28. ピクニック
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吹き出して笑うアルは、とても楽しそうだった。今朝見たときに有った瞳の揺らぎや翳りはなくなっている。うん。ミナちゃん。分かるよ。確かにアルはキラキラだね。
私がライにぐりぐりされている間にカイさんがマジックバックにワイルドボアを片付けていた。
「それにしても、派手にやったな、お前」
ライが呆れ顔で草原を眺める。そこには、ワイルドボアに破壊された壁が累々と続いていた。どうするんだ、これ、と頭をがしかし掻いている。
えー?このくらいなら、手をぱんぱん、て叩けば、ほら、元通り。何の痕跡もない。風に草花がそよぐ草原の復活。私が付けた傷だもの。修復は私の責任だよ。
「これでいい?」
「これでって……あー!もう!止めた。お前に関しては疑問も警戒も無駄だ。何でもありだな、ホントに」
「リリーはリリーだね。僕はリリーがハイエルフでも、エルフでも、珍獣でも信じるよ」
「ありがとう!アル!」
……ん?なんか今おかしくなかった?
「リリーの討伐依頼は一匹か?」
カイさんはライにぐりぐりされて乱れた私の髪を丁寧に撫で付けながら、よしよし、と優しい手付きで撫でてくれた。
さっきからカイさんがものすごく撫でてくれる。
《わかります。大賢者様と触れ合うと庇護欲と保護欲に目覚めるのです》
シアがまた変な共感を始めた。シアは彼等を警戒してなかった?
《大賢者様に対する正しい認識は評価に値します。信用出来るかと》
《あ、そう》
今日もシアはシアだった。
「依頼は五匹だから、あと四匹かな?」
「そうか」
カイさんが柔らかく微笑んだから、私もにっこり笑ってみた。カイさんの手付きがより優しくなる。
お前そんなキャラだったか?、とライがカイさんに呟いたけど、カイさんは最初から優しかったよ。ライとは違うもんね。
カイさんの大きな手が温かくて優しいから、嬉しくなって、カイさんにぎゅっと抱きついたら、一瞬固まったけど、そのまま抱き上げてくれた。
おお、見晴らしがいい!
アルがちょっとびっくりしたように見上げたけど、手を振ってみたら笑顔で振り返してくれた。嬉しいな。
くぅぅ~。
お腹が主張をはじめた。
「お腹空いた」
お腹に手を当てて呟くと、ライが空を見上げ手をかざしながらお日さまの位置を確認する。
「そういやぁ、そろそろ昼か。町に戻って飯にしよう」
「あ!私、お弁当持ってるよ。一緒に食べよう?」
「僕達もいいのかい?」
「もちろん!」
カイさんに下ろしてもらって(カイさんは何故か寂しそうな顔をしてたけど)、辺りを見回した。あ、大きな岩がある。これにしよう。
岩をコン、コン、とノックする。岩はなかなか起きないからね。
「岩さん、岩さん。ご飯食べたいから岩の上を貸して?」
「「「…………………」」」
背後でアルが恐る恐る話し掛けてきた。
「……リリー、その、大丈夫かい?」
「お前、頭おかしくなったか?」
外野がうるさいなぁ。
「上を平らにして、そこまでの階段が欲しいの」
ぐにゃり、と岩が形を変え始めた。
「「「は?」」」
天辺が平らになり、そこまでの階段が横向きに出来る。段差も私に合わせてある。流石、岩さん。いい仕事だね!
