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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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75. 魔法の使い方


 攻撃魔法は世界に降りるまで使ったことはなかったけど、魔法は当たり前のように身近にあったもの。世界を作った神様にレクチャーされてるし、ちゃんと三代目迄の記憶でも魔法は魔法陣で発動することが当たり前だった。


 魔法の定理が真逆になるなんて。


「あのね。魔法は魔法陣で発動するの。だけど魔法陣を地面に書いていたら戦いの時には時間が掛かるし襲われても逃げられないでしょ?だから移動出来る魔法、それが詠唱ね。心の中に魔法陣を描いて発動させるために詠唱という手段を使ったの。詠唱は魔法陣を思い出す切っ掛けなだけだから、何でもいいし、上級者は魔法名だけで魔法陣を描ける。もっと熟練すれば思うだけで魔法陣が描ける。無詠唱はこれね。全ての魔法は魔法陣がないと発動できないんだよ」

「そんなこと初めて聞いたぞ」


 ミラードさんは訝しげに私を見た。そんな目で見てもこれが真実だもん。あ、でも魔法陣知らないのにどうやって魔法を覚えるのかな?


「んー、魔法はどうやって覚えるの?」

「それは魔法書を見て、だな」

「魔法書には魔法陣載ってないの?」

「いや、載っている。魔法陣と詠唱が載っていて、繰り返し詠唱を覚えて………はっ!そうか!その時に魔法陣も記憶するからか。魔法がなかなか覚えられないのは、魔法陣を記憶していないからか」

「うん。そうだと思う。心の中に正確に描けば描く程魔法は威力を増す。そして、完全に正確に描くと」


 私は先程の的になった椅子に緑魔法の『再生』を唱えた。椅子の下に緑の魔法陣が現れる。淡い緑の光を放ち魔法陣が椅子を通り抜けると椅子の傷は消えていた。


「魔法陣が現れる。威力はMAX。これが正しい魔法の使い方だよ」


 掌に魔力を籠めて剣に刻印された歪な魔法陣をなぞって上書きする。丁寧に正確にファイアボールの魔法陣を刻印する。手を離せば綺麗な円と正確な図形の魔法陣が出来上がった。よっ、と持ち上げて魔力を流す。剣先に赤い魔法陣が現れてぽっ、と綺麗な形の炎が灯った。


「うん。よし、綺麗に出来たね」

「凄いな。炎の形が先程とは全く違っている」


 感心するように魅入っていたアルは、僕にも出来るかな、と掌に何かの魔法を発動しようとして霧散した。失敗だ。


「難しいな。魔法陣を意識すると魔法が発動出来ない」

「あー。それは魔法陣を正しく記憶してないからだよ。今までは詠唱に頼ってうろ覚えの魔法陣で発動していたから、歪でも発動だけは出来た。でも正しく魔法陣を描いて正しく発動するには魔法陣を完全に記憶しなければ出来ないよ。魔法陣が正しいと威力はMAXだし、自分で威力を調整出来るんだよ」

「それはわざと魔法陣を歪ませるということか」


 ミラードさんは察しがいい。流石はBランクパーティの魔法使い。


「そう。さっき見せた私の炎には魔法陣が出ていなかったでしょ?炎の形はそのままで威力を少し削る為に魔法陣をほんの一ヵ所歪ませたから。そのままの威力だとギルド壊れちゃうし。そしたらメアリさんが悲しむからね」

「ファイアボールがか?」

「そう。ファイアボールで。私が使うと出力高くて当たったものが蒸発しちゃうんだよね」

「!!」


 何でだろ。知力の差かな?


 ミラードさんが杖の先を睨み付けてぶつぶつと詠唱を始めた。ぼわっと炎が灯るけど魔法陣は出ない。炎は常に揺めき形を保っていない。


「確かに難しい。魔法陣を細部まで記憶していないからか」

「魔法練習するなら、まずは魔法陣を描くことからだよ。何回も何十回も心の中に正確に描けるまで何百回も実際に描いて覚える。えーと、何て言ってたかなぁ………あ!そうそう、体が覚えるまで記憶に刻まれるまで紙に描き続けろ、だよ」

「詠唱は必要ないと?」

「魔法陣を描く切っ掛けだからね。『炎』だけでも大丈夫だよ。あ、でも精霊にお願いする魔法だけは詠唱にも意味があるから必要だよ。精霊には心の魔法陣見えないからね」

「なるほど。精進しよう。ありがとう。これで更なる高みへと進めそうだ」


 少しミラードさんの目がきらりん、と輝いた気がしたけど、気のせいかな。気のせいだよね?


「凄いじゃないか!リリーちゃん!」


 カーラお姉さんはぐりぐりしていたシグルドさんをぽいっと離して剣を構えた。きらきらした期待に満ちた目で剣を眺めて、よし、と魔力を流す。ちゃんと剣先に魔法陣と綺麗な形の炎が灯る。ほわっ、とカーラお姉さんの顔が炎に照らされて輝いた。陶然と炎を見つめるカーラお姉さんに、にんまりとした笑みが浮かんだ。


「これでもうノーコンとは言わせないよ」


 ノーコンは関係ないよ?


