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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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61. 仲良し……?


 これから早速ポーション作る!とやる気が漲っているミナちゃんに、がんばれー!と激励して部屋に帰ることにした。ポーションを薄めるのも手伝おうかなって思ったけど、アランさんとリタさんに遠慮された。目覚めたばかりなのだから部屋でゆっくりと休んで欲しいって。


 ……目覚めたばかりだから元気なんだけどね。それにスイのタルトも食べたし。あ、串焼きまだ食べてない。そろそろおやつの時間だもんね。おやつが串焼き。ふふ。ふふふふふ。


 まだ昼間だから誰もいないのか、二階も三階も静まり返っていた。階段を上る私とシアの足音だけが響く。


 ジェドさんもいないのかな?


 三階の一番奥。私の部屋のとびらの前に立つ。


 ここに帰るのも久しぶりになっちゃった。蔦さん、寂しがってないかなぁ。


 鍵を出そうと鞄に手を入れたら、カチンと音がした。内側から鍵が開いた、のかな?


「……………」


 蔦さんかな?蔦さんだよね?……ちょっと、鍵を開けてみたかったな………。とか思わなくもないけど。でも、うん。蔦さんには感謝だね。


 扉の前で逡巡していたら、ガチャリと扉が開いて、隙間から蔦さんが葉を覗かせた。何してるの?と葉を傾げる。あは、可愛い。


「ただいま!蔦さん。鍵を開けてくれてありがとう!」


 蔦さんは照れたようにうねうねして、扉を大きく開けてくれた。もう一度お礼を言って中に入る。


 部屋は出ていった時のまま、変わらずにいた。蔦さんが掃除をしてくれていたのかホコリもない。ベッドもシワなく整えられている。出ていった時のままに………。………ん?出ていった時のまま??じゃないよね??


 天井を這う蔦さんの一角に光る何かがいた。うねる蔦さんに全身を絡め取られてジタバタしている白い鳥。神鳥ティティスだ。


「あれー、ティティスだ。なんで蔦さんとじゃれてるの?」

「いえ、大賢者様。あれは捕獲されているかと」

「捕獲?なんで?遊んでいるんだよね?」


 蔦さんに聞いてみたら焦ったようにポトッとティティスを離した。翼を広げて飛ぼうとしたティティスは高さが足りずに、翼を広げたままベッドに落ちた。べしゃりと突っ伏したティティスは直ぐに起き上がり天井の蔦さんに向かってピィ!ピィ!と鳴いた。抗議しているようだ。


「もう少し遊びたかったのかな?」

「それは違うと思います」

「えー?そう?」


 ティティスの抗議に蔦さんは蔓を天井にビシ!バシ!と打ち付けて対抗している。


 ちょっと騒がしい。


「なんでティティスがいるのかな?」

「あの方のお使いでは?」

「ん?お使い?…………あー」


 そういえば、神様人形贈ってくれるんだった。えっ!もう出来たの?早っ。


 ピィ!ピィ!ビシ!バシ!と会話を続けるティティスの肩をつんつんと突っついた。


「ねぇ、ティティス。お使いなの?」


 ティティスはハッとして、バサリと羽音を立てて翼を広げるとふわりと舞い上がった。少し上を旋回して、優雅にサイドテーブルに舞い降りた。捕らえようと伸ばした蔓を全て交わされた蔦さんは少し悔しそうだ。蔓と葉のうねりの速さが何時もの倍になっている。ティティスは赤い瞳を得意気に細めて、ピィ、と短く鳴いた。


「楽しそうだね」


 やっぱりじゃれてる。


 ティティスは嘴をトントンと机に打ち付けて魔法陣を展開した。手紙が現れる。そして。ボフン、と音がしてベッドの上に輝く白い何かが現れた。それは私がひと抱えするほどの大きさの竜で柔らかなぬいぐるみだった。


