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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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65. 敵意

今年もよろしくお願い致します。


 魔道ランプが点灯して、日が落ちたことに気が付いた。


 うぅ〰️。


 ずっと『端末』を見ていたから目が痛いよぉ。


 シュッ、サッ。シュッ、サッ。


 ベットの足元の方で、ヘビのシアが蔦さんと遊んでいる。シアの尻尾に触ろうとする蔦さんをシアが寸前で避けているの。これって私が『端末』見始めた時からやってるよね?おやつ食べた後からだから………凄いっ!何時間も続いてる?!


 今『端末』に表示されているのは、今回のお仕事で要確認になった案件達だ。ざっと数千件ある。この中から緊急性のある赤い点滅を処理してた。まあ、大抵は経過観察だし、あっても対象者の記憶を『削除』か『消去』で済むけど、中には経過観察するには緊急で『削除』や『消去』するまでには至らないものもあって処理に困って、迷ってしまう。いくら約三代分の記録を継承していても、管理する世界は目まぐるしく変わっていて参考に為らないことも多々ある。私は大賢者としてまだ百年だし、経験が少ないから、どれが正解かわからないんだよね。間違えると世界は壊れてしまうかもしれないし。お仕事は難しくて疲れるよね。


 ……でも、ないなぁ………。


 緊急性の案件を片端から片付けながら、あの最後の鳥肌が立った悪意の件を探しているけど見つからない。あんなに露骨に向けられた世界に対する………んー、絶望?かな?や大賢者に対する…………何だろう?焦燥?じゃなくて、動揺?違う違う。もっと、こう……肌を刺す痛いような逃げたいような。体がすくむような感覚………………あれは……殺気?……そうだ。殺気だ。あれは大賢者に対する強い殺意だった。一瞬だったとしても、あんなに強い感情を向けられたら絶対『端末』に登録された筈なのに何処にもない。緊急性の赤点滅はほとんどチェックしたのになぁ。


 にしても。


 殺意かぁ……。うぅ〰️。なんで?何で殺意?身に覚えが全く無いよ。だって、大賢者に、だよ?大賢者の存在知ってるのって限られるよね??世界にいる?大賢者知ってる人?今日会ったエルフの変態だって攻撃してきたけどあんな殺意はなかった。どちらかと言えばあのエルフは怯えていたし、最後は安堵と反省してたし。世界に絶望している感じもなかったね。


 じゃあ誰だろう?他に大賢者知ってる人。人じゃあないかもしれないけど。なんだかモヤモヤする。


 私…………何かしたかなぁ?殺意を抱かれるほどの事をしたのかなぁ?


 ―――――わからない。


 『端末』消して、腕組みしても思い付かない。そもそも、そんなに恨まれるなら絶対何か事象があるはずだ。なのにわからない。


 むむむ、と眉間にシワを寄せたら、シュルシュルとシアが近づいてきた。


「どうされましたか?」


 蔦さんもなあに?と葉を傾げる。


「うーん、知らない内に恨まれる事ってあるのかな?」

「ありますよ」


 えっ!?あるの!?

 

「本人の預かり知らぬ所で恨まれることはありますよ。大抵は逆恨みや八つ当たりのようなもので、言い掛かりが殆どですが、中には意図せぬことで相手を傷つけている場合もありますから」

「意図せぬこと?」

「誰もが、心を持っております。ですがそれは目に見えるものではありません。己の心は相手に見えず、また相手の心も此方には見えないのです。物事の感じ方も千差万別。此方が良かれと思ったことも相手には迷惑であったり、相手の親切心が嫌味に感じたり、と様々なのです」

「うーん………何だか心って難しいね」

「そうですね。意図したことを正しく伝えて、同じ思いを心に共有する為に、言葉があるのだと私は思いますよ」

「……正しく伝える、かぁ……。うん。そうだね。それは大事だよね。でもそっかぁ……。知らない内に誰かを傷つけているのかも知れないんだ……」


 それって凄く怖いよね。心が見えないって怖い。顔は笑っていても、心では怒っていることもあるって事だよね?だったら………心が見えるようにすれば解決するかな?そうすれば誰にも恨まれない?


