第22話 傭兵
フライハイトの商工会議所の前庭には、私たちの他にも様々な冒険者が集まっていた。
箙と弓を背負ったヤフー族の狩人が嬉しげに話しかけてくる。
「鉄剣公主さん、その節はどうも。俺もこの戦いに参加するんです」
「あなたは………誰ですか?すいません」
本当に知らない。気まずい。
「あー、デュラハンに殺されかかっていたところを助けられた者です。クレインといいます」
「あ、その後お加減はどうですか」
「おかげさまで前より調子が良いくらいです。命の恩人と一緒に働けるなんて光栄だなあ」
「ナオミ、ジュリアン達が出てきたぞ」
ユスフの促す方向をみると商工会議所からジュリアンとその父親エンリケが出てきた。
エンリケは青いローブをたなびかせて演台に立つ。
「フライハイト市長兼ねて商工会議所長のエンリケです。まず、本日ここにお集まりいただいた皆様。ローゼンダール王国のベルガ公主をはじめとする援軍、そして傭兵の皆様に厚く御礼を申し上げる。皆様は、我が市の掲げる自由と公正の信念を守るために身を削って戦ってくださる英雄であり、殺戮王に立ち向かった始祖マリアンヌの精神的直系と言えるでしょう……」
話はめちゃ長く、意識を失いかけるほどであった。
「ナオミくん、久しぶり」
「んあ……あ、カルレさん、お久しぶりです」
褐色の肌に美しい金髪、精悍な顔。鎖帷子を着て、背には大剣を背負っている。
恩人である凄腕冒険者、金狼のカルレだった。
「俺も傭兵としてこの戦いにフライハイト側で参加する。よろしく頼むよ、鉄剣公主」
「そんな、こちらこそ」
「君は大成すると思っていたが、こんなに短期間で二つ名がつくまでとはね。期待しているよ。お互い頑張ろう」
カルレは顔の前でグーを握る。
私も拳を合わせるとカルレは白い歯を見せてニッと笑い去っていった。
◇
私たちがフライハイトに着いてから数日が経過していた。城壁の上に登るとジュリアンが兵を引き連れて見回っている。
ジュリアンは私をみとめると顔を輝かせた。
「ナオミさん、じゃなかった、ベルガ公主。お疲れ様です。敵はまだこないようですね」
「このままこなけりゃいいけど、そんな事はないんでしょうね」
ジュリアンは少し目を伏せる。
「迫ってきているのは確実ですからね。ベルガ公主とはこんな事で再会するのではなく、平和な時にゆっくりとお会いしたかった」
「そうですね。あの、条約まで結んだのに3人と一匹しか来ないなんて、本当にごめんなさい」
「そんな、公主が来てくれるだけでも十分に心強……」
物見の兵が駆け寄ってきた。
「ジュリアン様、敵影らしきものを20スタディオン先に確認」
ジュリアンと私は物見櫓に駆け登ると、差し出された遠眼鏡を覗き込んだ。
たしかに数キロほど先の地平線に豆粒みたいなものと少し背の高い何か構造物が見えた。
「第3種防衛配備!総員配置につけ!父上にもお知らせしろ」
遠眼鏡の中で段々と敵軍の全容が見えてきた。
白色の鎧と装束に身を包んだ兵士達、そして木製の塔のようなものが砂塵を巻き上げつつ近づいてきていた。





