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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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57. 今を楽しもう


 シアに抱えられながら、メアリさんとギルマスに続いて一階に降りた。相変わらずカウンターには長い列が出来ていて、ざわざわガヤガヤ騒がしい。


 カウンターの奥には扉が三つあって、一つは医務室で、一つは職員の休憩室、そしてもう一つはここ、会議室なんだって。少し広めの部屋に大きな机が一つあって、周りに椅子が並んでる。机の長辺の椅子を勧められたのでシアと隣り合って座る。ギルマスとメアリさんは対面に座った。


「すまなかった」


 がばりと机に両手をついてギルマスが頭を下げた。メアリさんもそれに倣う。


 ん?はてな?何か謝られることあったかな?


 シアと顔を見合わせて困惑していると、頭を上げたギルマスが、サブマスのことだ、と顔をしかめた。


「あれはあの人の責任であって、ギルマスやメアリさんのせいではないよね?」

「でも、ギルドの者だわ。ましてや即死の魔法なんて謝って許されることじゃないもの」

「んー、でも即死の呪いだったし、少しは気が咎めたのかも?」

「呪い?魔法とはちがうのか?」

「違うよ。魔法はほぼ即死だけど、呪いは三十秒間のカウントダウンがある。だから解呪も知ってれば出来るし、死ぬことはないよ」

「それって誰でも解呪できんのか?」

「初心者は無理かな」

「だよな。やっぱり有罪だな」


 メアリさんがうんうんと力強く頷いた。


「二階もメチャクチャだったもの。しっかり反省してもらわないと!」


 あー。確かに。廊下に出てびっくりしたよ。絨毯は焼かれていて、天井も床も壁も黒い煤がべったりついていた。ギルマスも焦げるわけだよね。


 メアリさんはギルマスを上から下へと観察して、呆れたように首を振った。


「それにしても、ギルマスよく焦げただけですみましたね。二階の惨状を鑑みると相当な炎だったのでは?」

「いや、熱かったぞ。服も焦げたしな」

「それで済むからおかしいんですよ。はぁ……。しかも誰も騒ぎに駆け付けないなんて。皆に見捨てられたんですか?ギルマス」

「うるせいっ」


 あっ、忘れてた。


「私が二階に遮音結界してたの。今解くね」


 ぱん、と手を叩いて結界を解いた。


「これで二階の音も聞こえるよ」

「そんな事をしていたのね」

「きっと騒ぎになると思ったから。邪魔が入らないようにしないと報復出来ないでしょ?」

「…………時々、リリーちゃんが怖いわ」

「こいつ、ギルド壊す気満々だったよなぁ」


 そんなジト目で見られたら怖いよ、ギルマス。泣いちゃうよ?


「リリー様が怯えます。その怖い顔を直して下さい」

「…うるせぇよ」


 ギルマスはプイッと横を向いた。


 ほっ。少し怖くなくなった。


 ありがとう、シア。


 シアを見上げてにっこり笑ったら、シアからもにっこりが返ってきた。ふふ、嬉しいな。


「羨ましいくらい仲が良いのね。見ていて微笑ましいわ」

「メアリさんも大好きだよ」

「あら。嬉しい。私もリリーちゃんが大好きよ」


 メアリさんともにっこり笑う。三人でにこにこしていたら、顔を戻した(やっぱり怖いけど)ギルマスが、お前らな、とため息を吐いた。


「に、してもだ。擁護する訳じゃねえが、サブマスを恨まないでやってくれ。あいつは真面目で頑固で融通はあまり効かねぇが悪い奴じゃないんだ」

「そうなのよ、リリーちゃん。サブマスは昔から銀髪金目のハイエルフに怯えていてずっと見つからないように隠れ住んでいたの。このギルドにも百年以上隠れていたはずよ」


 百年以上も隠れていたの?!それって凄い!私なんて一年も我慢できないよ?


