29. 自重は大切
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午後の討伐が始まった。
アルはキラービーを討伐した。毒のある大きな蜂だ。Dランクの魔物なんだって。アルは慣れているらしく、数匹に囲まれても難なく斬り倒していた。お尻の針に気を付けて倒すんだ、と教えてくれながら、しかも私を庇いながら倒してしまった。アルって強いんだね。格好良くて見とれてしまったよ。
その後、倒したキラービーから毒針を回収した。これもギルドで買い取りしてくれるんだって。薬の材料になるらしい。………毒針なのに?
カイさんは燃えながら攻撃してくる狼を討伐した。フレイムウルフといい、火属性の魔獣でCランクらしい。魔獣。魔物でなくて魔獣。つまり食べられるお肉!瘴気が消えると炎も消えて普通の狼に見えた。ライがとても美味しい肉だと教えてくれた。串焼きになるかな??
ライは毒虫や毒蛇などからアルと私を守ってくれた。虫も蛇も私には無害だけど、その心が嬉しいな。ライは乱暴者だけど、心は優しいよね。
《シアの眷属は大丈夫?この辺りにいない?》
《はい。大丈夫です。それに私の眷属に毒を持つものはおりません》
《そうなの?》
《はい。水の精霊女王様の眷属にしていただいた時に皆浄化され毒が抜けております》
《………そう、なんだね(皆毒蛇だったんだね…)》
ま、まあ、ライに退治されなくて良かったよ。
私はホーンラビットを二匹、蔦矢を使って仕留めた。弓矢の扱いも少しずつ慣れてきた。まだまだ蔦矢のお世話になってるけどね。でも他の矢も使いたいなぁ。折角作ったんだもん。試さなきゃ。
残りの矢は氷の矢と風の矢。氷矢は当たると凍らせる矢で、風矢は打つと途中から沢山の風の刃が現れて切り刻む矢だ。命名はアイデアを出したシアと精霊が考えた。
氷矢をつがえて獲物を探した。キョロキョロしながら見回していると、少し離れた木陰でガサッと大きく草が揺れた。大きな瘴気が見えて、私は咄嗟に矢を放った!
「リリー!待っ……!」
隣にいたアルが呼び止めたけど、矢は放った後。
バシン!ビキッ!!
矢が当たった音がした後、凍った音がして、木陰からぐらりと何かが倒れた。
ガシャーン!!!
「がしゃん?」
何か変な音だったよね?
何だ?とライが警戒しながら木陰に近づいた。訝しげにしゃがみこみ、無言になる。はぁぁぁぁ、と何やら大きな息を吐き、私を呼んだ。
「…………リリー」
「ん?」
「その矢、使用禁止な」
「なんで?」
「ワイルドボアが砕けた」
「…………はい?」
ほらよ、と投げてきた拳大の氷の塊にあわわ、と焦ったらアルが代わりに受け止めてくれた。ありがとう、とアルの手の中の氷を見る。
「「…………」」
それは氷だった。何かを凍らせた破片ではなく、氷そのものに変質していた。よく見るとうっすらと色が着いていて、確かに昼前にアルが倒したワイルドボアに似ている。氷柱に閉じ込める筈が氷に変えてしまったって事?それでガラス細工の様に砕けたと。
ガーン!!!
