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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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17. 偶然って


 地図の通りに橋を渡って商業区画の中心に来た。ここから南に向かって道を探さなければならなくなった。そう。探す。地図の通りに道がないから。ジェドさんの言った通り、あちらこちらで工事が行われていて通行止めも多く、新しい建物が道を塞いでいたりと地図とは違う町並みになっていた。


「ジェドさんの言った通りだね」

「だろう?これでは持っていた地図も役に立たなかったかもしれないな」

「そうかも。ギルドで貰った地図と違うもの」

「そのご飯屋でないとダメかい?」

「美味しいって薦められたから」

「そりゃ、食べたいよね」


 野宿だもの。ご飯くらいはちゃんとしたい。


「南はあっちだから、んーと、あそこの道かな?」

「待った!あんな細い路地危ないよ。多少遠回りでも大きい道がいい」

「…………私、強いよ?(たぶん)」

「今、たぶん、て聞こえた」

「んー、きっと?」

「希望的観測値はいらないよ。安全な道を行こう」

「大丈夫、大丈夫」

「その根拠を教えてくれ」

「あはははは、まぁ、まぁ、こっち、こっち」


 ジェドさんを無理矢理引っ張って南に向かう細い路地に入った。やっぱり優しい人だよね、ジェドさんは。子供の力なんて振りほどけるのに、優しく握ったまま付いてきてくれる。


 路地は背の高い建物に囲まれていて薄暗かった。人が二人歩ける幅しかない。道の先が明るくなっていて大通りに出そうだ。とりあえず、この路地に人気はない。大丈夫そうだね。


 てくてくと歩いて行くと脇道から小さな叫び声が聞こえた。なんか今日は色々あるよね?それともこれが地上の日常?物騒過ぎない?


「ジェドさん、叫び声が聞こえたよ。行こう」

「いや、ちょっと待て。こういうときは自警団か冒険者を」

「私、冒険者」

「………………」

「………………行こう」


 無言になったジェドさんを無理矢理引っ張って、叫び声が聞こえた方へと駆け出した。


 脇道の先に少し開けた場所に出た。建築資材が置かれているから、建設予定地なのかもしれない。むき出しの地面の一画で争う人達がいた。


 体の大きな怖い顔をした男と傷だらけの顔の大きな男が、私よりも少し大きな女の子の腕を掴まえている。振りほどこうと抵抗するたびに金色の三つ編みが左右で揺れた。


「離して!いや!誰かっ!助けて!」

「うるせぇ!黙りやがれ!」


 必死に抵抗している女の子に男たちは怒鳴りつけ、縄をかけ縛ろうとしている!ひどい!


 体が大きくて、声が大きくて、顔が傷だらけで、顔が怖い人。それは――――人攫いだ!


 まずはあの子を助けなくちゃ。


「ジェドさんはここにいて。黙ってて。動かないでね」


 小声で告げて、ジェドさんの手を離した。男の一人に狙いを定める。


「『風の息吹(ウィンドブレス) そよ風位(モード・ブリーズ)』」

「うごっふっ!」


 傷だらけの顔の男は突風を受けて後ろに吹っ飛び壁に激突した。そのまま少し崩れた壁の表面と共に地面に落ちて動かなくなった。


 あれ?そよ風にしたのにな。生きてる、よね?生命反応を確認してほっと一息吐く。


「なんだぁ!どうしたんだ!おい!うわぁ!」


 騒ぐもう一人の男にも同じ魔法で吹っ飛ばす。同じように壁に激突して気絶した。


 よしよし、あとは捕らえなきゃね。


「『土の手枷(ソイルマナクル)』」


 男たちの手に土の手枷が嵌められる。土の鎖で繋がれてるから自由には出来ないよ。


 あとは閉じ込めるだけ。


「『土の牢獄(ソイル・プリズン)』」


 土でできた檻が二人を閉じ込めた。これで逃げられないよ!


