23. キラキラ
ミナちゃんに急かされながら準備して、といってもシアを腕に装着するくらいだけど、葉を振る蔦に手を振り替えして、一階に降りた。
困り顔のアランさんがオロオロしている。
椅子に座り、リタさんが運んだ(トレー持って佇んでいるからそうだよね?)お茶を優雅に飲んでいるのは、昨日ギルドでフウの金貨を両替してくれた少年だった。確か名前は………カル……ラル……そんな名前。昨日同様、二人の青年は少年の後ろに立っている。名前は……何だっけ?
ミナちゃんがぺしぺしと腕を叩いてきた。
「王子様だよ。ね?本物!」
小声にならない声で囁いてくる。
王子……?あ、そういえば王子と近衛騎士だっけ。
「やあ、おはよう。よく眠れたかな」
カルだかラルだかは爽やかな笑顔で迎えてくれた。ミナちゃんがぽやぁ、という顔で惚けている。
「おはよう、です」
挨拶を返すと、イスに座るように促された。
「えーと、カル…?ラル…?さんは私に何の用ですか」
「アル、だよ。そんなに僕は印象薄いかな?」
アルだった!そう、だったっけ?ははは。覚えてない。
苦笑気味に再び名乗ってくれたアルは、約束しただろう?、とずっしりとした袋を机に置いた。
「昨日の残りの分だ。金貨五十枚ある。だが、残りの四十枚はすぐには用意出来ないんだ。すまない」
「ん?これ、何?」
「昨日の金貨の代金だよ」
「昨日もらったよ。十枚」
「価値は百枚だと言ったはずだよ。残り九十枚の内の五十枚だ」
「えぇ…………」
何にもしてないのにお金もらうのって、詐欺みたい。何か嫌だなぁ。
「嫌そうだね」
「騙してない?一枚が百枚なんておかしいでしょ」
「巻き上げるならそうかもしれないが、受けとるなら騙されてないだろう。この場合損をしているのは僕の方だよ」
「でもたった一枚だよ?」
「そうだね」
アルはふうむ、と考えこんで、ちらりと私を見た。
「では、こう考えたらどうだろうか。旧帝国金貨はすでに四百年程前には使われなくなっている。その当時の金貨の価値は今とは違い、価値が高かった。今の価値では金貨百枚は白金貨一枚だ。旧帝国金貨一枚と白金貨一枚。等価交換にならないだろうか」
……なるほど。確かに昔は白金はとても珍しいはずで、一般的に流通していた金属では金が一番高かったはず。当時のお金の種類はよく分からないけど、一番高い価値なら白金貨と同じかもしれない。うん。辻褄は合ってる。
「白金貨は日常では使いにくいだろう?だから金貨で支払われているんだ。受け取ってもらえないだろうか。王家がぼったくりと思われては困るんだよ」
「………わかった」
しぶしぶ差し出す袋を受け取った。
「良かった。残りは少しずつでも返すから、もう少し待っていて欲しい」
「これ以上いらないけど、もらわないと困るなら仕方ないね」
「理解してくれて嬉しいよ」
アルはとても爽やかに微笑んだ。背後できゃあ!、と短い声が聞こえた。ミナちゃんが興奮しているようだけど、何故今?
ではまた、とアルは青年を引き連れて出ていった。
「リリーちゃん!王子様と知り合いだったの?」
興奮気味のミナちゃんが机に乗り出してきた。がたん、と傾く机からお金の袋を避難させて鞄に仕舞った。
「えと、知り合いというか、んー、昨日ギルドで会った、かな?」
「ええ?!それだけで会いに来たの?!」
がたがたと机を揺らすミナちゃんを、茶器を下げに来たリタさんが、お行儀が悪いわよ、と嗜めたけど、生返事のミナちゃんは止まらない。更に乗り出してくる。その興奮が、ちょっと、怖い。
「よ、用があったからだよ」
「何の用なの?!また来る?」
「え?えっと……」
言い淀んでいると茶器を片付けて戻ってきたリタさんが、失礼ですよ、とミナちゃんを机から引き離した。少し膨れっ面で、しぶしぶ落ち着いたミナちゃんは、少し屈んで耳打ちする。
「…………ねえ、王子様、キラキラだったでしょ?」
キラキラ?キラキラって何だろう。
「え?うーん、そのキラキラっていうのがよくわからない」
「ええ?!キラキラしてたじゃない!髪もキラキラしてたし、目もキラキラしてたし、笑顔は最高にキラキラしてたじゃない!見てないの?!」
ミナちゃんは、まじまじと私を見て、わかった、と頷いた。
「リリーちゃんもキラキラだもん。見慣れてれば気にならないよね」
見慣れているとかはわからないけど、銀の髪がキラキラなら、アルの金髪がキラキラ表現なのはわかった。それなら。とても嬉しそうに話すミナちゃんの目の方が輝いてると思う。アルの目は、輝いてなかったもの。
「ミナちゃんもキラキラでしょ?髪は金色でキラキラ、目は綺麗な緑色じゃない」
「そ、そう?そうかな。私もキラキラ?」
「うん、キラキラ」
「やったぁ!」
ぴょんぴょん跳ねるミナちゃんは、リタさんに窘められながらも嬉しそうに笑っていた。
そこに昨夜御飯の時に隣になったおじさんが食堂の方からニコニコ顔で近付いてきた。
「これは夕べのお嬢さん。おはようございます」
「おはよう、です」
「もう、朝食は摂られましたかな?」
「まだ、です」
「今朝のサンドイッチも絶品でしたぞ。スープと一緒に食べるのがお薦めです」
少し身を屈め、口許に手を当てて小声で告げる。
「少々お行儀は悪いですがね」
ぱちりとウィンクしておじさんは、では、と階段を登って行った。
絶品サンドイッチ!これは食べなきゃ!
