43. お仕事
ふわぁぁぁ。
大欠伸が止まらない。
徹夜で創らされた。やり直しもどれだけ繰り返したのかわからない。空が白み始めた頃、漸く細かい部分の補正が終わったけど、今度は髪の手触りが違うと素材をあれこれ変えてのやり直し。手触りとかどうでもよくない?でもシアは一切の妥協も許さず、手触りを確かめてはやり直しを宣言する。そして、朝日が昇り町の喧騒が始まる頃、やっと完成した。いやもう、自分の顔、見たくない。しかも、ハイエルフバージョンとかで、瞳は濃い青だ。
スイ達へのプレゼントが作れなかった。でも贈るものは決めたから、ひと休みしたら作ろうかな。
今日はお仕事の予定だ。折角神様が腕輪を作ってくれたんだからお仕事しなくちゃね。
シアは人型になり、蔦さんに留守番を頼んで階下に降りた。
ミナちゃんに挨拶して朝食を食べる。
今朝はチーズとハムのホットサンド。蕩けるチーズとしょっぱいハムと甘いケチャップが美味しい。野菜のスープとフルーツが載ったサラダも絶品だ。これが三日も食べられないなんて……。悲しい。
今朝もシアはおかわりをを沢山した。一ヶ月は食べなくても大丈夫と言っていた割には毎食よく食べる。食べられるときに沢山食べてエネルギーを蓄えておくんだって。私は直ぐにお腹空いちゃうけどなぁ。
「リリーちゃん。これからギルド?」
カウンター前の椅子に座り、ミナちゃんが三つ編みをしてくれた。シアは私の隣の椅子に座り、ミナちゃんの編み込む様子を興味深げに眺めている。
「うん。あ、そうだ。私、三日くらい戻らないからその間のご飯はいらないよ」
「三日も?遠くに冒険者の仕事なの?」
「たまには森で寝たいの」
「そっか、リリーちゃんはハイエルフだもんね。森で暮らしていたんだもんね」
「うん。ここのご飯が食べられないのは辛いけど」
「配達する?」
「ううん、何処で過ごすか決めてないから」
「何処の森かも決めてないの?」
「南門から直ぐの森だよ」
「あまり奥に行っちゃダメだよ。あそこには強い魔物がいるんだって」
「わかった」
行ってきます、してシアと出掛けた。人気のない通りに入り、シアはヘビに戻り腕に巻き付く。
ギルドに行って、簡単な採取を受けることにした。折角森に行くんだし、ついでだ。昨日受けたオーク討伐は終わってないけど、期日は余裕あるから大丈夫だよね。
ギルドの前の噴水にジェドさんがいた。商談中なのか初老の商人風の人と話していた。視線が合ったから手を振っておいた。ジェドさんは、よっ、と手を上げて応えてくれたけど、直ぐに会話を再開した。何やら手に持っている布の説明をしているようだ。ちゃんと商人しているところ、初めて見た。上手くいくといいなぁ。
相変わらずギルドの受付は長い列が出来ていて、ガヤガヤと騒がしい。いつものようにカウンターに行き、メアリさんを呼んでもらった。奥から欠伸をしながらメアリさんが来た。何だか少し疲れたように見える。気のせいかな?
「おはよう、リリーちゃん。オーク討伐が終わったのかしら」
「ううん、まだ。今日は南門の近くの森に行くから何か採取依頼あれば受けようかなって」
「それは助かるわ。待ってて。今持ってくるわね」
メアリさんは奥から書類の束を持ってきてドサリとカウンターに置いた。紙が薄く黄色に変色している。いわゆる死蔵依頼というやつだね。
「……簡単な依頼でいいよ?」
「またまたぁ。リリーちゃんなら片手間の依頼でしょう?ど・れ・も♪」
メアリさんがウキウキしている。きっと、凄く面倒……大変……難しい依頼だろうなぁ。
「そうね、これがいいわ。あとこれも、これも、これもね!」
依頼書が積み重なっていく。まさか……その紙束全部じゃないよね?
十枚ほど重ねたところで手は止まった。ほっ。
「選ぶの面倒だから、全部やっちゃう?」
満面の笑顔のメアリさん。何てこと言うの!