《お見事です。大賢者様。壁が少し崩れましたが、被害は最少で押さえられました。流石です》


 あ、そうだ。壁を修復しなきゃ。


 土魔法を駆使して壁の傷を無かったことにした。―――――よし。壁は傷つかなかった。何もなかった。うん。


 まだ魔法の威力が強いのかなぁ。調節しなきゃね。


 くるりと振り向いて呆然と座り込んでる女の子に近づいた。緩く巻かれた縄を解き、ぽいっと捨てた。


「大丈夫?お姉さん」


 ゆっくり見上げる大きな緑の目には涙が溜まっていた。


「うぅ、怖かったよぉ」


 うわーんと泣き付くお姉さんをよしよしと撫でた。なんか不思議な気分。いつもは撫でられるばかりだから新鮮だ。診たところ怪我はないようだし、間に合って良かった。


 泣き止まないお姉さんに少し困りながら、離れた所にいるジェドさんを見た。


 ジェドさんは少し何かを考えていたけど、やがてゆっくり近づき、私の頭を撫でた。


「頑張ったね。凄かったよ。ちゃんと冒険者なんだね」

「えへへ。だから言ったでしょ?私は強いよって」

「うん。信じたよ。それから」


 ジェドさんはしゃがんで泣いてるお姉さんの頭を撫でた。


「ミナ、ちゃん、だよね?僕のこと覚えてる?」


 お姉さんは腕で涙を拭いながらジェドさんを見た。大きな瞳が更に見開かれる。


「ジェドお兄さんだぁ……う」

「「う?」」

「うわーん!」


 今度はジェドさんにしがみついて泣いてしまった。


「参ったな」


 本当に困った顔をして、ジェドさんはお姉さんが落ち着くまで、優しく頭と背中を撫で続けていた。


 しばらくして騒ぎを聞き付けた自警団が駆けつけた。私はギルド証を見せ、一部始終を話した。人攫いの男たちはまだ気絶していたから檻と手枷を『解錠』して自警団に引き渡した。


 落ち着いたお姉さんはミナ・シンドラーと名乗った。七歳らしい。しかも、これから行こうとしていた食事処の娘さんだった!凄い偶然。もっと驚くことに、ジェドさんの行きつけの宿屋だった!びっくりだよね?


 ミナさんに案内されて、食事処『精霊の宿り木』に行くことになった。


 何故か私が真ん中で二人に手を繋がれている。迷子にならないよ?


 大通りに出て、さらに南へと迷路のような道を進む。


 そんなとき、いきなりミナさんが訊いてきた。


「ねえ、この子、ジェドお兄さんの娘さん?」


 ブホォッ、とジェドさんが吹き出した。ちょっと汚い。ハンカチで飛んだ唾を拭う。


「あ、ごめん、ごめん。変なこと言うから。違うよ。こんな可愛い子が娘なわけないし、僕は独身だよ」

「そうなの?手を繋いで仲良さそうだから」

「あー、いや、その、この子は恩人なんだ」

「ジェドさんとは、一緒に野宿する約束なの」


 ハンモックで寝るんだ。ふふん。


 ちょっと得意げに言うとミナさんは首を傾げた。


「えっ?何で野宿?うちに泊まれば良いのに」


 ミナさんの言葉にジェドさんを見上げた。


「野宿、しないの?」

「あ、いや、僕は泊まれないだろ。ギルド証ないし」

「そうだよね」


 はぁ、良かった。ちょっと安心。


「あ、見えてきたよ」


 ミナさんの言葉に前方を見る。


 商店街の一画、人が賑わう木造の大きな建物が見えた。窓辺には花が咲き、壁には蔦が繁っている。赤い屋根が特徴の可愛いお店。とても美味しそうな香りが漂っている。


 ふわりと風が舞い、私の頬を撫でた。


 ふふ。確かに精霊の宿り木だね。沢山の精霊が遊びに来てる。ここに瘴気の気配はない。この町に来て初めてかもしれない。うん。ここなら寛げそう。


 私達はミナさんに連れられて、お店の中に入って行った。










読んでいただき、ありがとうございました。

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