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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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21. 思惑の夜⑴


 深夜の冒険者ギルド。夜勤の職員が人気のなくなった一階フロアを掃除するなか、二階のギルドマスターの部屋にメアリは来ていた。部屋の全ての窓に厚手のカーテンが引かれ、魔道ランプの仄かな灯りが辺りを、照らしている。


 メアリは部屋のほぼ中央に立っていた。対峙するギルドマスターは手に大きな剣を持っている。執務机の背後に飾ってあった剣だ。


「それ使うのやめません?いつか歯こぼれしますよ」


 呆れ顔のメアリにギルマスはうるせぇよ、と顔をしかめた。


「これが一番使いやすいんだよ」


 メアリは肩をすくめ、ギルマスは剣を振り上げた。


 ガツン、ガツン。


 天井を二度、叩く。


「天井叩くのに使いやすさは関係ないと思いますけどね」


 ぼそり、とメアリが呟くと同時に、天井を作っていた大きな石の一つが音もなく上に吸い込まれ、穴が空いた。ふわりと、風が舞い、男がゆっくりと降りてきた。


「何事ですか。今週分の仕事はすでにもらっていますが?」


 金色の長髪を緩く一括りにした緑の目の美貌のエルフはグレーの長衣に付いたホコリを手で払った。


「汚い部屋ですね。掃除をサボってはいけませんよ」

「うるせぇよ。今日はまだしてねぇだけだ」


 ギルマスは壁に剣を掛けると、椅子にどかっと座った。


「お久しぶりです。サブマス。お元気そうでなによりです」


 メアリはにこりと笑い、サブマスと呼んだエルフをソファーに促した。


「はい。メアリも元気そうですね」


 優雅に座りながらサブマスも微笑んだ。

 

「「「……………………」」」


 しばらく沈黙が支配する。


 口を開いたのはギルマスだった。


「今日、全属性持ちのハイエルフが来た。お前さんの言っていた奴か」


 ガタッと音を立ててサブマスは立ち上がる。


「なっ!まさか?!……予定より二十年もズレているではありませんか!………それともこれは誤差の範囲?……いえ、あの男のことです。これも何かの罠かもしれません……」

「男?可愛い女の子でしたよ?」


 メアリは、ん?と首を傾げた。サブマスは口許に手を当てて驚いた顔をした。


「女?まさか性別を変えたのですか?いえ、性別を変える魔法はないはず。本当にハイエルフだったのですか?」

「ええ。水晶で確認しました。ハーフハイエルフでしたよ。年齢は百歳」

「ハーフ?そんなこと今までにありましたか?しかも百歳!詐称しすぎでは?……では人違いでしょうか?本物のハイエルフ?いいえ、いいえ、楽観視はできません。容姿はどうですか?銀髪でしたか?」

「ええ。綺麗な銀髪にとても深い青い目でした」


 思い出しながら言うメアリの言葉にサブマスの目が見開かれた。


「青!金色ではないのですか?!」

「違いますね。そんな珍しい色なんですか?サブマスが仰っていたのは」

「そうですよ。銀髪に金色の目のハイエルフの男です」

 

 少し落ち着いたのか、ストンとサブマスはソファーに座り直した。顎に手を当てて熟考する。ギルマスは片眉を上げて真似るよえに顎を触った。じょり、と無精髭が音を立てた。


「なら、人違いかぁ?珍しい魔法使いやがるガキだったぜ?」

「珍しい魔法とは?」


 メアリは笑いを堪えながら昼間の事を思い出した。ギルマスの顔がさらに凶悪になる。


「うぷぷ、ギルマス凍っちゃったんですよね。氷魔法って言ってましたよ。うぷぷぷ」

「氷魔法…………」

「メアリ、てめぇなぁ……」


 ギルマスの指がバギバギと恐ろしい音を立てた。サブマスは平然と思考に没頭する。メアリは頭の上で腕をクロスさせて身を守った。


「あー、はいはい、忘れましたから!顔、恐いですから!チョップはなしで!コホン。それでですね、サブマス。聞いたら六属性以上持っていて、攻撃魔法に治癒魔法まで使えて、更に転移や収納までできるそうなんですよ」


 ふむふむ、と聞いていたサブマスは、そうですか、と眉間に拠ったシワを解した。


「転移に空間収納。氷魔法は水魔法の上位属性です。それはもはや精霊魔法と言えるでしょう。使える人間はいないはずです。…………確かに普通ではありませんね。…………もしや…………?いえ、憶測で考えてはいけませんね。あの男の事です。どんな罠が待っているかわかりませんから」

「どうしますか?」

「しばらくは静観いたしましょう。また何かありましたら教えて下さい」

「わかりました」


 片手を目に当てて天を仰いだサブマスはとても深いため息を吐いた。


「…………はぁ、静かな引きこもりとはいきませんね」

「仕事しろってことだな」

「それ、ギルマスが言います?サブマスが全部の書類片付けてくれてるんですよ?」


 睨むメアリにギルマスはニヤリと笑った。


「やることあって良かったじゃねぇか。ただの引きこもりじゃあつまらねぇぜ」


 サブマスは少し恨めしそうな目でギルマスを見た。


「私としてはただの引きこもりで良かったのですが」

「ただで住まわせてやってんだ。宿泊料くらいは働けよ」

「仕方ありませんね」


 サブマスはそう言って、目を細めて微笑んだ。













読んでいただき、ありがとうございました。

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