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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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60. エルフの魔方陣


「リリー様。あの折り紙の鳥とはどの様なものなのですか?ミナからは連絡用の小鳥と聞きましたが」


 リタさんが控えめに聞いてきた。


「そう。連絡用の小鳥。魔力を通すと小鳥になって、念じた相手に伝言を託せるの。伝言を伝えたら戻ってきてまた折り紙に戻る。持ち運びも楽だよ」

「まあ、それはとても便利そうですね」

「小鳥はとても便利だよ。でも相手との距離で必要な魔力量が違うから気を付けてね。ミナちゃんの魔力量ならこの国の端と端位の距離を一日一回は使えると思うよ」


 神鳥と違って持ち主の魔力量で飛ばせる距離が変わるからそこは要注意だけど、まあ、そんな長距離の連絡はないだろうし。この町や王都辺りなら何度も使えるから便利だよね。


 ミナちゃんは人形を片手で抱き抱え、空いた手で折り紙を持ってリタさんに見せた。リタさんは触らずに観察して少し首をかしげた。


「これが飛ぶのですか?」

「飛んだよ!小鳥になって、くるくる飛んだの!」


 思い出したのかミナちゃんはまたぴょんぴょん跳び跳ねた。


「この鳥は風の早さで飛ぶから早いし、絆の強い人になら長文も託せるよ」

「絆?」


 ミナちゃんが首を傾げながら折り紙に魔力を流して小鳥に変えた。まあ!、とリタさんは口に手を当てて驚いた。アランさんは目をパチクリさせて、天井を旋回する小鳥を眺めている。


「そう、絆。目を閉じて、しっかりと思い浮かべることが出来る人の事だよ。絆は目には見えないけど、魔力で繋がってるの。この鳥はね、その魔力を辿るんだよ。だから顔を知らない人には送れないよ」


 絆が切れれば魔力も切れるから送れないし、相手が遠方ならやっぱり送れない。この折り紙の鳥は近距離用。人は魔素を取り込んで貯めて魔力にするから限界はある。神鳥のようにはいかない。


 私が手を伸ばすと小鳥はゆっくりと降りてきて、ちょこんと指に止まった。作成者だから小鳥も私には懐く。そっと頭を撫でると気持ち良さげにピィーと鳴いた。


 はい、とミナちゃんの手に近づけると、小鳥はぴょん、とミナちゃんの指に移動する。


 わあ、と嬉しそうにミナちゃんは小鳥の頭を撫でた。


「小鳥化は少しの魔力で出来るから、伝言を託さなくても時々は小鳥にしてあげてね。魔力が馴染むから。そうすれば必要魔力量が減るよ」

「そうなんだ。この鳥はこのままでいいの?」

「うん。魔力を使いきったら折り紙に戻るから、帰る場所を決めておくとそこで折り紙になるよ。伝言を託したときはミナちゃんの所に戻るけどね。小鳥化したときは自由だから」

「帰る場所?何処でもいいの?」

「いいよー。箱でも机でも何処でも。ミナちゃんが小鳥に指定すればそこが帰る場所になるよ」

「そっか。そうなんだ。うーん、何処にしようかな」


 再び飛び立った小鳥は魔力が切れたのかふわりふわりと折り紙に戻って落ちてきた。ミナちゃんの手のひらに着地する。


「もう戻っちゃった……」

「魔力が馴染めば段々長い時間小鳥化出来るよ」

「長時間……うん。毎日頑張るね!」


 もう一度小鳥化させようとしたミナちゃんの手をリタさんが優しく掴んだ。


「ミナ。何処を小鳥の家にするか決めてからにしなさいな。先程のように、空中で折り紙に戻ったら失くしてしまうかもしれないわ」

「うん。わかった。部屋に戻ってからにする」

「それがいいと思うわ」

「うん!」


 リタさんがミナちゃんの頭を優しく撫でた。ミナちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


 優しく暖かい光景に私まで嬉しくなっちゃう。ふふふ。


 にまにましていたら、アランさんが控えめに話し掛けてきた。


「リリー様。先程、ミナから聞いたのですが、ポーションが毒入りなのは本当ですか?」 

「うん。そうだよ」

「はぁ……なんてことだ……今までそんなものを販売していたなんて」

「ギルドもそうだったんだし、気にすることはないんじゃない?これからは毒なしを売ればいいし」

「そうですが……良心が痛みます」

「はは、アランさんはいい人だね。在庫の分は毒素を分解してあげるよ?」

「何から何までなんとお礼を申し上げればよいのやら……ありがとうございます」

「このくらい何でもないよ」


 では早速、とアランさんはカウンターの後ろから箱を取り出した。カチャカチャと瓶が鳴る。そこには小瓶に入ったポーションが二十本程並んでいた。


 一本取り出して光に透かしてみる。


 …………………あれ?


