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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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45. 似た者


 ふう、とアルフレッド王子はソファーに身を委ねた。


「一先ずは終わったね」

「お見事でした、殿下」

「流石です」


 ライルとカインは敬礼しアルフレッド王子を労う。


 向かいの宰相は怪訝な顔で扉を眺めた。


「彼は裏切り者だったのか……?」

「もともと疑いはあったんだ。帝国の脅迫紛いの通達は一方的で強気だったからね。初めから金貨が無いことを知っていたとしか思えない。何処かに内通者がいるのでは、と秘密裏に調査していた」

「それが彼だったと。優秀な者であったのに、残念ですな。動機は何なのかわかりましたか」

「それは今後の取り調べでわかるだろう」


 ライルは籠をマジックバッグにしまうと、白い手巾をテーブルに置いた。アルフレッド王子はその上に指輪を置く。


「いつから疑っていたのですか」

「調査を初めた頃かな。彼の名はすぐに浮上したけど証拠がなくてね。だが、彼は近衛騎士の貴族籍の者達を言葉巧みに操り、不正や規律違反、軽犯罪などを起こさせていたんだ」

「目的が見えませんな」

「おそらくだが、城内警備を手薄にしたかった、と推測している。またはその手引きかな。カイン」


 カインはポケットから折り畳んだ紙を取り出し、広げてテーブルに置いた。城内の警護用見取図だ。何ヵ所かに✕印があり、その幾つかは○で囲まれていた。


「これが貴族籍による城内警備です。唆された者達の警備範囲はこの辺り。外部からの侵入が容易になる場所です」


 宰相は眉根を寄せた。侵入の目的は盗賊か、または暗殺か。由々しき問題であることは確かだ。


「緊急に対策を練ることにしたんだ。なにしろ城は老朽化が激しくて万全の守りは出来ないからね。先ずは敵味方の区別をするべく、近衛の第五までの身辺調査を行い、問題が無いことを確認したんだ」


 アルフレッド王子は背後のライルをちらりと見上げた。ライルは頷き、調査は俺が担当しました、と続けた。


「あらゆる伝を駆使して行った結果、第五までは問題なしと判断しました。そこで第一から第五と連携を取り情報共有と他騎士への警戒を強めました。同時に安全の為、王妃様を始めとした殿下以外の王族を療養と称して避難してもらいました。さらに殿下の私室をこの塔に移し、侵入経路を絞り、老朽化を理由に外部の出入りを遮断。王城は殿下と騎士団、身許の確かな使用人、政治に関わる者のみにした、というわけですよ、閣下」

「……私に何の情報も来なかったのは、帝国の件で彼と交流が有ったからか」


 軽く睨む宰相に、ライルはご名答、と肩を竦めた。


「怒らないで下さいよ。敵味方の判断がつかなかったんですから」


 宰相は視線をライルからアルフレッド王子へと移した。


「それで今回の件ですか……」

「偶然にも大規模補修の際に壁の穴を有効活用していたことが分かってね。また、隠されていたものが大量に出てきたんだ」

「その中にこの紋章を見つけ、殿下了承のもと、持ち主を特定するための罠を張った、というわけです」

「罠だと?」


 訝しげな顔の宰相に、ライルはとても清々しい笑顔で頷いた。それを見た宰相は半眼する。嬉々として実行する姿が目に浮かぶわ、この腹黒騎士がっ、と内心思ったが、口には出さなかった。口は災いの元。何よりも自重を重んじる宰相は、危ない橋は渡らないのだ。


 カインが手書きの書類を机に置いた。それは押収した壁の穴の隠し物の一覧だった。宰相は手に取りざっくりと目を通す。カビの生えた菓子やら怪しげな薬やら女性の下着やらの中に、宰相の細密画や花瓶もあった。


