第2話 冒険者
「おねえさん、ポテト追加!ビールも人数分追加で!ナオミちゃんも水なんか飲んでないで、楽しもうよ?」
アジア人の少年風の男、アンデスがめちゃくちゃ甲高い声で店員に注文する。
この狩人はこれで30歳なのだという。
こういった町の酒場にも通いなれているようだ。
私は、助けてくれた冒険者ーーそんなフワッとした職業が成り立っているのが驚きーーのパーティーによって、森のほど近くにあった街、城壁で囲まれた街フライハイトの酒場に連れられて来ているのだ。
話を聞くと、森のゴブリン退治の依頼を受けたベテラン冒険者三人に私が鉢合わせた、ということらしい。
「やや、ナオミちゃん。こいつ本当におっさんかよ、みたいな顔してるね。僕たちパック族はみんなこうなのさ。老けずに成長して、ある日、内臓がいかれて40くらいでポックリ逝く。老けないのはガワだけなんだよ、かわいそうでしょ」
アンデスはチェブラーシカみたいな大きく丸い耳をパタパタさせて、大袈裟な動作で嘆く。
またRPGみたいな設定をぶち込んできやがったな。
私はどうやら剣と魔法の中世風ファンタジー世界に迷い込んでしまったらしい。
ラノベとかでよくある異世界転移ってやつだろう。
スマホもなんも持ってないし、高校生くらいの知識で無双なんて到底できないだろう。
すげー不便な外国で物盗りにあって荷物をなくしたようなものだ。
なにができるというのか。
切ない気持ちでポテトを口に運ぶ。
そのポテトは普通にマックみたいな、ジャガイモの味だった。
中世風ファンタジーと言ったが、中世にはジャガイモはないんだったか?
これが本当にラノベだったら、ジャガイモ警察が来てしまう。
「子供のフリをして盗みを働く不良種族のくせに。なにが可哀想なものか」
エーヴァという耳の長い女性が冷たく言い放つ。
この人はエルフ族の魔導士。
高い記憶力と外部要因以外では死なない不死の身体をもっている、というのは食事の最中に既に聞かされていた。
「まあまあ、二人とも。種族の話はいくら揉めても終わらないからよそう。ナオミの今後のことのほうが重要だろう、その……異世界転移?だったか。本当ならば、大変な災難だからな」
「カルレ、そうやって優しいところを見せてナオミちゃんをコマそうたってそうはいか………イデデデデ」
エーヴァが軽口を叩くアンデスの鼻をつまんでねじった。
金髪で褐色肌の男はカルレという名前だ。
三人のリーダーで、ヤフー族の戦士。
白人みたいな顔立ちにココア色の肌、透き通るような金髪が美しい。
この世界では人間はヤフー族と呼ばれているらしい。
ただし、パブを見渡すとほとんどがヤフー族。
あとはパック族がちらほら(パック族は普通にお酒を飲んでいるのと、手品で使うみたいなデカくて丸い耳でそれとわかる。ただ、絵面が犯罪だ)。
どうも人口的にはヤフー族が圧倒的らしい。
こういう世界観だとあとはドワーフもいるのだろうか。
ドワーフはちゃんともっさりした髭面であってほしいな、なんとなく。
「こんな突拍子もない話を信じてくれるなんて、カルレさんは、なんというか柔軟なんですね」
「そういうわけでもないさ。なんとか皇帝の時代にはそういう事もしばしばあった、と聞くからな。なあ、エーヴァ」
「グザヴィエ大帝の大遠征では、帝国軍と同盟軍との戦いによって時空に裂け目が生じたという。ただし、今はそんな大戦争の時代ではないし、なんとも言えません」
「ウンチク語る時だけ早口でキモキモですわー。おい、いい加減放せってんだよ、ガリ勉マナ板女」
「なんですって、このまま鼻を捻じ切ってやろうか。低いから無くなっても誰も気付かないわ」
「やめないか、二人とも」
ビールでーす、の店員の声にエーヴァとアンデスはしばしの休戦とあいなった。
なんか普通に出されてしまったので私も口をつけるだけ、つけてみる。苦い、無理。
「しかし、気になることは他にもある。ゴブリン達があれほど組織的に家畜を盗むことなどは珍しい。何かの影響を受けているとか、ね」
この世界の魔物はそんなに知性が高くないということなのだろうか。
あのゴブリンたちがちゃんとした武器を使ったり、もっと連携して襲ってきたりする場面を想像する。
きっと、脅威の度は跳ね上がるだろう。
「伝説の魔族の王が復活!ゴブリン達は本来の力を取り戻し、悪鬼オークへと変貌したのであった!なんて、ないない。子供の本じゃあるまいし」
カルレの話を一笑に付すアンデス。
いっぽうエーヴァはもくもくとポテトを食べている。見かけによらず、大食漢らしい。
強力なリーダーをいただくと急速にまとまって危険な存在になる、というのはどこか前近代の遊牧民っぽいなぁと思う。
「まあ、魔物の動きが活発になっても悪いことだけではない。俺たちや君にとっても、仕事が増えるわけだから」
え、私?
「君には冒険者、とりわけ戦士の素質がある。異世界で戸惑う事も多いだろうが、働かないことには生きていかれないからな。明日は冒険者ギルドに案内しよう」