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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
32/86

30. 昇格

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 日が傾く頃、冒険者ギルドに戻ってきた。


 アル達とは北門で別れた。門の近くに用事があるんだって。少し寂しいけど、またね、と言ってくれたから、最後じゃないよね。また会えるよね?


 ギルドは依頼報告で長い列が出来ていて、ガヤガヤしてて騒がしい。私はメアリさんを探しながらカウンターまで人波を掻き分けた。うーん、人波ではなく、足波?ローブ波?鎧波?まだ背が低いから見えるのは足とローブと鎧と武器くらい。隙間を見つけてはカウンターへと進んだ。


 とてとてとカウンターに近づくと、ギルドの職員らしき男の人が、メアリさんを呼んでくれた。ありがとうと笑うと、顔を紅くして、あのその、とどこかに行ってしまった。なんで?


「お帰りなさい、リリーちゃん」


 メアリさんが笑顔で迎えてくれた。


「討伐は出来たかな?」

「うん」

「それは良かったわ。怪我はない?」

「大丈夫」

「じゃあギルド証を出して」


 首から革紐を外してカウンターに置いた。メアリさんはチラリと革紐を見たけど、ギルド証を受け取って、水晶の嵌め込まれた銀盤の窪みに置いた。


「どれどれ……ホーンラビット五匹、確かに討伐成功ね。依頼達成っと。あ、他にも討伐したのね。スライムと……ん?」


 メアリさんは二、三度パチパチ瞬きして、じと、と私を見た。何だか視線が怖い。威圧を感じる。


「ワイルドボアとコカトリスも討伐したのかしら?」

「う、うん」

「あらぁ?ランク上位は危険だから手を出しては駄目だと言わなかったかしらぁ?」

「言ったと思う……」

「なら、どうしてぇ?」

「えと、えと、成り行きで?」


 首を傾げながら答えたら、メアリさんは額に手を当てて溜め息を吐いた。


「全く……もう。リリーちゃんの魔法なら簡単なことは分かっているけれど、あまり無茶はするものではないわ」

「はぁい。ごめんなさい」

「本当に怪我はないのね?治したとかではなくて、無傷で討伐したのね?」

「うん。大丈夫」

「そう。なら不問にするわ。リリーちゃんだもの。それくらいやってしまうわね」


 メアリさんは魔力ペンで書き込み、ポイントを付与してくれた。


「依頼分の五匹で五ポイント、スライム二匹で二ポイント、ワイルドボアとコカトリスはCランクの魔獣だから其々三ポイント。合計で十三ポイント加算で現在のポイントは三十六ね。条件とポイントを達成したのでEランクに昇格よ。おめでとう」

「わぁ、ありがとう!」


 やったね!一日でランクアップしたよ!ふふん。


「では、今度のDランクの昇格条件は合計ポイント数を二百五十にする事と、Eランクの採取依頼を十件、Eランクの討伐依頼を二十件よ」


 メアリさんは魔力ペンで書き込みをした。これで条件をクリアする度に後何件か分かるんだって。色々出来るんだね、この水晶の銀盤。


 返してくれたギルド証はEランクに表示が変わっていた。うふふふふ。革紐を首に掛けてもう一度ギルド証を眺める。ホーンラビットのお陰だね。うふふ。……あ!ホーンラビットをどうすればいいか聞いてなかった。


「討伐したホーンラビットはどうすればいいの?」

「持ち帰ったの?って、ああ、マジックバックだったわね(それと空間収納)」


 メアリさんの小声にうんうん、と頷いた。


「ワイルドボアとコカトリスもあるの?」

「ううん、威力が強すぎて消滅した」

「………ギルマス無事で良かったわね……」

「なあに?」

「いえ、何でもないわ。魔物や魔獣は解体所に持って行くのよ。このギルド内にもあるけど、大型の魔獣や魔物はギルドの倉庫でも扱っているの。倉庫は二ヶ所。北門と南門の側にあるわ。解体と買い取りをそこでしているの。ここまで運ぶのは大変でしょ?」


 確かに。あ、アル達の用事ってそれかな?


「倉庫で書類をもらってギルドに来ればポイント付与や依頼達成の報酬をもらえるのよ」


 なるほど。買取は倉庫でも出来るけど、ポイント付与はギルドに来ないと出来ないんだね。


「そうそう、これは依頼達成報酬の銀貨一枚よ。残念だけど、依頼以外の討伐には報酬がないの。納品してくれれば買い取りがあるんだけどね」


 消滅しちゃったもんね。くすん。


 メアリさんは[達成]の判子をポンと押してホーンラビットの依頼書を渡してきた。


「ホーンラビットはこの依頼書と一緒に解体所に出して。そこで状態を確認してから報酬が出るわ」


 魔物や魔獣は討伐の時の損傷具合で買取金額が変わるんだって。査定は厳しいから覚悟が必要らしい。


「解体所はそこの通路の奥の扉よ」


 メアリさんに手を振って、解体所に行った。


 扉を開けると、広い倉庫のような場所で、大きな長いカウンターテーブルが部屋を仕切っていた。解体現場へは入れないようになっていた。


「こ、こんにち、は………」


 声をかけると、奥の解体用の台で作業していた人達が揃って振り返った。


 少し怖い顔の髪の無いおじさんと、少し怖い顔の茶髪が全て立っているお兄さんと、ものすごく怖い顔の白髪のお爺さんが揃って私をギロリと見た。


「あ、あの」


 途端にフニャラ~と三人の相好が崩れた。目尻は下がってニコニコ顔になる。三人は手袋を脱いでカウンターに近寄ってきた。そんな顔の人達に寄られると、逆に恐い。


「可愛いなぁ」とお兄さん。

「見ない顔だなぁ。新人かぁ?」とお爺さん。

「おじちゃん達は怖くないでちゅよ」とおじさん。


 とても恐かった!


