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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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56. 理由


 まあ、とりあえずは、挨拶からだよね。フウが、どんな時も初対面では挨拶からですよ、と言ってたもん。


「えと、初めまして?」


 ギルマスと言い合いしていたサブマスのエルフはくるりと私を見て、じとり、と半眼になった。


 えー、怖い。


「……初めまして?本当に初めましてですか?あくまでも初対面だと言い張る訳ですか……」

「初対面だよね?」


 シアに首を傾げると、はい、初対面です、と返ってきた。ほら、やっぱり初めましての人だよ。


 うん?とサブマスは眉間にシワを寄せて、じぃ、と私を観察している。何だろ?


「あ、でもあなたの魔力は知ってるよ。メアリさん使ってへぼい魔法付与の装飾品贈ってきた変態だよね?」

「へ、へぼい?変態?!」

「だってミナちゃんがそういうのは変態だって教えてくれたもん」


 ちゃんとミナちゃんに聞いておいたの。要らない装飾品贈ってくる人がいて迷惑してるって。そしたらミナちゃんは、それは変態だから自警団か騎士団に相談した方がいいよ、って教えてくれた。今度アル達に相談しようと思っていたんだ。


「ぷっ!」

「プハっ!」


 傍でメアリさんとギルマスが吹き出した。


「へ、へ、へ、変態ですって……!」

「ガハハッ!へぼい魔法だってよっ!言われたなぁ!サブマス!」


 サブマスは苦虫噛んだような顰めっ面で、ぐぬぬぬ、と唸ってる。反論がないということは、やっぱり変態なんだ。


「さっきも攻撃してきたでしょ。この部屋には私以外にも人がいたんだよ。私が反射してたらどうなっていたと思う?火魔法や毒に麻痺はともかく、即死の呪いはダメでしょ、絶対」


 あれは人に向けちゃダメなんだよ?毛皮を傷付けずに狩りをするときの魔法なんだから。


「そんなんやったのか!?」

「それはアウトですよ、サブマス」


 ギルマスとメアリさんはぎょっとした顔で、サブマスを見た。サブマスは少し焦ったように弁明をする。


「い、いえ、違うんですっ」

「何が違うんだ?」

「何も違いませんよね?それともその魔法は使用していないのですか?」

「た、確かに即死の呪いは掛けましたが……」

「やっぱり掛けたんじゃねぇか」


 はぁ、とメアリさんは呆れたように首を振る。


「有罪ですよ、サブマス。認めないとはサブマスらしくありませんよ」

「で、ですがっ。どうして無事なのですかっ!反射もせずに攻撃受けてましたよね?!」


 サブマスは私を指差して喚いた。変な人を見る目で見られてる。変態にそんな目で見られたくないなぁ。


 あと、人を指差すのもお行儀が悪いんだよ。フウが見てたら叱られるよ?


「だって、私には一切の魔法無効だもん」

「なっ……!?」


 サブマスは絶句して固まった。ギルマスとメアリさんは、だよな、とかリリーちゃんだからね、とか言いながら頷いている。


 何故かシアは、リリー様ですから、と得意気だ。


「と、言うことで、報復は必要だよね?」


 シアはうんうんと頷いている。


 では、早速。


 両手に魔力を集めて魔法の珠を作る。それを圧縮して、と。高出力だからね。当たったら遥か彼方に飛んでっちゃうよ。名付けて魔力弾かな?