 心を誰もが見える世界を想像してみた。


 ………………あー…………うん。だめだね。


 心が見えていたらそれはそれで怖いよね。言った言葉にどう反応したか目に見えて分かるなんて。何も言えなくなっちゃう。それに、心が見えるってことは、思っていることが全部見えるってことだよね?お肉美味しそうって思ったことも、ギルマス顔怖いって思ったことも全部わかっちゃうんだよね??………うん。やっぱりダメだ。そんなの恥ずかし過ぎる。食いしん坊じゃないのに、食いしん坊だって思われちゃう。そんなのはダメ。


 言葉だけじゃなく、態度とか振る舞い?も気を付けなくちゃいけないのかな?誤解されないように、恨まれないように。……なんか窮屈な気がする。そんなに気を遣って生きていくのは辛いなぁ。


「ねぇ、シア。恨まれないように、誤解されないようにするのは、凄く窮屈で辛い気がする」

「ふふふ。皆性格は様々で一貫性はありませんよ。謙虚な方もいれば傲慢な方もいます。後先考えずに動く方もいれば、慎重に熟考してもまだ動かない方もいます。何が正解で何が間違いなのか明確な答えはありません。その時々の常識と節度によって変わりますから。逆恨みや八つ当たりはその方の心のありようです。相手の心が向く方向の可能性ばかり考えて己の心を殺すのは間違いですよ。それでは相手の心の傲慢を受け入れて許すことになります。心は常に己の鏡。常識と節度さえ守っていれば己の心に素直に従って良いと思いますよ」

「えっと……つまりは過度に気にする必要はない、ってこと?」

「はい。もしも意図せぬことで相手が傷付いたとしても、そこには必ず何かしらの痕跡が残ります。相手の表情、口調、雰囲気等から察することが出来ます。その時に言葉を尽くして話し合い、己が悪いのであれば謝り、相手が誤解していたのなら誤解を解けば良いのです」

「全く知らない人から恨まれていたら?」

「基本的にはあり得ませんが、その可能性は否定出来ません。ですが、日頃から常識と節度を守っていればそう恨まれることもありませんよ」

「常識と節度……。私は守っているかな?大丈夫かなぁ?」

「……………………………………………………はい」

「えっ!?何で?今の間は何?何で直ぐに返事しなかったの??」


 シアはにこにこと目を細めるだけで何も言わない。蔦さんはずっとうねうねうねっているだけだ。


 うう〰️。納得がいかないよぉ。


 ぶすっーと頬を膨らませたら、クスクス笑いのシアがシュルシュルと近づいてきてそっと私の手に頭を擦り付けた。


「機嫌を直してください、大賢者様。先程から何を悩んでいるのですか?」


 ひんやり冷たいシアを両手に載せて膝に手を置いた。


「うん。実はね―――――」


 私はシアに仕事の時に感じた強い殺意の事を話した。『端末』にもそれは登録されなかったことも、身に覚えが全く無い事も話した。


「そうですか……」


 聴き終えたシアはそう呟くと、はて?と首をかしげた。


「それは奇妙ですね。大賢者様のお仕事は世界の管理。その仕事の時に感じたのならば、その感情の持ち主は世界の住人に他なりません」

「うん。そうだね」

「で、あるならば、です。大賢者様が世界に降りられたのは今回が初めてです」

「うん。生まれて初めてだよ」

「世界に降りてまだ間もない大賢者様が殺意を抱かれるような事はないと思うのですが」

「私もそう思う」

「ところで、その殺意をですが、リリー様に、ですか?それとも大賢者様に、でしょうか?」


 あっ!


 そっか!そうだった!今の私は大賢者じゃなくて、ハーフハイエルフだった!


「大賢者に、だよ。世界の管理者である大賢者に向けたものだった。リリーじゃない」

「では、リリー様が大賢者だと知るものは限られます。私ではありませんし、精霊は論外でしょう。唯一はあのエルフですが、リリー様が大賢者だと知ったのは目覚めの後です。その前に行った仕事の時ならば除外しても良いでしょう。そうなると該当する者はいません」

「じゃあ、どうして…」


 私は恨まれてるの?もう、わかんないよぉ……。


「大丈夫ですよ。大賢者様」

「何が?」

「大賢者様であるリリー様が恨まれることはありませんよ」

「何で?」

「主様が常々仰っておられるではありませんか」

「ん?」

「可愛いは正義、なのですよ」

「―――――」

「可愛いリリー様が恨まれることは絶対にあり得ません!」


 得意気に頭を反らしたシアはふふん、と不敵に笑った。


 何、それ。


「もう、答えになってないよぉ」


 呆れて呟くけど、前よりも気分が上向きになっていることに気が付いた。


 そうだよね。原因も存在もわからない相手に悩んでも仕方ないよね。私に向けられたならきっとまた感じ取れるはず。今ここで考えることじゃない。


「ありがとう、シア」


 シアの頭をそっと撫でた。気持ち良さそうに目を細めたシアはふふ、と微笑んだ。


「そのように微笑んでいて下さい、大賢者様。貴女様が笑っているならば世界はもっと優しいものになりますよ、きっと」









読んでいただき、ありがとうございました。

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