35. 拠点
北門の前で馬と別れた。走り去る馬は直ぐに見えなくなった。風の眷族だったのかな?速かったしね。髪がまたボサボサになったよ。ちょっと恐かったし。
アルも少しぐったりしていた。馬酔いかな?また魔法掛ける?
大丈夫、と断るから平気なのかな?
流石にライとカイさんは平気そう。あ、ライは真っ青だね。もう認めれば良いのに。乗ったんだし。非常識だって触れあえば常識だよね?
門番さんにこんにちは、して通り抜ける。
「リリー?これから、どうするのかな?」
少し顔色の良くなったアルが近づいて来た。
「拠点を作るのよ」
「拠点?」
「そう、拠点!」
「え?あ……!」
私はアルの手を掴んで走り出した。レベルが上がったからかな?とてとて、でなく、トトトトトと快調に走れるようになっていた。おお!早いね。
午後の大通りは人で賑わっていた。人にぶつからないようにすり抜ける。
「おい!走るな!転ぶぞ!」
「え?あ!わっ」
躓いてしまった。でも咄嗟にアルが手を引っ張り抱き抱えてくれたから転ばずに済んだ。ほっ。
アルはそっと降ろしてくれて、少し躊躇しながら頭を撫でてくれた。
「ありがとう、アル」
「間に合ったね。大丈夫だった?」
「うん」
「走ったら危ないよ。ちゃんと着いていくから歩いて行こう」
「わかった」
アルは私の手をしっかり握って、歩き出した。その歩幅は私に合わせて小さめで、焦らない様にゆっくりだった。
アルの然り気無い優しさが嬉しい。
ぎゅっと握り返して、にまにましながら隣を歩いた。
大通りを南門へ進み、そこを曲がって精霊の宿り木に向かう。遠回りでも、この道が一番迷わない。
「ここはリリーが泊まっている宿だね」
「そう」
今日も沢山のお客さんで溢れる食堂の前を通り過ぎ、目立たない小さな宿用の扉を開けた。
「おや?リリー様。今日はお早いですね」
カウンターで書き物をしていたアランさんが手を止めて、わざわざカウンターから出てきて出迎えてくれた。
「お疲れではありませんか。何か滋養に効くものをお持ちいたしましょうか」
「ありがとう、大丈夫だよ。それよりもお客さん連れてきた」
アランさんは私の背後にいたアル達にやっと気付いた。
「で、殿下!これは気付かずに申し訳ありません!」
ぺこぺこ謝るアランさんにアルは苦笑しながら気にしないでくれ、と声をかけた。
「あのね、アランさん」
「何でしょう、リリー様」
「私の部屋の隣、空いてるでしょ?そこを、えと、素泊まりで半年借りたいの。ライの名義で」
「おい!何勝手に……!」
「んと、一月一枚だったから、はい、半年分の金貨六枚を三人分」
私の鞄から金貨を取り出してアランさんに支払った。
「安っ!マジかっ!」
ライが驚いているけど、そうなの?でもここはお薦めの拠点。秘密にするなら尚更、ね。ふふふ。
「ライ、名前書いて」
アランさんに用紙をもらってペンと一緒に手渡した。不承不承で書き込む。目が、後で説明しろ、と言ってるけど、ずっと後でね。
部屋の鍵を貰って、三人を三階に案内する。二階と三階の様式の違いに驚く三人に、だよねー、と思った。
一番奥の薄紅色の扉の一つ手前。萌黄色の扉を開けた。内装は同じだね。部屋の基調は薄い緑色。ここも落ち着いた雰囲気だ。
「さあ、リリー。言う通りにしたぞ。何がどうなのか教えてくれるよなあ?」
「えー?まだだよ、まだまだやること沢山だよ」
「はぁ?お前、ちょっ」
「はいはい、どいてどいてー」
詰め寄るライを押し退けて、部屋をぐるりと見渡した。んー、やっぱりここかなぁ?
