55. 正体
ずるずる……ずるずる……ずるずる……。
「何だよっ!これは!何なんだ?!」
「ぎやぁ!!!離しなさい!これもあの男の仕業ですねっ!……ぎやぁ!!!」
二つの叫び声と何かを引きずる重たい音が聞こえた。
ん?二つ?
ずる、ごんっ、ずる、がんっ、ずる、がごんっっ!
「痛いっ、痛いっ、痛いっ。これ!ギルマス!暴れないでっ!壁に頭がぶつかりますっ!」
「駄目だ!引きちぎれねぇ……!何だこいつ!新手の魔物かっ!」
「こうなったら火魔法で燃やしましょう!ギルマス!少しの火傷は我慢しなさい!」
「止めろっ!燃やすな!やめてくれぇぇ!」
「「「…………………」」」
半眼のメアリさんと目が合った。はぁぁ、とお互いにため息を吐く。
蔦さんは精霊の加護があるから属性は光属性になってて、火魔法は効かないよ?
ガチャリ。
扉が開いて、ポイっと、ギルマスと長い金髪の薄汚れた人が放り出された。
パンパンと葉を叩いてホコリを落とした蔦さんは、しゅるしゅると鞄に戻る。ありがとう、と葉を撫でたらくねくねして葉っぱがほんのり赤くなった。照れてる?
金髪の人は、痛たたた、と顔を上げて、私と目が合った。綺麗な緑の瞳だねぇ、と思ったら、ずささささぁーと這うように壁際まで後退した。
壁にべたりと張り付いて、私を凝視する。
んん?何かな?でも、この人だよね?私を攻撃していたのは。
「ってーなぁ……もうちっと優しく解放しろや………って、お?何だ、嬢ちゃん。目ぇ覚めたのか?」
ギルマスがむくりと起き上がった。あれ?服が所々焦げてるよ?
「おはよう?こんにちは?何でギルマス焦げてるの?」
「何でってサブマスの奴が火魔法で俺ごと燃やしやがったからで………おい。その腰の鞄からふよふよ出てるのは俺を捕まえた蔓か?」
「これ?蔦さんだよ。私を攻撃していた人を捕まえてもらったんだけど……ギルマスは関係ないよね?」
「ったりめーだ。何で俺がお前を攻撃するんだよ?」
「だよねぇ?」
じゃあ、あれかな?
「もしかして蔦さんに攻撃した?」
「おう、したぞ。いきなり部屋に入ってきて天井壊してサブマス捕まえやがったからな。叩き切ろうと剣振り上げたら捕まっちまった」
なるほど。蔦さんの自衛だね。
「それはお前の魔法か?」
「これ?違うよ。蔦さんは蔦さん。お友達、かなぁ?」
「………そうかよ。物騒な友達連れてんなぁ」
「全然物騒じゃないよ。蔦さんは凄い蔦さんなんだよ。色々お手伝いしてくれるの。この蔦さんは私の鞄が居心地いいんだって」
「このっつーことは、まだいんのか?」
「宿に本体がいてお留守番してくれてるよ?この蔦さんは二号で、三号はお城で錬金術師と仲良しだよ?」
「……そーかよ。……あんま勢力伸ばさねぇよーに頼むわ」
「わかった」
ギルマスの諦めたような呆れたような眼差しに蔦さんもペコリと頷いた。
はあぁぁぁ、と大きく息を吐いたギルマスは、部屋をぐるりと見回して、どかりとその場に胡座をかいた。
「それで、嬢ちゃんはもう大丈夫なのか?」
「うん。寝てただけだよ」
「はあぁぁ?ったくよ。心配掛けやがって。まあ、無事ならいい。問題ねぇんだな?」
「体調なら大丈夫」
「そうかよ。安心したぜ。で?お前は誰だ?そこにいるんだったら嬢ちゃんの関係者だよな」
ギルマスが静かに佇むシアを睨んだ。だいぶ慣れたけど、やっぱり顔怖いよぉ……。
シアは静かに微笑み、すっと一礼した。
「私はリリー様の叔母の従者です。この度主の命により、リリー様の従者として付き添っております」
「ま、そうだろうな。いくらハイエルフでもこんなチビッ子一人で人の世界にはやらねぇわな。俺はギルマスだ。そこでへばりついてるのはサブマス。ま、よろしく頼むわ」