膝の力が抜けて両手で地面に手をついた。
「お肉が失くなるなんて………」
「リリー」
ぽん、とアルが慰めるように肩に手を置いた。見上げるとアルは少し笑いを堪えた顔で流石だね、と言った。
「リリーにかかればワイルドボアもただの肉の塊かな」
「お前、どんだけ肉に固執してんだよ」
ライが呆れてように近づいてきた。
「あれ、どうすんだ。融けるのか?」
カイさんがアルの手から氷の塊を取り、火魔法を掛けたけど融けなかった。お前じゃ火力が足りないんだよ、とライも試したけど融けなかった。まあ、氷矢はシアの氷魔法で作った氷から出来ているから、精霊魔法クラスの火力じゃなきゃ融けないかもね。
シアがとても得意気にふふん、と言った気がした。
はぁぁぁ……。まあ、凍ったものはしょうがないか。もうちょっと威力を抑えて動きを止める程度に調整しよう。
アルの手を借りて立ち上がり手の土を払う。
私の火魔法なら融けるけど、なんとなく大惨事になりそうだから止めとこうかな。自重は大事。うん。
鞄からエンから貰ったサラマンダーの心臓石を取り出した。サラマンダーは火の精霊が実体化したもの。これなら大丈夫。大きな赤い石は私の掌よりも大きい。両手でしっかりと握り、木陰に向かった。砕けた氷の山が出来ている。
「これで融けると思う」
心臓石を近づけるとじゅわぁ、と氷が崩れ、空気に融けるように消えた。
「リリー、それは何だ?」
近づくカイさんに心臓石を持ち上げて見せた。
「サラマンダーの心臓石」
「…………そうか。これも融かしてくれ」
一瞬固まったカイさんは手に持っていた氷の塊(ライが投げてアルが受け取った氷ね)を差し出した。心臓石を近づけると、同じ様に空気に融けて消えた。
カイさんの後ろからアルが現れて私の手の中の石を眺める。触ろうとしたから、人には熱いよ?と忠告すると、恐る恐る手を伸ばし一瞬触れると、熱っ、と離した。心臓石の熱は火傷するほどではないけど、籠められてる精霊の炎は骨まで溶かすから要注意だ。
赤くなったアルの手に治癒魔法を掛けた。驚いた顔をしたけど、ありがとうと、治った手を眺める。背後でライが、攻撃魔法に治癒魔法って何でも有りすぎじゃね?と騒ぎ、カイさんがリリーだからな、と返しているけどその認識はどうかと思う。
「リリーは熱くないの?」
「うん。大丈夫」
「ねえ、リリー。その石はどうしたの?」
「家を出るときに、役に立つからって貰ったの」
「家で…………そうか。大切なものなんだね」
「うん……」
鞄に仕舞いながら赤い色に懐かしい気持ちになる。心臓石は私にはほんのり温かくて、エンと手を繋いでいるようだった。なんだかエンに会いたくなっちゃった。………くすん。
込み上げてきた涙を隠すようにカイさんに抱きついた。ぎゅっとしたら、優しく抱き上げてくれて、首にしがみついたら、背中をそっと撫でてくれた。はぁ、カイさん好き。癒されるなぁ。
カイさんの優しさに包まれていたいのに、ライが、おい、と頭を乱暴に掴んだ。
「何故矢を放った」
突然、お説教が始まった。
「何故って」
「魔獣だったから良かったものの、人間だったらどうするんだ」
「瘴気が見えたから」
「いくら瘴気が見えても、実体を目視で確認してからが鉄則だ。それは守れ」
ライの目は真剣だった。冒険者のルールなのか、騎士のルールなのか。そういえばアルは止めてたね。矢を打つとき。それがルールなら、私が間違っていたんだ。
「はぁい。ごめんなさい」
「わかればいい」
くりぐりと優しくない手付きで撫で続ける。手付きは乱暴だけど、私の為を思ってのお説教だし、慰めだよね。ライの優しさは難しい。
「リリー、参考に聞いてもいいかな?」
「アル?なあに?」
「人が瘴気を纏う事はあるのかな?」
「あるよ。でも微量だし、人が放つ瘴気は大抵大気に溶けるから個人が魔物並みに瘴気を纏う事はないよ」
「そうか………」
どこか安堵したアル。何か懸念があるのかも。でもね。ないこともないんだよね。
「もし人があのレベルの瘴気を放っていたら……」
ちょっと低めの声で話したら、ライが反応した。おや?
「い、いたら何だよ?」
「人ではなくなっているから」
「おいおい、人ではないって、まさかっ!お化けかっ!」
「えー?そうかな?」
違うけどね。魔物に変わってるんだよ。でも狼狽えるライが面白いから黙っていよう。まあ、そんな事滅多にないしね。
その後は普通にホーンラビットを二匹討伐した。やっぱり逃げられるから、最後は蔦矢を使うけど、カイさんが言うには大分狙いは定まっているし、矢の速度も上がっているらしい。こんな短期間で上達するなんて凄い素質だと誉めてくれた。エヘヘ。弓Lv.3だからね!
