20. ご飯
階段を二階分上がると、そこは赤を基調としながらも落ち着いた色合いで纏められた可愛い造りだった。一階と二階は同じ造りで、板張りの壁や床に板張りの扉。もちろん木目は美しく仕上げているがそれだけだった。でもこの三階は違う。壁は布が貼られ、床には絨毯が敷かれ、部屋の扉もそれぞれ違う色が塗られている。扉の間隔も二階とは違い、広くなっている。びっくりして、つい立ち止まってしまった。
「驚いた?三階は女性と家族専用の特別室なの」
ミナちゃんが奥へ奥へと案内してくれる。
「でも今はお祭りもないし、誰も泊まってないからリリーちゃんの貸しきりかなぁ」
一番奥の薄紅色の扉を開けた。
「ここだよ」
部屋はクリーム色を基調としていた。ベッドとソファーと机、衣装箪笥というシンプルなものだ。扉が二つの付いていて一つは同じ造りの寝室、もう一つは洗面台とお風呂だった。
ミナちゃんが言うには二階の部屋には洗面台とお風呂はなく、寝室も一つしかないそうだ。元々宿泊料は安いからどの部屋に泊まっても一人分は一律同じ。家族の場合は五歳以上で人数分の支払いになるんだって。
宿としてのサービスはないから、掃除は自分でする事、お風呂のお湯は自分で魔石を購入して入るらしい。私は魔法があるから必要ないかな。
ご飯の時間や出掛けるときの鍵の管理等の注意を話し、ミナちゃんはまたね、と出ていった。
部屋にいるときも鍵は掛けるように言われたから鍵をかけた。鍵は鞄に仕舞っておく。
さてと。
ぱふん、とベッドに腰掛けて、手のひらを出した。
「シア」
しゅるりと腕を伝い、シアは手のひらに乗った。綺麗な翡翠と目が合う。
「お疲れ様でした。大賢者様」
「うん。シアもね」
「これで拠点を手に入れましたね」
「拠点?」
「そうです。冒険者として仕事をし、帰る場所です」
「そっか、拠点。ここが私の拠点」
じわりじわりと嬉しさが込み上げる。地上で私が帰る場所。冒険者して、ここに帰ってくる。ここは精霊も多いし、アランさん、リタさん、ミナちゃんはとても温かい人だ。ジェドさんも良い人だし、うん、大丈夫。ちゃんとやっていける。
「ここから本当に始まるんだね」
「そうです。微力ながら私もお手伝いいたしますよ」
「ありがとう!シアがいれば心強いよ」
しゅるりとシアは腕に戻った。
ん?気のせいかな?なんだかじわじわと壁に蔦が這い始めてるんだけど。よく見ると窓の隙間から、外の蔦が侵入している。
「精霊のイタズラですね。排除しますか?」
「いいよ、このままで。でも部屋を壊したらダメ、だよ?」
蔦は葉を揺らして了承した。
明日は何しよう。買い物もいいよね。串焼き食べたい。何の魔獣の肉かな?魔獣……そうだ、ランクあげに討伐依頼を受けてもいいよね?魔物ってどんなのかな?見たことないし。魔法で倒せばいいかな。あ、魔獣は消滅させたらダメなんだっけ。んー、どうやって倒せばいいかなぁ。
ふーむ…………。
こてん、とベッドに仰向けになったら、天井を這っていた蔦が葉っぱを弾いて遊んでいた。ぱしん、ぱしん、ビリ。あ、破けた。ぶらんとぶら下がる葉っぱに光魔法で治癒してあげると、また弾いて遊びだした。懲りないね。楽しいのかな?弾くのって。
………あ!そうだ、弓!弓ならどうだろう?……やってみようかな。ハイエルフの得意技らしいし。
材料あったかな……。
『端末』で持ち物検索し、弓矢の材料になるものを探した。古竜のまつ毛大活躍だね。
ご飯の時間になるまで、創造スキルを使って弓矢の作成をした。シアや精霊、蔦の意見を聴きながら、色んな面白そうな矢を作った。
「これを明日は試してみよう。ふふ。楽しみ。早く明日にならないかなぁ。うふふふふ」
何故か蔦が怯えた気がした。失礼な。
窓の外が暗くなり、部屋の魔道ランプが点灯した。
部屋の魔道ランプが点く時間が夜ご飯の時間だったね。美味しいって言ってたご飯!やっと食べれるよ!
