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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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59. 暖かくて優しいものは


 シアと宿に戻った。


 でも宿までが長かった……。


 先ずは解体所にオークを納品しに行った。相変わらず怖い顔でフニャフニャ笑顔だから不気味なんだけど、カウンターにオーク出したら物凄く喜ばれた。オークの完品は高く買い取ってくれるんだって。メアリさんの言った通りだった。依頼よりも多い納品だから市場にも出回るって言われた。またオークの串焼きが食べられるかなぁ?うふふふふ。


 変なオークも納品したよ。色の変なオークには苦笑いされた。体の大きいオークには驚かれて、角のオークを出したら皆無言になった。いきなり部屋の隅に走り寄って円陣組んでぶつぶつ相談してる。「本物か?」とか「幻じゃないか?」とか「どうなってんだ?」とか。チラチラこちらを見る視線もおかしい。私は珍獣じゃないよ。でも完品は初めて見るとかで最後は泣いて踊ってた。泣くほど嬉しかったのかなぁ?高く買い取りたいけどギルドにはお金がないから売れたら支払われることになった。最低でも金貨二十枚にはなると言われたよ。


 オークと変な色のオークの分は支払ってもらったから、そのまま串焼きを買いに行った。ギルドを出たら陽は真上にあって、まだお昼頃だったから。タルトは食べたけど、夕飯まで時間はあるし、昼食に十本買ってシアと食べようかなぁって。


 こんにちは、って屋台に行ったら、串焼きのおじさんが物凄く心配してた。五日も姿が見えなかったから何かあったんじゃないかって。明日にでもギルドに行こうと思ってたって。ありゃりゃ。なんか皆に心配をかけたんだね。うん。反省。これからはお仕事の時はちゃんと皆に伝えなきゃね。


 今日はコカトリスの串焼き。お詫びに三十本買ったよ。明日も買いに来ると約束して、いつも買う飲み物屋さんに行ったら、やっぱり心配してた。……皆優しいなぁ。


 もしやと思ってよく買いに行くお店は全部回った。皆心配して、無事で良かったと喜んでくれた。なかには「怪我をしたら飲むんだよ」と、ギルドで販売してたポーション(毒入り)を渡してくれたりもした。ちょっと複雑だけど気持ちは嬉しいね。ありがとう、と貰っておく。後で毒素は抜いておこう。


 おまけだよ、と買った物よりも多くの品を入れてくれる人もいて、暖かさと優しさで胸がパンパンにいっぱいになった。


 嬉しいな……。どうやってお礼をすればいいかな。優しい町の皆に私は何が出来るかなぁ?


 シアも紹介できた。これからはシアにお買い物も頼めるね。一緒のお買い物も楽しそう。ふふ。シアとお出掛け。嬉しいな。


 そんなこんなでやっと精霊の宿り木に戻って来れた。もうおやつの時間に近いかも。


 心配をかけたアランさんにも謝罪とお礼を言わなきゃね。


 久しぶりの扉を開けて中に入った。


 受付前でアランさんとリタさんがミナちゃんとお話をしていた。扉の音に気付いてみんなが振り返った。


「あ、ただいま?」


 皆と目が合ったから挨拶した。ミナちゃんは「おかえりー!」と笑顔が返ってきた。


 その瞬間。ぎゅうぎゅうに抱き締められた。アランさんとリタさん同時に抱き締められてちょっと苦しい。


「よくぞ御無事で……!」

「心配致しましたわ……!」


 二人の声は涙声だ。


 あー、うん。きっと、物凄く心配をかけたんだよね。アランさんは徹夜して待っててくれたって言ったもの。うん。二度としないように気を付けよう。こんなにも暖かい人達を心労させたら駄目だ。


