14. 一つ目の条件は寛ぎ空間
赤くなったメアリさんのおでこにヒールを掛けて、冒険者ギルドを後にした。
まだ日は高いけど、ゆっくり夕方へと移っていく時間。そろそろ今夜泊まる場所を決めないとね。
噴水の縁に座り、メアリさんから貰ったこの町の地図を広げた。丸が三ヵ所付いている。メアリさんにお薦めを三件ほど教えて貰っていた。
《シアはどこがいいと思う?》
《見てみないとわかりませんが……》
《そうだよね》
メアリさんに訊いたのは子供でも泊まれる宿。場所によっては大人がいないと泊まれないってスイが言ってたから。教えて貰ったのはギルド証があれば泊まれる宿だ。
一件目は高級ホテル。値段も高いし警備も万全、食事も高級食材を使った値段の高い料理が食べられるけどそれほど美味しいわけではない、らしい。うーん、ご飯は美味しい方がいいよね?
二件目は普通の宿。住宅街にあって町の自警団も近く、値段もそこそこで料理もそこそこ。冒険者が多く利用するので客層は少し柄が悪い傾向がある、らしい。うーん、怖い人が沢山は遠慮したいかな?
三件目は泊まれる小さな食事処。料理はとても美味しいけどメインは食事処なので宿としてのサービスはほとんど無く、素泊まり程度。宿泊料は安いので旅商人等が利用するらしい。うーん、料理が美味しいのは良いけど、素泊まりって何だろう?宿のサービスって何かなぁ?
《とりあえず全部見に行ってみる?》
《そうですね》
《全部ダメだったら町の外で野宿?しよう。ハンモックあるし》
《(クスッ)そうですね》
《あれ?今シア笑った?》
《いえ?気のせいでは?》
《そうかなぁ?絶対笑ったと思うけどなぁ》
《気のせいですよ》
一件目の場所を確認して、噴水の縁から降りた。噴水から冒険者ギルドとは反対の道を一区間行った角の場所。
一件目の高級ホテルは直ぐに見つかった。とても立派な外観の大きなホテル。石造りの建物が多いこの町で煉瓦造りは珍しい。建物自体にきらびやかな装飾が施され、緻密な彫刻の石像が至るところに飾られていた。きれいな花が咲く生垣に囲まれたホテルは、そこだけ隔絶された別の町に見えた。入り口には帯剣した警備員が立っていて、利用者をにこやかに出迎えていた。
「なんか、入りづらいね」
《不届き者が居りましたら凍らせますからご安心を》
「それのどこが安心なの?」
ホテルに近づくと中から茶髪の男が大荷物共々警備員に摘まみ出されるところだった。警備員の後ろからホテルの人らしき年配の男が手を後ろに組み、姿勢よく歩いてきた。
「何度も言いますが身分証のない方はお泊め出来ません。お引き取りを」
「だから!盗られたんだって言ってるだろ!今、ギルドで再発行の申請中で、数日かかるんだよ!」
「では、再発行されてから、御来館下さい」
「金だってある!発行されたらちゃんと見せるからっ!」
「お引き取りを」
ホテルの人は傍でほけっ、と佇む私を見てにこやかにお辞儀をした。
「これはこれは、お小さなお客様。お見苦しいところを。当ホテルにようこそお出で下さいました。ささ、こちらにどうぞ」
ホテルの人に促されて中に入ろうとすると、背後から「ちくしょう!」と叫び声が聞こえた。振り返ろうとしたら、ホテルの人に「お気になさらず」と止められてそのままホテルに入った。
扉を開けると幾つものライトに照らされたとても広い部屋のような場所だった。壁際にはカウンターがありホテルの人がお客さんと話している。鉢植えの植物や高級そうなソファーが幾つもあって寛いでいる人もいる。その奥にはピアノやバイオリンを弾く人がいてキレイな音楽が流れていた。
案内されてカウンターに行くと、にこやかなお姉さんが、ようこそ、と声をかけてくれた。
「お一人でお泊まりですか?」
「あ、あの、冒険者ギルドから紹介されてきました」
ギルド証を出して、泊まるか決める前にどんなところか見てみたい、と話すと先程の年配の男がにこやかに、かしこまりました、とお辞儀をした。
「小さなお嬢様はとてもしっかりとなさっておられるのですね。もちろんですとも。ワタクシがご案内いたします」
年配の男はホテルの支配人だと言い、セバスと名乗った。
「今いる場所はロビーでございます。音楽を聴きながらゆったりと寛いでいただける場所になっております」
赤い絨毯の敷かれた階段を登った二階には広いレストランがあった。
「ここで朝と夜のお食事をご提供いたします。もちろんお昼のお食事も食べることが出来ますよ」
セバスさんは階段横の金網に囲まれた場所に案内してくれた。端にある小さな台の上の石に魔力を注ぐと足下に魔方陣が浮かび上がった。
「転移陣を利用しました移動箱でございます」
五階を指示すると転移陣が光り、私達は五階に到着していた。
「こちらがお泊まりいただくお部屋になります。当ホテルは全室スイート仕様でございます」
案内された部屋は居間と寝室が二つ、お風呂とトイレが完備されていた。簡易の調理場もある。使用人用だという小さな部屋も付いていた。居間には大きなソファーとテーブル、暖炉に遊戯用テーブル、とても豪華な魔道具の燭台があった。寝室には天蓋付きの大きなベッドや鏡台、衣装部屋があり、窓の外にはバルコニーがついていた。
とても豪華。豪華すぎるくらい。
《シアはどう思う?》
《部屋は及第点ではないかと。ただ……》
《うん。そうだよね》
五階に来てから漂う瘴気が可視化出来るほどに増えた。悪意を持ち誰かを害する意思のある者がここに泊まっているのか、このホテルを恨んでいる者がいるのか。または、ホテル自体が悪い事をしているのか。詳細は解らないけど、これは寛げるような場所ではない。長時間いれば気分が悪くなるに決まってる。
《なし、だね》
《はい》
案内してくれたセバスさんにお礼を言ってカウンターに戻った。
「いかがでしたでしょうか」
「とても良かったです」
「ではお泊まりに?」
「いえ、もう少し大きくなってからまた来ます。今の私では不釣り合いだから」
「そんなことはございませんよ」
「ありがとう。でも、大きくなってから(瘴気が無くなってから)来ます」
「わかりました。またの御来館をお待ちしております」
セバスさんに手を振って、ホテルを出た。
道を渡って振り返り、ホテルを見上げた。
確実に来たときよりも瘴気の量が増えている。ううん、渦を巻いている。これは不味いんじゃない?魔物が発生するレベル。
とりあえず、浄化しておこう。
「『浄化』」
辺りが一瞬煌めき、空気が清浄化され、清々しくなった。
うん、成功!
《お見事です。大賢者様》
《じゃあ、次の宿屋に行こう!》
《はい》
次は泊まれるといいな。
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