15. 怖くない
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二件目は商業区画と住宅区画の境目にあった。確かに自警団の詰所も近くにあり何かあれぼ駆け込めそうだ。
外観は石造りで、付近の住居の二倍くらいの大きさがあった。一階は酒場なのか外にまでお酒の匂いがしていて、がははは、と大きな笑い声が響き、がやがやと騒がしい処だった。
《ここも入りにくいね》
《そうですね》
《どうしようかな》
躊躇してると、既視感を感じる展開が始まった。茶髪の男が怖い顔の男に突き飛ばされて宿屋から出てきたのだ。
「おととい来やがれってんだっ」
「痛てててて」
地面に転んだ男は荷物を抱えながら痛そうに起き上がった。そこへ恰幅のよい赤髪を一つに纏めた女性が腰に手を当てて茶髪の男を睨み付けた。
「いくらうちが安宿でもね、身分証のないやつを泊めるわけにはいかないんだ。いい加減理解しとくれ!」
「再発行されたら見せるって言ってるだろ!」
「お得意様なら信用もできるさっ。だけどねっ。初めての客を信用するには身分証以外ないんだよっ」
「……くそっ!」
「自警団に突き出されたくないなら、さっさと行っとくれ!」
女性はふと固まっている私を見下ろして、眉を下げた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。迷子かい」
「えっと、冒険者ギルドにここを紹介されてきました。泊まりたいんですが」
「紹介?あんた、冒険者なのかい」
「はい」
ギルド証を見せると、女性はよいしょ、と屈んで目線を合わせてくれた。とても優しい茶色の瞳だ。
「そうかい。小さいのに頑張ってるね」
よしよしと頭を撫でてくれた。良い人かも。
「泊めてあげたいけどね」
女性はチラッと宿を見て声を潜めた。
「今、ちょっと柄の悪い他国の冒険者の一団が長期で泊まっていてね。うちは酒場じゃないのに昼まっから仕事もしないで飲んだくれてるのさ」
この匂いは彼らの仕業なんだね。しょうもない大人は何処にでもいるんだね。
「あんたみたいな可愛い子はすぐに絡まれちまう。悪いけど他を当たっておくれ」
申し訳なさそうに言う女性に、優しい人だなぁと思った。そんな柄の悪い人達を泊めて大丈夫なのかな?
「おばさんは、大丈夫なの?柄が悪いんでしょ?」
「…………お姉さんだよ」
「あ、お姉さん」
「素直な子だね。私は大丈夫。慣れてるからね」
心配してくれてありがとう、と頭を優しく撫でてくれた女性に、親切に教えてくれたお礼をしたくて、鞄に片手を突っ込み創造スキルを発動した。
古竜の牙と森で貰った赤い実を材料にお守りのペンダントを作っていく。目立たない大きさで、守りの加護は最大。隠し味にカラフルキノコも使おう。豪華に見えないように。普段から使えるように。
「どうしたんだい?」
鞄に手を突っ込んでゴソゴソしてたら怪しまれてしまった。完成したペンダントを出して、はい、と渡した。
革ひもに牙を掘って作った赤い実が付いている。子供が作ったように見える仕様だ。優しいこのお姉さんならきっと着けてくれる。
「私が作ったの。親切にしてくれたお礼にあげる」
「これをわたしにかい?」
「うん。悪いことが避けてくお守り」
「そうかい。ならありがたく貰うとするかね」
そう言ってお姉さんはペンダントを首にかけてくれた。
うん。ちゃんと守りは発動してる。これで柄の悪い人達にも大丈夫。えへん。
「親切にしてくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうね。私はシンディって言うんだ。ここの女将だよ。何か困ったことがあれば言っとくれよ。力になるからさ」
「ありがとう」
手を振ってシンディお姉さんと別れた。
《優しい人だったね》
《そうですね》
《あそこに泊まれれば良かったんだけど》
《お守りを渡すくらい気にいられたのですか》
《だって怖いよりは優しい方がいいもん》
《では、柄の悪い連中は私が排除いたしましょう》
《……具体的には?》
《内緒です(クスッ)》
それって絶対だめなやつだよね?
