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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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67. いざ試食!


 ミナちゃんがテーブルに置いてくれたのは、様々なフルーツが艶々に輝く一切れのタルトだった。良い香りの紅茶がお供だ。


 このフルーツ、さっきのゼリーに入っていたのと同じだ。桃にみかんに葡萄。綺麗にバランス良く配置されている。甘い香りが漂ってる。


「うわぁ……!美味しそう!」

「ね、食べてみて」

「うん!」


 フォークでサクッとタルトが割れた。桃の部分を食べてみる。


 !!


「……美味しい!」


 桃の甘さが広がってタルトのサクサクと桃の果肉の弾力が絶妙に合わさって美味しい。この上の艶々はゼリーだ。果物にゼリーが薄く掛かっている。ゼリーの部分はひんやりと冷たい。


 どうやったのかな?よくスイは表面だけ冷気で包んだりして冷やすけど、これも魔法使ったのかな?


「美味しいね。この上のはゼリーでしょ?」

「そうなの。果物乗せた後にゼリー掛けて冷蔵庫で少し冷やしたの」

「冷蔵庫?」


 初めて聞く言葉だ。冷たい倉庫かな?


「魔道具だよ。詳しくはわからないけど、扉の付いた箱の中に水の魔石が入っていて冷たくなるんだって。魔石を置く位置で部分的に冷やせるの」


 へぇ!そんな魔道具があるんだ。


 今度はみかんの部分。………あっ!これシロップ漬けだ。甘酸っぱくて美味しい。タルトにみかんも合うんだね。うん!葡萄も美味しい。種が取ってあるから食べやすいよ。


 モグモグしていたら、ミナちゃんが心配そうに聞いてきた。


「やっぱりちょっと違うよ、ね?」

「うん。でも美味しいよ?ね、シア」


 無言で食べきったシアは満足そうに紅茶を飲んでいる。


「はい。大変美味しいタルトでしたよ」


 うぅ、と唸ったミナちゃんは、突然、がしっと、すれ違った女性の腕にしがみついた。その女性は隣のテーブルに夕食のデザートを運んできて立ち去ろうとしていた食堂の従業員だ。


「あん?ミナ?」

「この人!この人がこのタルトを作ってくれたミレイユさんだよ!」


 白いブラウスに紺のズボンを着て白いエプロンを纏った女性は、白い帽子を目深に被り、きょとんとした緑の目でミナちゃんを見下ろしている。帽子からちらりと覗く髪は金色。優しそうな雰囲気の人。この人もハーフエルフの末裔かな?ちょっとだけ人より魔力が多い気がする。


「こらこら仕事中だよ。ミナ」

「だってミレイユさん。リリーちゃんの感想聞きたがってたでしょ?」

「リリーちゃん?」


 ミレイユさんの視線は私を通り、テーブルのタルトへと移った。そしてまた私を見つめる。


「?」


 はにゃ?と思ったら、ミレイユさんはとても快活そうにニカッ、と笑った。


「ホントだ。見事な銀髪だね。あはっ!気づかなかったよ!」


 ミレイユさんはしがみつかれていない方の手を差し出して自己紹介してくれた。


「ミレイユだ。この食堂で菓子職人をしてる。ここのデザートは旨いだろう?」

「うん!とても美味しいよ!あっ、えっと、リリー、です」


 握ったミレイユさんの手は柔らかくて傷だらけだった。少し火傷もある。ポーションで治さないのかな?


「ん?ああ!この傷か。毎日何かしら傷か出来るからさ、いちいち治すのめんどくてさぁ」


 はっはっはっ、と笑いながらミレイユさんは手を振った。


「で?どうだった?タルトの味は」

「美味しいよ」

「そうかぁ?」


 少し首を傾げたミレイユさんはしがみついて離れないミナちゃんの頭をがしがし撫でた。


「ミナがさぁ、凄い勢いで厨房に入ってきてさ。幸せの味がするタルトを食べた!って興奮して、とにかく美味しかったからあれを再現したいって、もう凄い剣幕で」

「そんなことないもん」

「いやあれは凄かったね。だけどこの子、食べた筈なのに何も覚えていなくて、困ったよ。唯一覚えているのが『幸せの味』だからね」

「フルーツのっかってたのは覚えてたもん」

「あのねぇ。料理作るのに手がかりがフルーツとタルトと幸せの味だけじゃあ難しいの」

「だってぇ……気付いたときには食べ終わってたんだもん……」

「まぁ、それくらい美味しいってことは分かったから、とりあえず作ってみたんだ。フルーツのタルト」


 ミレイユさんは頬をポリポリ掻いて、はぁ、と深い溜め息を吐いた。


「試食でミナに食べさせても違う事しかわからないし、あっと言う間に食べきった、ともならなくてさ。そこでだ!」


 ミレイユさんの緑の目が光ったように見えた。獲物を狙う鷹のようだ。ええ!全然さっきと雰囲気違うよ?ミナちゃんが捕獲されているように見える!?


「持ち主の君に試食してもらって、何が違うのか教えてもらおうと思ったんだ。さあ!言ってみて。何が違うのか。幸せの味とはどんな味なのか!」


 さあ、さあ、さあ、と迫る目力が恐い。


「え、えっと……」


 どうしよう。ミナちゃんを助けるべき?でもこの人菓子職人だよね?それなら危険はない?のかな?


 シアの方から冷気が漂ってくる。何処かでパキッと軽い音がした。……凍った?


 どうしよう。感想言いたくても味なんて吹き飛んじゃったよ。迫力凄くてタルトが食べられないよぉ。


 困っていたらもっと怖い気配がした。振り返ったらもの凄い笑顔のリタさんが音もなく近づいてきて、ミレイユさんの後ろ襟をがしっと掴んだ。


「リリー様。我が家の料理人が大変ご迷惑を掛けました。お茶のお代わりをお持ち致しますのでどうぞおくつろぎ下さいませ」


 笑顔だし、丁寧だし、優雅なのに。リタさんの手はギリギリとミレイユさんを締め上げている。………ミナちゃんが怖がるわけだね。そのミナちゃんは蒼白で涙目だ。ミレイユさんもぐえってなってるし。うん。ちょっと可哀想かな。


「ありがとう、リタさん。それならミナちゃんとミレイユさんの分のお茶をお願い。タルトの感想を言わなきゃ。これ、試食だもんね」


 にっこりとリタさんに笑い掛けると、まぁ、と顔を赤らめたリタさんはパッと手を離して深く頭を下げた。解放されたミレイユさんはけほけほと咳をしながら、それに倣う。ミナちゃんも慌てて頭を下げた。


「ご厚情感謝いたします」

「すみませんでした」

「ごめんなさい」

 

 私はにっこり笑って謝罪を受け入れた。


「いいよー」


 迫力が凄かっただけだし。普通にしてくれたら問題ない。


 シアの持つ紅茶が凍りついていたから、こっそり魔力流して融かした。ほどよい温度で止める。


《我慢してくれてありがとう》

《美味しいタルトの礼です。次はありません》

《……程々にねー》

《もちろんです》


 シアとの念話の間に紅茶が運ばれて、ミナちゃんとミレイユさんが席に着いた。


「いやぁ、ホント、すまなかったよ。あたし、菓子の事になると周りが見えなくてね」

「ごめんなさい」


 しゅんとするミナちゃんと反省するミレイユさんはもう一度頭を下げてくれた。


「もう気にしてないよー。怖くなければ大丈夫」


 微笑みかければ二人はやっと表情を緩めてくれた。







読んでいただき、ありがとうございました。

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