37. 街道
北門を出て真っ直ぐの道は草原に通じているけど、北門からは西と東にも道は伸びている。この道は街道と呼ばれていて整備された広い道だ。その街道を東へ馬で三時間ほど走らせると王都に着くらしい。
並走したアルが教えてくれた。ちなみにライは無言だ。あまりに煩いので『消音』したら、睨むだけで喚かなくなった。移動中の『消音』は危険だから直ぐに解除したけど、拗ねたみたい。謝ったけど効果なし。まあ、静かだからこのままでいいかな。
街道は王都から各町へと通じる主要道路だ。馬車はもちろん、旅商人や冒険者ともすれ違った。徒歩の人は足早に通り過ぎる。もうじき日が暮れるから。馬をゆっくり走らせて三時間ほどの距離は、丁度人が一日掛けて歩ききれる距離らしい。でも中程の地点に野営出来る場所があって、護衛のいる商人や冒険者などは無理せず一泊するんだって。何故護衛付きや冒険者限定かといえば、そういった野営地を狙った盗賊がでるからだって。ジェドさんが遭遇したのもこれかなぁ。
私たちは馬を走らせたり、歩かせたりしながら、街道沿いの森の近くまでやってきた。距離的には半分ほどで中間の野営地の近くらしい。
とても大きな楠があった。ライはそこで馬を止めた。馬の休憩だって。あ、ライは機嫌が治って話をしてくれるようになったよ。顔は引き吊ったままだけどね。
馬から降ろしてもらった。蔦さんは鞄に帰ってる。鞄の居心地が良いのか居着いたみたい。手綱を枝に結び、ライは周囲を警戒しながら、アルに合図を送る。アルもカイさんも馬から降りて手綱を枝に結んだ。
「大丈夫のようだ」
剣を抜き、周辺を確認していたライは剣を鞘に納めながら戻ってきた。
「リリー、僕たちはあの木の陰で着替えてくるからここで馬たちと待ってて」
着替え?よくわからないけど。
「うん」
アル達が木の陰に隠れたから、むしゃむしゃと草を食む馬たちを眺めていた。美味しいのかな?喉渇かないかな?
「馬さんたちにお水あげていい?」
少し大きな声で聞くと、いいぞ、とライの声が聞こえた。
水魔法と土魔法で水溜まりを作る。これは魔法で水を出したのではなく、地中の水分を少し集めただけ。あまり集めると森に影響が出ちゃうからね。
馬さんたちは美味しそうに水を飲み始めた。喉乾くものね。
アル達がお着替えなら、私が皆を守らなきゃね。
「『索敵』」
森の中に沢山の赤い点が現れた。近くの青い点はアル達が三人。少し離れた青い点の塊はたぶん野営地の人達。問題はもう少し離れた森の中にある赤い点の集団だ。ゴブリンの集落かなぁ?ちょっと見てみようかな。レベル上がってMP増えたから使えるよね?
神級魔法『千里眼』
森が透過する。赤い点方向へ視線を向ける。幾重にも重なる木々や枝を過ぎ、目的の………人?ゴブリンには見えない。瘴気はあるけど微量だ。生きてる人だ。人相は悪い。武器を持ってる。冒険者?でも顔が怖い。飴もらってないし、声も大きいかわからないけど、顔が怖くて傷があって、身体が大きいのは人攫いだよね?退治しなくちゃ!何の魔法で……。
ふとギルドの事が過った。
…………人攫い、だよね?もしかして……また勘違いかな?
たらり、と汗が背中を流れた。同じ間違いをするのは、賢い五歳児には有り得ない。五歳になった(外見だけ)のだから賢く判断しなきゃね!
敵性反応あるし退治してもいい、かな。いい、よね?うーん、分からない。…………ま、間違えたら大変だから麻痺させておこうかな。後でアル達に確認してもらえばいいよね?
闇魔法『麻痺毒』
あれ?赤い点が消えない。意識があるとダメなのかな?じゃあ。
闇魔法『睡眠』
あ、敵性反応が消えた。とりあえずは、よし。後は大丈夫………ん?あれ?こっちにも敵反応の塊がある。
更に離れたところにうようよ動く赤い点が沢山あった。まだ『千里眼』の効果があるから覗いてみる。
今度はゴブリンだった。しかも剣や弓の武器持ってる。体の大きいのもいるね。こんなゴブリンいるんだね。ちょっと危ないなぁ。ゴブリンなら討伐してもいいよね。集落じゃあなさそうだし。よし。燃やしておこう、念入りに。
火魔法『ファイアストーム』(自重)!