「カーラお姉さんはノーコンなの?」


 大人なのに?んと、大人、だよね??


 首を傾げると床に突っ伏していたシグルドさんががばりと起き上がった。

 

「そうさ、見てくれよ!カーラが剣振り回すから俺の愛剣も焦げ痕が付いたんだぞ」


 シグルドさんが背中の大剣をテーブルに置いて見せてくれた。


 ありゃりゃ。剣の中央に真っ黒い焦げ痕が残っている。


「これじゃあ剣も可哀想だね。これくらいの焦げ痕なら、うーんと、火魔法と大地の魔法の『再生』で……ほら、直った」

「おわっ!」


 シグルドさんは慌てて剣を掴み、表、裏、斜め、と角度を変えて確認して、痕がない…、と呟いた。呆然と私を見下ろして目が合うと、ぱぁ、と顔を輝かせた。


「ありがとな!いや、マジで凄いよ!」


 俺の剣!、と剣に頬擦りするシグルドさん。危ないよ?


 炎を消して剣を腰に装備したカーラお姉さんはシグルドさんの大剣をまじまじと眺めてにやりと笑った。


「これで弁償はチャラだね」


 カーラお姉さんが自信たっぷりに言うと他の三人が一斉に怒鳴る。


「「「いや、お前は反省しろよ!」」」

「肝の小さな男どもだねっ。少しくらい大目に見る度量ってもんを身につけたらどうなんだい」

「「「少しじゃねぇ!」」」


 カーラお姉さんは耳を塞いでそっぽを向いた。


 ふふ。仲が良いなぁ。


 ……んー……ノーコンかぁ。だったら。


「カーラお姉さん」


 耳を塞ぐカーラお姉さんの服をちょんちょん、と引っ張った。気付いて見下ろすカーラお姉さんに剣を借りる。


「どうしたんだい?」

「ロックオン機能付けてあげる」


 指に魔力を流して、柄に近い場所に補助魔法陣を刻む。これは発動すれば、必ず攻撃が当たる魔法。


「こうして柄から剣先へと撫でる」


 剣に魔力を流し、指二本で柄から剣先へと撫でていく。剣が淡い緑色に輝き、剣先に到達すると柄の辺りに緑の魔法陣が現れる。


「『ロックオン あそこの椅子』」


 剣先から目標の椅子まで緑の線が結ばれた。


 剣を立てたまま左右に振ると赤い魔法陣と共に発動した炎は天井ではなく椅子に向かって放たれた。ジボッ、と音を立てて炎の大きさの穴が空いた。


「ね?これならもう外さないよ。コツは指定する対象をハッキリと認識すること」

「はあ~便利だねぇ。やってみてもいいかい?」

「うん」


 カーラお姉さんに剣を渡した。


「どうやるんだい?」

「まず魔力を流して」

「こうかい?」

「うん、そう。それで柄から剣先へと撫でる」


 すー、とカーラお姉さんが剣を撫でる。撫でた所から剣が淡く緑に光る。柄の辺りに緑色の魔法陣が浮かび上がった。


「後はロックオンと唱えて対象物を指定するだけ。正確に明確に指定するといいよ」

「なるほどねぇ。『ロックオン あそこの椅子』」


 剣先と椅子が緑色の線で結ばれる。


「ファイアボール!」


 カーラお姉さんが剣を天井に向かって振り上げると赤い魔法陣と共に発動した炎が椅子に向かって放たれ、ジュボッと音を立てて新たな穴を空けた。


 ピュゥ~♪


 カーラお姉さんが口笛を吹いた。


「おっし!ど真ん中!ふふん♪どうだい!恐れ入ったか!」


 得意気にシグルドさんにアピールしたカーラお姉さんは、私に親指を立ててニカッと笑った。


「ありがとう!リリーちゃん!これで外しはしないよっ!」


 カーラお姉さんが喜んでくれるのは嬉しいな。ふふふ。


「ねえ、リリー。あれはどんな魔法かな?」


 ずっと魔法の発動を試みていたアルが目を輝かせた。


 ……アルって魔法好きだよねー。


「あれは補助魔法だよ。属性は風と地かなぁ。複合魔法だから、人にはちょっと難しいかも」

「そうか。とても便利そうだけど」

「そうかな?」


 いちいち指定するのは面倒だよ?あの魔法はノーコンな子供のノーコンを治す為の魔法。ノーコンなのは対象物を明確に指定出来ないから。これで練習するとノーコンが治るんだよね。でもこれは内緒にした方がいいよね?


 あ、そういえば。


「どうして鞘がないの?」


 またもやシグルドさんをぐりぐりしていたカーラお姉さんに聞いてみた。だってこの剣。鞘ないと大変なことになるよね?


「あー、それはカーラが値切ったからで…いってぇ!」

「黙ってな!シグ!ああ…っと、このままの方が格好良いだろ?赤い刀身がさ」


 あはは、と笑うカーラお姉さんの隣で巨大なたんこぶの出来たシグルドさんが頭を抱えて蹲る。


 痛そう。大丈夫かな?


