73. 王族の責務
なんとか一時間を少し越えたところで籠がいっぱいになった。熟した葡萄を探しての収穫は広範囲の移動が必要で、籠を抱えて歩くのに時間が掛かったから。
葡萄の入った籠は重くて。最初は気にならなかった大きさも、重くなると持ち運びが大変だった。でもレベルが上がったからこのくらい大丈夫だよね、と思っていたんだけど。………全然駄目だった!筋力はレベル関係なかった!そういえば体力と知力、器用と俊敏はあったけど筋力値はステータスになかったよ。力は五歳児程度ってことなんだね。
よろよろしてるとアルが現れて運んでくれる。離れていてもアルは駆け寄ってきて笑顔で運んでくれた。アルって凄い!!
お礼を言えば、これくらい紳士として当然だよ、と爽やかに微笑まれた。よく分からないけど、紳士って凄い!優しい!
「それに、友人だからね」
照れたようにはにかむアル。友達っていいなぁ。アルと友達になれて本当に良かったよ。
「これで午前中のお手伝いは終わりかな」
「うん。おじさんに確認してもらおっか?んーと、おじさんはどこかな?」
「その前にリリー。髪が乱れているよ」
アルに言われて髪を触ったらほどけて緩くなっていた。
「あ、本当だ」
「シア殿。頼めるかな」
「シア、直して」
腕の装飾に擬態していたシアはしゅるりと蛇に戻ると櫛を持った人型になった。
「お任せください。ではアル殿。お願いします」
「あ、ああ」
櫛を構えたシアに言われ、アルはぎこちなく私を抱き上げた。両手で抱え上げてくれる。私はアルの首に手を回してしっかりと抱きついた。
「では、始めます」
するりとリボンが解かれ、髪が優しく梳かされる。
ニンジン畑の後もこうしてシアが編み直してくれた。私の背が低くてシアは背が高い。シアは跪こうとしてくれたけど、それではシアの髪が地面についてしまう。座れる場所もなく困っていたらアルが照れながらも提案してくれた。で、こうなってる。
これってアルを頼っていることになるよね?凄い!私にも頼ることが出来たよ。
「あのね、シア。アルとお友達になったんだよ」
「はい。おめでとうございます。聞いておりましたよ」
「えへへ。ありがと。初めての男の子のお友達だよ。これで女の子のお友達と男の子のお友達が出来た。両手に花ってこれのことだよね」
「違うと思います」
ふと視線を感じて横を向けば、真横の至近距離でアルと目があった。
綺麗な澄んだ緑の瞳。
「なあに?」
「何でもない」
アルは少し赤い顔でふいっと目を逸らしてしまった。
?何だろう?
よく分からないけど何でもないなら問題ないよね。
それよりも。
わあ!見晴らしいい!
アルに抱えられたから視点が高くなって、今までよりも広範囲を見渡せるようになった。
葡萄の低木はアルよりも低く、私の身長と同じか少し高い。こうして視点が高くなるだけで景色は一辺する。
どこまでも広がっているように見えた葡萄畑も、ちゃんと終わりがあって木の柵で囲まれていた。少し離れた場所でおじさんが作業をしている。
でも少し変。葡萄畑の端の辺りは葡萄の木がない。ううん、葡萄の木が短く見える。
「どうして端は葡萄の木が短いのかな?」
アルは私の視線を辿り、ああ、とどこか憂いを含んで頷いた。
「まだ木が若いからだよ」
「若い?」
「端は魔物の襲撃を受けやすい。ほら、柵も新しくなっているだろう?」
確かに。よく見ると他の柵よりも新しい。
「いつ、何処に魔物が現れるか分からない。冒険者も間に合わない事もある。だから襲撃を受けると、柵を直して作物を植え直す。その繰り返しなんだよ」
アルは悔しげに教えてくれた。無力だと自分に怒っているようにも思えた。
「年々収穫量も減っている。魔物が原因か瘴気が原因か分からない。他に何か要因があるのかさえもね」
要因かぁ。でもここはヴィダも地表近くを流れているし栄養もある土地だと思うけれどなぁ。
「『どんなに国力が強くても民が飢えていればそれは不幸な国だ。民が腹一杯食べられて笑っている国は弱くても幸せな国なのだ。王族は民を守る盾でなくてはならない。国は民がいて初めて成り立つものだから。王族は民が飢えないように尽力を尽くさねばならぬ』代々の王が子に伝えてきた言葉だ。僕も父から何度も聞かされた。だから僕はこの問題を解決したいんだ」
そうなんだね。偉いなぁ、アルは。
何の解決策も見付からないんだけどね、と自嘲気味に微笑んで、アルは私を下ろしてくれた。シアが編み終わり、腕の装飾に戻ったからだ。
今朝、ギルドを出て人のいない場所で、シアは擬態した。最初は声も出せないほど目を見開いて驚いたアルは、「ずっと側にいたんだね」と納得したように頷いた。シアは擬態魔法が得意なのだと説明してある。蛇になるのも装飾になるのも擬態魔法。アルはハイエルフ絡みならば特殊な魔法も受け入れてくれる。優しくて配慮の出来る友達だね。
「リリーのお陰でこうして収穫の手伝いが出来た。ありがとう。僕は魔物を倒す事ばかり考えていて、民の悩みを放置していた。魔物を倒すことも大切だが、まずは民に寄り添わなければ」
「お手伝いはしてもらうと嬉しいんだって」
「うん。そうだね。どの助けが必要か、何を望むのか………心が見えると簡単なのだけどね」
「えぇぇ、駄目だよ。食いしん坊になっちゃうよ?」
「うん?」
アルが首を傾げたから、私も傾げた。
「だって、あれが食べたいこれが食べたいって分かっちゃうよ?」
一瞬目を瞬いたアルは、吹き出す様に破顔した。
「………ふっ……ふふふふ。そうだね」
アルはクスクス笑いながら片膝をついて私と目線を合わせた。
「ちなみに、今、リリーは何が食べたいのかな」
「んと、お肉とデザート!」
「ふふ、そうか。では食べに行こうか」
すっとアルは手を差し出した。
??何?
首を傾げたら、アルは悪戯っぽく微笑んでウインクした。
「エスコートするよ、食いしん坊のお嬢様?」
むむむむむ。
「食いしん坊じゃなーいっ」
パチンと音を立てて手を乗せたらそっと包み込む様に握られた。
クスクス…とアルの笑いは止まらない。
むう。
膨れるとさらに笑われた!
アルの楽しそうな笑い声は、おじさんのところに着くまで続いた。
笑い過ぎだよね。もう!
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