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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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72. 友達の作り方


「わあ!」


 目の前に低木の畑が広がっている。さっきのニンジン畑よりも広い。一列に真っ直ぐお行儀良く並んだ低木の列はどこまでも広がっている様に見えて壮観。


 ここは次のお手伝いの畑。畑の収穫依頼は依頼者が変わるだけで内容はどれも同じ。時間報酬と籠の追加報酬。今日はお昼までの一時間この畑の収穫をして、午前中のお手伝いは終わり。


 ニンジン畑の依頼者には依頼書に終了の印と籠の個数を記入してもらってある。これをギルドに持っていけば報酬とポイントがもらえるんだって。


 今、アルと二人、収穫の仕方を教えてもらっているところ。この低木は葡萄の木だった。でもいつも食べる葡萄とは違う。粒が小さくて少し黒っぽい。


「これはワインにする品種だよ」


 アルが教えてくれた。


「シャンパール王国はワインが名産なんだ。最高品質のシャンパールワインはこの辺りの葡萄からしか作れないんだ」


 へえ。そうなんだ。


 でも、ワイン。……飲めないからなぁ。あんまり興味ない。


 少しつまらなそうに話を聞いていたら、収穫を教えてくれているおじさんがわっはっはっ、と笑い出した。


「嬢ちゃんにはまだ早いからなぁ。つまらないのも無理はないねぇ。だが。こんなものもあるんだよ」


 おじさんは腰の鞄から紙の包みを出して、そこからいい香りのお菓子を一つ取り出した。


「さ、食べてごらん」


 アルと私の手に乗せたのは二枚のクッキーで紫色のジャムを挟んだものだ。バターの香りと甘酸っぱい香りがする。


「「いただきます」」


 パクリと食べたら。


 うわっ!美味しい!!


 クッキーは甘くてバターが利いててサクサクしてて、中のジャムの酸味がそれを緩和してる。ジャムの甘さは気にならないくらいなのに、ちゃんと主張してる。葡萄の粒々感もクッキーのサクサク食感にアクセントになってて、凄く美味しい!


「ワインと葡萄で作ったジャムだよ。どうだい?美味しいだろう」


 うん、うん、うん。


 思いっきり頷いたら、おじさんは破顔して、そうだろ、そうだろ、と頭を撫でくれた。良い人だ!


「初めて食べたけど、ワインのジャムとは考えたな」


 アルは色々と考えながら食べてるみたい。


 ん?食べる………?


 あ。


 毒味。ライに毒味しろって言われてたっけ。


 アルは既に食べ終わっている。


 んーと………まあ、いいよね。もし毒に当たっても直ぐに解毒出来るし、死んでも蘇生出来るし。問題ないよね?


「どうだい?これなら少しはやる気も出ただろう?」

「うん!頑張る」

「そうかい、そうかい。ならこの籠に頼むね。二人で一つでいいかい?」

「ううん、一人一つで」

「結構大変だよ。嬢ちゃん小さいのに大丈夫かい?」

「大丈夫。頑張る」

「そうかい?無理はしないようにね」

「ありがとう」

「俺はこの辺りで作業してるから、分からない事があれば言ってくれよ?」

「うん。分かった」


 作業に戻るおじさんに手を振って別れて、アルにひとかかえもある籠を渡す。


「ありがとう、リリー。まだ慣れないし、しばらくは一緒に収穫しよう」

「うん。分かった」


 地面にそれぞれの籠を置いて、葡萄の木に向き合う。


 教えてもらった通りに熟した葡萄の房の枝を借りた鋏で……あれ?き、切れない……。鋏が大きくて上手く使えないよう。


 パチン。


 隣ではアルが良い音をさせて房を切り離している。


 悪戦苦闘してるとアルが私の手の上から優しく握ってパチンと房を切り離してくれた。


「……………ありがと」

「ちょっとリリーには鋏が大きすぎるかな?」


 苦笑しながら、僕にはぴったりだけどね、とアルは呟く。


 何だろう。


 凄く、凄く、悔しい。


 ううう………。鋏がダメなら………。


 私は鋏を置いて次の葡萄の房を掴むと指先に魔力を宿してシュッ、と切り離した。


「!」


 アルが目を見開いて驚いている。


「どうやったの?」


 小声のアルに小声で答える。


「指先に風魔法で刃を作った」

「はあ、凄いな、リリーは」


 ため息一つで感心するアルに負けた気分になる。アルの行動は親切からくるもので、鋏が大きいのはただの事実だ。


 ふう……。五歳になったのに、三歳児みたいなことしちゃった。ちょっと反省。


 うん。悔しさも無くなった。


 その後は黙々と作業を続ける。アルは鋏で、私は魔力で。収穫を続ける。


 パチン、パチンと軽快な音をさせて収穫するアル。時々空を仰いで汗を拭う姿も格好良い。


 やっぱり、アルと友達になりたい。


 迷惑かな。種族違うし。私は他と違う。アルは優しいからきっと酷い事は言わない。けど、伝説だったり、お伽噺だったりしても、友達になれるのかな?


 どうしよう。怖い。


 ………………………………怖い?