 ジリジリと後退したら壁にドン、とぶつかった。これ以上は下がれない!


「あー、怖くないぞ。怖くないからなぁ」とお爺さん。

「おじちゃん達は解体の人でちゅよ」とおじさん。

「可愛いなぁ」とお兄さん。


 とても怪しかった!


 でもここだよね?解体所。………よし。


 勇気を出して、カウンターに近づき、依頼書を出した。でも恐いから二歩下がる。


 お爺さんは依頼書を確認して、ホーンラビットか、とニコニコ顔で聞いてきた。


「う、うん。ここにだしていいの?」

「おう。持ってるならいいぞ」


 もう一度カウンターに近づき、鞄からホーンラビット五匹を出した。お爺さんの顔が元の恐い顔に戻る。ホーンラビットを隈無く調べて行く。


「ふむ。一撃か。状態はいいな。角もある。完璧だ。よし、これなら満額出せるぞ」


 五匹分で銀貨一枚と銅貨五枚を受け取った。


「お前さん腕がいいな。名は何だ」

「リリー、です」

「そうか。ワシはハンス爺だ。またおいで」

「ジジイ抜け駆けか?俺はジャックだ。解体所の兄さんて呼ばれてる。よろしくな」

「何だよ。親父もジャックも。俺はチャック。解体所のハゲ親父だ。腕のいい冒険者は大歓迎だぞ」


 恐る恐る一人一人と握手した。固くて大きな手だけど、そっと優しく握ってくれた。顔はふにゃふにゃ笑顔で恐いけど。またね、と手を振ったら、手を振り返してくれて、ほっとしながら解体所を後にした。顔は恐かったけど優しい人達だったな。見た目通りじゃないんだね。


 冒険者ギルドを出ると、もう日が暮れ始めていた。少し小走りで精霊の宿り木に戻ると今日も沢山のお客さんで賑わっていた。美味しいものね。宿側の小さな扉を開けるとミナちゃんがお帰りなさい、と迎えてくれた。


「凄い戦いだったの?」

「何で?」

「髪の毛、ぐちゃぐちゃだよ」

「え?ホント?」


 頭に手をやると確かに整っているとは言えない状態だ。…………ライだね。やっぱり、絶対、そう。ぐりぐりしてたもん。


「大丈夫。また結んであげるよ。座って」


 椅子に座ると、髪をほどかれ、ミナちゃんは何処からか櫛を取り出して梳かしてくれた。


「綺麗な銀髪なのにこんなにぐちゃぐちゃになって………」

「冒険者の人に頭ぐりぐりされたの」

「ええ!それって変態じゃない?大丈夫だったの?」

「う、うん。たぶん大丈夫」


 騎士の筈だし、アルとカイさんが一緒だから変態ではない、たぶん。


 ミナちゃんは優しく櫛梳り、夜だからと緩く左右に分けて三つ編みをしてくれた。寝るときに楽なんだって。ミナちゃんはとても器用だね。私には出来そうもない。寝てる間にお花が潰れちゃうからと、ミナちゃんとお揃いの翠のリボンを結んでくれた。可愛いリボン!ミナちゃんの瞳の色だね!


「明日の朝、また三つ編みしてあげるね」

「うん!ありがとう」


 ミナちゃんと手を取り合って笑い合った。


 夕食はワイルドボアのステーキだった。ソースが三種類付いてて、どれで食べても美味しかったよ。サラダはローストサラダで、炙った野菜が甘くて夢中で食べてしまった。塩味のスープはさっぱりしていて、とても美味しかった。スープはおかわりをしちゃった。隣のおじさんはパンとサラダもおかわりしていた。羨ましいけどお腹いっぱいで、もう入らない。デザートは別だけど。


 デザートは三層のゼリーで、ゼリーの中に果物が入っていた。ぷるるん、と揺れ動くのがスライムに見えて、やっぱり食材?と思ってしまった。


 美味しい夕食を堪能して、部屋に戻る。階段に疲れを感じたけど何とか登りきり、よろよろと部屋に入った。体力の無さだね。レベルアップ頑張ろう。


 『清潔』を掛けて、布団に入る。


「蔦矢は大成功だったよ」


 留守番をしてくれていた蔦に報告すると嬉しそうに葉を振った。


「今日は色々あったね」


 枕元で丸くなるシアに話し掛けると、僅かに顔を上げてチロチロと舌を出した。


「そうですね」

「アルとカイさんとライと、知り合いになった」

「無礼でしたが」

「優しい人達だったよ」

「まあ、そうですね」

「何かお礼をしなきゃね。優しい気持ちを貰ったお礼を」

「無礼と相殺でよろしいのでは」

「そんなわけにはいかないよ。何か……欲しい…も……の…………」

「お休みなさい。大賢者様」


 シアの声を遠くに聞いて、私は眠りに就いた。








読んでいただき、ありがとうございました。

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