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第14話 私生児

 「君は先王と侍女との間に生まれた私生児だ。私の従妹いとこにあたる」


トロイエ殿下は婆やが殺される前に全てを聞かされており、それでこの猟館を調べに来たのだと言う。

トロイエ殿下が語った私の出自はドロドロの宮廷ドラマ的なアレだった。

先王とその妻である王妃の夫婦仲は冷め切っていた。

先王はやがて宮廷に仕える侍女に手をつけて、子供まで出来てしまった。

先王は愛人が嫉妬深い王妃に害されることを恐れた。

そして、いとまを出したように見せかけて、この猟館に侍女を隠し、子供を産ませた。

それが私だ。


「君の母上は君が物心つくような年齢になる前に病気で亡くなっている。父親である先王も、そして先王の王妃も最早亡くなっている」


先王の密かな遺言で、婆やは私を世話するためにこの猟館に出入りしていた。

先王が亡くなったことで、その弟である現在のローゼンダール王が即位した。

そして、その一人息子であるトロイエは王太子となった。


「君は、王位継承権がある、と主張することも出来る立場だ。それが不都合な何者かが、君を消そうとしたのだろうな」


「ふむふむ。私の存在が不都合な何者か……わかった!同じく王位継承権を持つトロイエ殿下だ!」


トロイエ殿下は私に空手チョップをかました。


「私が首謀者なら助けたりせんわい!」


「ですよね〜」


意外とノリのいい人物のようだ。


「まあ、十中八九、マルタンの仕業だろうな……王家のためを思っての事だとしても、婆やを殺したとあれば許せん」


私は宮宰のマルタンがどんな人物なのかいまいち掴めていないので、トロイエ殿下の言葉に頷くこともできない。

気がついたユスフがゆっくりと起き上がる。


「ユスフ、大丈夫?あ、そこのサウリアンは私が殺したんじゃないからね。助けようとしたんだから。そのせいで殺されかかったけど」


「そうか……バアハム神が覚えていてくださるだろう」


ユスフはトロイエをみとめると、頭を下げた。


「ナオミを助けてくださったのですね。ありがとうございます」


「礼には及ばん。一族の事だからな」


話が飲み込めないユスフはきょとんとしている。


「我が従妹いとこ殿よ。君は立場をハッキリさせたほうがよい。そうする事である程度の危険から逃れられる、と私は考えている。だから、王宮に来てもらいたい」


 王宮でローゼンダール王に謁見し、トロイエ殿下から私の出自について語られると、謁見の間は大きな驚きに包まれた。


「失礼ながら証拠はあるのですかな?」


建設大臣のコーバスという名のドワーフが、意地悪な笑みを浮かべる。

私をペテン師と決めつけている様子だ。


「彼女は両親の形見を持っています」


トロイエ殿下に促され、私は首飾りのトップを開いてコーバスに見せる。


「こ、これは……陛下にもお見せする必要がありそうだな」


私はローゼンダール王に首飾りを見せる。


「ああ……兄上、確かにこれは兄上だ。このように壮健そうに見えたのに……」


王はがっくりとうな垂れる。

さて、宮宰マルタンはどう出るか。


「決まりましたな。このご婦人は先王の命で秘されていた姫君、ネイオミ・ヴォン・ローゼンダール様です。王女として列するべきです」


マルタンの言葉に謁見の間のざわつきは一際大きくなった。


「王女となれば化粧領けわいりょうが必要です。聞くに、ネイオミ様はベルガ村の先王陛下の猟館で育てられたとか。王女を縁の地であるベルガに封じ、ベルガ公主としてお認めになられてはどうでしょう、陛下」


「話が……いささか急ではないか、マルタン」


マルタンはぎろりと目を剥いた。


「善は急げ、でございますよ、陛下」


ローゼンダール王は気圧されたように目を伏せる。


「わかった……汝のよきようにせよ」


宮廷は国王陛下万歳、ネイオミ姫万歳の歓呼に包まれた。

しかし、その声はいささかぎくしゃくしているのだった。


 「マルタンは君に敢えて味方することで、私からの疑いを避けようという魂胆なのかもしれないな。ふん、尻尾をつかんだら必ず報いを受けさせてやる」


トロイエ殿下は顎に手を当てて思案しながら言う。

私とユスフ、そしてトロイエ殿下で今後のことを話し合うこととなり、大広間のデカい椅子に腰掛けているところだ。


「基本的な話だったら申し訳ないですけど、公主こうしゅって、なんです?」


「お姫様の別の言い方、という感じだな。公主こうしゅまたはコンジュは、皇帝や王の娘のことだ。お姫様が結婚する時に三公(さんこうがその婚姻を取り仕切ることから……ん、どうした。そんな難しい顔をして」


なんで急にこんなにアジアンテイストの言葉がぶち込まれるんだ?

私はちょっと想像力を働かせようとして、意識的にやめた。

何かとんでもない事実に突き当たりそうだから。


「まあ、封土が与えられたと言っても、実際の経営は代官に任せればなんとかなるだろう。何か特別に希望があれば、その者に言えば良い。うってつけの男がいるので、明日紹介しよう」


そう言ってトロイエ殿下は私が傍らに置いている剣に目を落とした。

それは猟館から拝借した、竹刀と同じくらいの長さの剣だった。


「あ、この剣勝手に持ってきちゃいましたけど、ダメでした?」


「いや、そうではない……なんでもない。気にしないでくれ」


トロイエは目を泳がせる。


「えー、気になりますよー。言ってください」


「ちょっと失礼な連想をしたんだ。言うと気を悪くするから言わない」


「ぜったい、怒らないから」


トロイエはこほんと咳払いする。


「庶子、つまり私生児バスタード片手半剣バスタードソードを持ってるのがちょっと面白いな、とか思った。そういうことだ」


「えー、デリカシーないなあ。ドン引きですよ」


「ちょっ、おま、怒らないって言ったじゃないか」


私がからかうとトロイエは本気で慌てている。

ユスフは目に青い光をたたえて、たぶん微笑んでいるのだろう。


「いとこ同士というよりは、ご兄妹のようですな」


私は唐突にできた兄のような存在としばらく戯れていた。

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