフウが言っていたけど、寝る子は育つんだって。だから睡眠は大切。あと、スイが言ってたんだけど、朝食をしっかり食べると体も頭も心にも栄養が補給されるから一日が最高の状態で始められるんだって。あと、エンがね、毎日規則正しい生活を送り適度な運動をすると心と体が成長するんだって。参考になった?」
「う、うん、ありがとう。睡眠と朝食と運動だね。心得るよ。先程から出てくる名前は、その、ご家族の名前かな?」
「あー、そう。えと、家族?のようなもの。んと、お、おばさん?なの」
「そうか。その方々に育てられたからリリーはこんなにも真っ直ぐなのかな」
「真っ直ぐ?ちゃんと角は曲がるし、ぐるぐる回れるよ」
私はアルの前でくるりと右に一回転してみせた。ついでにと、左にも一回転する。目が回っちゃうからね。
「ほらね♪」
「ふふふ。本当に君は……」
アルがクスクス笑い出した。
え?!なんで?
「むう……」
「クスクス……いや、済まない。余りにも可愛かったから……ふふふ」
アルは笑いが止まらなかった!
でも可愛いって言ってくれたから良しとしよう。でも何が可愛かったんだろう?回転の仕方?角度?あ、見事な速さだった!とかかな?ふふん。私、回転には自信があるんだ♪
誉めて貰ったんだからお礼はしないとね。
ふうむ……んと、何がいいかなぁ。
……………あ!そうだ!
「アル、お店に入ろう!」
「え?いや、待っ…」
アルの手を引いてお店に入った。
ふふん。私ってば良いアイデア思い付いたなぁ。
うふふふふ。
読んでいただき、ありがとうございました。