 バチバチと魔力が両手から放電する。もっと。もっと、だよ。ふふん。


「ま、待って!リリーちゃん!」


 メアリさんが必死の形相で近寄ってきて、危ないですよ、とシアに止められた。


 とりあえず、そのまま魔法は維持する。こんなの簡単簡単。


「ん?なあに?メアリさん」

「ギルドは、ギルドは壊さないでくれるわよね?」

「………壊したら駄目なの?」

「壊さないでくれると嬉しいわ」

「壊したらメアリさん、困る?」

「ええ、ええ!働くところが失くなっちゃうもの」

「そっか。メアリさんが困るならギルドは壊さないでおくね」


 にっこり笑ってから、バチンと両手を閉じて魔力弾は消した。優しいメアリさんを困らせてはダメだよね。バチバチと放電の余波が布団を焦がしたけど、後で直しておこうっと。


 ほっとした笑顔でメアリさんは、ありがとう、と呟いた。壊す気だったのかよ、と呆れた顔のギルマスは立ち上がると、サブマスの襟首掴んでポイっとベッドの方に放り投げた。


 べしゃ、とシアの足元に落ちる。


「ま、お手柔らかに頼むわ。これでも貴重な人材なんでね」


 サブマスはきっ、とギルマスを睨み付けながら半身を起こした。あ、シアがローブの裾を踏みつけてる。あれじゃあ立てないよね。


「何ですかっ!人を猫みたいに!庇う選択肢はないのですか」

「ねぇな。人に即死魔法はやっちゃいけねぇルールだ。サブマスなんだからルールは守りやがれよ。破ったならお仕置きが必要だろ」


 うんうん。ギルマスは顔は怖いけど、ちゃんとした人だよね。


 さて、お仕置きかぁ。報復でなくて、お仕置きでいいのかな?まぁ、実害なかったし、お仕置きに変更しようかなぁ?


 もう一度両手に魔力を集める。今度は温度を下げるよ。バチバチと青白く魔力が放電する。


「なんか見覚えがあるな」

「あれ、ギルマスを凍らせた魔法じゃないかしら?」


 ふふふ、大正解!


 お仕置きなら、これだよね?ギルドも壊さないし、環境に優しい。流石は私。えへん!


「ちょ、ちょっと待っ……」


 もっと、もっと低く。絶対零度よりも下げないといけない。世界の理から外れたあり得ない程の最冷温に。魔力は気化し、両手の間に最冷温の空間が完成。ギルマスの時は簡易牢獄だったけど、これは完全牢獄。簡単には破れないよ。


「待って下さい!本当に私を知らないのですかっ!」


 少し青ざめた顔でサブマスは私を仰ぎ見た。


「知らない」


 サブマスは愕然と床に手をついて肩を落とした。


「ほ、本当に別人なのですか……?」


 ごちゃごちゃ煩いね。さっさとお仕置きしちゃおう。


「では、お仕置…」

「まだ!待って下さい!」


 サブマスはまた半身を起こして私を見つめた。その真剣な眼差しに、詠唱するのを止めた。でもいつでも発動出来るように、両手の低温空間は維持しておく。


「で、では銀髪に金の瞳の男は知りませんか。高飛車で、傲慢な顔をしています」


 銀髪に、金の瞳?私は七色の虹彩の金の瞳だけど、男じゃないし。高飛車で傲慢でもないと思う。誰かな?


 首を傾げてシアを見たら、冷めた目でサブマスを睥睨していたシアが私を見てにっこり微笑んだ。


『おそらく先代様かと』

『えっ、そうなの?』

『はい。先代様は確かに銀髪に金の瞳の男性で、高圧的な方であったと記憶しております』

『そっかぁ』


 私が生まれる前なら私は知らないよね。


 それにしても、先代かぁ。……うん。先代と間違われて攻撃されてたのかな?すっごい迷惑。


『もしやこのエルフは先代様に眷属になれと要求されていたのかもしれませんね。先代様の眷属は任期が短く、入れ替わりが激しかったのですが、よくエルフを採用していましたので』

『それで逃げていて、私を間違えて攻撃した?』

『おそらくは』

『それは迷惑だよね、凄く』

『はい。報復……いえ、お仕置きが必要かと』

『だよね。……ん?あれ?この人、先代が大賢者だって、知ってるのかな?』

『どうでしょうか。ですが、その可能性は高いかと』


 ふーむ?だったら聞けばいいよね。


「サブマスはそれが何者か知ってるの?」


 サブマスは驚いたように目を見開いた。


「し、知っています。知っているからこそ、見つからないように隠れていました!」


 サブマスはこくこくと何度も頷いた。


 シアの推測は大正解!


