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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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53. 美味しいは正義


 メアリさんが戻ってきた。


「一人美形が増えてる?!」


 シアはもう一度同じ自己紹介をした。


「メアリよ。ギルドの職員。それで従者さんは冒険者登録するのかしら?」

「いえ。私はリリー様のお世話をしますので」


 はにゃ?お世話?


「私にお世話は必要ないよ?」


 首を傾げたら、シアがふふ、と笑みを浮かべた。


「知っておりますよ。リリー様がお一人で何でも出来ることは存じております。ですが、私がリリー様のお世話をやりたいのですよ」


 させてください、と微笑みで訴えかけられて、渋々了承する。赤ちゃんじゃないんだけど。


「シアがしたいなら………仕方ないけど………」


 シアの笑みに喜色が浮かび、ぱぁ、と翡翠の瞳が輝いた。


「ありがとうございます。では、手始めにその乱れた髪を整えましょう」


 シアはうきうきと懐から櫛を取り出して、(っていうか、どうしてそんなところに櫛が?!)解けかかっていた紐をするりと外して梳かし始めた。


「出来るの?」

「先日のミナ殿の手を見ておりましたので。主様に練習させて欲しいと願いまして、リリー様の為ならばと練習台になっていただきました。フウ様に」


 えっ?!スイではなくて、フウなの??


 練習の成果かすいすいと編んで纏めてくれた。


「ありがとう、シア」


 シアに微笑んだら何やら不穏な気配を感じて其方を見ると、ミナちゃんが頬を膨らませて拗ねていた。


「リリーちゃんの髪の毛は私が編むのにぃ。シアさんが上手すぎて文句が言えないよぉぉぉ」


 ありゃりゃ。


「大丈夫ですよ。ミナ殿。普段はお任せいたします。私は戦闘などで乱れた時に直せるよう練習したまでです」

「じゃあ、朝は私で夜はシアさんでいいよ」


 謎の協定が結ばれ、ミナちゃんの機嫌は戻った。よく分からないけど、ほっとした。


 あ、そうだ。


「あのね、シア。その、渡してくれた?皆、喜んでくれたかな……」

「はい。大喜びでしたよ」


 ほっ。良かったぁ。


「それは、その、あの方も?」

「ええ、もちろん。大喜びで人形と踊っていましたよ」


 えっ?その情報はちょっといらないかも。


「ほくほく顔で帰られましたよ。嵐去る、とエン様が泣いて喜んでおりましたね」

「そっかあ。良かった」

「ああ、伝言をお預かりしておりますよ」

「伝言?」


 何かイヤな予感がする。


「三十八点。ディテールが甘い。作り込みが浅い。とのことです」


 ガーン!!!


 さ、三十八点……?ええ?!低すぎない?あぅ…………三十八点かぁ。はぁぁぁ。そんなぁ………。


 鞄から失敗作百五十三号を取り出した。素材が足りなくなったから殆どが分解して再利用したけど、最後の十一体は殆ど差がなく出来たからその中で一番良いものを渡したのに。


「ディテールが甘い?甘いって何?何処が?」


 私人形を握りしめて凝視してたら、ミナちゃんのキラキラ笑顔が視界に入った。ちらりと見ると物凄く期待に満ちた目と目が合った。


「それ、何?」

「えと、えと、………………………私人形?」


 うわぁ………、と離れた所でライとメアリさんがドン引きしているのがわかった。ジェドさんも目をそらして腰が引けてる。


 自分の人形作るか?、って目が言ってる。


 わかってるもん。私だって嫌だったもん。恥ずかしいの我慢したのにぃ。


 でも、何故か。ミナちゃんは大喜びでぴょんぴょん跳ねた。


「リリーちゃん人形!いいなぁ。可愛いなぁ」

「でも、これ三十八点だよ?」

「関係ないよ。リリーちゃんだよ?リリーちゃんのお人形。リリーちゃんの可愛さが溢れてるよ」


 そ、そう?そうかな?えへへ。そんなに褒められると嬉しいなぁ。


「じゃあ………いる?これ?」

「くれるの?!いる!欲しい!わぁ!やったぁ!」


 手渡すとぎゅっと抱き締めて、リリーちゃんの手触りだ、と大喜びのミナちゃん。


 そうだよね?頑張って造ったよ?