「これ、ラーちゃんだ!すごい!そっくり!」


 柔らかな鱗もふさふさの羽も頭の形も左右二本ずつの角も。そして何よりも優しい眼差しも。本物そっくりなのに、柔らかなぬいぐるみなのだ。


「ラーちゃん……?」


 シアが怪訝そうに首を傾げた。


「それは神竜ラザンクリフォード様なのではありませんか?」

「うん。そうだよ。その、ラーちゃん。神様のペット、のね」

「…………ペット………」


 神龍ラザンクリフォードは神様が一番最初に創った竜で、全ての竜の祖は彼の鱗から創られている。ラーちゃんは七色に輝く白金の鱗と威厳に満ちた金の瞳を持っていて、そのプライドは空を突き抜けてもまだ高い。頭の左右に二本ずつある角は黄金で、ふわふわの羽に覆われた翼は優美なのに力強い。ラーちゃんの鱗から創られた竜の祖達の翼は皮膜なのにラーちゃんは羽根がある。どうして?と神様に聞いたら「一番美しい竜は僕のだけで十分だからね」と、良くわからない答えが返ってきた。ラーちゃん自慢かな?


 ラーちゃんは私にはとても優しくて背中に乗って空を飛んだこともある。一見硬そうに見える鱗は触ると柔らかくて、私が寒いなと思うと温かくなって、暑いなと思うと少しひんやりと冷たくなる。まだ発音が上手く出来ない時に「ラーちゃん」と呼んでいいと言ってくれた。知的で優しい竜だ。


 時々神様の乗り物として精霊の森に遊びに来る。精霊女王たちとは普通に話すけど、脳筋の精霊王とは話が合わないのか嫌みの応酬をしてた。まあ、彼らと話が合う事はなかなかないから仕方ないよね。


 そして何よりも。神様とは凄く仲が悪い。神様考案のお仕置き魔法や嫌がらせ魔法は、神竜ラザンクリフォードの為に創られた。それでも一緒に暮らしているのだから良くわからない関係だ。


「あれ?神様人形作るんじゃなかったっけ?」


 いらないけどね。


 ティティスは手紙を咥えてすっと差し出した。


 読めばわかるのかな?


 封筒を開封して、手紙を読む。相変わらずの綺麗な文字だ。


▷やあ、大賢者。先日は愛の籠った贈り物をありがとう。◁


 籠めてはないよ。


▷手触り、抱き締めたときの感触は及第点だが、君を再現する素材選び、肌のキメの細かさ、髪の輝きや質感、瞳の透明感、細部に渡る作り込みがまだまだ甘いようだ。見本に僕の等身大人形と思ったが、僕を完璧に表現するための素材が後二千年経たないと採取出来ない。仕方なく代わりのものを創った。僕の駄竜の鱗を剥いで創ったぬいぐるみだ。本来なら等身大で作りたかったんだが、遊びに来ていたギルスに止められてね。女の子は等身大の本物の竜よりも可愛さ溢れる枕サイズが良いって。不本意ながらこのサイズにした。手本にするように。駄竜が煩いので、失敗作で構わないから駄竜用に大賢者人形を送ってくれ。作成用に剥いだ鱗と交換なのだそうだ。人形はティティスに渡すように。では、また。次に逢うのを楽しみにしているよ◁


 これが……………お手本?


 この細部にまで忠実に再現されたラーちゃんぬいぐるみがお手本なの???


 う、うーん………確かに………これじゃあ三十八点でも仕方ないかあ………。

 

 ラーちゃんぬいぐるみをふにふにしながら観察する。


「わぁ、羽の付け根にある小さな鱗もちゃんとあるよ。再現度が凄い。流石は神様だなぁ。素材はラーちゃんの鱗だっけ。多分他にも貴重な素材を使ってるよね?うーん……。ん?あっ!じゃあ私の髪とか爪とかを素材に加えればより質感が上がったのかも?」