よし、殲滅完了。何も残らずに消滅出来たよ。………ん?あれ?……ありゃりゃ?……火事になっちゃたよ!
魔法使った周りが燃え始めた。下草から木々へと炎は移る。わわっ!消さなきゃ!えと、えと、水魔法の……。
『ウォーターボール』(自重)!
はわわっ、効果なし!延焼範囲が広いし燃え広がりが早い!えと、えと、こういうときは自重なしで、うーんと。
水魔法『ウォーターストーム』!
水の竜巻が燃えている辺り一面を多い尽くした。ここからでも見えるほどの巨大な水柱が立つ。バシャン!!と水が落ち鎮火していく。
ほっ。消えた。被害は……うん。かなり酷いけど、魔力を伸ばして、手をパンパン、で元通り。燃えた木々も下草も、水の衝撃で折れた木々も流された草花も、ちゃんと元に戻したよ。巻き込まれた動物や虫たちにはごめんなさいをしておく。動物や虫の蘇生は何故か禁止されているの。私が蘇生出来るのは植物と人間達だけ。神様ルールはよくわからないね。
もう一度、『索敵』して、……うん。赤い集団はなくなったね。
はあぁ……。何か疲れたよぉ。
馬さん達は水音に顔を向けたけど、またむしゃむしゃと草を食み出した。
馬さんは癒してくれるねぇ。
馬を撫でようと手を伸ばした時。
「何か今凄い音がしなかったか」
背後からライの声がした。
「ああ、森の中にゴブリンの集団がいたから殲滅しておいたよ」
「おう、ありがとな。俺達の護衛をしてくれたのか」
「うん!………ん?」
振り替えるとライじゃないライがいた。着崩してボサボサのライが、髪を整えてビシッとした服を着ている。白地にグレーの差し色の上着は襟まできっちりと金ボタンを留め、白地にグレーのラインのズボンを穿いている。腰に差した剣もいつもとは違う装飾の付いたものだ。カイさんも変わってた。ライと同じ服装で似合っている。青い髪も整えられていて、何だか表情が消えている。
アルも全く違う姿になっていた。冒険者の服と革の防具姿だったのに。上着はグレーを基調に青い差し色の上品な生地で金糸の刺繍があしらわれているし、グレーに青いラインのズボンにも金糸の刺繍がされている。膝丈のブーツにも金の刺繍が施されている。襟や袖口には緻密なレースで飾られていて、腰には優美な金装飾の細い剣を佩いでいる。
「えっと……?」
「驚かせてすまない。城では騎士服着用の義務があるんだ」
戸惑っているとカイさんは無表情を少し緩めて頭を優しく撫でてくれた。その手には白い手袋がしてある。
ライも手袋をしていて、両手を脇腹にあてて私を覗き込む。
「どうだ。格好良くなっただろ?」
「うーん。そうだね。凄く変わってびっくりしたけど、元々みんな格好良いからそこは変わらないけど?」
ライが目をぱちくりして、ニヤリとした。
「そうかよ。やっぱりリリーはリリーだな」
クスッと笑ってアルは私の手を取った。
「ありがとう、リリー。君のその外見に惑わされない心に救われる。僕もライルもカインもだ」
呼び名まで変わったよ?………アルん家って面倒臭い?
「よくわかんないけど、馬さんたちは休憩できたの?」
カイさんを振り返って聞いてみた。何故かアルは鞄から出てきた蔦さん二号と握手をしている。
「あ、ああ。大丈夫だ。城まであと半分だ。リリーは大丈夫か?出発出来そうか?」
「大丈夫だよ」
大分日は傾いてきた。王都につく頃には夕方になりそう。
嫌がるライに問答無用で蔦を絡め、出発した。
途中の野営地では、沢山の冒険者や商隊が野営の準備をしていた。さっきの青い点の塊はこの人たちだったんだね。
―――――――あれ?
んと、何か忘れてる?んー………思い出せない。……………ま、いっか。
馬は順調に王都へと歩みを進めていた。
お馬さん、頑張れ!
読んでいただき、ありがとうございました。




