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第9話 王宮

 ローゼンダールの街並みは肌色の建物に赤い瓦屋根が美しい。

玩具のような家々と、馬車用の車道と歩道に分けられた石畳。

店屋から聞こえるにぎやかな人々の声、子ども達の遊ぶ声。

我々の馬車が通りがかると、人々はひざまずく。

その度にトロイエ殿下が、気にせず続けよ、と声をかける。


「トロイエ殿下って偉い人なんだね」


「トロイエ殿下は、王太子。世継ぎに指定された王子だ」


ユスフは手短に説明してくれる。

皇太子みたいなもんか。

なるほど……ってそんなに偉い人が山賊かなんかと戦ったりして大丈夫なのか?

一行はやがて王の座す宮殿にたどり着いた。

城門の前の跳ね橋が降りて、お堀にかかる。

入っていった宮殿の中は、柱や壁が植物の紋様に縁取られて美しい。

よく見ると紋様の先端が、薔薇の花を咥えたウサギやらリスといった小動物になっていてコミカルだった。

大きな鏡を嵌め込まれた回廊を抜け、舞踏会やなんかに使いそうな大広間を抜け、謁見の間に入る。

今回は身の危険があったということで、護衛は特別に入ることが許された。

もちろん、武器防具は控えの間に預けて、だが。


「よく……来てくださった、ジュリアン殿。ご……ゆるりと」


玉座に座っているローゼンダール王は今にも死にそうな病んだ老人だった。

豪奢なローブに埋没するように鎮座する痩せ細った老人は、法衣に包まれた即身仏を連想させた。

ジュリアンは丁寧に挨拶と王太子に助けられたことへの謝意を伝えた。

対応もおぼつかない王に代わって、王の傍に侍るエルフ族が話を続けた。

エルフ族は成年になるとそれ以上外見上は成長しないので、年齢はよくわからない。

髪や髭は伸びるのでガイマのようにそれで変化をつける者もいるにはいるが。

このエルフの場合、髭は剃り、栗色の髪はひっつめて後ろで縛っている。

目が険しく、鼻は尖っていて、その顔は鷹を思わせた。


「ここからは、わたくし宮宰マルタンから。陛下はああ言われましたが、残念ながらごゆるりと観光される余裕はございません。ジュリアン殿には本日は北方の件についての会議に、フライハイトの代表として出席いただきます」


「是非もない、そのために来たのだから」


「では、ひとまずは滞在感のお部屋にご案内します。護衛の皆様にも室を用意しております」


 「ロイヤルスイートじゃん」


天蓋のついた巨大なベッドに飛び込むと身体が沈んでいくようだ。

人をダメにするベッドだ。

これでスマホでもあれば無限にポチポチし続けてしまいそうだ。

スマホ、持ってないんだよなー。

なんにも、元住んでいた世界のものを持ってきてない。

身体さえも。

私は仰向けに横たわり胸のペンダントを手に持って上げる。

ヘッドを開くと、相変わらず赤ん坊を抱いた見知らぬ男女が私を見つめてくる。


「誰なの……」


「僕です。ジュリアンです」


部屋の扉の前から思いもかけない声が聞こえてきた。

扉を開けると、ジュリアンがやや緊張した様子で立っていた。


「すごい。ノックをする前から気付くなんて」


「え、いやたまたまです」


あんまり否定すると今度は独り言の多いヤバいやつと思われるので、控えめにしておこう。


「会議は終わりました。明日は舞踏会に出席して、明後日には帰ります」


「お疲れ様です。へー、舞踏会とかすごい。華やかなんでしょうね。憧れちゃうなー」


完全なる虚無の感情のまま、相手の喜びそうなことを適当に言う。

私の人付き合いはだいたいそんな感じだ。


「憧れている?それならよかった」


「は?」


ジュリアンは頬を赤らめながら言う。


「舞踏会ですが、あいにく、一緒に踊ってくれるパートナーがいないので、貴女あなたにお願いしたいのです。ほ、ほら、防犯上の問題もあるし!」

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