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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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18. 精霊の宿り木


 お店の中は満席で、外には待っている人が並んでいた。店員さんが忙しなく料理を運び注文を取っていく。

 

「こっちだよ」


 ミナさんに案内されて、お店の奥に入った。そこは少し広い場所で壁際にカウンターがあり、丸テーブルや椅子のセットがいくつか並んでいた。よく見ると端には階段があり、二階に続いている。


「こっちは宿の方だよ」


 テーブルに案内されて椅子に座った。


「お父さん、お母さん、ただいまー!」


 ミナさんはカウンターの奥に声を掛けた。


「ミナ?帰っていたの?」

「ずいぶん遅かったな」


 カウンターに現れたのは金色の薄毛に口髭、丸顔で緑の瞳の小太りな男性と、長身でスラッとした体型の茶髪をお下げにした緑の瞳の女性だ。ミナさんの両親かな?


「お客さんに拐われそうになったの」

「な、何?!だ、だ、大丈夫なのかい?!」


 男性はミナさんの肩を持つと、頭から足先まで怪我の有無を確認した。


「うん。大丈夫だよ」


 その言葉にギュっと抱き締める。


「そうか……良かった……良かった……」


 女性は震える手でミナさんをペタペタ触って無事を確認する。


「どこも怪我は無いのね?」

「ないよ」

「あぁ」

 

 女性はポロポロと涙を流しながら二人に抱きついた。ミナさんもまた、ポロリと涙を流した。


「心配かけてごめんなさぁい」


 しばらく三人のおいおい泣く声が響いた。


 ジェドさんと小声で話す。


「親子っていいね」

「君の親は……」

「いないよ」

「……………」


 ジェドさんが黙ってしまった。はてな?


 やがて男性がゆっくり身を離し、女性はハンカチで涙を拭った。


「それにしてもよく無事だったな」

「ええ、本当に」

「うん。助けてもらった」

「助けて?誰にだい?」

「自警団かしら?」

「ううん、あの子」


 ミナさんが私達を指さした。


 初めて気がついたのか二人はこちらを見て目を見開いた。


「まぁ、ローラン様」

「これはローラン殿ではないですか。もうそんな時期なのですな。この度は娘を助けていただきまして」

「違うよ、お父さん。助けてくれたのはこの子」


 ミナさんがビシッと私を指差した。


 は?、と二人は固まった。


「この子がね、バーンて魔法で悪い奴らをぶっ飛ばしてね、助けてくれたの」


 ミナさんが身振り手振りでバーンてバーン、と説明すると、男性が私を見つめて、はっ、とした顔をした。女性に何やら耳打ちすると、女性は口に手を当てて、まあ!と驚いた顔をした。


 ん?何だろ?


 二人は私の前に来ると、とても深々とお辞儀をする。


「この度は娘を助けていただきましてありがとうございました」

「娘を救ってくださって、ありがとうございます」

「間に合って良かった、です」


 にっこり笑うと、男性は少し居ずまいをただした。


「わたしはアラン・シンドラー、こちらは妻のリタでございます」

「あ、私はリリー・ハイレーン、です」


 アランさんとリタさんは顔を見合わせて頷いた。


「失礼を承知でお伺いいたしますが、リリー様はハイエルフ様ではありませんか?」

「「ええ?!」」


 ジェドさんとミナさんが驚いて私とアランさん達を交互に見た。


「……………様?」


 なんでハイエルフに様付け?


