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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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34. 睡眠は大事


 茶器を片付けた。


「アル、起きないね」

「疲れているんだ。もうしばらく寝かせて欲しい」


 カイさんのアルを見る眼差しは何処か悲愴で、何か事情があるんだな、と悟った。


「いいよ。でも疲れているならもう帰って寝た方がいいんじゃない?」


 絶対ベッドで寝た方が疲れは取れると思う。討伐は命がけだ。そんな状態では危ないんじゃないかな。


「ま、そうだろうな。だが、アルは納得しねぇだろ」

「ああ。一体でも多く討伐する事を望む筈だ」

「そっか。じゃあ、このまま寝かせとく?」

「頼む」

「わかった」


 了解したものの、何だか暇だ。空を見て、流れる雲をただボーと眺めていた。


 あの雲、昨夜食べたコロッケみたい。ブラックサーペントって言ってたっけ。そのお肉が入ったクリームコロッケ。とろとろで美味しかったなぁ。あ、あの雲、スライムに似てる。……ぷるぷるしてて美味しそうなのに、食べられないんだよねぇ。……おお、あの雲は串焼きの形!明日のお肉は何かなぁ……。


「おい、ヨダレ出てるぞ」


 おっといけない。ジュルルン、拭き拭き。


「何を想像してたか丸分かりだな」

「え?えー?」

「どうせ肉だろう。雲の形が肉に似てるとか考えたんだろ」

「な、何故バレた???」

「はぁぁ。バレバレだ、そんなもん」

「はうわぁ!」

「アルもお前くらい能天気だったらな」

「能天気じゃないもん。することなかったからぼうっと雲見ただけだもん」

「そう言うのを能天気て言うんだよ」

「がーん!」


 ショックで崩れたけど、側ですやすや眠るアルはこの騒ぎでも目覚めない。


「アルは子供なのに能天気でいられないの?」

「ま、王族だからな。背負うものがあるんだよ」

「おうぞく……」

「リリーは王族でも態度が変わらないな。それはハイエルフだからか」


 ぽん、とカイさんの手が頭に乗った。労れないアルの代わりにされているようで、カイさんの心配が伝わってきた。


「そうだね。私に王族かどうかは関係ないかな。あと、ハーフだからね。ハーフハイエルフ」

「伝説の存在なのは変わらねぇだろ。どっちでもな」

「……そうなの?」


 振り向いてカイさんに訊くと、少し困ったように目尻が下がった。


「俺にとってリリーはリリーだ。ハーフだとかハイエルフだとかは関係ない。だが、そうだな。ハーフであってもハイエルフであることは事実だ。ならばハーフに拘る意味はないだろう」


