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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
53/86

51. お薬事情


「それってどういうことかしら?」


 メアリさんは受け取った小瓶を光りに透かしてみてる。色は変わらないよ?


「あのね。薬草って生で食べるとお腹壊すことない?」

「あるな。騎士団の演習ではポーションがないときに対応する訓練があるが、薬草食べた者の半分が腹を壊すぞ。軟弱な者は熱も出すな」


 俺は平気だったぞ?、と自慢気なライ。


 ライ………。知らないとはいえ危険な訓練してたんだね。


「それはね、薬草には毒の成分があるからなの」

「毒?薬草はお薬だよね」


 首を傾げるミナちゃんに、誤解無いように力一杯頷いた。


「そうだよ。お薬になる草ね。自然に生きているものはね、虫や動物に食べられないように自衛………自分を守っているものがあってね。植物は主に体内に毒の成分を持つの」

「そうね。そういうものは多いわね」


 メアリさんは納得顔で頷いた。流石ギルド職員。


「うん。だから薬草も同じだよ。ただ弱毒だからそのままだとお腹は壊すね」

「マジかっ……」


 ショックを受けているということは、ジェドさんも生で薬草食べた事があるね。しかもお腹壊した、のかなぁ。皆危険なことするねぇ。


「ポーションは薬効成分30%~40%でしょ?ハイポーションが50%~70%、それ以上がエクストラポーションかな。病気に効くのは50%以上だよね」


 あまりにも粗悪品だったから『端末』で検索したんだ、今の薬について。結果にビックリして五度見したよ?


「そうよ。だからギルドの売店では傷に効くポーションを販売してて、それ以上は医者の処方か雑貨屋か薬屋でしか扱ってないわ」

「でもね、どれも同じなんだよね」

「それはどういうことかな?」


 アルが不思議そうにメアリさんのポーションを見た。


「薬草をポーションに生成するには、錬金魔方陣と水と薬草三本だよね。これで薬効成分を抽出するように見えるけど、単に濃縮してるだけなの。薬草は面倒な抽出をしなくても濃縮すれば薬効成分が濃くなるから、とてもお手軽なのね」

「ああ、初級錬金術師の練習課題だな」


 何気にライは錬金術に詳しいね。


「お手軽だけどね、薬効成分だけじゃなくて、毒の成分も濃縮してるから、かなり毒性の強い薬になるの」

「どうして?ポーション飲んでも具合悪くならないよ。傷も治るし」


 だよね。ミナちゃんの疑問は分かる。でもね。


「ポーションの薬効成分が中和してるの。中和というか解毒して残った30%分が傷を治すんだよ」


 だから傷に掛けても治らないの、毒を中和するから、と説明したら皆絶句した。ミナちゃんは首を傾げてる。


「いや、待て待て待て。70%も中和に使うのか?それって意味ないだろうが!」


 そうだよね。この製法は意味ないよね。何でこんなにも歪んで伝わったのかなぁ。三代目の時は錬金術は希少だったけど、正しく伝わっていて、かなり水で薄めた傷薬と半分水で稀釈した風邪薬と医者が処方する回復薬に分かれていた。人の世界に来てわかってけど、伝わっている錬金術に無駄が多い。


「ハイポーションはポーションの素材に聖水をいれるでしょ?聖水は水を光魔法で浄化したものだから解毒の効果があってね。それで薬効成分50%なの。エクストラポーションはさらに水の代わりに聖水、解毒効果のあるリリコの実を入れるから薬効成分が高まるってわけ。つまりは高価なわりにはただ解毒が強いだけ。ポーションを作る魔方陣に毒成分を分解または分離させる術式入れるだけで薬効成分100%になるのに。無駄だよねぇ」


 しみじみ語ったら皆無言でメアリさんの持つポーションを見つめた。


「この銅貨三枚のポーションが金貨一枚のエクストラポーションと同じ……」


 ぼったくりだよね。


「リリーは先程余分な成分を除いて薬効成分100%にしたと言ったね。だが、ポーションの中で既に毒素は中和しているのではないだろうか」

「アルはそう思う?」

「ああ。鑑定でもポーションは薬効成分30%と出るからね」

「そうだよね。じゃあ、残りの70%は何だろう?何が引かれて30%になると思う?」

「水じゃないのか?」

「はは、ライ、それってかなり薄いね。それなら水を分離すればかなり濃い薬効成分が抽出出来るんじゃない?誰も試さなかった?」


 ライははっとして目を見開いた。


「分離したことはある。だが分離した水分は少量で薬効成分30%は変わらなかった……」

「ライは錬金術出来るんだね。そう、残りは毒性混じりの薬効成分であって水じゃない。薬草はね、薬効成分と毒素が共存してる。だからポーションの中では中和しないの。ポーションは飲んですぐ効くでしょ?選んで回復してる訳じゃない。全てをまるっと回復してる。だから、飲んですぐに毒にかかった体を治してるの」

