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第20話 黄金の嵐

 私は久しぶりに自邸へと帰って寛いでいた。

ブルーセは庭で草をはみ、ユスフは広間で4本の腕を器用に使って2冊の本を読み比べている。


「よくそんな読み方できるね。頭痛くならない?」


「どちらもヤフー族の聖書だからそうでもない。出版された時期や場所による違いを確認しているのだ」


聖書ねぇ、私が覗き込むとそこに書いてあるのは想像していたのと大分違う感じの世界だった。


上腕で持っている本にはこう書いてある。


ーー神々は戦士達に力を授け、驕れる王を罰した。ヴァーユが木々を裂き、アグニが家々を焼き払い、インドラが悪き者共を打ち砕いた。彼の王、恐るべき者、摂理への挑戦者、人間世界の破壊者はついに地の底へと封じられたーー


下腕で持っている本ではこうだ。


ーー王かく語りき。我こそが迷える羊を率い、救いの園に導く牧者なり。我は人々を殺めるとき、涙を流さなかった時はない。全てはこの世の永遠を願えばこそなり。しかし、戦士達は偽りの言葉に耳を貸さなかった。争いの最中、シヴァの怒りのためか、大地は割れ、王は奈落へと落ちて行ったーー


「なんか神様的なやつがいっぱい出てくるけど、これがヤフーの聖書なの?」


「ああ、ヤフーの信仰するダルマという宗教の聖典だ。細かな違いは多いが、共通しているのはここだな」


ユスフは持っていた聖典の頁を遡った。


ーー神々は黄金の嵐となって大地に吹き荒れた。鋼の兵、鋼の車、鋼の船及び鋼の翼は粉々に砕け散り、砂となった。後には生あるものだけが残ったーー


黄金の嵐、ねえ。

私がこの項を読んでいると、家令のセバスチャンが広間に入ってきた。


「姫様、国王陛下より急使が来ております。急ぎ、王宮へ向かわれますようにとのことで……」


 「おお……戻ってきたか。待ち侘びておったぞ」


ローゼンダール国王が、ローブの中に埋もれながら声を出す。

玉座の前には兵棋台が置かれ、皮の地図が貼られていた。

エルフの宮宰マルタンが、地図を指しつつ呼び出しの理由を説明する。


「斥候の情報で判明したことですが、漠北の地から五万の大軍が攻めて来ております。北の政変で新たに誕生した勢力の軍と思われます。進路から見て、同盟を結んだフライハイトを目指しているものとみて間違いないでしょう。対策を協議するため、ベルガ公主様もお呼びしました」


従兄のトロイエ殿下もガイマたち騎士団の面々を引き連れてこの御前会議に参加している。

トロイエは挙手をして発言をする。


「同盟の通り、騎士団を率いてフライハイトに合流し、敵を迎え撃ちましょう」


王はしゃがれた声で返す。


「騎士団が抜けて……本国の守りはなんとする」


「留守は我が従妹ナオミに任せます。彼女も有名な冒険者、守備隊を率いて立派に役目を果たしてくれるでしょう」


おいおい、まったく事前にネゴってない話出てきたよ。

トロイエがこっちを振り向いて口の形ですまんと言っていたのが見える。

王は静かに行った。


「ならぬ。騎士団は行かせぬ。トロイエ、お前もだ」


マルタンも想定外の答えだったのか、割って入った。


「陛下!結んだばかりの軍事同盟を反故になされるおつもりか」


王の目は黄色く濁っている。


「反故になどせぬ。そこにおるではないか……うってつけの人材が」


王は私を睨みつけた。


「ネイオミ姫……我が国を代表し、援軍としてフライハイトに迎え。お前とお前の手勢のほか……ローゼンダールは何も出さん。名誉ある務めだ。励めよ、ベルガ公主」


「はぁぁぁぁぁ?」


私の声が宮殿に響き渡った、と思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかあからさまに面倒くさいことやらされそう… まぁ戦うのが大好きな主人公は多分平気だろうけど、相手が怒らない?ヤギ乗った戦闘狂姫やぞ?
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