断固拒否して、何とか五件にしてもらった。
「リリーちゃんなら楽勝なのに」
「適当なこと言ってるぅ」
ギルド証を渡しながら精一杯睨む。
「うふふ。リリーちゃんが睨んでも可愛いだけよ。本気じゃないでしょ、その睨み」
メアリさんはいつも通りに銀盤の窪みにセットして起動した。未登録の情報が銀盤に現れる。
メアリさんは魔力ペンで依頼の希少薬草や森にたまに生える希少鉱石、森にたまに落ちてる希少石の名前を刻んだ。どれも希少過ぎて達成者がいないんだって。それを私にさせるのはどうかと思う。
「さてと。色々と討伐はしてるのね。どれどれ……」
メアリさんは銀盤の文字を指でなぞりながら読み上げる。
「ゴブリン二十匹?数が多いわね。もしかして集落かしらぁ?」
メアリさんがジト目で見てくる。慌てて両手を振って否定した。
「ち、違うよ。集団でうようよしてたから纏めて燃やしたの」
「燃やしたって……」
「遠くからちゃんとゴブリンの確認はしたよ」
「……まあ、いいわ。確認したのなら」
呆れたように言われた。はてな?
「アーチャーゴブリン五匹、ソードゴブリン八匹、ゴブリンメイジ三匹ってDランクのゴブリンもいたの?」
「あ、武器持ってるのいたよ」
「そこも確認できてるのね」
「だから念入りに燃やしておいた」
えへん。
得意気に胸を張ったのに、はあぁ、とため息を吐かれた。ええー?
「まだあるのね。って、ホブゴブリン五匹?!Cランクじゃないの!えっ??ゴブリンナイト二体?ゴブリンジェネラル一体?はあ?!ゴブリンキング一体?!?!これ軽くスタンピードじゃないの!!」
え?そうなの?
きょとんと首を傾げたら、メアリさんに肩をガシッと掴まれた。
「燃やしたって言ったわね?いつ、どこで燃やしたの?全部燃えたのかしら?」
「え、う、うん。全部焼却したよ。えと、えと、何時?うーん、昨日の午後かな?どこで。どこかな。王都に向かう途中の森の中?」
「王都、森って……待って、待って。昨日王都に行ったの?」
「うん、アル達に連れてってもらった」
「アル……?あ!アルフレッド王子殿下ぁ?」
「うん、そう。そのアル達」
「いつの間にそんな仲に。まあ、いいわ。それで?途中の森にゴブリンが出たのね」
「違うよ。うようよしてたの」
「うようよ?現れたから討伐したのでしょう?」
「違うよ。ゴブリンがいたから殲滅したの」
「話が見えないわね。ちゃんと説明してくれるかしら?」
昨日の事を説明した。王都に向かう途中の森で休憩したこと。着替え始めたから護衛で索敵したこと。ゴブリンが集団でいたこと。武器を持っていたから念入りに燃やした事を。
「待って。森の中で火魔法を使ったの?!よく火事にならなかったわね」
「なったよ」
「えっ??」
「大火事になったから水魔法で水竜巻作って全部消して、ちゃんと緑魔法で森を再生しておいたよ」
「……………」
メアリさんが頭を抱えてカウンターに突っ伏してしまった。あれ?ちゃんと自重したし、森も復活したから問題ないよね?
「そう、そうなの。そういうこと。昨日の報告にあった巨大な水竜巻は、」
がばりっ、と身を起こしたメアリさんの目が据わっていた。え?怖い。
「リリーちゃんの仕業だったのねぇぇ?」
逃げようとしたけど捕まり、ギルマスの部屋で一時間程説教された。メアリさんに。くすん。
昨日、冒険者から王都近くの森で不審な巨大水竜巻を目撃したと報告があった。そこは盗賊も出没する森で、近くの街道は利用者も多い。そこで調査隊を派遣することが決まり、冒険者パーティーを集めているところだった、らしい。この対応でメアリさんは一睡もしておらず、肌荒れから吹出物が出来たと、おでこを見せられた。確かに小さく出来ているね。お詫びに魔法で治しておいた。メアリさんの怒気が柔いだよ。ほっ。
ゴブリンキングやゴブリンジェネラル、ゴブリンナイトが率いるゴブリン集団はスタンピードを起こすんだって。統率がとれていて、討伐は難しく、Bランク以上の冒険者パーティー十組以上で討伐するんだって。スタンピードは魔物の氾濫のこと。集団で町を襲うことをいうらしい。
一人で殲滅するとはなぁ、とギルマスに呆れられた。
「まあ、経緯はともかく、スタンピードを阻止してくれてありがとよ。ギルドから報奨を出すぜ。上位ランク討伐については不問にしてやるし、ポイントもつけるぞ」
メアリさんが手続きしてくれて、討伐ポイント合計八十四ポイントが加算されて、現在ポイントは百九十になった。Dランクまであと少しだね。ちなみにゴブリンナイトとゴブリンジェネラルはBランク、ゴブリンキングはAランクだって。
報奨金は金貨十枚だった。少なくて悪ぃな、とギルマスに言われたけど十分だよね。お昼代と飲み物位しか買わないし。
ギルドから出て、いつもの串焼きを買った。今日はブラッドベアーの肉。初めて聞く名前だよね?おじさんが言うには、少し歯応えがあるけど、噛めば噛むほど美味しい肉なんだって。滅多に現れないBランクの魔物だって。うわぁ、楽しみだなぁ。
南門から出て、門番から見えなくなったところで転移して森の中へ。希少採取は森に聞いて直ぐに終わった。少し森の奥に入るけど、結構簡単に見つかったよ。何で死蔵依頼になるのかなぁ?