 もう一体失敗作百五十五号を取り出して、凝視する。爪の形まで拘ったよ?髪の毛の手触りだって、シアが何度も撫で比べてダメ出ししたし。……三十八点。何が足りないんだろう。


「リリー」


 アルの声に其方を向くと、にっこり笑顔のアルがいた。


 にこにこにこにこ。


 笑顔の無言の圧力が怖い。


 にこにこにこにこ。

 

 な、何だろう。何が言いたいのかな?


 すっと、アルの指が人形を指した。


 ……………これ?


 無言で頷くアル。


「「……………………………………………………」」


 しばらく見つめ合い、根負けした。


 そっと差し出すと、アルは丁寧に受け取り、人形の頭をひと撫でして、大事そうに鞄に仕舞った。そして、何事も無かったように、微笑んでいる。


 うん。何もなかったことにしよう。突っ込んではいけない気がする。


 それにしても、三十八点かぁ。


 人形は出さずに考えた。私は学習するのだ。


「それから、追加の伝言です。僕が直々に素材を集め、僕人形を作って贈ろう。お礼と見本だよ、だそうです」

「え?いらないよ?」

『寝るときに抱き締められるよう等身大で造るそうです』


 何でそこは念話?!えっ?等身大?邪魔でしょ?そんなの。


 でも…………見本が必要な程、ダメな出来だったんだぁ……。そっかぁ………。そんなにかぁ………。


 ずどーんと落ち込んでいたら、シアがぽんと手を叩いた。


「失念しておりました。主様よりリリー様に贈り物をお預かりしておりました」


 スイから?わぁ!何だろう?!


 シアは空間に両手を突っ込み大きなお皿を取り出した。


「寝起きはお腹が空いているだろうからと、此方のベリータルトをリリー様に」


 直径五十センチ程の大皿に同じ程のベリータルトが乗っていた。森の木苺や野苺など森で採れるベリー系がふんだんに使われたスイ特製のベリータルトだ。


「わぁ………!」

「リリー様の大好物ですね」

「うん!スイのベリータルト大好き!!」


 しかもこんなに大きくて、ベリーも沢山!ん?…………沢山のベリー?こんなにも?集めるの大変なのに……。


「ベリーは森の皆からの贈り物ですよ。リリー様がいなくて寂しがっていました。木苺は悪戯猿共が、野苺は優しい兎が、蜂蜜は魚をくれる熊の親子が持ってきましたよ。他にも、治癒魔法を欲しがる(古竜の)爺共が小麦を、遊び相手がいなくなって駄々をこねてる(地竜の)子供が砂糖を。他にも沢山。皆がリリー様に頑張れと気持ちを贈ってくれましたよ」


 そうなんだ。みんなが……。嬉しいなぁ……。暖かいなぁ…。…………会いたいなぁ、皆に。


 ベリータルトが視界で滲んでいく。伏せた目から涙が零れて頬を伝った。


 えへへ。


 暖かい気持ちに落ち込んでた気持ちも浮上する。


 そうだよね。評価は評価だもん。これが今の実力。また練習して精度を上げていけばいいよね?………もう私人形は作らないけど。練習するなら古竜か兎かもふもふでいいよね?より複雑だし。失敗しても可愛いし。


 よし。元気でたよ!


 鞄からハンカチを出して涙を拭い、鞄に入れて代わりに木皿を人数分、八枚取り出した。


「八等分『分割』」


 タルトに手を翳して風魔法を発動。タルトは綺麗に八等分された。シアが木皿にひょいひょいと取り分けて行く。


 鞄からフォークを出してタルトの横に乗せて完成!