 え?あんなに頑張ってステータス変更したのに?でも、そっか。種族とか、ハーフとか関係なく、私で認識してくれるんだね。


「同じだよ。私にとってはアルはアル。王族とか関係なく、ね。それに……」

「それに?」

「私は王族嫌いだし」

「………それはどういう」

「王族は戦争をするから。一般の人は戦争を起こせないよ。開戦出来るのは王族か、力ある者だけ。だから私は王族は嫌い。信用出来ないから」

「それはっ………そうかもしれないが、アルは違う!アルはいつだって平和を維持するために努力してきた!……アルはっ」


 ライは辛そうに顔を歪めた。言葉を詰まらせるライは必死にアルを庇う。大丈夫なのに。名前も知らない強欲な王族とアルが違うことは知ってるよ。アルがどれだけ優しいかも。


「だから、アルはアルだよ。私の中でその括り。強欲な王族じゃないのはわかってるよ」

「全ての王族が戦争を始める訳じゃない。王族だからって戦争に結びつけるのは」

「ねぇ、ライ」


 私はライの言葉を遮って、真っ直ぐ見た。


「ここに来る前」


 脳裏に蘇るのは痛ましい光景。


「初めて降りた人の住む場所は、戦場だったよ」


 ライが息を飲む。カイさんも私を凝視する気配がした。


「森は焼かれ草原は踏み荒らされ、大地には剣や矢が刺さり、死臭と瘴気に満ちていたよ。それが初めて見た人の世だった。それって偶然かな。偶々そこが戦争してただけ?そんなに戦争はない?でもね、人は同族で殺し合う愚かな種族だよ。力を持つ者が己の欲を満たすために起こす争い。人の欲に終わりはないよ。だから戦争を繰り返してる。それで傷つくのは人だけだと思う?傷付いた自然や大地は誰が癒すの?あの瘴気にまみれた土地が再び緑の豊かな土地に戻るまで何年かかるかな?戦争を起こした人は修復の責があるのに、それをする人はいない。世界の自己再生力に任せてる。無責任だよね。それが私が知ったこの世界の一つの姿だよ。王族は戦争を起こす人ばかりじゃないって言うけど、でもね。戦争は王族や力の有るものにしか起こせないんだよ。何が切っ掛けになるのかわからないし、言い訳は幾らでも作れるんだから、戦争という手段をとれる王族を信用することは出来ないよ」


 今は戦争を回避していても、この先絶対しないとは限らない。その手段が選択肢に有る限り開戦の可能性はゼロではない。あの時は仕方なかった、とか、奪われたのだから奪い返すの当然の権利、とか、国民にも自分にも言い訳をしながら戦争を起こす王族を、軍部を私は知ってる。彼らの書状や手記も私のお仕事の範囲だもん。だから王族は嫌い。信用出来ない。でもね。何事にも例外はあるんだよね。


「………っ」


 ライは唇を噛み締め、目を反らしてうつ向いた。握る拳が震えている。怒ってる?憤り?ああ、うん。そうだね。伝わるよ。ちゃんと戦争を厭う人もいるんだね。


 カイさんを振り返った。悲愴な顔で、ぐっと拳を握り締めている。カイさんも同じ思いなんだね。その手にそっと触れて、にっこりした。


「そしてもう一つの姿はここ。緑豊かで、植物も動物も虫も皆、伸び伸びと生きている。少なくともこの国は二百年間戦場になっていない。この国は、こんな場所も有るのだと、私に教えてくれた。初めて見た人の世に絶望を感じていた私を癒してくれたのはこの国の森の景色だった。だからね、この土地を守ってきたこの国の王族を、否定はしないし、嫌わないよ」

「そうか……」

「うん」


 ライの手もそっと触れた。一瞬びくっとしたけど、ライは触れられた手をじっと見つめた。


「大丈夫。私はアルもライもカイさんも嫌わないよ。大好きって言ったでしょ?」

「………俺には大はついて無かったぞ」

「ええ?そうだったっけ?」


 つけたよね?つけなかった?まぁ、どうでもいいけど。ライって意外と細かいよね?


「リリーは何故この国に来たんだ。この時期に戦場といえばアナローグとデジタールだ。この国とは離れている。偶然通り掛かる距離でもない。何か用があったのか」

「んー、特に理由はないけどね。冒険者したいだけだったし。まあ、選んだ理由は面白そうだったから?」


 ライの眉根にシワが寄った。自国を面白いって言われたら不愉快になるよね。でもそれは本心だから繕わないよ。


「この小さな国に沢山のダンジョンがあったから、だよ。最初は酷い国なら直ぐ出ようと思っていたんだけどね。………ダンジョンの発生条件知ってる?」

「ああ。瘴気だ」

「だよね。だけどダンジョンを発生させるほどの瘴気って、どれ程のものだと思う?戦場でもなかなか発生しないよ?余程の激戦区じゃなきゃ。言ったでしょ?人の瘴気は大気に融けるって。なくなるわけではないけど、溜まりはしない。それこそ、スライム一匹生み出せば消えてしまうくらい」

「…………」

「だからこの国はどれ程の瘴気に満ちた国なのかなって来たら、森は繁殖してるし、草原は広がっているし、町の人は温かくて優しい。それなのにダンジョンは生まれる。ね?不思議で面白いでしょ?」