《だ、大丈夫。排除はなしで》
《大賢者様はお気になさらず》
《気にするよっ。気にするからね》
《…………残念です》
何を残念がっているのかは、深く考えないようにしよう。うん。シアが時々やっぱり物騒だ。
三件目は商業区画の端にある。ここからだと少し遠い。近道は………川岸から橋を渡ればいいのかな?
地図で確認して川を目指した。五歳の身体は三歳の時よりも手足が伸び歩きやすくはなったけど、大人のそれには負ける。日も傾いて足早に通りすぎる人達に追い越されながらやっと川岸に辿り着いた。このまま川沿いを歩き、次の橋を渡れば商業区画の真ん中に出る。
さて、と川を見渡すと、見たことのある茶色の髪が川岸の草原の中に蹲っていた。
「ねぇ、シア。あの人ホテルや宿屋で追い出されていた人だよね?」
《不審人物ですね。凍らせましょうか》
「う、うーん、なんだか怪我してるみたいよ」
《では放っておきましょう》
「…………そうだよね」
優しい人達が追い出すくらいなんだから、関わらない方がいいよね?
通り過ぎようとした時、ううぅ、と呻き声が聞こえた。
放っておく?でも苦しそうだよね?だけど不審人物だし…………………うーん…………………私だったら返り討ち出来るよね?近づいても大丈夫だよね?
そうだ、一応。
『端末』を呼び出して簡易検索。
【名前】ジェド・ローラン
【種族】人族
【年齢】二十一歳
【職業】旅商人
特に怪しそうな感じは無さそうだけど。魔法はダメって言ってたよね?ギルマスが。だったら………。
『端末』から持ち物を検索して、必要な物を確認する。うん。大丈夫。ちょっと足りないけど他ので代用すればいいし。万能薬より効果は薄れるけど、見たところそこまで重傷じゃなさそうだし大丈夫でしょ。
鞄に手を突っ込んで創造スキルを発動。薬草やらキノコやらを調合して薬の元を作った。隠し味に古竜のまつ毛でも入れておこう。あとは魔力で調整して、水から精製した純水を混ぜて、方向性を解毒回復増加にして………。よし、完成。あ、葉っぱから器を精製して瓶の形にして、薬入れて、蓋をして、と。鞄から取り出して振ってみた。ちゃぷん音がして、うっすら光っ………た?
………あれ?回復薬じゃない?万能薬でもないし、あ、神薬(劣化版)が出来ちゃった。
―――――あー…………人が飲んで大丈夫だっけ?……うん、これは劣化版だから大丈夫だね。寿命が伸びるわけでもないし、欠損部分が生えるわけでもないし。ただちょっと人より健康に頑丈になるだけ。問題ないよね。
恐る恐る近づいて様子を見た。
汗だくになりながらお腹を抱えて唸っている。相当苦しそう。
「あ、あのぉ」
びくびくしながら声を掛けてみた。シアが気配鋭く戦闘モードになるのが分かった。頼りになるね。
男の人は僅かにこちらを見た。
「き、みは、ホテ、ルにいた……うぅ」
「具合が悪そう。これ薬だけど飲む?」
「…………い、いの、かい?………うぅ痛たたた…」
更にお腹を抱えてしまったから、慌てて薬瓶の蓋を開けて渡した。男の人は震える手でなんとか口に運んで飲み干した。瞬間――――ぱあっ、と体が光って、男の人はけろっとした顔で起き上がった。
「治った………あんなに痛かったのに」
私を見て、手に持った薬瓶を見た。
「ありがとう。君のお陰だ。すごい効能だね。どこで買ったの?」
「あ、あー、えーと、貰い物だから」
「そうか。それにしても助かったよ。本当にありがとう。僕はジェド・ローラン。旅商人だ」
茶髪のジェドさんは、薄い赤色の瞳を細めてにっこり笑った。それはとても優しい笑顔だった。
悪い人では無いのかも?
読んでいただき、ありがとうございました。