「見栄を張るな。服に金掛け過ぎて装備代が無くなっただけだろ。冒険者ともあろう者が装備を後回しとは情けないぞ」


 呆れた様に首を振るダンさんに、カーラお姉さんは顔を赤くする。


「いいだろ!別に!」


 ふん、と息を荒くするカーラお姉さんだけど、全然良くないよ。


「この剣、鞘がないと危ないよ?」

「ん?どうしてさ」

「だって、魔力流して振るだけで発動するんだよね?」

「そう。便利だろ?あたしでも簡単に使える」

「怒ったりイライラしたりビックリしたりして、もし魔力が流れたら発動しちゃうよ。歩く振動で剣は揺れるでしょ?」


 威力MAXのファイアボールが手当たり次第に飛んでいくことになるよ?


 カーラお姉さん達パーティメンバーが、目に見えてさぁと顔が青くなった。


「お、おいっ!カーラ!」

「大丈夫だよ。今までも平気だったんだ。あたしの魔力は多くないし」

「それは買ってから間もないからだろ。だからケチらず鞘を買えと言っただろうがっ」

「そうだ。心が不安定になると魔力の漏れは発生する。情緒不安定のカーラはすぐに魔力漏れを起こすぞ」

「何だって!?もう一度言ってみな!ミラードっ……!」

「って言ってる側から魔力漏れてるぞ!」

「ああっ!わぁ!」


 叫んだと同時にカーラお姉さんの剣先に魔法陣が発動して、驚いた拍子に飛んでいって壁を焦がした。ポンポンポンと火の玉が辺りに飛んでいく。咄嗟にアルと私の周りに防御結界を張る。


「さっきよりも威力が小さいね。……あ、そっか。漏れた魔力だからかな?」

「リリー!冷静に検分してないで止めないと!」


 アルは立ち上がったけど、すぐ近くに結界があるから身動きは出来ない。解いてと目が訴えるけど、私はアルの護衛。それは出来ないよ。


「これくらいの威力なら火事にはならないと思うよ?」

「火傷くらいはするだろう?……今は、いないようだが」


 アルは諦めて座った。怪我人がいないか状況の確認をする。冒険者は皆上手く避けているけど、ギルド内は大騒ぎになった。カーラお姉さんは魔力を押さえようと焦るけど、上手くいかないみたい。落ち着こうと大きく息を吸うけど、余計に魔素が入り込んで補充されるからか、ファイアボールの連射は続く。


「ぎゃー!!」

「なんだっ!?」

「け、結界!!」


 壁、天井、床、たまにこの結界。掠めたり焦がしたり。冒険者は逃げ惑い、盾を持った人の陰や柱の陰に隠れる人、防御結界を張る人等様々。ギルドの人もカウンターの陰に隠れて様子を伺っている。


「落ち着け!カーラ!」

「い、今やってる!……けどっ!」


 カーラお姉さんの魔力漏れは収まらない。


 うーん。これは収拾つくのかなぁ?


『ウォーターフィールド!』


 突然、青い魔法陣が発動してギルド内に小雨が降った。カーラお姉さんも冒険者もギルド内はびしょ濡れになった。アルと私は結界に守られて平気だけど。


 唖然としたカーラお姉さんは落ち着いたのか魔力が安定してる。ファイアボールが収まった。もう平気かな?


 雨が止んだから結界を解いた。私達の周りだけ乾いている。じわじわと床の水が足元に近づく。床に足がつかない私は平気だけど、アルの靴が濡れそう。


 と、思った時。


『ドライウィンド』


 今度は白い魔法陣が発動して少し強い暖かな風が吹き抜けた。びしょ濡れになったギルド内は瞬時に乾く。


 ふうん。魔力操作が上手いなぁ。でも誰が発動したんだろ?何となく知ってる魔力の感じはあるけど。


 騒然としていたギルド内は安堵のため息と床にへたりこむ音の他は静かになった。誰もが臨戦態勢を解除したその時。良く通る声がギルドに響いた。


「何事ですか。騒々しい。ギルド内で火魔法を使うなんて」

「ええー?サブマスがそれを言いますか?」

「私は良いのですよ、メアリ。事後処理も完璧に出来ますからね」

「そういう問題ではないと思いますが」

「そういう問題ですよ」


 コツコツと階段を降りて現れたのは、大きなサテンの赤いリボンを頭に巻いた金の長髪に緑の瞳を持つ、明るい色のローブを纏った男の人。その後ろからメアリさんが続く。


 ……あれ?見たことある?


 首を傾げてみても思い出せない。どっかで会ったような気がする。んーと、何処かなぁ?


 うん。わからない。わからないけど、リボンは可愛い。似合ってるね。


 あ。目があった。


 ぱぁ、と緑の瞳が蕩けるように輝いた。


「マイマスター!!」


 ………はい?


 男の人の後ろでメアリさんが額を押さえて天を仰ぐ。


 何故かアルが立ち上がり、すっと私を背中に隠した。


 はにゃ?


 どうしたの?アル?


 ん?……はてな?




読んでいただき、ありがとうございました。

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