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第18話 鞍

 「あんれまぁ、トロールを倒してくれた勇者様がこげなお若いむすめさんだったなんて、びっくりだわあ」


おかみさんが赤い顔を綻ばせる。

私は傷が癒えてのち、依頼者のいるペテル村を訪ねた。

報酬はフライハイトのギルドからもらうが、依頼者にトロールの首を見せねば依頼達成に疑義が生じかねないからだ。

村長は初めは半信半疑だったが、ブルーセの背に積んだトロールの生首を見ると、歓待してくれた。

おかみさんと呼ばれている村長の奥さんは、私とユスフに様々な料理を振舞ってくれた(ブルーセは村長宅の外で草をんでいる)。


「この蒲焼きみたいなやつ、すごい美味しいですね」


「タウナギが気に入ったのけ。もっとおたべ。よく食べるむすめさんは強い子供を産むでの」


トロールが倒されたので山菜が取れるようになって嬉しいと言う話には、そんなローカルな理由で依頼してきたのかよとも思ったが、山菜をフライハイトなどの大都市に売るのがこの村の最大の収入源らしい。

ユスフは私と同様かそれ以上に歓待を受けたが、それには理由があった。

昔々、村が魔物に襲われたとき旅の法師がこれを退治した、法師は蟲人であった、という言い伝えがあるのだという。


「あ、その目はうたぐっとるでな」


「いえ、そんな……」


「まっとけ、その法師様の残した杖が、我が家に伝わっとるでの」


村長が持ってきたのは握りに琥珀が埋め込まれた木製の白い杖だった。


「これも何かのご縁じゃあ、ユスフさぁに差し上げるだよ」


「しかし、そんな貴重なものを拙僧がいただいて良いのですか」


「飾っとくよりも、使ってもらったほうが法師様もよろこぶじゃろうて」


ご馳走は食べれるし、ユスフは霊験あらたかな装備をもらえるし、本当に村に寄ってよかった。

私たちは、村長夫妻に見送られてフライハイトに向かうのだった。


「ときに、ナオミよ。このブルーセはぬるっとついてきているが、仲間になったということで良いのだろうか」


ブルーセは焚き火の前で丸くなって既に寝ている。


「なんか普通についてきたから、そういうことでいいんじゃない?」


「仲間入りとか、パーティーを組むとかいうのは、そんな自由な感じでいいのだろうか。もっとこう、区切りというか……」


焚き火にくべられた鍋の中ではトロールの首が煮えている。

フライハイトまで持って帰ろうと思ったが、ぐちゃぐちゃに腐ってきて異臭がしてきたので、煮込んで頭骨だけを取り出すことにしたのだ。


「もう、今更じゃない?……っていうかマジで臭いな、やばい」


「そうだな。あまり拘っても仕方ないか………本当に臭いな」


しかし、今回のような遠隔地での依頼をこなした場合は報酬を得るためには証拠がいるので、首を打ち捨てていくわけにもいかない。

我慢するしかないのだ。

丸まっていたブルーセが飛び起きた。


「くっさ!なにをにこんでいるのだ」


「トロールですけど?」


「ヤフーぞくはトロールをたべるのか、だからトロールをかりにきたんだな」


「ちげーよ!」


「こ、これは……他の二つともかくとして、この一番大きい頭蓋骨は……」


フライハイトの冒険者ギルドのカウンターにトロールの頭蓋骨を差し出すと、アストリッドは興奮した様子で定規を持ってきた。


「すごいじゃない。こいつは、トロールじゃなくてボストロールよ」


「えっと、どうすごいの?」


「ボストロールはトロールの上位種で、かなり強いとされている魔物よ。退治するにも複数のパーティーが送り込まれるのが通例。それをあなた達は倒してのけた。この髑髏しゃれこうべは飾らせてもらうわ。もちろんあなたの名前入りの銘板とともにね」


報酬が上乗せされるようなことはないようだが、誇らしい気分ではある。


「あなたの順位はかなり上がる。名のある冒険者として、依頼者か

ら指名されるようなことも増えるでしょうね。忙しくなるわよ」


アストリッドは片眼鏡に指をあてて微笑んだ。


 「いやぁ、やったねー!」


「やったな、ナオミ」


報酬50ドラクマを受け取った私たちはフライハイトの街を颯爽と歩く。

凱旋の気分で舞い上がっていた私は、ブルーセの背に跨ってみた。


「い、いっだぁぁぁい!」


私はすぐにブルーセの背から転げ落ち、股間を押さえてのたうち回る羽目になった。


「ど、どうしたナオミ」


「背骨が、ブルーセの背骨が、股間に……」


鈍痛が続いて脂汗が噴き出してきた。

たぶん涙や鼻水も出ているだろうが、痛さのあまり股間以外に意識が向かない。

自重でめりこんだわけだが、それでも耐えがたい痛さだ。

SMプレイで三角木馬に乗る人とか、どうかしているに違いない。

ブルーセは不機嫌そうに言う。


「いたいのはおれのほうだ。せなかがごりってなったぞ」


ユスフはブルーセの背中に手をやる。


「確かに、フイナムと違って背骨が飛び出ているな。何か鞍でもないかぎり、乗るのは難しいのではないか」


そういうわけで、私たちは馬具を扱う店を探し回り、ついにドワーフが営む馬具屋を見つけた。

しかし、馬の鞍は鞍橋くらぼねという部分がどうしてもブルーセの背骨に当たってしまい、装着できない。


「山羊用の鞍?そんなもんないよ」


ドワーフの店主はぶっきらぼうに言った。

私はがっくりと肩を落として店を去ろうとする。

そのとき、ドワーフはぼそっと言う。


「おい、作れないとは言ってないぞ」


「え、作ってくれるんですか?」


「値段はそれなりにいただくがな。40ドラクマってところだな」


「今回の報酬ほぼほぼ吹っ飛んじゃうやつだ……」


しかし、ブルーセと旅をする以上は彼に乗れた方が絶対に良いので、私たちはブルーセの身体を採寸してもらい、鞍を注文した。

数日後、店に行った私たちは感嘆の声を上げることになった。

出来上がっていたのは鞍だけではなかったのだ

胸懸むながい手綱たづなあぶみといった一式が揃っていた。


「作ってるうちに面白くなっちゃってな。安心しな、鞍のお代以外はとらねぇから。あと、こんなんも作ったぜ」


ドワーフの店主はV字型の金属を何枚か掲げた。

それが何なのか皆目見当がつかない。


蹄鉄ていてつだよ、蹄鉄。蹄が二つに分かれているから、一本の脚につき二つだな。攻撃力が上がるぞお」


ブルーセは蹄鉄を打ってもらうあいだ、時折嬉しそうに鼻を鳴らしていた。

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