「はい、どうぞ」


 アルに差し出した。


「いいのかい?これは君への贈り物だろう?」

「森の恵みは分けるのよ。独り占めはいけないことだよ?」

「分け与える。そうか……。ならば遠慮なくいただくよ」


 受け取ったアルににっこり笑って、傍のカイさんとライに差し出した。カイさんはありがとう、と受け取ったけど、ライはジリジリと後退りした。


「いや、俺は甘いものはちょっと……」


 リリーなら毒味の心配もねぇし、カイが食べるしな、と及び腰だ。


「それほど甘くないよ。スイのベリータルトは甘さ控えめだけどすっごく美味しいから、食べないと損だよ?」


 それでも受け取らないライは諦めて、メアリさんとジェドさん、とてもキラキラ笑顔のミナちゃんに渡した。


「あら、ありがとう」と少し嬉しそうなメアリさん。

「あ、え?僕も貰っていいのかい?はっ…!これはもしや……エルフ秘伝のパイなのでは?!」と謎の発言は顔色の悪いジェドさん。ちなみにパイではなく、タルトなんだけど。

「わあ!美味しそう!ありがとう!」は満面の笑みのミナちゃん。


 そして。


「はい、シアもどうぞ」


 シアは眷属なのに、今まで殆どスイの料理を食べたことなかったものね。スイは私の為だけに料理していたから。


「よろしいのですか?」

「もちろん」


 少し震える手でお皿を受け取ったシアは感無量といった様子でタルトを見つめた。


 一応、ライの近くの布団の上にライの分のお皿を置いた。


 さてと。


「いただきます」


 フォークを入れたら、サクッとタルト生地が音を立てて割れた。そっと掬ってぱくりと食べる。


 !!!!!!!!!


「美味しい!!」


 甘酸っぱくて、瑞々しくて、ホロホロ崩れて調和する。中のクリームも甘さ控えめでベリーを引き立ててる。


 はわぁーん………。スイのタルトだぁ。美味しいなぁ………。


 じわぁ、と堪能していたら、いただきます、と皆がタルトにフォークを入れた。


「これは…!」

「………!」

「あら!」

「おっ!」

「わぁ!」

「!!」


 ぱくりと食べて目を見張る。


「「「「「「「美味しい!!」」」」」」」


「これは凄いな。こんな美味しいタルトは初めてだ」


 アルの呟きにカイさんはこくこく頷きながら、ぱくぱく食べ続けている。


「本当に美味しいわ。バランスが絶妙ね。甘過ぎず酸っぱすぎず、ベリーは瑞々しくて、クリームはしっとりしてて、タルト生地はサクサクのホロホロ。いくらでも食べれちゃうわ」

「うんうん。美味しいな、これ!例えエルフ秘伝で白金貨要求されても後悔しないぞ!」


 いや、要求しないよ?秘伝も何もただの精霊女王の手作りなだけだし。ジェドさんは時々、心配の方向がおかしい。


「美味しい……もぐもぐ、美味しい……もぐもぐ、美味しい…」


 ぱくぱく止まらないのはミナちゃん。一口毎に美味しいと言いながらもぐもぐが止まらない。


 そう。そうなのよ。スイのタルトは止まらないの。半分食べたところで見上げると、シアはすでに食べ終わっていて、空のお皿を握り締め、目を閉じて浸っている。


 うん。そっとしておこう。


 ベッドの足元でライが此方に背を向けている。


 布団の上のお皿が消えてるから、こっそり食べてるのかな?別に普通に食べて構わないのに。そんなライを眺めるアルとカイさんの目が冷たいのは気のせいかな?気のせいだよね?


 それにしても。


 あぁ。………うん。ちょっと、鬱陶しいなぁ。


 タルトはこんなにも美味しいのに。


 はぁ。


『私が対処しましょうか』


 シアが心配そうに見ている。


『大丈夫。自分でするよ』


 にっこりして、残りのタルトを頬張る。


 さあて。


 私のタルト時間を邪魔した覚悟は出来てるかな?


 うふふふふ。


 





読んでいただき、ありがとうございました。

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