「そっか。その銀髪で金の瞳の男はもういないよ。だからもう隠れなくても大丈夫」 

「それはどういう………」


 サブマスは訝しげに首を傾げたけど、私をまじまじと見つめて、また驚いたように目を見開いた。


「はっ。まさか……貴女が?………貴女がそうなんですか……?」


 あれ?気づいた?


「よくわかったね。そう。今代は私だよ。まだ百歳だけど」

「百歳……?では、まさか本当に?」

「うん」

「……も、もしや今は。おつかいの最中、なのでは……?」

「あ、よく知ってるね。そう。そうなの。おつかいで来たんだよ」

「で、では。本当に、私の勘違い、だった、と……」


 私は何て事を……!とサブマスは床を見つめて震えだした。後悔も悔恨も大事だけど、それで許される訳じゃないよ!


「そう!勘違い。間違われて攻撃されたんだからお仕置きは必要だよね?では。遠慮なく」


 シアがそっと踏みつけていたローブから足を引き、数歩後ずさった。


 呆然としているサブマスに向けて魔法を発動する。


「『氷の牢獄(アイス・プリズン)』!」


 バキィィィ!


 サブマスの氷柱の出来上がり。


「ほう。外から見るとこうなってんのか」


 顎をジョリジョリ擦りながらギルマスは上から下へと眺めながらくるりと氷柱の周りを回った。


「これ、触っても平気か?」

「大丈夫だよ。ギルマスに掛けた簡易牢獄じゃなくて完成形だから、何しても壊れないよ」


 ギルマスはコンコンと氷柱を叩いた。


「えっ?まさかサブマスはこのままなの?」


 メアリさんは、完全に凍りついて動かないサブマスを呆然と見た。氷柱の中のサブマスは床に手を付いたまま呆然とした表情で空中を見ている。


「ちゃんと生きてるよ。今は凍ってるけど。心から悔い改めれば氷は融けるよ。それまでは永遠にこのままかな」


 神様のお仕置きはシリーズは反省したら出られる仕組み。でもそれは心からであって、口先だけではダメ。この人は大丈夫だね。もう、氷が融け始めてる。


「あ、そうなの」

 

 シュワシュワと湯気を出す氷柱にメアリさんはほっとした様子だ。


「まだ書類が山積みなのに凍ってる場合じゃないでしょう」


 真顔の呟きが怖いよ、メアリさん。


「このままほっときゃいいだろ」

「そうね。水浸しになるかしら?」


 メアリさんは絨毯を気にしてる。確かにびしゃびしゃになったら困るよね?でも。大丈夫!


「ならないよ。気化するだけ」

「「気化?」」


 二人はそろって首を傾げた。


 あれ?これ、難しい言葉かな?


「あー、んと、空気になる?」

「おお、そうか。なら心配いらねぇな」

「そうですね。放っておきましょう。リリーちゃんはどう?大丈夫そうなら下に行きましょうか」


 あ、うん。大丈夫。あ、でも。


「お布団を焦がしちゃったから直さないと」

「うふふ。いいわ。それ、サブマスにさせるか弁償させるから」


 とても良い笑顔のメアリさんに少し背中がぞっとしたけど、シアが抱き上げてくれたから、そのまま見なかったことにして、シアに抱き付いた。


 シアは一度ぴたりと止まったけど、とても優しく丁寧にぎゅっ、と抱き締めてくれた。


 はぁ、温もりって安心する。


『シア、大好き』

『……私もですよ、大賢者様』


 そのまま、メアリさんに続いて部屋を出た。









読んでいただき、ありがとうございました。

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