 何が?アルが?アルは怖くないよ。アルは優しい。いつだって、アルは優しかった。


 じゃあ、何が怖いの?


 私は。


 ―――――――――拒絶されるのが、怖い。


 うん。怖い。それは怖い。昔、背中を向けて去って行く四人の眷属達に、拒絶されたから。主が赤子だと知った時の彼等の深い落胆が分かった。本来なら離れない眷属達が九十年も戻らないのはそういうこと。私は主失格で、大賢者としても未熟で。いつも側にいてくれるのは精霊達と動物達。気まぐれな彼等は遊びたいときに来て、去って行く。誰も、私の側には残らない。


 だから怖い。アルに拒絶されるのが。困った顔で傷付けない言葉を捜す姿を見るのが。とてつもなく怖い。


 でも。勇気を出せ、私。どんなに不安を感じていても、アルの態度を、私が憶測で決めてはダメだ。アルの事はアルが決める。わたしはただ勇気を出して前に進めば良いだけ。


 錬金術や魔法と同じ。アルを信じて、私を信じる。そこに迷いは、ない!


 ジリジリと照りつける日射しに汗が滲む。緊張に少し震えながら、掴んだ房を潰さないように籠に入れた。


「………ねえ、アル」

「どうかしたかい?」


 手を止めてアルは私を見た。ぐっと手を握り締めて勇気を絞る。


「私、アルと友達になりたい」


 二、三度瞬きをしたアルはとても嬉しそうに微笑んだ。


「友達か。それは嬉しいな。僕もリリーと友達になりたいと思っていたんだ」


 アルもそう思っていたの?信じて、良いよね?嬉しいって言ってくれたもん!私も嬉しい!


 アルと友達になれるかも!


 あ、でも、どうやるのかな?


「どうすれば友達になれるのかな。アル、知ってる?」

「友達か……」


 アルは腕組をして拳を顎につけた。アルの熟考する姿勢だ。アルは少し思案し、残念そうに首を振った。


「残念だけど、やり方はわからないな」

「アルも知らないの?」

「うん。習った事はないし、本にも載っていない。友達を作る方法は皆目検討もつかないな」

「うーん。何か儀式が必要なのかな」

「どうだろう。僕は友達がいたことがないから。リリーは?」

「私もいない。あ、でもミナちゃんが友達になった」

「では、その時はどんな儀式を?」

「んーと………宣言した?」

「何を宣言したのか覚えてる?」

「んーと、友達だって、かなぁ?」

「誰に宣言したのかな?」

「…………誰にだろう?」

「森では友達がいなかったのかい」

「うん。森の皆はいつの間にか遊んでて、翌年にはメンバーが代わり、数年後には世代が変わっていたから誰が誰だか分からないよ」

「そうか。友達になるためには深い絆が必要とされるのだろう?試練が有るかもしれないな」

「試練!でもどこでかな?」

「ふむ……ダンジョンだろうか?」

「友達になるのは大変なんだね」

「ああ、だからこそ得難いものなのかもしれない」


 アルと二人、空を見上げた。高い場所を鳥が飛んで行く。乾いた風が辺りを駆け抜けて行く。


「皆大変な思いをして友達を作るんだね」

「そうだね」


 ププップー、と吹き出す音が聞こえて、わっはっはっ、と大きな笑い声が響いた。


 振り替えると立ち上がったおじさんが腹を抱えて笑っていた。


「あんたら面白いな!息ぴったり。もう友達じゃないか!」


 アルと二人顔を見合せて首を振る。


「いえ、まだ試練もしていませんよ」

「友達?アルと私が?でも儀式してないよ?」


 首を傾げる私に、再びおじさんがわっはっはっ、と大笑いした。


「そんなもんは必要ない、ない。一緒にいたい、一緒が楽しい、また明日も会いたい、遊びたい。その気持ちが生まれたら、もう友達だよ」

「気持ちが、生まれる……。うん。アルと明日も会いたいし、遊びたい、アルと一緒にいて楽しいし嬉しい。じゃあ、もう、友達?」

「そうだよ。嬢ちゃんと少年は友達だ」


 そうなんだ!私はもうアルの友達なんだ!じゃあ、アルは?アルは私の事、どう思ってる?


 直ぐに確認したくて、アルにしがみついて見上げる。困惑した緑の目を見つめて問う。


「アルは?アルはどう思ってる?私に会いたい?一緒にいたい?会えたら嬉しい?」


 少し照れたようにアルははにかんだ。


「……うん。リリーと一緒にいたいし、一緒いると楽しくて嬉しい。毎日会いたいし、側にいたいし、いて欲しいと思う」


 それって!


 嬉しくてアルの手をぎゅっと握る。


「じゃあ、もう友達だよね!」

「……うん。友達だ」


 友達が出来た!!


 にこにこ笑い合っていたら、おじさんが収穫も頼むな、と声をかけてきた。


 おっと、お手伝い、お手伝い。まだまだ籠はいっぱいにならない。頑張らないとね。


 慣れてきたからアルと離れて収穫する。


 だから聞こえなかった。おじさんの呟きは。


「まあ、男女間では友達というよりは恋愛だろうが、嬢ちゃん達には早いだろうなぁ」








読んでいただき、ありがとうございました。

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