「ありがとう!借りるね」
階段を登り、天辺に来た。おお、ここも見晴らしがいい。魔物が来てもすぐ分かるね。んー、でもちょっと座るには硬いかな。
確か以前作ったのが……あったはず……。
ごそごそと鞄(空間収納)を漁り、大きな絨毯を見つけて取り出す。以前ピクニックの時にスイに言われて作った絨毯。火竜の皮に極楽鳥の羽根とペガサスの羽根を使って作った。ふかふかで座り心地がいいよ。
うん、サイズも丁度いいね。
真ん中に串焼きの袋と沢山のコップを出したところで、誰も来ないことに気が付いた。
「どうしたの?」
下でぽかーんと口を開けてる三人に声を掛けた。
「おい!色々おかしいだろ!」
ライが私を指差して喚き出した。
「私に関しては疑問も警戒もしないんじゃないの?」
「いや、そうだけどよ、そう言ったけど!ああぁ!だぁー!もう!」
バリバリバリと両手で頭を掻きむしり、ボサボサの髪を振りかざして、ライは階段を駆け登ってきた。
「魔法か?!魔法使ったんだな?!そうだろ?そうだと言ってくれ!」
絨毯に手をついて捲し立てるライの混乱が面白くて、ついにやりと見てしまった。
「その笑みは何だ!一体お前は何なんだ!」
「ハーフハイエルフ」
「…………………」
とうとうライはがっくりと項垂れてしまった。階段を登ってきたアルとカイさんはライの肩をぽん、と叩き、落ち着け、と慰めた。アルはぐるりと見渡して、絶景だね、と感嘆した。
「そっちに行ってもいいかな」
「いいよ」
アルは私の側に来ると剣を下ろして座った。
「ねぇ、リリー。これはとても素晴らしいことだけど、どうやったのかな」
「これ?岩にお願いしたの」
絨毯の端でライが絶望的な顔を上げた。カイさんはすでにアルの隣に座っている。
「んとね、自然は言葉を持たないの。だから相手の気持ちを読み取って意志疎通するのね。その感覚がとても優れてるの。だけど人は言葉を使うから、以心伝心っていうのかな?出来ないでしょ?黙っている相手の気持ちは読み取れないし、自分の気持ちを伝えるには言葉しかない。でも言葉は言わないと相手に伝わらないでしょ?見つめただけで正確に意志疎通出来るなら言葉なんて存在してないんだから。だからね、言葉を使うのよ。自然は言葉の意味はわからなくても、込められた気持ちは汲み取ってくれるから。綺麗に咲いて、とか美味しい実になあれ、とかいつも美しく咲いてくれてありがとう、とかの嬉しくなる言葉には頑張ってくれたりするの。いつも大好きだよって伝えていれば気持ちは伝わり、お願いを聞いてくれるのよ」
「お願いで自然が動くわけないだろ!」
ライはまだ受け入れられないのか、私とカイさんの間にどかりと座って、膝の上に肘をのせ頬杖をついて半眼する。何気に目付き悪いよね、ライって。
「それはそう思っているからだよ。常識が足枷になっているんじゃない。そんなことはどうでもいいから、お昼食べようよ」
お腹空いたのよ、私は。
「いや、どうでもよくないぞ」
ライはまだ食い下がる。少し声を潜めて、アルは私に耳打ちした。
「ライは超常現象が苦手なんだ」
「超常現象?」
「そう、お化けとか幽霊とかが怖いらしい。そんなものは存在しないと主張してる」
「…………レイスって魔物がいるのに?」
確か実態を持たない半透明で浮遊する魔物だ。精神攻撃を得意とする。戦場跡の瘴気から発生するらしい。三代目が苦手だと記録があった。
世界の仕組みからしてお化けや幽霊は存在しないわけじゃないけど、ライのような強い騎士が恐れるものじゃない。無害だしね。
思わずクスリと笑ってしまった。ライは膝をバシンと叩いて身を乗り出してきた。
「あれは瘴気から発生する魔物じゃないか!お化けとか幽霊とは違うだろ!いや、そんなものは存在しないけどな!」
「見えないのに瘴気は信じるの?」
「見えなくても瘴気は感じ取れるんだよ」
「ふうん……魔法は平気なの?」
「魔法は自分の力だ」
「そっか。………あのね、自然は生きてるよ。生きている限り意思は存在する。お願い聞いてくれるのも不思議じゃないし、意志疎通は不可能じゃない。これが私の常識。全然超常現象じゃないよ。普通、普通」
にっこり顔で言ったけど、ライの半眼は深まるばかり。全然納得してない。
「ライ。リリーはリリーなんだ。それで全てが説明出来るだろう?僕はリリーが何をやらかしても否定はしないよ。驚きの連続でもね。これがきっとハイエルフなんだ。伝説の、お伽噺の、幻の、ね」
「だから何でも有りだと?……心が広いことで」
「ライ。僕もそう考えられる僕を知らなかったよ。これでも自分に驚いているんだ。新たな発見だね」
ライは肩をすくめ、溜め息をついて、またがしがしと頭を掻いた。はぁ、と大きな息を吐く。
「しょうがねぇな。アルに免じて納得してやるよ」
「……………」
何だろう。アルは私を擁護しているのに、温かい気持ちにならない。うん………きっと、お腹が空いてるからだよね。
「さあ、食べよう」
串焼きを取って皆に手渡した。不承不承でライも受け取る。
「いただきます」
あむ、と一口食べた。
美味しい!