「……それってつまり?」


 蒼白のジェドさんににっこり笑顔で答える。


「つまり販売してるポーションは毒入りの回復薬だね」

「マジかっ……!!」


 ジェドさんは驚いて仰け反った。


「それって大問題じゃないの!」


 驚くメアリさんに皆深刻な表情で考え込む。


 まあ、無理もないよね。回復薬だと思ったら毒が混ざっていたなんて。私でも飲むのやだもん。でもねぇ。何百年か、何千年か、調べてないから分からないけど、これがポーションとして流通していて問題なかったのは驚きだよね。

 

「今までこれで大丈夫だったんだから仕方ないよね。これからちゃんとしたのを売ればいいんじゃないかな?」

「どうして誰も気付かなかったのかしら。鑑定はしているはずなのに」


 不思議がるメアリさん。でもそれは仕方ないと思う。鑑定魔法の穴だし、錬金術の低下のせいかな。


「それはね、鑑定魔法はレベルで分かることの詳細が変わるからだよ。鑑定50%の中級レベルなら毒性と薬効の中和は足し引きゼロだから残った効能が30%としかでない。実際は薬効成分100%、毒成分65%、水35%かな。毒と薬効成分は交ざってるし、水と薬効成分も交ざってる。足して100ではないけど、こんな感じ?薬効成分だけならどろどろしてて、毒成分はねばねばしてる。それを水がさらさらにしてるのよ」


 鑑定魔法は上位魔法で難しいからね。レベルが上がるほど詳細になるけど、いらない情報も多いから頭が疲れちゃう。情報精査能力がないとレベルは上がらないし。『端末』で検索した方が余程楽だし便利。ふふん。


 ミナちゃんが目をキラキラさせて私を見上げた。


「リリーちゃんは何でも知ってるのね」

「私は生まれつき鑑定眼を持ってるからね。意識してみると全てが鑑定100%で見えるから」


 いらない情報が多すぎて使わないけどねぇ?


 瞬きして私を見たメアリさんは、はぁ、と深く息を吐いた。


「忘れていたわ。リリーちゃんは規格外」


 何故か皆が深く頷いた。


 ええー?なんか酷いことを思われている気がする。私は普通のハーフハイエルフの筈なのに。


「ねえ、ねえ、リリーちゃん。ポーションの効果にバラつきがあるのはどうして?私もポーションを作る練習してるけど、その度に効果が違うよ?」

「ミナちゃんも錬金術師になるの?」

「違うよ。ポーションは誰でも作れるからお小遣い稼ぎになるの。それに宿でも販売してるし」

「そうなんだ」


 確か鞄に………あ、あった。


 鞄を探って薬草を取り出した。以前森から貰ったものだ。


 布団にハンカチを広げてその上に薬草を三本置く。ギザギザした葉っぱが特徴の緑の草だ。


「これが薬草だよ」

「うん、知ってるよ。宿の裏手に生えてるよ」

「さすが宿り木………」


 精霊たちが世話してるのかな?効能が怖いね。


「これがトリポリ草、これはカリコリ草、こっちはヒリリ草ね。同じに見えるけど違う薬草なんだよ。薬草は三種類あるの」

「そうなの?全部同じに見えるよ?」

「そう。見た目は同じだし、分布も一緒。あ、ヒリリ草だけは少し少ないかな?だいたい薬草の群生地の内、トリポリ草とカリコリ草が各々40%、ヒリリ草は20%の割合かな」

「同じ薬草でも種類が違うのか」


 アルが一本の薬草を手に、表や裏、葉の形を見比べている。


「うん、主に毒の成分が違うよ。トリポリ草はお腹を壊す毒ね。たぶん、騎士団の演習でお腹を壊した人はこれを食べたと思うよ。カリコリ草は麻痺毒。極弱毒だから気付かない人も多いけど、食べると何処かが痺れる。稀に内臓に出ることもあって、心臓とか肺が麻痺すると死ぬこともあるよ。演習で誰も死ななくて良かったね。ヒリリ草は頭痛かな。ヒリリ草が合わない人は熱が出たりするね」


 カイさんとライの顔が蒼白になった。お腹を壊さなかったのなら、たぶん麻痺したのかな?


 ホント、薬草を生で食べるのは危険なんだよ?