 もう一度、しっかりと見る。鑑定眼が発動して、気のせいではない事がわかった。


 【品名】ポーション

 【作成者】ミナ・シンドラー

 【作成時間】三分

 【必要魔力量】五

 【材料】ヒリリ草(精霊の祝福)二、トリポリ草(精霊の祝福)一、井戸水(精霊の祝福)三十

 【調合方式】古代錬金術式三式

 【成分】薬効100%(熱毒36%、腹痛毒18%含む)

 【効能】飲む:傷治癒(大)、解毒(微)

     かける:傷治癒(小)

 【作成中呼吸数】百七十八回

 【作


 ここまで!ふぅ……要らない情報が溢れるところだった。


 んと。やっぱり毒素が少ないよね?あれ?古代錬金術式なの?しかも三式???


「このポーション、良く効くって言われるでしょ?」

「はい。これは宿泊されたお客様と食事をされた方に販売をしておりますが、ギルドの物より効能が高いとの評判をいただいております」


 アランさんは少し誇らしげに微笑んだ。


 はは、やっぱり。ギルドのはもっと毒素が強いもんね。


「これギルドと作成錬金術が違うね」

「流石です。お分かりになりますか。これはハーフエルフの村に代々伝わってきている錬金術式なのです」


 なるほど。それなら納得。古代錬金術式は一万年前、三代目から前の錬金術式のこと。しかも三式は三代目の術式だ。ちなみに私が作成した錬金術は五式になるね。


 そっか。だからミナちゃんは違うって言ったんだ。今の錬金術式は術式の組み方も違うし使う錬金言語も違う。そもそもが穴だらけの術式だ。それを私が組み換えて補って今の錬金術の理解度でも発動できるように再構築した。古代錬金術を使い慣れているミナちゃんには難しいどころか何が描かれているのかさえ分からないのかもしれない。


「この錬金魔方陣はある?」

「ございます。少しお待ちください」


 アランさんはまたカウンターの奥へと向かった。


 とりあえずこのポーションに光魔法で解毒を施そうかな。


 ポーションの入った箱に手を翳して解毒作用する。手から光が溢れ、ポーションの瓶を光らせた。はい。解毒完了!


「わぁ!」

「まあ!」


 ミナちゃんとリタさんが近づいて箱を覗く。


「何したの?」

「魔法で解毒したの。これで薬効成分100%だよ」


 ミナちゃんは一本取り出してまじまじと観察した。


「……見た目は変わらないんだね」

「うん、そうだね」


 ただ解毒しただけだし。


 不思議そうにリタさんはミナちゃんが持っている瓶を眺めた。


「魔法で解毒が出来るのですか?」

「出来るよ。光属性があれば光魔法が使えるから」

「そうですか。光属性はとても珍しい属性ですからそう簡単ではありませんね」


 リタさんから諦めのため息が出た。


「光属性は珍しいの?なかなかいないの?」


 確か人族にも光属性はいたと思うけど。


「そうですね。全くいないことはないのですが、大抵は幼い頃に神殿か教会預かりになりますので、町で暮らしている光属性を見つけるのは難しいと思います」


 そうなんだ。ん?神殿?教会?なんで神殿や教会が光属性を集めてるの?教会って精霊信仰だよね?なんで???


 はてな?


「こちらがポーションの錬金魔方陣です」


 アランさんが戻ってきた。手には変色して所々破けているボロボロの大きな紙を持っていた。テーブルに広げてくれる。そこには古代ラトニア語で描かれた錬金魔方陣があった。作製者の魔力が残っているのか薄く光っている。紙はボロボロなのに魔方陣が使えるのは代々魔力を注いで使用していたからだ。


 術式は確かに三式で古代錬金術式だけど、使われている言語は元々のものとは違う。古代ラトニア語。それはエルフの言語だ。流石ハーフエルフの村。代々伝わってきている魔方陣はエルフの魔方陣だ。


 でも劣化が酷い。このままにしていたら数年で紙は朽ちる。


「少し弄ってもいい?」


 アランさんの了承の頷きを見てから、紙に魔力を流す。


 紙の素材は植物だから、緑魔法で『再生』した。紙が光って再生していく。穴は塞がり、植物繊維が増え、変色して黄ばんでいた紙の色が元の色へと戻っていく。『再生』は足りない部分を魔法で補って元の姿に戻す魔法だ。光が収まると、魔方陣が描かれた当初の紙になっていた。


 裏、表、と傷の有無を確認する。………大丈夫だね。ちゃんと再生できたね。よし。


「これで数百年は朽ちないよ」


 驚き目を丸くしたアランさんに微笑んだ。


「す」


 す………?