「ハイエルフなんて存在は珍しいからな。ギルドに現れたお前が性別も年齢も変えてきたんじゃねぇかと疑ってよ。俺達も別人だと言ったんだが信じなくてな」

「そういうところは本当に頑固なのよ、あの方は」


 やれやれと首を振るメアリさん。確かにサブマスはしつこくて、陰険で、考えなしに思ったけど、相手が大賢者だと思っていたのなら納得してしまう。地上の誰よりも魔法に精通している大賢者相手に、通常の攻撃は意味がない。だから執拗に……。


 ……ああ、そっか。


 分かってしまった。納得してしまう。私が年齢も性別も詐称していると思い込んでいたから、解呪や解除の魔法を込めた魔道具渡してきてたんだ。そしてそれも効かないから、最後の手段で持てる攻撃魔法や状態異常魔法で正体を暴こうとしたんだね。


 うん。必死だね。必死過ぎる。そんなに大賢者が嫌いなのかなぁ。それとも先代が?知らない人に意味なく嫌われるのは……少し寂しいな。……先代、何したんだろう。そこまで嫌われる理由って、何?


「許してとは言わないわ。でも、あの行動にも理由が有ったことは知っておいてほしいの」

「んー、許すも何も、もう報復?お仕置?したんだから何とも思ってないよ」


 すっきりだよ!


「恨まねぇのか?」

「恨む?何で?」

「何でってお前、執拗に攻撃受けて、即死までされたんだ。普通は怒り狂うだろうが」


 ええ?そうなの?


「だって人違いだったって気付いてくれたし、氷が融けてるのは心からの反省の証だし。実害はなかったし、そもそもあの人とは初対面だし。タルト時間邪魔された怒りはあったけど、お仕置きしたからもうスッキリだよー」


 恨む程の知り合いではないもん。大体恨むって何?そんな負の感情抱えててもご飯が美味しくないもん。恨みから発生した怒りの負の感情は破壊ばかりで何も産み出さない。恨みは恨みを産むよ。それよりも、そんなことに時間を使うよりも、美味しいもの食べて、楽しいこと考えて、私は私のために時間を使いたい。恨む相手のことばかり考えて、恨みを晴らす方法ばかり考えて、そんな楽しくない嫌いな相手の事に時間を使うなんてもったいないもん。私はそんな人のために一秒だって使いたくない。世界には美味しいものや楽しいこと、素敵なことや知らない神秘がまだまだ沢山あって、それに出会う時間は限られるんだから無駄なことに使ってる場合じゃないよ?形あるものは壊れてしまうし、素敵な物は永遠に生み出されるわけじゃない。今しか見れないもの、今しか味わえないもの、今しか出来ないことはいっぱいあるんだから。


 私のこのおつかいだってそう。十年早くても、遅くても、今の人達とは出会えなかった。私達にとって十年はお昼寝時間程度だけど、人にとっては違う。今、この時に、おつかいに来れて本当に良かった。優しい人達と美味しい料理。私は今がとても楽しいんだよ。


「さっぱりしてるというか、男らしいというか」

「ん?私は性別女の子だよ?」

「ふふふ。きっと、リリーちゃんは楽しいことと素敵なことで出来ているのよ。女の子は基本皆そうだけどね」


 ぱちり、とウィンクしてメアリさんはとても素敵に笑った。


 シアがそっと頭を撫でてくれた。見上げたら、優しい眼差しと目が合った。


「リリー様が楽しいと、私も楽しいですよ。ずっと、ずっとそのままでいてくださいね」


(どんなことが有っても変わらずに……)


 少し悲しげなシアの心の声が聞こえた気がした。シアに思いっきり抱き付く。


『大丈夫。私は変わらないよ。優しい気持ちは皆がくれた。楽しいことは森の皆が教えてくれた。素敵なことは世界に生きるメアリさんやアル達からもらってる』


 私は絶望したりしない。先代のようにはならない。この世界の形は、ちゃんと私が守る。


 決意を新たにした私の中に、もうサブマスの姿は微塵も残っていなかった。


 さぁ、依頼を報告して、報酬もらって、串焼き買ってミナちゃんの所に帰ろっと。


 あ、蔦さん元気かなぁ?








読んでいただき、ありがとうございました。

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