「含まれている毒の割合も各々違うからどの薬草を使ったかで中和する量が変わるの。薬効成分にバラつきが出るのはこのせいだね。時々、ごく稀に、ポーションのはずがハイポーションレベルの薬効成分になることない?」

「あるな。ただのまぐれだと思っていたが」

「それはね、一種類の薬草で作れたから。毒が一種類なら中和の量も減るからね」


 ライ、とアルが薬草を見つめたまま静かに呼んだ。


「今年から騎士団の演習で薬草を食べる訓練を止めるように」


 だよね?危険すぎる。


 だぁぁ、とライは頭を掻いた。


「他に薬草の代わりになるものがあればなぁ」

「あるよ?」

「あるのかっ?!」

「森に珠に生えてるアケルの実だね。薬効成分は薬草の二倍あるよ」

「アケルの実?聞いたことねぇな……」


 木になる実で、拳くらいの大きさのピンク色の実。桃と林檎の中間位の硬さで、熟すととても甘い香りがする。この状態が食べ頃なんだけど……。

  

「ただお勧めはしないよ」

「それも毒があるのか?」

「毒はないよ。ただね、凄く不味い!!!」


 握る手に力が入る。


「不味いなんてものじゃなかった!見た目はとても美味しそうなのに、食べるとえぐみと苦さと渋さで気持ち悪くなる。しかも薬効成分がその味だから、ポーションとして抽出しても味は変わらない。口にしたあと、丸二日は味覚が戻らなかったんだよ!」


 薬草に代わるポーション作成の課題で森にある様々な植物や果実で試したけど、薬草と同等、またはそれ以上のものはアケルの実しかなかった。蜂蜜混ぜても甘い果汁混ぜても味は変わらずで、薬草の優秀さを実感したもん。


「そ、そうか。それは使えなさそうだね」

「いえ、殿下。新人の根性試しに使えそうです」


 ライ。顔が物凄くいい笑顔だけど、趣旨が違ってるよ?ポーションが無くなった時の訓練だよね?


「ポーションがなくなったらその場で作成すればいいんじゃないの?」

「この演習は錬金術師がいない時の非常事態という意味だぞ」

「だから、携帯用の薬効成分100%ポーションの錬金魔方陣もって、薬草と水でポーション作成の練習の訓練をするとか。ポーションくらい錬金術師いなくても作れるでしょ?」

「確かに。薬草の見極め、水の確保、ポーション作成、アケルの実の採取と根性試し。なかなかいい演習になりそうだな」


 ニヤリと笑うライが恐い。


 ふむ、と拳を顎に当てて考え込んでいたアルは、色々見直す必要があるね、と私を見て微笑んだ。


「その魔方陣を教えてもらえるのかな?」

「うん、いいよー」


 鞄から紙を取り出して、指に魔力流してぱぱぱっと描いた。出回っているポーション作成の魔方陣ではなく、術式の無駄を取り除き、毒素を分解して無毒化する術式を追加した薬効成分100%ポーションの新しい魔方陣だ。これなら少ない魔力で、どの薬草からも安全なポーションが作れる。


「はい。お城の錬金術師達なら使えるし、これの複製出来るんじゃないかな」


 ありがとう、と受け取ったアルはライに渡した。ライは魔方陣を眺めて一言、すげぇな、と呟き無言になった。魔方陣の解読をしているみたい。ライは錬金術師?騎士じゃないの?


 ぺしぺしとミナちゃんが私の手を叩いた。


「ねえ、リリーちゃん。私にも教えて?」

「いいよ。でも少し難しくなるよ?」

「大丈夫。頑張って勉強する」

「そっかあ。なら大丈夫かなぁ?」


 紙に同じ魔方陣を描いてミナちゃんに渡した。受け取ったミナちゃんは、うっ、違う、難しい、と少し涙目になった。


 うん。まあ、頑張って!


 僕も欲しいなぁ、と呟くから、ジェドさんにも描いてあげた。錬金術出来るのかな?


 首を傾げると、懇意にしている町の錬金術師に頼むから大丈夫、と笑顔が返ってきた。なら心配はいらないね。


「待って、待って。ギルドで販売してるポーションはどうすれば……」


 そっか。毒入りと知ってしまったから販売はしたくないよね?


「じゃあ、毒素を分解する魔方陣を描いてあげるよ」


 紙にポーション限定の毒素を分解して無毒化する魔方陣を描いた。


「はい、これ。発動出来る人がいればいいけど」

「ありがとう。そこはなんとかするわ」


 受け取ったメアリさんはパチリと片目を閉じて微笑んだ。


「とりあえず、これは届けて、医師に目覚めた事を報告してくるわね。医師とギルマスにもポーションの話をしないとね……」


 メアリさんがポーションを握りしめて出ていく。


「それにしても、普段使っているポーションに問題があったとはね。リリーがいてくれて助かったよ。ありがとう」


 アルが頭を下げた。カイさんもライも頷いてそれに倣う。何故かジェドさんも、ミナちゃんも頭を下げた。


「このことは広めて良いんだね?」

「うん。いいよ」


 歪んだものは正さなきゃ。


 きっと、他にもいろいろあるんだろうなぁ。


 ちょっと想像して、遠い目になる。


 はぁ。


 お腹、空いたなぁ………。


 





読んでいただき、ありがとうございました。

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