 面白くないぞ、と呟きながらライは、頭をがしかし掻いて、カイさんをチラッと見た。


「瘴気じゃないなら発生原因はなんだ?」


 カイさんは、原因か、と腕組みして考え込んだけど答えが出なかったのか、僅かに首を横に振った。だよな、とライも頷く。


「リリーにはその原因はわからないか」

「わからないよ。それに、私は原因を探りに来たんじゃなくて、冒険者になりに来たの。ダンジョンが多いところに来たのもそれが理由」

「そうか」

「瘴気は多くないって言ったよな」

「うん。そうだよ」

「ならこの国の土地が枯れていくのは何故だ。瘴気じゃないのか」

「土地ね。うーん、どうかな?」


 まあ、確かに土地は痩せてきてるね。おつかいにも関わるから、そこは何とかしたいかなぁ。


「魔物は瘴気を吐くだろ」

「うん」

「その瘴気が土地に良くないとの見解が一般的だ」


 そうなの?そんな事はないはず、だよねぇ?またルール変わったのかな?


「だからアルは、殿下は少しでも退廃を食い止めようと冒険者をしているんだ」

「ふうん」


 そうだったんだね。土地を守るために……。まだ九歳の男の子なのに。凄いな、アルは。尊敬するよ。やっぱりアルは格好良いね。


「だったら余計にちゃんと寝た方がいいんじゃないかなぁ?んー、宿に泊まるとか?」

「アルは執務もある。昼間は討伐、夜は執務をしている。寝る時間は数時間だ。王都まで馬を跳ばしても三時間は掛かる。削れるのは睡眠しかない。ここ半年はそんな生活を続けている」


 たった数時間?それは眠くなるよね。子供は沢山寝なきゃ。フウにいつも言われてるもん。


 ぐっすり眠るアルの顔は少し疲れが滲んで辛そうだった。


 うーん、やっぱり寝た方がいいと思うな。何か良い方法はないかな………う~ん。


 穏やかな風が寝ているアルの髪を撫でて行く。そうか、アルの頑張りは精霊達も知っているんだね。ふふ、皆がアルを労ってるね。


 寝る時間を作るには…………うーん…………あ!そうだ!うん。それがいいね!そうしよう!


 まだお昼過ぎだし、まだまだ時間はあるよね。


 先ずはアルに魔法を掛けて元気にしなきゃね。


「『生命力回復(バイタルヒーリング)』」


 アルの身体を緑と青の光が包み、輝きを増して、光はアルの身体に吸い込まれた。


 高齢者に人気の回復魔法だ。よく掛けさせられたから慣れてる。主に古竜とかに。


 ぱちぱちと瞬きしてアルが起き上がる。


「凄く身体が楽だ」


 手を開いたり腕を回したりして確認してる。何処にも不調はなさそうだね。


 次に足の確保。


「風の皆、馬の調達よろしく!三頭ね、あ、羽根は要らないよ」


 その瞬間、ドドドと足音がして、白馬が三頭駆けてきた。岩の前で止まり、ブヒヒン、と鼻を鳴らす。


「来てくれてありがとう。誰かの眷族?町まで私達を運んでくれる?」


 ヒヒーン!


 了承だ。


 突然現れた馬に固まる三人を絨毯から追い出し、手早く絨毯を仕舞って、階段を駆け下り、馬に駆け寄る。


「何してるの?はやく乗って!」

「リリー、何を…?それにその馬は一体……」

「説明はあとあと。いいからこのリリーに任せて!さ、馬に乗って!あ、ライは私を乗せてね」


 少し青い顔のライに問答無用で乗せてもらう。アルもカイさんも恐る恐る乗馬した。


「さあ、出発!」


 町に向けて馬は駆け出す。


 それは、風の様に、速かった。


「わー!飛ばされるぅ!」

「頭を出すな!しっかり掴まれ!」

「ひゃぁぁぁぁ!」


 ライに押さえ込まれなんとか落馬せずに僅か十数秒で町に着いたのだった。







読んでいただき、ありがとうございました。

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