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第7話 護衛

 退治の依頼からしばらく離れようということで、隣町というか隣国のローゼンダール王国までの護衛依頼というものを引き受けた。

よほど金のある依頼者らしく、我々の他にドワーフ族の冒険者が一人、双子らしきパック族の冒険者二人組の合計五名が護衛に加わっていた。

雇われた護衛のほかに、依頼者の家に仕えていると思しき屈強な男性が数名、身辺の世話をする女中のような女性達もいる。

依頼者は豪奢な天蓋のついた馬車(馬はパッと見る限り普通に馬だ)に乗り、周りのものは歩行かちで着いていく。

結構な大所帯だ。


「はあ、どの世界にもお金持ちってのはいるんだね」


私の声にユスフが相槌を打つよりも先に、ドワーフ族の冒険者が反応した。


「依頼者はフライハイトの始祖に連なる血筋のお方だからな。名門中の名門というわけよ」


「街を作った人の子孫ってこと?」


ドワーフ族の冒険者、おそらく僧侶だろうという格好をしているその男は、ドワーフ族特有の長く濃い髭をしごきながら返す。


「左様。フライハイトは、グザヴィエに挑んだ勇者達の一人である商人マリアンヌが開いた街さね」


グザヴィエはどうもヒトラーとかムッソリーニみたいな歴史上の大悪人らしい、というぼんやりとした知識がようやく私の脳に浸透してきたところで、勇者などという新たな単語が飛び出してくる。

勇者とか出てくるとなると、なんとなくヒゲの独裁者を想像していたグザヴィエの見た目もゲームの大魔王みたいに修正しなくてはならない。


「ところでお嬢ちゃん、まだ名前を聞いていなかったな。わしはシクステンという」


「私はナオミっていいます」


「最近評判の冒険者じゃな。すると、そちらの蟲人の御仁はユスフ殿か。お噂はかねがね。一緒に仕事ができて光栄じゃ」


ユスフも会釈して返す。

シクステンは笑顔を浮かべる。

はにかむと昔のアクション映画に出てきた……えっと、あれだ。

チャールズ・ブロンソンみたいな顔である。

ドワーフ族はみんな激渋い顔をしている。


「ほっほ、わしの顔が珍しいかな。これでもドワーフの中では男前と呼ばれるんだがの」


渋すぎる顔に長いヒゲ、柔道家みたいに潰れた耳、パック族に近い低身長、太ましい腕と脚がドワーフの特徴だ。

ちなみにドワーフ族の女性には遭遇したことがない。

いるのだろうか。

いや、いないことはさすがにないか。

女性もヒゲ生えてたりしたら、ちょっと嫌かもしれない。

世間話をしている間にも、行列は進んでいく。


「あの、お二方はよく似てらっしゃいますけど、双子の兄弟なんですか」


パック族の冒険者二人に声をかけてみる。


「そうだよ。こっちがアスウェン」


「こっちがオスウェンさ」


声もめちゃくちゃ似ている。

かろうじて黒子ほくろの位置が違うようだが、見分けがつくかと言うと難しい。


「見分けがつくひつようなんかないさ、なあ、オスウェン」


「なぜなら、二人はいつも一緒だからな、ええ、アスウェン」


二人は同時に甲高い笑い声を上げた。

その時、風を切る音が響いた。

周囲を見回すと馬車のひさしに矢が突き刺さっている。


「敵襲だ。ナオミ」


ユスフは四本の手に短杖を構える。

シクステンは何やら経文の書かれた金属製の槌。

アスウェンとオスウェンは、短い弓と投げナイフ。

私も背中の両手剣を抜く。

矢は同時に何本も射られたらしく、依頼者の家人の男たちが数名負傷していた。

女中たちが悲鳴をあげている。

急に馬車の扉が開き、中から金髪碧眼の少年が飛び出してきた。


「お前たち、馬車の中に隠れるんだ」


女中達を手招きする紅顔の美少年を見て、変な笑いが出てしまった。

おいおいおいおい、狙われてるやつが出てきちゃったら不味いだろ!

たぶんめっちゃ良い人なんだろうけど、いいから隠れててくれ。


「ジュリアン坊ちゃんが出てきちゃったら不味いだろ!敵が狙ってるのは坊ちゃんなんだから!隠れてなさい」


そうだそうだ、言ってやれ、馬!

馬?

馬が喋った?


「何ぼけっとしてんだよ小娘。フイナムを見るのがはじめてみたいな面してないで、お前も護衛ならさっさと敵をやっつけんかい」


馬は鼻を鳴らして私を煽る。


「ナオミ、フイナム族の説明は後でするから、構えろ。敵が来るぞ。筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」


森の奥からこちらに迫ってくるのは、麻袋を被って顔を隠し、マントのほかはプロレスのパンツみたいなのとブーツしか身につけていない、筋肉隆々の大男だった。

何か塗っているのか身体がぬらぬらと光っている。

格好のインパクトが先に来てしまうが、右手にはちょっと引くくらいの巨大な斧を持っている。

この変態が頭目らしく、その周囲の茂みからトゲトゲのついた全身鎧を着た男たちが現れた。鎧を着ているので一見戦士風に見えるが、錫杖しゃくじょうを持つ者、弓を持つ者などがいて、おそらくは隙のないパーティー構成をしている。


「だぁれが変態だ、このオケラ虫め。お、そんなことより、そこの綺麗なお嬢さん。遠慮せずに俺の肉体美をほめたたえてくれていいんだよ」


「いや、こないで。変態」


思わず本音が出てしまう。


「恥ずかしがることはない。俺の愛と情熱を全身で受け止めてくれ、さあ」


変態マッチョマンは巨大な戦斧を構えて近寄ってくる。

どうすんだこれ。

人間と戦うなんて思っても見なかったんですけど。

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