「あ、そうだ。部屋にいるときも鍵は掛けるんだって。アル鍵掛けて」
アルに鍵を渡す。俺が、と近づくカイさんに待ったをかける。
「カイさんはライと家具を運んで。んと、このくらいのスペースが欲しいの」
手で範囲を伝えるけど、ちょっと難しいかな?ソファーと机が部屋に合わせてピッタリなのよね。どうずらしても空かないかな。じゃあ仕方ない。家具に合わせてもらおう。
「『縮小』」
ホンの少しだけ家具が小さくなる。これなら置けそうだね。
「ここを空けて家具を配置して。寛げるようにねー」
カイさんとジト目のライが家具を移動し始める。アルも加わり相談しながら配置する。
私は指先に魔力を流し、床に敷いてある丸いマットを退かして、床に魔法陣を刻み始めた。
使いきりじゃない、半永久的に持続し、使える………………危ないから使用者登録もして…………紐付けもしよう。あとは……………見えなくする………よし、出来た。
「出来たぞ」
丁度ライ達も終わったみたい。お、いい感じに寛げるね。
「使用者登録するからここに手を置いて、アルはここ、カイさんはこっちね。そう。少しだけ魔力が採られるけど微量だから気にしないで。『使用者登録』」
三人から初級魔法の半分程度の魔力が取られた。
「この練金魔方陣は何だ。一つも読めねえぞ」
「アルの体調を整える薬の錬成陣か?」
「ふふーん。もっと良いものだよ。でも薬か。それもいいね!」
窓際の小さな文机に二つの魔方陣を描く。これも永久持続型にして、魔素を取り込んで自動生成にして。あ、器の生成と分解。洩れはないかな?うん。大丈夫だね。もう一つも持続型で、うーん、何かあったかな?
片手で鞄を探り、森から貰ったキノコ籠を見つけた。きのこを退かして籠だけを取り出す。よいしょっと。籠に魔法を施して、二つ目の魔方陣の上に置く。
あとは……。
少し窓を開けて蔦さーんと呼び掛けた。直ぐにわらわらと蔦が伸びてくる。
窓閉めても大丈夫?そう?じゃあ締めるよ。
パタンと締めた隙間からどんどん蔦が伸びてくる。
「蔦さん、こっちの魔方陣に葉っぱを八枚頂戴」
はらはらと葉が落ち、八枚貯まった。魔方陣が弱く光る。うん。上手く発動してる。
「蔦さん、強く光って薬瓶が出来たら、この籠に入れてくれる?」
ふりふりふり~。
「その後にまた葉を八枚置いてね。無理はダメだよ。少なくなったら、生えてからでいいからね」
ふりふりふり~。
「あと、この部屋の警備もお願いできる?」
ふりふりふり~。
「この三人以外の人は捕らえて拘束ね」
ふりふりふり~。
「よし」
「何がよしだ!」
いつもより強めのぐりぐりがきた!
「何平然と会話してんだ!つか、会話か?あれは。本当に意志疎通してんのか?!」
「えー?大丈夫だよねー?」
蔦がバッサンバッサン音を立てて頷いた。
「ほら」
「ほらじゃねぇ」
「なるほど。ああして会話をするんだね」
「蔦へのお願いはああやるのか」
「アルもカイも納得してるんじゃねぇよ!」
うるさいよ、ライ。
ピカッと光って、緑色の薬瓶が生成された。蔦が瓶を籠に入れ、葉を八枚はらはらと落とす。魔方陣が弱く光り、生成が始まる。
「ああ、確かに意志疎通出来ているね。リリー、これはどうなっているのかな?この魔方陣は勝手に動くのかな?」
「薬の自動生成だよ。材料を置けばゆっくりと生成される。隣の籠の下の魔方陣は品質保存の魔方陣だから、籠に入れておけば傷まないよ」
「それは便利だね」
「アルが無茶して怪我をしてもこれで大丈夫だよ」
「僕の為に?…………ありがとう」
アルははにかみながら、そっと私の頭に触れて撫でた。
…………何でかな。一度撫でると皆よく撫でてくれるよね。一人だけ、一度ぐりぐりしたら遠慮なくぐりぐりするけどね。
まあ、それはともかく。さて次々!
頭の手をがしっと掴んだ。アルは驚いてぱちくりと瞬きをする。
「次はアルのお家に行こう!」
「ん?」
「はあ?」
「…………?」
理解しない三人にもう一度宣言する。
「アルの部屋に行きたい!」
「「「はあ?!」」」
理解した三人は揃って声を上げた。
窓辺では薬が生成され、蔦がせっせと仕事していた。流石だね!
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