食堂へ行こうとしたらミナちゃんが席まで案内してくれて、朝食も運んでくれた。朝は宿泊客だけだから、少し静かで落ち着いた雰囲気だ。
お肉の入ったサンドイッチとサラダとスープ、それに赤い果実のジュースだ。
「ジュースはサービスだよ。えーと、コカトリスの照り焼きのサンドイッチと、コンソメスープ、あと……あ、シーザーサラダだよ。スープとサラダはお代わり自由ね」
「ありがとう」
「しっかり食べてね」
「うん」
いただきます、してカトラリーを握った。先ずはサラダから。昨夜のサラダと違う。白い粉が掛かっているし、四角い固いの何だろう。
ザクッと刺してぱくりと食べた。
これ!チーズだ!凄い!チーズが粉になってる!それに四角いのはパン?かな?ちょっと固いけどサクサクして美味しい!
スープを少し飲んでみた。とても美味しい。美味しいけど、熱くてびっくりした。でも私は今五歳だもの。熱くても平気だよね?……ちょっと涙は出ちゃったけど。ちらりと周りを見たら、スプーンで掬ったスープを少し待ってから飲む人と、フーフー息をふきかけて飲む人がいた。なるほど。熱いスープはそうするんだ。真似して掬ったスープを少し待ってから飲んでみた。熱いけどこれなら飲める。まだまだ知らないことだらけだね。
今度はサンドイッチ。コカトリスの照り焼きって言ったよね。パンと野菜とお肉とソースを、一緒に食べるのがサンドイッチだもんね。よし、大きく口を開けてあーん…………ぱぐ!
!!!!!
美味しい美味しい美味しい!
噛むほどにお肉とソースが混ざり合って美味しい。あむあむあむ……。半分程食べた所ではた、と気付いた。確かおじさんがスープと一緒に食べるのがお薦めって言ってた。これは試さないとね。あ、でもお行儀が悪いって言ってたからこそっとね。
ぱくりとサンドイッチを食べて、スープを掬って飲む。はわっ!スープでパンが柔らかくなって、ソースとスープが重なって違う味わいになった!これは止まらない。
ぱくぱくぱく……と食べきってしまった。
美味しかったぁ……。
ジュースをゴクゴク飲んで、御馳走様をした。
「あ、リリーちゃん、食べ終わったの?」
「うん!美味しかったよ!」
「そっか、良かった!」
ミナちゃんが食器を片付けてくれて、そのまま二人で宿の方に戻ってきた。今朝は手が足りてるからお手伝いしなくても良いんだって。
「今日は何するの?」
「ギルド行こうと思う」
「ギルド?」
「ん?冒険者ギルドだよ。もう少しでランクが上がるから討伐依頼受けようと思って」
「えっ!リリーちゃん冒険者だったの?」
「うん」
「そうなんだ。強かったもんね」
「えへへ。じゃあ行ってくるね」
手を振り出ようとすると、開けた窓から風が吹いて私の髪を舞い上げた。
「待って。その髪結んであげる」
「ん?」
ミナちゃんに椅子に座るように言われて、座った。あれ?昨日より座りやすい。………『追跡』失敗したかな?ちょっと昨日より成長してる?誰も言わないからわからない程度かな。今度は気を付けよう。
ミナちゃんは丁寧に梳かして背中に1つの三つ編みをしてくれた。最後は森で貰った花の飾りで纏めてくれたよ。
「これで邪魔にならないよ」
「わあ!ありがとう!」
「いってらっしゃ~い」
「行ってきまーす!」
今度こそ手を振って宿を後にした。
すこし遠回りだけど、一度門まで出て、そこから冒険者ギルドに行った方が迷わなそうだよね。
昨日来た道とは逆方向に進んだ。ここから門までは大通りだけですぐだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