「心配掛けてごめんなさい。心配してくれてありがとう」


 抱き締められてるから手は動かせないけど、触れた誰かの体をポンポンと軽く叩いて、大丈夫だよー、と呟いた。


 リタさんはゆっくり体を離して、私の全身を上から下まで確認していく。


「お怪我はなさそうですが、どこか不調はございますか?」

「ないよー。大丈夫」


 アランさんも体を離してリタさんと同じように上から下へと確認した。


 ほっ……。やっと普通に息が出来る。


「御無事なようで安心致しました」


 やっと納得したのかアランさんは安堵の表情で私から離れた。


「ギルドに依頼してくれたって聞いたよ。ありがとう」

「いえいえ。余計なことだとは思いましたが雨が降っておりましたので。予定を過ぎてもお戻りにならないので、何か有ったのではと。安否確認だけでもと思いまして」

「心配掛けてごめんなさい。ちょっとお寝坊しちゃったみたい」

「そうでしたか。御無事なら良いのです。こちらこそ、お騒がせを致しました」

「ううん。嬉しかった。だから、ありがとう。あ、これ皆で食べて」


 串焼き二十本、アランさんに渡した。


「なんかね、いろんな人に心配をかけてたみたいなの。串焼きのおじさんもギルドに依頼しようと思ってたって」

「まあ。ふふ。リリー様はもうこの町の一員ですね」


 リタさんが私の頭を撫でながら穏やかに微笑んだ。


 そうかな?そうだったら嬉しいな。受け入れてもらえるのって、こんなにも心が暖かいんだね。


「リリーちゃんはギルド所属の冒険者だもん。もうこの町の人だよ!私のお友達だよねー」

「うん!そう!ミナちゃんとお友達!」


 ミナちゃんと手を取り合ってぴょんぴょん跳び跳ねた。あはっ!楽しい!!


「これ、ミナ。はしたないわ。リリー様はお疲れなのですよ?振り回してはいけないわ」

「えー!」

「リリー様にお詫びをしなさい」


 リタさんに窘められてミナちゃんの頬がプクっと膨らんだ。しぶしぶ手を離して、私にペコリと頭を下げる。


「リリーちゃん、ごめんなさい」

「大丈夫だよー」


 沢山寝たし、スイのタルトを食べたもん。元気いっぱいだよー!


「そうでしたわ。リリー様にお礼を。この度は娘に過分なお心遣いを賜りましてありがとうございました」

「ん?」


 過分な心遣い?んと……。


 首をかしげて考える。何かしたかな?


 ……………………。


 うん。わからない。何だろう???


 ミナちゃんがカウンターの裏に走っていって、何かを抱えて直ぐに戻ってきた。


「忘れちゃったの?お人形と!小鳥の折り紙だよ!」


 ミナちゃんは私人形と折り紙を抱えていた。


「ああ!」

 

 そうだった。そんなこともあったね。


 すっかり忘れていたよ。


「我が家の家宝に致します」


 ミナちゃんの肩を抱いてアランさんが深々と頭を下げた。


「私が貰ったんだから私の宝物だよ!お父さんのじゃない!」


 ミナちゃんが人形と折り紙の小鳥をぎゅっと抱き締めてアランさんから距離を取った。


「だがね、ミナ。ハイエルフ様の手作りの物など国宝級、いや世界級の宝物。祠を作ってお祀りしなければならないのだよ」


 いや、だだのハーフハイエルフだから。それに三十八点の失敗作だし。


 祠作って祀るって……何それ怖いよ。


 祠に祀られる私人形。……ぞわっ。想像だけで鳥肌が立つ。いや、無理!絶対に嫌だ!


 ミナちゃんの目から涙が溢れた。


「私が貰ったんだもん……お父さんのじゃないもん……」

「ミ、ミナ……」


 泣き出したミナちゃんにアランさんはオロオロしだした。リタさんはそんな二人をあらあら、と見守っている。


 私は鞄からハンカチを取り出してミナちゃんの涙を拭った。


「大丈夫だよ。これは失敗作だし。私はハーフハイエルフなんだし。これはミナちゃんにあげたんだからミナちゃんのだよ」


 それからくるりとアランさんを振り返ってにっこりする。


「普通で。普通の対応で。そうお願いしたよ?」


 最初にちゃんと言っておいたもん。


「で、ですが……!」

「私は神様じゃないもん。祠はなし。祀っちゃダメ。家宝にもしない。これはミナちゃんのだよ」


 じぃ、とアランさんを見つめた。お手本はフウが私を諭すときの視線。睨むのではなく見つめる。思いを届けるように。


「………わかりました。ミナ。それはお前の宝物だ。父さんが悪かったね。すまない」


 アランさんはミナちゃんの頭をそっと撫でて頭を下げた。


 アランさんはいい人だ。ちゃんと謝れる。自分の非を認めることが出来る人だ。やっぱりここの人達は温かい心の持ち主だ。


 ダンジョンが多いって理由でここを選んだけど正解だったね。


 それにしても。こんなにも暖かくて優しい人達の国なのにどうしてダンジョンが発生するんだろう?アル達王族も、町の人も、皆優しくて瘴気なんてないのに。………ん?そういえばどこかで瘴気払ったよね?あれ?どこだっけ。んー……忘れちゃった。


 首をかしげていたら、仲直りしたアランさんとミナちゃんが抱き締め合っていた。


 うん。


 仲良きことは良いことだよね。





読んでいただき、ありがとうございました。

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