「なんと言うか、言葉を失くすものが多いですな」

「僕の理解を越えていたよ」


 何処か疲れたような物言いに、大人に幻滅する子供らしさが見え、宰相は少し微笑ましくなった。


 カインはテーブルに戻された一覧を指差しながら説明する。


「先ずは衛生的に問題になりそうななま物は氷漬けにし錬金術研究室で預かって貰いました。現在あそこの警備は万全で、深夜の侵入は不可能ですので何処よりも安全です」


 なるほど、何か新しい魔道具でも開発されたのか、と納得した宰相であったが、視界に映るライルの顔が青ざめたのは少し気になった。


「ライル・カトラス。具合が悪そうだが」

「いえ、何でもありません」


 アルフレッド王子は気にしないでくれ、とくすりと笑った。カインも苦笑気味に説明を続ける。


「受け取りの窓口を殿下にし、取りに来るよう通達しました。正直に釈明すれば情状酌量の余地はあるとし、持ち主不明の物は数日後公開するとしました」

「奴ら慌てて受け取りに来ましたよ」


 その様子を思い出したのかライルはあはは、と笑いを溢した。すでに顔色は元に戻っていたライルに、宰相ははて?と内心首を傾げた。


「まあ、不適切な物も多かったが、公開されるよりはと処罰覚悟で受け取りに来た姿勢は潔かったね」


 名ばかりとはいえ、騎士を名乗るだけはあるかな、とアルフレッド王子は嘆息した。九歳にして政治の世界に身を置くアルフレッド王子は大人の汚い遣口や醜い政争を知っているが、騎士には清廉潔白を求めていた。それが貴族籍の騎士とはいえ、あまりにも幻滅させる数々の品々。アルフレッド王子の心は少しやさぐれていた。


「まあ、彼等にも矜持が僅かながら有ったのでしょうな。では、残ったのは私の物とその指輪か」


 宰相は手巾の上の指輪を見た。確かにこの紋章は覚えがある。先日も砦で使者から渡された書状に同じ印章が押してあった。


「そう。砦に出向いていた宰相と補佐官はこの事を知らない。どちらかが持ち主だと判明した」

「……城に残っていた大臣や政務官とは思わなかったのですか?」

「先程話したように元々事務補佐官は疑っていたからね。まあ、そうだね。罠に掛けた、と言ったろう?」

「はい」

「もし、城に残っている者が持ち主なら、堂々と取りには来ず、深夜を狙うだろう。公開すると通達している以上行動は早めに出る筈だ。だが誰も来なかった。ところが、騎士団長が砦に戻った翌日からこの塔への侵入が始まった。偶然ではないだろう」


 宰相は砦に戻って来た騎士団長の言葉を思い出した。


『城の大規模補修が行われて、面白いことが起きたようですよ』


『壁に空いた穴に色々溜め込んでいた者や盗んだ侍女の下着を隠していた奴もいたとか。はは、殿下の青筋立った顔は始めてみましたな。あはは』


『そういえば、中には宝飾品もあって持ち主を探しているらしいですぞ。大事な物なら返さなければと。持ち主が現れなければ公開して探すそうですな。いやはや、殿下も大変ですな』


「そうか。あれは早く取りに来ないと晒すぞ、という脅しでしたか」


 そうです、とライルは続けた。


「ところが侵入者が金を掴まされた貴族籍の近衛騎士で本人ではない。そこで俺は噂を流しました。見たこともない紋章だから、持ち主が現れなければ紋章を調べることにすると。昨夜遅くに城へ帰還した補佐官殿は噂を持ってきた騎士に盗みに入らせたが捕縛されてしまった。そこで自ら取りに来たのですよ。誰も紋章に気付いていないと信じてね。まあ、最も、今朝から彼の執務室の前で、何処の紋章だろうな、調べてみるか?、と世間話をしながら何度も通りましたからね。余程あせったんじゃないんですか?」

「私の執務室前でも同じ事をしなかったか」


 じろりと睨まれてライルは肩を竦めた。


「閣下には先に取りに来て欲しかったんですよ。万が一、補佐官殿が宰相閣下のだから渡しておくと偽って指輪を持っていかれてはどちらのものか判別出来ませんので。幸い奥方様は存じておりますので細密画が閣下のものだと断定し、閣下に焦っていただきました」

「それで残った絵画は売って補修費用にしよう、と私の執務室前で話したのか」

「これも罠を完成させるためです」


 ご協力感謝致します、と一礼するライルに、宰相は嘆息した。

 

「それにまんまと嵌められたわけだな……」

「助かったよ、宰相」

「殿下まで」


 宰相は重いため息を吐き出した。


「この策略はライル・カトラスが?」

「いえ、殿下です」

「……王妃様似の優しい風貌に陛下似の知略と聡明さ。誠に両親の良いところを似られましたな」


 王の器とはこういうものだろう、と宰相は若かりし頃の国王を思い出し、懐かしい気持ちになった。


「ですが。ご自分を囮になさるようなところは陛下の悪いところを受け継がれましたな」


 今も最前線の砦で、帝国に睨みをきかせている国王に一同は苦笑した。


 流石にあそこまでは出来ないな、と連日魔物討伐に向かっているアルフレッド王子が溢すのを聞いて、口には出さなかったが誰もが思った。


 ――――――似た者親子、と。








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