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大賢者の退屈な日々  作者: うり
第一章 はじめてのおつかい
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11. 諦めない


 ここは屋内。火魔法は危ないから、水魔法?氷魔法?雷魔法?


 動けないように閉じ込めるには。

 

 合わせた手の中で魔力が渦を巻く。パキパキと周りの空気が凍りつく。


「あら?何かヤバイんじゃないかしら」

「おいおいおいおいっ!これ、俺狙ってないか?!」


 少し焦った声が聞こえたけど気にしない。人攫いは凍らせて動けなくしなくちゃ。


 もっと、強く、もっと、冷たく。


「待って!リリーちゃん!ストップ!ストップ!この人は人攫いじゃない!とても信じられないくらい人攫いの容貌で柄が悪くて口も悪いのだけど、違うのよ!」

「おい」

「『氷の牢獄(アイス・プリズン)』!」

「リリーちゃん!ストップよ!」

「はえ?」


 魔法発動と同時にメアリさんの声が聞こえた。ストップ?何を?


「ぎゃー!ギルマスが凍った!」

「なんだ?!これは?!」

「氷の柱だ!ギルマス生きてるか?!」


 氷柱の中に人攫いを閉じ込めた。えへん。退治完了!


《お見事です。大賢者様》


 えへへ。シアに誉められちゃった。


「リリーちゃぁん……魔法解いてぇ」 


 目の前に涙目のメアリさんがいた。


 はてな?なんで涙?


「でも人攫いは退治しなきゃ」

「だから違うのよぉ。この人はギルマス。人攫いじゃないのぉ」


 ええ?!人攫いじゃ、ない?


「人攫いじゃないの?だって声が大きくて体が大きくて顔がオソロシク怖くて、飴を放り込んできたよ?人攫いでしょ?」

「確かに声が異常に大きくて、体が不必要にでかくて、顔がとんでもなく凶悪の上に眼光鋭く怖くて、いつも仕事しないし、足が臭いし、デリカシーの欠片もない人だけど、人攫いじゃないの。ギルマス、この冒険者ギルドのマスターなのよ!」

「メアリ女史ひでぇ」

「ここぞとばかり言ってるぞ」


 ギルドのマスター?


《ギルドのマスターって何だろう?》

《責任者ではないでしょうか》

《責任者………ということは?》

《人攫いではないかと》


 えっ!そうなの?!大変!間違えちゃった?!


 氷柱に向かい左から右へ。魔力を込めた人指し指を移動する。


「『解錠(アンロック)』」


 バキッ!っと音がして、氷柱は砕けた。


 シュワシュワっと湯気を出しながらギルマス?が出てきた。氷柱は空気に解けて消えた。


「うぅ……えらい目にあったぜ……」

「ギルマスぅ!無事ですかぁ?」


 涙目のメアリさんがギルマスに駆け寄った。


「メアリ、お前」

「ご無事で良かったですぅ」


 見つめ合う二人。ギルマスの手がメアリさんの頭に伸ばされ―――――


「聞こえてたぞ。俺の悪口ばかり言いやがってっ」


 ばしっ!とギルマスのチョップがメアリさんのおでこに炸裂した。


「痛!」


 メアリさんはおでこを押さえて蹲った。何だか痛そう。


「にしても………」


 ギルマスがじとりと見下ろしてきた。


「凄まじい魔法だな。一瞬で凍ったのによ、ちゃんと意識があって外部の音は聞こえるしこうして生きてる。ハイエルフ特有の魔法か?」

「氷魔法の一つ。牢獄シリーズなの」

「牢獄シリーズ?なんだそりゃ?」


 神様の創ったお仕置き用魔法の一つ。言うことを聞かないペットのドラゴン用に開発してた。『眷属にでもつかってやれ』と私も習得させられた。今まで使い道がなかったけど、案外役に立つ魔法かも?


 でもこれを説明するのは―――――無理。


「………うまく説明出来ない」

「そうかよ。ま、いい。………聞いといてなんだが、あんま手の内をさらすなよ。冒険者は個々の能力を秘密にするもんだ。仕事に関わるからな」

「うん。わかった。言わない。それとごめんなさい。人攫いと間違って」

「メアリの言う通り、俺の男前過ぎる顔が原因だったんだろ。気にすんな」


 男前?


「えと?ありがとう?」

「いいか。よく覚えておけ」

「う、うん」

「俺は顔が恐ろしいと泣かれるから飴を持ち歩いているんじゃないからな。偶々だ。偶々」


 にやりと笑う顔が怖くてこくこく頷いていると、後ろで列に並んでいる人達がわいわい言い出した。


「必死だなギルマス」

「いつも泣かれるからに決まってんじゃん」

「その笑顔も凶悪だな」

「あれ笑顔かぁ?」

「うるっせぇぞ、お前ら!さっさと仕事行け!」

「うわっ、とばっちりだ!」

「順番待ってんだよ」

「仕事しろよ、ギルマス」


 がやがやと騒がしくなってきた頃、メアリさんが復活した。少しおでこが赤いのは触れない方が良いよね?


「ホント、デリカシーのない……乙女にチョップなんて酷すぎる……ストライキしようかしら……」


 ぶつぶつ言いながらカウンターに戻ってきたメアリさんは、それはそれはとっても素敵な笑顔を見せた。え?なんか怖いっ?


「リリーちゃん。もう一度、ギルマス凍らせようか」

「ええ?!」

「大丈夫、大丈夫。ギルドの前に飾っておくだけよ」

「止めろよ、おい」


 ばしっっと再びギルマスのチョップが炸裂した。今度は脳天押さえて蹲る。


「酷いぃ」

「ひでぇのはお前だ。全く。はぁ」


 ギルマスは頭をガシガシ掻いて、メアリさんの後ろ襟を掴んでぐっと引っ張り上げた。


「猫じゃないのよぉ」

「うるせぇよ」


 涙目のメアリさんの頭にたんこぶが出来ていた。とても痛そうだからおでこ共々治してあげよう。


「『完全回復(フルヒール)』』」


 メアリさんの足元に緑色の魔法陣が展開し、メアリさんは緑の光に包まれた。


「あら?痛くない……」

「お前、治癒魔法も使えるのか」


 頭やおでこを触るメアリさんとぼそりと呟くギルマス。


 何か問題あった?


「痛いの無くなった?」


 メアリさんに確認してみると、「バッチリよ。ありがとう」と笑顔が返ってきた。うん。良いことをすると気分良いね。


「ちょっとお前ら上に来い」


 ギルマスが私とメアリさんに言って階段を登っていった。


 グッシュン!


 上の方から大きなくしゃみが聞こえてきた。ギルマスかな?風邪ひいたの?


 きょとんとしていると、苦笑いのメアリさんは私を椅子から降ろして手を繋いだ。


「一緒に行きましょう。あ、ギルド証貸してもらえる?先程の依頼達成分のポイントつけるから」


 ポイント?


 よくわからないけど、言われた通りメアリさんにギルド証を渡した。


 メアリさんはカウンターの奥にいた男の人に指示を出して私のギルド証を渡した。


「終わったら報告書と一緒にギルマスの執務室に届けてね」


 相手の承諾を聞くとメアリさんは私ににっこり笑った。


「さあ、ギルマス凍らせに行くわよ」


 あ、まだ諦めてなかった。















読んでいただき、ありがとうございました。

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