71. 頼ること
「にーんじん♪にーんじん♪にーんじんさぁーん♪」
スポンッ!
「にーんじん♪にーんじん♪にーんじんさぁーん♪」
スポポンッ!
「ふふふ。楽しい。にーんじん♪にーんじん♪にーんじんさぁーん♪」
スカッ。
ありゃ?短い。
籠にぽいっと入れて、次の葉を掴む。
「にーんじん♪にーんじん♪にーんじんさぁーん♪」
むむ?抜けない。
両足を広げて踏ん張って。
よ、い、っしよっ!!
……ズッポンッッ!!!
「やったぁ!」
とても大きなニンジンが抜けた。
はぁ。爽快。さて、次、次。
大きなニンジンを籠に入れて次の葉を掴む。
私は今、畑で収穫のお手伝いをしてる。ギルドのお手伝い案件だ。
昨日、ミレイユさんがお手伝いはしてもらうと嬉しいって言っていたから、町の人へのお礼にお手伝いすることにしたの。ギルドの掲示板にお手伝いが在ったことを思い出したから。
メアリさんにお手伝いすることを伝えたら、採取依頼~、って嘆かれた。でもね、採取依頼受けると死蔵依頼させるだろうし、難しい案件は魔物も強い場所になるのに討伐したらお説教されるよね?だからやらない。私は学習の出来る五歳児(外見だけ)。同じことは繰り返さないのだ!えへん。
初めてのお手伝いだから、簡単なものを受注した。畑の収穫依頼。ニンジンって地面の中に出来るんだね。お料理にソテーされて出てくる甘い野菜だよね。
五本に一本は短いけど、大きなニンジンは美味しそう。スポンッて抜けるのも楽しいし。
それに。
「ご機嫌だね、リリー」
同じくニンジンを抜いたアルが爽やかに微笑む。
何故かアルも一緒だ。カイさんとライはいない。
今朝、ギルドでアル達に待ち伏せされていた。
なんで?
で、アルを託された。
なんでもカイさんとライは騎士団の緊急の用事があってしばらく護衛出来ないんだって。しかも指示したのはアル本人。だったら王城で大人しくしていたらいいのに、今アルは王城で寛げない状況らしくて逃げてきたんだって。何からだろう?ライに「リリーは護衛くらいできるよな?」って言われたらやるしかないよね?カイさんにも頼むって言われたし。私も五歳だもん。護衛くらい出来るよ!
でもアルは討伐したいんだよね?私は禁止されているから今日からしばらくはお手伝いだよ、って言ったら、構わないって。アルもお手伝いしたことないから私と同じ初心者なんだって。二人で出来る簡単なお手伝いを選んで、今ここにいる。
この畑は町の外西側に広がっている。王都のように城壁に囲まれている訳じゃない。簡単な木の柵で囲まれているだけ。魔獣被害も在るらしくて冒険者が見回りをしている。そんな畑が幾つも西側に点在しているのがこの町の特徴なんだって。
「楽しいね、アル」
「そうだね。収穫は大変だけど楽しいね。視察で何度か来たけど収穫は初めてだよ」
「どれも抜くまで大きさが分からないし、宝探しみたい」
「うん。大きさにバラつきがあるのは品種に因るものか生育違いか他に原因があるのか……それとも瘴気か。生育不良が多いのは気になるね」
アルは考察しながらも次々と抜いていく。
早いなぁ!よぉし。負けていられないね。私も頑張ろう!
………魔法で収穫出来ないかな?
例えば土魔法でどーんって………爆発はダメかぁ。水魔法でじゅどーんっとか……畑が壊れちゃうね。あっ、緑魔法でニンジンさんに手足生やして自分で出てきてもらうとかどうかな。籠にも自分で入ってもらうの。うん、それ良い考えだよね。直ぐに籠がいっぱいになって………手足の生えたニンジンが籠いっぱい……?……………その後、元に戻るかな……?あー……うん………魔法で収穫は止めた方がいいかも。うん。手で抜こ。
鼻唄交じりに収穫していくと、籠がいっぱいになってきた。もう少しかな?
少し離れた場所でカチャリと音がした。アルが懐中時計を取り出して時刻を確認している。
空を見上げたら、日がだいぶ高くなってきていた。
「そろそろ一時間だね。この後はどうする?」
アルがニンジンでいっぱいになった籠を運んできた。おお!凄い。早い!