途中でオークに会ったから討伐しておいた。今や弓一発で仕留められるよ。ふふん。今回の依頼はオークの肉五体分の調達だから、出会ったオーク全部空間収納に入れておいた。三体多いけど、ま、いいよね。身体が大きかったり、色が違ったり、角が生えてたり。この森のオークは様々だね。
途中でキノコの椅子に座って人型になったシアと串焼きを食べた。初めて食べるお肉で……私には少し硬い。でも頑張って噛んでいくと解れてきて、じわじわと味が出てくる。シアはペロリと食べてるけど………丸飲みじゃないよね?ついシアのお腹を見てしまった。
「何でしょう?」
「う、ううん。何でもない」
言えない。ヘビに戻った時にお腹が出るのか気になったなんて。
「ちゃんと噛んで消化していますよ」
バレてる?!なんで?!
食事を終えて、ついマッタリとしてしまう。寝不足だからかな。キノコにお礼をして、立ち上がった。シアはヘビに戻って腕に巻き付く。………うん。確かに消化終ってるね。
さてと。今度はスイ達への贈り物だね。
森に教えてもらって、さらに奥に入った所にある花畑に行った。綺麗な赤い花と白い花、可愛い水色の花と薄黄色の花を一輪ずつ分けてもらった。
それぞれを結晶化して宝石の花に変える。蔦さん二号から蔦と葉を分けてもらって創造スキルでそれぞれの花の髪飾りを作った。エンには赤い花、スイには水色の花、フウには白い花、リョクには薄黄色の花の髪飾り。リョク以外は髪と同じ色だけどキラキラ光る宝石だからきっと似合うと思う。
初めてこの森に来たとき、森から花の髪飾りを貰って凄く嬉しかった。ミナちゃんに三つ編みをして貰ったときにお揃いの緑の紐を結んで貰って凄く嬉しかった。みんなの優しさで心が温かくなった。だから、スイ達にもその心をお裾分けする。森の花と緑の蔦の髪飾り。スイ達の心が癒されますように。
シアにお使いを頼んだ。神様とスイ達へ贈り物を届けてもらう。
「これから三日間眠りに就くからゆっくりしてきていいよ。スイ達によろしくね」
「お伝え致します」
シアに転移魔法をかけて精霊の森に送った。
「何処か安全に眠れる場所があるかなぁ?」
わさわさと森がざわめき、一本の道が出来る。私が歩く後ろでは森が元に戻り道がなくなる。そうして、小さな泉に出た。そこは二辺を岩に囲まれた場所で、ちょとした隠れ家のようだ。泉は木漏れ日を浴びてキラキラ輝いている。泉の回りにはホワイトリリーに似た白い花が風に揺れていて、辺りに優しい香りを振り撒いていた。
ここ、いいなぁ。ここにしよう。森にお礼を言って、ハンモックの種を落とした。みるみる間に成長し、ハンモックが 完成した。
「これからお仕事で眠りに就くけど、魔物が近づかないようにしてね」
わさわさと木が揺れ、枝を広げて守ってくれているように見えた。頼もしいね。ありがとう!
ハンモックに入ると僅かな揺れと包み込まれるような安定感が気持ちいい。ふわぁぁぁ。昨夜寝てないし。まずい。お仕事の前に寝てしまいそう……。
ふわぁぁぁ。
『端末』……起動。感覚接続。………読解レベル……MAX。範囲………全世界。
……『文書選別開始』。
意識は……………暗転した。
読んでいただき、ありがとうございました。