昨日とは違った少しスパイスの聞いた塩タレ味。酸味もあって、レモンかなぁ、程よく合ってる。
「旨いな」
「確かに旨い」
「……美味しいな。これはワイルドボア?」
「そう!ワイルドボアは美味しいお肉だよね!」
私は三人に昨日の事を話した。コカトリスの串焼きを貰ったこと。おじさんの屋台の事。そして、初めての買い物の事を。
「リリーの初めての買い物が肉………君らしいね」
パンを半分にしてカイさんとライに渡し、もう一つも半分にして片方をアルに渡した。
「おまけのパンだよ。仲良く半分ずつね」
「ありがとう。この店は毎日串焼きの種類が変わるのかな?」
「うん。前日に討伐された美味しいお肉を使うんだって。明日はどんなお肉かなぁ」
「楽しみだね」
「うん!」
アルもお肉好きなのかなぁ?お肉嫌いな人はいないものね。
「ところで、この大量のコップは何だ?」
カイさんは重ねたままの木のコップを指した。
う、ふ、ふ、とニヤ付きながら、鞄から数種類のジュースを取り出した。
「飲み比べをするのよ」
ライは嫌そうにジュースの大瓶を眺めた。
「そんな甘ったるいもん、飲み比べても甘いだけだろ。比べるなら酒にしろ、酒に」
「私、お子様だもん」
「はあ?百歳って言っただろ」
「まだ成人前だもん」
「「……………(確かに)」」
「成人って幾つだよ」
「知らないよ、でも身体は五歳児だもん。お酒、飲めないもん。ジュースは美味しいもん」
ぷくっと脹れると、アルがクスッと笑った。またスライム連想してるよねっ、絶対!
「ライの負けだ。諦めろ」
カイさんはコップを並べて、何種類か継ぎ分けてくれた。優しいなぁ。
「……本当はね、お行儀悪いから、やっちゃいけないの」
「ああ、そうだね。僕も怒られそうだな」
アルが思い出したように眉を潜めた。余程恐い親なのかな?私が思い浮かぶのは、目が笑ってないのにとびきりの笑顔のスイと穏やかな笑みなのにひたすら無言のフウ。恐いよね。涙出るくらい恐ろしいよね。ううぅ、恐いよぉ……。
想像で泣きそうになった。でも、しかしだ!
「でもね、今ここには怒る人はいないでしょ?一度でいいから、やってみたかったの」
「確かに。僕たちしかいないね」
アルは悪戯っぽく片目を閉じると人差し指を口に当てて、内緒だね、と笑った。
「俺達はいますよ」
「大目に見てくれ、ライ、カイ」
大袈裟に肩を竦めて、ライはコップを一つ掴んだ。
「んじゃ、ま、共犯って事で」
ごくごく飲み干して、うへぇ甘っ、と顔をしかめた。カイさんも無言で飲んでいる。
アルと顔を見合わせて、クスリと笑い合った。
本当に、みんな、優しい人達だね。
天気の良い昼時。大きな岩の上で、私は楽しいお昼時間を過ごした。
読んでいただき、ありがとうございました。