「主様が嘆かれますのでご自分を素材に使うのはお止めください」


 シアに止められた。


「髪はまた生えてくるし、爪も伸びた部分を使えば……」

「大賢者様の髪は魔力の塊ですし、爪はほとんど伸びないではありませんか」

「ははは。だよねー」


 ダメかー。


「じゃあティティス、これラーちゃんに渡してね」


 ティティスに私人形を渡した。ティティスは人形を嘴でつんつんと突っつき、空間収納に納めた。やっと仕事が終ったとばかりにティティスはふっ、と息を吐く。


 そう言えばティティスは私宛に来ないでここに来てくれたんだよね。色々気を遣ってくれたのかな?ティティスも優しい神鳥だからね。


 いつからこの部屋にいたのかわからないけれど、私を待っててくれたお礼に光魔法の結晶石を作って渡した。神鳥ティティスも光魔法で創られた魔法生物だから、光魔法の結晶石は大好物。ピィ、ピィと喜んでパクリと食べた。ピカーと光って吸収される。少し毛並みが艶やかになったかな?ティティスはどうだ、とばかりに得意気に蔦さんを見上げた。蔦さんがビシ!バシ!と天井を打ち付けるのをふふん、と眺めた後。ティティスは優雅に羽ばたいて窓を透過して出ていった。


「バイバーイ。ラーちゃんによろしくねー」


 遠くでピィ!と返事が聞こえた気がして、バサリと羽音を最後にティティスは見えなくなった。


 天井をまだ叩きながらうねる蔦さんを見上げる。


「蔦さんもティティスの相手をしてくれてありがとう」


 少し赤く染まった蔦さんは照れたようにうねうねし始めた。


 ラーちゃん人形抱き締めてベッドにころんと寝転がってみた。シアも蛇に戻って枕の横にとぐろを巻く。

 

「抱き心地はいかがですか?」

「凄くいい……柔らかくて……でも弾力もあるし。サイズもピッタリだよ。等身大でなくて良かったぁ」

「そうですね。あの方のことですから等身大に拘るのかと思いましたが」

「ああ、うん、それね。ギルス様に止められたんだって。女の子は枕サイズがいいって」

「ギルス様?」

「あれ?シアは知らない?神様の神様友達だよ。ギルス様は他の世界の神様ね。ギルス様は他の神様が作った世界を渡り歩いて美味しい物や楽しいことを体験するのが趣味なの。たまに精霊の森にも来てるよ」

「そうでしたか。知りませんでした」

「はは、ギルス様の得意技は人や精霊に完璧に擬態する事だからね。ギルス様と認識したことがないとわからないのかも。神様はね。ギルス様の言うことは素直に聞くんだよ」

「それはまた……貴重な……」


 言葉を濁したシアにだよね!、と体を起こして同意する。


 だってあの神様だもんね。


「あ、でも以前神様の神殿にギルス様が長居したことがあったらしくて、その時は神様とラーちゃんで協力して追い出したって言ってた」

「追い出したのですか?」

「うん、そうみたいだよ。四ヶ月くらい神様の所でゴロゴロしてたみたい。その頃私が生まれたばかりで、様子を見に頻繁に精霊の森に来たかったのにギルス様が邪魔ばかりしてたから、流石に神様も怒って追い出したんだって。ラーちゃんが教えてくれた」

「神竜ラザンクリフォード様と協力を?あのお方が?」

「そう。なんだかんだと言っても、仲良しだよねー、ラーちゃんと神様って」

「そうですね」


 ふふふ、とシアと微笑みあっていたら、くぅ、とお腹が訴えてきた。


「おやつにしよっか」


 ラーちゃん人形は汚れないようにベッドに置いて、ベッドから降りる。テーブルに串焼きと飲み物を出した。シアも人型になってベッドから降りる。


 ソファーに並んで座って、いただきます、と串焼きを食べた。コカトリスの串焼きは相変わらずの美味しさで、シアとにこにこ笑い合う。


 うん。私とシアも、仲良しだよね。






読んでいただき、ありがとうございました。

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