今回の依頼はこれ。
【収穫依頼】
畑の収穫 一時間 ✕ 銅貨二枚
籠 ✕ 銅貨一枚
籠をいっぱいにしないと追加報酬がない。私の籠はいっぱいには少し足りない。もっと頑張らないと。
なぜなら。お手伝いのポイントは一件の依頼に付き一ポイントしか付かない。でも、追加報酬は一つに付きプラス一ポイント。つまり籠を満たせない時は一ポイントだけど、籠をいっぱいにすればその分だけ加算される。今回は籠二つだからプラス二ポイント。合計三ポイント貰えるの。アルと一緒のお手伝いだけど、お手伝いポイントは其々に合計ポイントが付くんだって。これはやらなきゃだよね?
「ちょっと待って。もう少しだから」
「では手伝うよ」
「ありがとう」
アルと微笑み合って、ニンジンの葉を掴む。
よいしょ、よいしょ、って抜いて、籠がほぼいっぱいになった。よし。最後の一本。
少し大きな葉を両手で掴んで引っ張る。
ぐぐっと抜けそうなのに抜けない。
むむむ。これは手強いかも。
両足で踏ん張って力を込めた。
ぐぐぐ、むむむ、ぐぐぐ、むむむむむ。
あと、少し……よ、い、っしよっ!!
………ズッッポンッッ!!
「危ないっ」
抜けた拍子に勢い余って後ろに倒れてしまった。
地面にぶつかる!と思ったらアルが抱き止めてくれた。後ろからアルが抱き締めてくれて、私の手の中でとても大きなニンジンがぶらーんと揺れた。
「はぁ、ビックリした」
「……はぁ。間に合って良かった……」
アルを見上げたら安堵の溜め息を吐いて空を仰いでいた。さらりと風がアルの前髪を浚う。
「ありがとう、アル」
アルは私を優しく見下ろして、怪我はない?大丈夫かな?、と心配してきた。
「大丈夫だよ。アルが抱き止めてくれたから怪我してないよ」
まあ、たとえ怪我をしていても瞬時に治っちゃうからね。えへへ、と笑って誤魔化しておく。
「無理をしてはいけないよ、リリー。君は小さくて軽い女の子なんだから。力が必要な時は僕を頼って」
アルがとても優しく微笑んで諭してくれた。
アルは優しい。転ぶときは何時も抱き止めてくれて、いつだって私に手を差しのべてくれる。
でもね。頼る事。それはとても難しいよ。
……だって私は大賢者だよ?この世界の誰よりも強くて(推定)、この世界の誰よりも長生き(予定)するんだよ?この世界に生きるもの全てが私の管理化にあるんだよ?
頼ったら、大賢者失格にならないかな。
風に吹かれて髪が舞う。収穫に夢中になっていて髪が解けていたみたい。最近見慣れてきたただの銀髪が視界を過る。
銀髪の間からアルの金の髪がキラキラと日に輝く。私を見つめる温かな緑の目差し。アルって本当にキラキラしてるね。姿も、心も。眩しいくらいにキラキラしてる。ぎゅっと抱き締められている背中が温かい。何もかも委ねたくなるくらいに。
私は大賢者。一人で立っていなきゃいけない、のに。………私は。大賢者、なのに。この温かさに、手を伸ばしたくなる。それは、駄目だと分かっている、のに。駄目、なのに……。
「リリー?」
呆然とアルを見上げていたから、反応の無くなった私をアルが心配気に呼ぶ。
………ああ、そっか。そうだった。私は。今はリリーだ。大賢者じゃない。ハーフハイエルフのリリーにはなんの制限もない。今の私は自由だ。
だったら。
「頼って………いいのかな?」
ポツリと呟くと、目をぱちくりしたアルが物凄く優しく微笑んだ。
「勿論だよ。リリーに頼られるなんて光栄だ。僕を困らせるくらい沢山頼って構わないよ」
じわりじわりと言葉が染み込む。なんて温かいんだろう。なんて優しいんだろう。見上げるアルはお日様のよう。
頼っても、いい。
目を閉じてその思いを心に刻む。
頼っても、いいんだ……。
私を抱き止める手に触れたら、とても温かかった。優しい温もり。
アルに背中を預けたままだったから、足に力を入れて立ち上がった。私がちゃんと立った事を確認してからアルは抱き止めていた手を離してくれた。
アルに向き直ってにっこり笑う。
「ありがとう、アル」
アルは少し眩しそうな顔をして、ふふ、と優しく微笑んだ。
「無事で良かった」
アルは格好良いな。姿も心も。見ていて嬉しくなる。
「リリー………」
アルの手がそっと私に伸ばされて、遠慮がちに頬を撫でた。
?何だろう??
アルは少しイタズラっぽくクスッと笑って優しく擦る。
「土がついてるよ」
「アルも土まみれだよ」
畑の収穫は思いの外土まみれだ。
お互い顔の土を拭き合って、ふふふ、と笑い合う。
良い人だよね、アルは。
………友達になれるといいな。
読んでいただき、ありがとうございました。




