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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
44/86

42. 思惑の夜⑶

[評価][登録]ありがとうございます!


暴力、残酷な表現があります。

苦手な方はこの話を飛ばして、次話から読んで下さい。


 大陸の中央に君臨するオーボー帝国。中小様々な国を無理矢理併合して大きくした為か、国内のあちらこちらで小競り合いが絶えず、国民は不安な日々を過ごしていた。戦争準備で魔石が足りず、街から街灯が消え、毎日何処かで人が殺され打ち捨てられる。恐怖と不安から瘴気が渦巻き、帝国は立ち込める暗雲に飲み込まれようとしていた。


 帝都ヤッバイには豪華絢爛な宮殿が聳え立っている。魔石をふんだんに使った魔道灯火が至るところに灯り、きらびやかさを増長させていた。暗闇に沈む帝都にあって、そこだけが明るかった。


 その隣に宮殿よりは多少規模の小さな邸宅があった。魔道灯火は少ないものの、至るところに金装飾が施され、宮殿の灯りを受けて輝いている。その邸宅の一室では今夜もおぞましい日常が繰り広げられていた。


 贅を凝らした装飾品で壁や天井を飾り、壁一面の飾り棚には高価な黄金の美術品が並び、裸体の彫刻には金が塗られ至るところに宝石が埋め込まれている、そんなきらびやかで悪趣味なもので埋め尽くした一室。金糸や銀糸、宝石をふんだんに使い飾り立てた服を纏ったでっぷりと太った中年の男は苛立ちながら、足蹴にした奴隷に鞭を奮っていた。それは奴隷が気絶するまで行われ、新たな奴隷と交換される。何人も何人も、どれだけ打ち据えても苛立ちは収まらず募るばかりだ。


 男の名はワルンダク・ミスキーヤ。帝国の宰相である。


「ええい!ええい!ええい!」


 バシンッ!バシンッ!バシンッ!


 奴隷の背中が血で染まってゆく。召使い達は淡々と美術品に付いた血を拭っていた。次々に付着する血を拭う手は震え、残虐な行為に顔を青ざめさせてはいても、丁寧に確実に表情を変えずに行う。例え今鞭打たれている奴隷が先週まで共に働いていた仲間であったとしても。明日は我が身と、ミス一つ許されない職場で、極限の緊張の中、いつ終わるともわからない作業を続けていた。


 ワルンダクの胸中は荒れに荒れていた。


 全ての計画は順調に進んでいた。そう思っていた。だが、僅かずつではあるが狂いが生じ始めていたのだ。


「どこだ!どこで狂った!」


 バシンッ!バシンッ!バシンッ!


 鞭の音は止むことがない。奴隷はすでに事切れていて、肉片を飛び散らし始めていた。


 血を拭う作業を続けている召使いの女の目に溜まった涙が零れ落ちそうになった時。


「ミスキーヤ様」


 部屋の角に黒い覆面を被り、黒いローブを纏った細身の男が片膝を付いて、頭を下げていた。


 ゼェ、ハァ、と息を荒くしたワルンダクは鞭を捨て、豪奢な金ピカの椅子にドカッと腰掛けた。


 従僕達が鞭と死体を片付け、召使い達が血に染まった敷物を新しいものに交換し退出していくと、黒いローブの男は音もなく近づいた。


「はぁぁ、………首尾はどうだ」


 ひと息吐き、呼吸を整えたワルンダクは肘掛けの宝石をひと撫でした。


「それが、両国ともに戦後処理を問題なく終え、和平と同盟の条約を結びました」

「くっ!何故だ!あれだけ不和の種を撒きまくったのに何故和平に繋がる?!現に戦場に瘴気が出ていただろうがっ!」

「瘴気はそのままです。そこは問題なく。しかし両国の国王や大臣らが自国の主張や権利を振りかざすこともなく、調印されたと」

「金貨はっ。金貨はどうしたっ」


 ワルンダクの口から唾が飛んだ。


「それが共に宝物庫から出し、折半して提出いたしました」

「ぐぬぬぬぬ…!」


 苛立ちに肘掛けを握る手が震える。上手く戦争まで漕ぎ着けた筈が最後で水泡に帰した。


 男はワルンダクの神経を逆撫でしないように慎重に切り出した。


「シャンパール国は如何されましたか」

「あそこは期限ギリギリで出しおったわっ。稀に見る良品で文句のつけようもなかったわっ」

「あの国は最もダンジョンの多い国。手に入れば計画は捗ったのですが」


 男の声に僅かながら悔しさが滲む。


「まあ、よい。手はいくらでもある。他は抜かりなかろうな」

「順調に進んでおります」


 男は僅かに頭を下げた。ワルンダクは満足そうに頷く。


「して、エルフはどうなった」


 気持ちが落ち着いたのか、ワルンダクはやや怒気を納めて右肘掛けにもたれ掛かった。


「それがなかなか見つからず難航しております。巧妙に隠れているようで」

「もうあまり時間はないのだぞ。ええい!人員を増やせっ!それっぽいものは捕らえて連れてこい!中には本物もいるだろう。エルフは必ず捕まえろっ」

「必ず。ところで、シャンパールに潜入しているものから面白い報告がありました」

「ふん、あの弱小国がどうした」

「先頃、ハイエルフの子供が現れたそうです」

「何?ハイエルフだと?」

「はい。見事な銀髪をしていたそうです」


 ふふふ、とワルンダクは顔を歪めて嗤った。


「ハイエルフもエルフには違いない。その子供をなんとしても捕まえろ。生きてさえいれば多少傷んでいても構わん。どうせ生け贄として捧げるのだ。手足が無くとも目が見えなくても構わん。抵抗するなら切り刻め。ただし、心臓が動いた状態は保つように。よいな」

「承知いたしました」


 男は音もなく消えた。


「ハイエルフか。くくく、漸く運が向いてきたか。ふっわはははは」


 ワルンダクの嗤い声が響き渡った。







読んでいただき、ありがとうございました。

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