「はい」
ギルマスはふん、と腕を組んで壁のサブマス?をぎろりと睨んだ。
「で、サブマスはいつまで壁の装飾品でいるつもりだ?ってーか、攻撃って何だよ」
ギルマスの凄みにも動じずに、サブマスは私を凝視して、ぶつぶつと呟いてる。
「……本物の幼女?……いえいえ、騙されてはいけません。あの男ならこのくらいやります。……しかし、私を見ても豹変しないのは変ですね。では、やはり……?いえ、これも何かの罠かも知れません。私を確実に捕らえるための。いくらハイエルフとはいえ、おかしいではありませんか。存在値が桁外れです。確かに微妙に違いますが、あの男に匹敵するなんてあり得ません。……いえ、微妙に違いがあるならば別人なのでは?それにしても…………」
「……マス。……サブマス。くぉうら!サブマス!!返事くらいしろ!ぶつぶつと訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」
どごん!とギルマスが床を拳で叩いた。
ようやく、眉間にシワを寄せたサブマスが珍獣を見るかのような視線をギルマスに送る。
「騒がしいですね。何事ですか。だいたい石造りとはいえ、ギルマスの馬鹿力で叩いたら床が抜けますよ」
「てめぇが返事しねぇのが悪いんだろうがっ」
「おや。人のせいとは感心しませんね。そんなだから脳筋と言われるんですよ」
……仲が悪いのかな?
「あー、違うのよ?リリーちゃん。この二人はウマとノリが合わないだけで仲は悪くないのよ」
そういうのを、仲が悪いというんじゃあ……うん。関係ないね。黙っていよう。
ぎゃあぎゃあ言い合う二人は放っておいて。サブマスを観察してみる。
先程のぶつぶつ独り言からすると、サブマスは私と誰かを間違えているみたい。私は男じゃないし、捕まることを危惧してるみたいだけど、この人とは初対面だ。初めましての人を捕らえる事はしないよ。攻撃されたら別だけど。それに存在値を知っていて、それを計れるなんて普通じゃない。
うん。これはあれだよね。うん。
いい加減にしてください!、とメアリさんが仲裁に入った。皆の視界から私が外れたから、こっそり『端末』を呼び出した。金髪失礼男を簡易検索する。
【名前】リーングルド・ユグドラース
【種族】エルフ
【年齢】272歳
【職業】冒険者ギルドシアラ支部サブマスター
あれ?この人エルフだ。あ、ホントだ。耳が長くて尖ってる。気付かなかった……。
あ!そっか。だから存在値知ってたのかな?
存在値は構成しているヴィダの量の事。世界に存在する生き物は大体が一から三くらい。人族は一。獣人が三。エルフでも十前後。ハイエルフは百くらいかな?私は世界が約一万年かけて貯めたから九千以上ある。私が誕生して百年。世界は次の大賢者を産み出すために今もヴィダを少しずつ貯めている。一万年の大仕事だ。存在値が十を越えている者は他者の存在値を知覚できると言われている。こればかりは生まれた時に決まるから一つの才能かもね。
ちなみに植物の存在値は一しかない。それでもみんなが私に優しいのはリョクの加護のおかげ。基本植物は語り掛ける人には優しいけど、リョクの加護がずっと《大賢者様でーす。大賢者様ですよぉー》と叫んでいるので、植物は敬意を持って接してくれるんだよ。あ、精霊は五百から千くらい。だから彼等に私の正体バレバレなの。存在値だけは変えられないからね。
それにしても、エルフに嫌われれ攻撃される覚えはないんだけど。人違いにしても、ちょっとひどいよね?
読んでいただき、ありがとうございました。