「す………すっごーいっ!!!」


 ミナちゃんは紙を持って上に下にと眺めた。


「うわっ、傷が無ーい!あっ、ここの穴も塞がってる!!ほら!お父さんが指で開けた穴!」

「あら、まあ、本当に塞がっているわ」


 リタさんもミナちゃんと一緒にまじまじと眺めた。


 アランさんは少し頬を赤くして、ミナだって破っただろう、と呟いた。私は端っこ少しだもん、とミナちゃんは反論する。あらあら二人とも扱いが雑だからよ、とリタさんは容赦がない。


 まあね。あれだけボロボロだったら強く持てば穴が開くだろうし、丁寧に扱っても錬金術の過程で薬草が当たれば破れるだろうし。恐らくこの錬金魔方陣が描かれたのは数千年前だと思う。ここまで維持できたのはアランさん達が代々丁寧に保管してきたからだ。同じように保管すればこの紙も数千年は保つかもしれない。


 ミナちゃんから魔方陣の紙を受け取ってテーブルに広げた。今度は魔方陣に魔力を注ぐ。魔方陣は淡く光り出した。


「この魔方陣は古代錬金術式の魔方陣だよ。今の錬金術とは全く違うし、言語は古代ラトニア語で描いてある」

「こだいって……なあに?」


 ミナちゃんは首を傾げて、アランさんを見た。アランさんは困ったようにリタさんを見て、リタさんはゆっくりと、わからないわ、と首を横に振る。


「古代っていうのは大昔のこと。この古代錬金術式はね、大体一万年以上前に使われていた錬金術式で、今ギルドとかで使ってる錬金術式とは全く違うんだよ。それにこれは古代ラトニア語で描かれたもの。古代ラトニア語は数千年前まで使われていたエルフの言語だよ」

「………エルフ?」


 ミナちゃんは目をパチクリして魔方陣を眺めた。


「そう。これはエルフの魔方陣。ハーフエルフの末裔の村だからこそ、だね」

「「「エルフの魔方陣……」」」


 アランさんとリタさんはミナちゃんの肩に手を置いた。


「ミナ。大切に使おう。この先もハーフエルフの末裔として誇りを持って」

「うん!」


 アランさん達は微笑み合った。


 あ、でもこのままじゃダメだよね?


「この錬金魔方陣のここの部分。これが薬草の毒素を分解する術式。だからここのポーションは効能が高かったけど、この魔方陣が描かれた時よりも薬草の毒素が増しているから、これだと毒素が残ってしまうの」

「そうなんだ」

「だからね、この部分を少し変えるよ?」


 指に魔力を流して術式の一部を消し、古代の術式の韻律に合うように毒素を分解する術式を組み立てる。種類や数値を固定するのではなく、全ての毒素を分解するように。もちろん、古代ラトニア語で、だ。


 よし。出来た。


「これで薬効成分100%ポーションが出来るよ。ギルドで渡した魔方陣はこれとは全く違うから難しいでしょ?使い慣れたこれを使えばいいよ」

「うん。これなら読める。大丈夫。あ、でも今の錬金術も勉強して使えるように頑張るから、貰った魔方陣は持っていてもいい?」


 ちょっと決意に満ちた目のミナちゃんが格好いい。でも何でだろう?一から勉強するのは大変なのに。


「それはいいけど。ミナちゃんは錬金術師になりたいの?」

「ううん。違うよ」

「?なら何で?」


 ミナちゃんは少し照れたようにふふふ、と笑った。


「だってあの魔方陣はリリーちゃんが作ってくれたんだよ?リリーちゃんの魔方陣。だからね、使えるようになりたいの。」


 ええっ?!私が作ったからなの?


 ミナちゃんは、お友達の魔方陣だもん、と微笑んでいる。


「………そっか。そうなんだ……」


 温かいものが心の奥から溢れだす。それは少し顔を赤くして、少し気恥ずかしいけど、止められない程に顔がどんどん緩んでいく。


「えへへ…………。嬉しい。……ありがとう」


 えへへ。嬉しいな。ふふ。そっかぁ。私が作ったからかぁ。えへへへへ。


 顔がにやけちゃう。


 ミナちゃんと目があった。ミナちゃんも照れて気恥ずかしそうにしている。


 ああ!もう!嬉しすぎてどうにかなりそう!


 ニマニマ、ゆるゆる、うふふ、としている後ろで、シアがアランさんにアルの方針と当座の対応と販売の仕方を説明してくれていた。流石はシア!わかってる。


 今の私には無理だ。嬉しすぎて口許がむずむずして舞い上がってる。くるくる踊り出したい気分!


 ホント、友達っていいなぁ!







読んでいただき、ありがとうございました。

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