いそいそと一階に行くとミナちゃんがお店の方に案内してくれた。この時間は忙しいからお手伝いしてるんだって。偉いね。
宿泊客用に夜は席が確保されるんだって。ジェドさんは馴染みの店で食べるらしい。そこで情報収集するんだって、とミナちゃんが教えてくれた。旅商人の情報交換は大切なんですよ、と隣の席のちょっと太ったおじさんが教えてくれた。ここの宿泊客で旅商人だと言ってた。おじさんは情報交換しないの?と訊いたら、ここの料理が美味しすぎて他で食べれなくなったと笑った。そんなに美味しいんだ!わあ!楽しみだなぁ!早く来ないかなぁ?
「おまたせいたしました!本日のメニューは、コカトリスのミモザ風季節のサラダとワイルドボアのテールシチューです。パンはお代わり自由です。お気軽にどうぞ!」
テーブルに綺麗な色のサラダとお肉の塊が入った茶色のシチュー、籠に入ったパンとサービスですと黄色い果実のジュースが置かれた。ほわんと上がる湯気に、顔が蕩けるくらいいい匂いがする。
「いただきます」
カトラリーを手に、茹でられたコカトリスの肉かな?を口に入れた。
―――――美味しい!!!!!
うわぁ!何これ何これ、本当に魔獣なの?柔らかくて甘味があって、スパイス効いてて、噛むごとに美味しい!!
野菜も美味しい!玉子かな?黄色いのも美味しい!あ!パンはふかふかだ!はやぁぁ!柔らか~い。あ、隣のおじさん、パンをシチューに浸けてる!そんな食べ方してもいいの?いいの?大丈夫?
そっとパンをちぎってスプーンに乗せて、シチューを掬った。そして、パクリ。
!!!!!
言葉にならない美味しさ!先ずシチューがとんでもなく美味しい!お肉だけの味じゃないよ。野菜の甘味かな、塩味も絶妙で、バランスがいい。甘味がきて、塩味がきて、深いコクが締める。それがパンに染みて、また違う味わいになる。それにお肉!スプーンで解れるの。口に入れると蕩けてなくなってしまう。どれも食べるのがもったいないくらい美味しい!でもカトラリーは止まらない。
多いかな、と思った量をペロリと食べきってしまった。流石にパンは二つしか入らなかったけど、隣のおじさんはお代わりをしていた!恐るべし!
満足~とジュースを飲んでいたら、デザートです、と小さなタルトケーキが三種類運ばれてきた。選ぶのかと思ったら、それが一人分だって!
「眼福ですなぁ」
「幸せのお皿だぁ」
隣のおじさんと微笑みあった。上手くフォークに乗せて一口でパクリ。
へにゃ~ん。
桃も林檎も苺も、どのタルトも美味しかった。お腹いっぱいでも入るものなのね。
《美味しかったよ、シア》
《それは何よりです。大賢者様が嬉しいと私も嬉しいですよ》
《ふふん》
御馳走様をして、ミナちゃんに美味しかったと伝えたかったけど、お手伝いで忙しそうだから、手を振って部屋に戻った。
身体と部屋に『清潔』をかけてさっぱりする。
「ふわぁ……」
何だか今日は色々合って、楽しかったけど疲れた。こんな一日は初めて。思い切って来てみて良かった。お仕事も大切だけど、息抜きも必要だよね。ふふ、明日も楽しいといいなぁ。
いそいそとベッドに入る。シアは枕元で丸くなった。ちょっとベッドは硬めだけど、すぐに慣れる程度。気にならない。
「おやすみ、シア」
「はい。おやすみなさい、大賢者様」
精霊が魔道ランプを消してくれた。今日は空が晴れていて月が綺麗だから、部屋は明るい。
蔦がカーテンを閉め、部屋は暗くなり、私は漸く眠りについたのだった。
ドンドンドン!ドンドンドン!
扉を叩く音で目が覚めた。すでに夜は明けていて、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。
「うにゃぁ」
目を擦ろうとして気がついた。手が小さい。ありゃぁ、姿が戻ってる。
慌てて魔力の道を『追跡』して、再び時間魔法を掛けた。無事五歳に成長する。
ドンドンドン!ドンドンドン!
扉を叩く音は続いている。
何事なのぉ……。
「はわぁ……」
欠伸しながら鍵を開け、扉を開けると、ミナちゃんが扉を叩こうとしていた。
「あ、ミナちゃん、おはよう」
「おはよう、リリーちゃん!じゃなくて!リリーちゃん!来てるよ!キラキラの王子様が!リリーちゃんに会いに来てるよっ!」
キラキラの?……王子様?
誰?
読んでいただき、ありがとうございました。