これで討伐依頼は達成だけど、風矢も試したいなぁ。ワイルドボアの時に思ったけど、標的が大きいと当たる確率が上がるよね。どこかに大きなお肉はないかなぁ?
風矢をつがえて、キョロキョロ見渡した。初めてスライムに遭遇した地点からはかなり奥に来ていて、近くに林が幾つか点在していた。それほど見通しは悪くはないけど、林の中は薄暗く、生い茂る下草と伸び放題の枝で死角は多い。
こういうときは、あれだね。
「『索敵』」
私の周りに青い点が四つ、アル達とシアだね。そこの林に赤い点が三つ……近づいてくる?
「気をつけて!林から敵性反応だよ」
瞬時にカイさんとライが前に出て、剣を構える。アルは私を背後に庇いながら、剣を抜いた。
「……リリー、数は分かるか?」
林から目を剃らさずにカイさんは気配を探っている。まだ少し離れているから数までは分からないのかも。
「うん、三つだった」
「ちっ、三体か………。アルは無理するなよ。リリー、いざというときは魔法でアルを守れ」
出来るだろ?とライの目が語る。
「もちろん!」
「いや、僕が守るから」
背後から出ようとする私をアルが手で制した。
「リリー、僕の方が戦闘に慣れてる。君は後ろにいるんだ。そこから魔法で助けてくれないか」
「わかった」
真剣なアルに従う。アルの背後に戻った。
どこからでも魔法は使えるもんね。
ガサガサガサガサ!
大きな葉擦れの音がして、漸く姿が見えた。
二足で走る大きな鳥だ。………??何故走るの??その両手の大きな翼は一体……?
「コカトリスだ!」
あれがコカトリス!
ライが飛び出してきた一体の蹴りを避け、下から切り上げた。羽毛が舞ったが致命傷にはならなかったようだ。クケーッ!!と叫んで間合いを取る。
「ちっ!浅かったか!」
空かさずライが攻撃を加えるがもう一体が飛び出してライに嘴で襲いかかった!間一髪で攻撃を避けたライの後ろからカイさんが現れコカトリスに一撃を与える。よろけて後退したコカトリスに追撃を加えるカイさん。最初のコカトリスに上から斬り臥せるライ。それは流れるような連携で行われた討伐だった。ドシン!と二体が倒れる。瘴気が消え、討伐完了だ!
飛ばずに走る鳥。これがコカトリスなんだ。
アルの背中から固唾を飲んで見ていた。一瞬の激闘に気付いたらアルの服を掴んでいた。ほっと一息吐いて、違和感に気付く。
ん?あれ?二体?確か敵性反応は三つ……。
ガササ!!
私の近くの茂みが大きく揺れた!
「リリー!」
アルが素早く反応して私とアルの位置を入れ換えた。
クケーッ!と飛び出してきたコカトリスにアルが剣を一閃。でも届かない!避けたコカトリスは大きくジャンプをした!攻撃が来る!
アルを守らなきゃ!
私は持っていた矢をつがえて空中のコカトリスに放った!矢は、風矢は沢山の風の刃に変わり、コカトリスを次々に切り刻む!
………コカトリスは肉片も残らずに消滅した。
「「「「………………」」」」
ふわり、ふわり、ふわり。
コカトリスの羽が地面に降りた。
がくりと膝から崩れ落ちる。
「お肉がぁぁぁぁ!」
ぽん、とアルが肩に手を置いた。
「これも封印だね」
風矢は精霊の風魔法から作られた風魔法そのもの。威力は最大で間違いない。だって精霊は自重を知らないから。
風の精霊の笑い声が楽しそうに響いていた。
串焼き用のお肉がぁぁぁ!
私は今日とても大切な事を学んだ。
それは自重。自重することはとても大切な事なのだ。
それはとても深く心に刻まれた。
「自業自得だろ?そんな危ねぇもん、最初から作るなよ」
うわーん!
読んでいただき、ありがとうございました。