 ごくり。音が鳴るくらいにアランさんが唾を飲み込んだ。


「違いますか?」

「あ、えーと、私はハーフハイエルフですけど、なんでハイエルフ様なの?普通に種族の一つだよね?」


 冒険者ギルドでだって、珍しいだけで普通の対応だったよ。


「わたしどもはハーフエルフ末裔の村出身なのです。エルフの上位種族であるハイエルフ様を敬うのは当然の事なのです」

「ハーフエルフの末裔?」

「はい。もっとも今は皆人族なのですが、わたしどもの村は金髪、緑の瞳に生まれるものが多く、風や土の属性を持ちます。エルフの名残と言われているのです」


 そうなんだ。そんな村もあるんだね。そっか。ハーフエルフか。


「でも、私はハーフだし、耳も普通だし」

「いえいえ。その見事な銀糸の髪はハイエルフ様の証。例え他種族の血が混じっていようとも関係ありません」

「…………えーと、うん、わかった」


 あまりの熱意によくわからないけど承諾してしまった。私は何を解ったのかなぁ?


「この子ハイエルフ様なの?」


 ミナさんが私を指差してリタさんに尋ねた。リタさんは慌ててその指を握る。


「こら!指を指すなんて失礼ですよ。止めなさい」

「申し訳ございません。わたしの教育不足でして」


 アランさんがペコペコ私に謝る。なんだか申し訳ない。


「あ、いえ、気にしないで」


 しぶしぶミナさんが手を下ろし、ごめんなさい、と謝ってきた。怒られたフェンリルのように項垂れてしまった。いや、もう、気にしないで欲しい。今の私はただのハーフハイエルフ。ただの冒険者なのよ。はっ。ハイエルフ設定がそもそも間違いなのでは?でもねぇ。うん、色々諦めよう。考えたらダメな気がする。


「大丈夫。気にしてないよ」


 にっこり笑ってみた。ミナさんが少しホッとしたように見えた。良かった。


 リタさんが膝をついてミナさんと目線を合わせた。


「いい、ミナ。我らハーフエルフの末裔は、ハイエルフ様に敬意を持って接しなければなりません。これは何度も話しているから理解しているわね?」

「うん。知ってるよ。でもあんなに小さいなら私の方がお姉さんでしょ?小さい子はお姉さんに従うものだよ」


 リタさんはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、ミナ。それは違うわ。ハイエルフ様は長命の種族。お小さく見えても、あなたよりも年上なのよ」

「ええ?!」


 ミナさんは驚いて私を見つめた。ははは、と乾いた笑いが私の口から漏れた。だって、笑うしかない。実際はもっと小さいし。


「………あのさ」


 今まで黙っていたジェドさんが、恐る恐る話しかけてきた。


「ハイエルフってホント?」

「ハーフね。ハーフ。ハーフハイエルフだよ」

「マジか………」


 ガクッと項垂れたジェドさんは、突然ガバッと起き上がり私の肩を掴んだ。必死なほどに真剣な目だ。何だろ?


「もしかして、僕に飲ませてくれた薬って、で、伝説の、エルフの秘薬、なの、か?」


 エルフの秘薬?私が創った神薬(劣化版)だけど?でもそれは言っちゃいけないよね?よし、笑って誤魔化そう。


「えへへ」

「うわっ、マジか………」


 ジェドさんが更に項垂れてしまった。え?何故?


「ねぇ。その、ホントに私より年上なの?」


 今度はミナさんが恐る恐る訊いてきた。


「あー、うん。そう、かな?」

「…………幾つなの?」

「んーと、百歳?」

「えっ?」


 ミナさんが固まった。呆然と呟く。


「おばあちゃんより年上………」


 え?そうなの?でも見た目は五歳だしなぁ。


「えと、大丈夫。この見た目で判断して?五歳くらいの扱いでいいよ」

「……………いいの?」

「もちろん」

「じゃ、じゃあ、リリーちゃんて呼んでいい?」

「うん。私もミナちゃんて呼ぶね」

「うん!」


 がしっ、と両手を繋いで微笑み合った。


 娘を止めようと手を伸ばしたまま途中で止まっていたリタさんと汗を拭きまくっているアランさんにもにっこり笑顔で釘を刺す。


「普通で、お願いします」

「いや、でも、しかし」

「ふ、つ、う、で!お願いします」

「…………そうですか、わかりました」


 ホントに解ってくれたのかなぁ?











読んでいただき、ありがとうございました。

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